Pat Metheny Group 『Still Life (Talking)』(1987) | Music and others

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さて、先日取り上げた気鋭のギタリスト、カート・ローゼンウィンケルKurt Rosenwinkel)の最新作、『Caipi』(ブログはこの辺りです↓↑)を聴いていると、そのプロト・タイプとなったサウンドはこのアルバムにあるのではないかと感じています。 1987年リリースですから、30年も前に制作されたサウンドであり、先達とも言えるパット・メセニー・グループPat Metheney Group)の代表作の一つ(人によっては最高傑作?)に挙げられるアルバムです。


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市場の評価通り、その年のグラミー賞のジャズ部門において、 Best Jazz Fusion Performance, Vocal or Instrumental”に輝いています。 同年の受賞作には”Record of the Year”となったポール・サイモン(Paul Simon)の『Graceland』や、U2の『The Joshua Tree』が”Album of the Year”になっています。
 
ジャズの側から、アルゼンチン音響派、ひいては、ブラジル音楽の中でも特にミナス派にアプローチし、新鮮で透明感溢れる新境地を開拓したのが本アルバムだと言えます。 
 
一言で言えば、【Nature jazz meets Brazilian music】でしょうか?
 
次作の『Letter From Home』(1989年)では、それを究極まで推し進めて行き、もう殆どBGM化して際どい面があります。 だから、個人的には、こちらのアルバムの方が好みではあります。
 
傑作『First Circle』を残し、ECMレーベルを後にする。ECMレーベルでは最高到達点に辿り着いたと云う充実感があったはずですから・・・・。 しかしながら、更なる"極み"を探究すべく慣れ親しんだレーベルを後にして、ゲフィン(Geffen Record)に移籍を果たした。 やり手のデヴィッド・ゲフィン(David Geffen)が設立した新興でジャズには縁遠いと思われる、ゲフィンを選択した経緯は不明ですけれど(破格の契約金が動いたのか?  この辺りは謎のまま…でいいと思いますよね。)
 
カート・ローゼンウィンケルの『Caipi』がリリースされて以降、このアルバムと次作の『Letter From Home』の3枚のアルバムを連作のように聴き続けていました。 Still Life (Talking)』も2006年のリマスター盤が手元にありましたから、古さを感じるようなことはありませんでした。全く違和感なく聴き比べられました。
 
そうする内に、このパット・メセニー・グループ(PMG;Pat Metheny Group)の創り出す音の「精神性」や「高い完成度」にあらためて打ちのめされました。 もちろん、生粋のピュアなジャズファンからはあまり良い評価を得ていないことは知っております。
 
そうです!、ヘッド・アレンジが過剰なまでに施されており、複雑な事をやっていながらそれを微塵も感じさせないまでに意匠を凝らしているために、本来の自由度の高いジャズの本質からは離れてしまっていると言うことなのでしょうネ?!
 
 
□ Track listing *****;
   ※) All music composed by Pat Metheny, except where noted.
1. "Minuano (Six Eight)" (Metheny, Lyle Mays)
2. "So May It Secretly Begin"
3. "Last Train Home"
4. "(It's Just) Talk"
5. "Third Wind" (Metheny, Mays)
6. "Distance" (Mays)
7. "In Her Family"
 
□ Personnel;
   Pat Metheny - guitar, guitar synthesizer, acoustic guitars, electric guitars
   Lyle Mays - piano, keyboards
   Steve Rodby - double bass, bass guitar
   Paul Wertico - drums
   Armando Marçal - percussion, backing vocals
   Mark Ledford, David Blamires - vocals
 

 

 

 
初っ端の”Minuano (Six Eight)”からして9分も続く長い曲ですが、じっくり聴くと凄く細かく意匠が凝らされています。 全体のグルーヴは、ライル・メイズのオルガンにベースが刻む3/4拍子に、ドラムスとピアノがバックで刻む6/8拍子とが組み合わさって流れて行くポリリズムです。
 
イントロ部分で聴こえるヴォイスはクレジットされている3名によるものですが、絶妙な音の選び方です。 自然に発したヴォイスをサンプリングしたかのような入り方であり、それに絡むギターとピアノ、それ以外のバックの演奏が8分休符分ずれて進行していくところがとても面白いです。
 
そして、パット・メセニーによるミュートしたギターと口笛(シンセサイザーではありません)とがユニゾンでテーマに入ります。セミアコのGibson ES-175を使っていますが、そこにアコースティック・ギターで弾いた生音をミックスしているそうです。4分過ぎからは、ギターソロが始まりますが、レガートを効かせた大きなノリのゆったりとしたフレーズで非常にメロディアスです。終盤にかけては、全く異なる展開に移り、マリンバとピアノとが主導して、さらには複雑な譜割りのシンセが入ってきます。
 
交響曲のような展開で、後テーマに戻りエンディングを迎えます。ここでは、ボイスはスキャットに変化しています。 これをライヴで演奏しても大きく崩すことは出来ないくらいに完成されてしまっています。この曲を聴くと、何とも言えない高揚感を感じることが出来ます、未だに。この曲が私の中では一番かもしれません。
 
2曲目は骨休めのような内容で、ラテン風味のリズムにストリングスが配置されています。 割りとあっさり、さっぱりの曲ですね。

 
このアルバムの楽曲の中では一番有名な曲は、ずばり3曲目の”Last Train Home”でしょうね。ブラシ・ワークで、まるでシーケンサーで造った打ち込みのように16ビートを刻む、ポール・ワティーコのドラムスがタイトル通りの列車の疾走感を表しています。
 
パット・メセニーのギター・シンセサイザーによる、エレクトリック・シタールの音が全体の印象を造っています。 

 

 

 
中間部分では、またしてもヴォイスが登場し、見渡す限り回りに何もないアメリカの大地を疾走する列車の風景を想像させます。 ただ、汽笛のSE音や踏み切りでの音を真似たパットのギターによる効果音は少しベタ過ぎますけど・・・・。

 
4曲目はタイトル通りに主役はヴォイス(スキャット)ですね。でも、一番際立っているのはライル・メイズの少しクラシカルな趣のソロ・パートだと思います。 そして、多用されているスキャットとギターとのユニゾンによる後半部の反復によりエンディングを迎えます。
 
 
 

 

 

 

そして、もう一つ怒濤の演奏を収めたのが"Third Wind" です。ライヴでは、後半部分がカットされた短縮ヴァージョンしかやらなくなってしまったのが残念です。パーカッションが縦横無尽に駆け巡り、かなりのテンポで進む曲です。
 
終盤にかけて、譜割りの上ではテンポが半分になりますが、だまし絵の様に聴く側の耳にはテンポ・ダウンした事に気付きません。3/4のニュアンスを持った4/4の拍子で徐々にテンポダウンして行くマジックですね。
 
ここでは、ミュートしたパーカッシヴな速いパッセージでグルーヴを創るパットのギターがタップリと聴かれます。
 
次に続くのは、前の曲の熱気を冷ますようなクラシカルな小曲です。
 
更に締め括りは、ピアノとギターによるデュオの曲ですね。美しい分数コードを使った曲で静かに幕を下ろします。
 
あらためて聴きなおして感じたのは、本当に緻密過ぎるアレンジがフリー・フォームな要素が入り込むことを許さないため、少し息苦しい感じがしてしまいました。リズム隊の2人、特にドラムスは全く自由度がなくて、全て打ち込みでも構わない気がしました。

 
 
リアル・タイムで聴いた当時は、彼等の最高傑作だと確信していましたし、これだけ難易度の高いレベルの演奏をそう見せない、感じさせない、パット・メセニー・グループの凄さに圧倒されました。



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余談ですが、その昔、多分95年あたりでしょうか??、テレビ東京の番組、”タモリの『音楽は世界だ』”に来日中のパット・メセニー・グループが出演したシーン、今でも忘れられません。YOUTUBEで今でも観れますので是非!!
 
こんな凄い番組、今はもうできないでしょうね・・・・マイルス・デイヴィス(Miles Davis)との対談とかもあった気がします。