DAWES 『We're All Gonna Die』 | Music and others

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デヴューして以降ずっと支持し、聴き続けている西海岸はロスアンジェルス出身の4人組バンド、 ドーズDawes)の最新アルバム 、『We're All Gonna Die』です。
 
2009年の結成当時より、70年代前後に一大ブームとなったフォーク・ロック、いわゆる”ローレルキャニオン・サウンド”(2ndアルバムに関するブログはここ↓↑)を再構築している技巧派の4人組です。
かつては、ブレイク・ミルズBlake Mills)が在籍しており、その当時はサイモン・ドーズ(Simon Dawes)と云うバンド名で活動していました。 現在は、バンドのリーダーであり、殆どの楽曲のソング・ライティングとリード・ヴォーカルを担当する、テイラー・ゴールドスミスTaylor Goldsmith)が率いています。 ただ、西海岸ではそれなりに知名度はありますが、全米規模での人気は得ていません。 そして、日本国内では彼等のアルバムは発売されておらず、全くプロモートもされていません。
 
おそらくは、彼等のことを目にかけているジャクスン・ブラウンJackson Browne)をご存知の方であれば、ある程度は聴いたことがあるのではないでしょうか?
 
 
前作にあたる4枚目『All Your Favorite Band』(ブログはここ↓↑)が2015年の6月にリリースされていますから、あまり間隔を空けずに5枚目に取り組んだということになります。 
 
前々作『Stories Don't End』(ブログはここ↓↑)はかなりフォーキーなサウンド、前作ではよりローファイなライヴ・パフォーマンスに近い内容にと試行錯誤を繰り返している印象でした。 今までのチャート・アクションでは、4枚目『All Your Favorite Band』 が最も良くて、ビルボード200で最高37位(フォーク・チャートでは1位)でした。
 
今回は、プロデューサーとしての才能を開花しつつある旧友、ブレイク・ミルズとの共同作業 (ブレイク・ミルズに関するブログはここ↓↑ に舵を切ったようです。今までベースにあった、コンテンポラリーなローレルキャニオン・サウンドthe contemporary Laurel Canyon sound)とは決別することを謳ったと感じました。


 
また、結成当時より活動を共にしてきたキーボード担当のタイ・ストレイハン(Tay Strathairn)が脱退して、後任としてリー・パルディーニ(Lee Pardini)が加入する変化がありました。
 
果たして、大ブレークしたアラバマ・シェイクスAlabama Shakes-ブログはこちら↑↓)や、カントリーとは異なる新しいサウンドが賛否両論となったサラ・ワトキンスSara Watkins-ブログはこちら↑↓)のように殻を破ることが出来たのか聴いてみました。彼らは、全てブレイク・ミルズがプロデュースに関わって大きな変化を遂げました。
 
やはり、旧友でありサウンド・プロダクションにおいて独特の才能を持つ、ブレイク・ミルズのカラーが強く出ています。 今までの様な、素朴なアコースティックなサウンドと多重ハーモニーは影を潜めています。 
 
喩えるなら、あのウィルコWilco)がオルタナ・カントリーを磨きに磨いて行ったかのように、大きな変化を試みています。
 
□ Track listing*****;
 
1. One of Us   
2. We're All Gonna Die     
3. Roll with the Punches       
4. Picture of a Man   
5. Less than Five Miles Away     
6. Roll Tide
7. When the Tequila Runs Out     
8. For No Good Reason
9. Quitter 
10.As If By Design
※)All tracks written by Dawes.
 
□ Personnel;
Dawes are
    Taylor Goldsmith - vocals, guitars, pianet (2), slide guitar (7)
    Griffin Goldsmith - drums, vocals, percussion (3, 4, 5, 7, 8, 9), lead vocals (6)
    Wylie Gelber - bass, Kee bass (8)
    Lee Pardini - piano (2, 5, 6, 8, 10), Acetone (2, 5, 7, 8), pianet (3, 5, 7), Juno (4, 8), clavinet (1, 9), organ (4), vocals
 
Additional Musicians;
    Blake Mills - guitars (1, 3, 5, 7, 8, 9), vocals (2, 6, 7, 8, 9), drum programming (4), bass (5), glockenspiel (7), slide guitar (8), Korg MS-20 (9)
    Rob Moose - strings (2, 6, 10)
    Jim James - vocals (2, 7) from Yellow Jacket
    Mandy Moore - vocals (4)
    Lucius (Jess Wolf & Holly Laessig) - vocals (4)
    Jim Keltner - MPC (7)
    Brittany Howard - vocals (7) from Alabama Shakes
    Will Oldham - vocals (7)
    Nate Walcott - trumpet (10)
 
テイラー・ゴールドスミスは今回の大きな変化について、以下の様に答えています。
 
 比喩なのでしょうが、ニール・ヤング(Neil Young)が"Harvest"の次に"Tonight's The Night"をリリースした様に、或いは、ポール・サイモンPaul Simon)Simon & Garfunkel解散後に"Glaceland"を制作したように、全く異なる方向性のアルバムを創ることは必然なのだと。また、ボブ・ディランにまで言及して、プロテスト・ソングから"Bloned On Blonde"のリリースに至る変遷は本人にしか分からない事だと。少々オーヴァーな気がするし、比較の対象が余りにも偉大すぎるアーティスト、作品ではないでしょうか・・・・・?
 
 
代名詞とも呼ばれるサウンドにおいて、一つのゴールに辿りついたのだから、次は全く別の新しいサウンドを模索したいと考えたようです。 そう、丁度マムフォード&サンズMumford & Sons)の『Wilder Mindを連想させますね。そのため、ブレイク・ミルズを招聘し、サウンド・プロダクションとソング・ライティングについて精緻に試行錯誤を重ねて、様々な意匠を凝らしています。
 
それでは、まずは冒頭の曲”One of Us ”ですが、これは間違いなく”新機軸”のドーズ・サウンドだと宣言していますね。 喩えて言うなら、このエフェクターを掛けて歪ませたサウンド、私の大好きなブラック・キーズThe Black Keys)がデインジャー・マウスDanger Mouse)と組んだ、2010年の『Brothers』に近いニュアンスですね。 ダンサブル、且つ、マスキュラーなサウンドです。ブログはこの辺↓↑
 
 
 
 
ドラム・サウンドにおいては、通称「やおや」と呼ばれる、”Rolland TR-808  AKAI MPC Software を使っています。それから、キック・ドラムの替わりに、アメリカの有名な防水ハードケースであるペリカン・ケース(Pelican case)を使ったりと、常識には捕われないサウンド・プロダクションをしています。
これらと生のドラムスとを組み合わせて使っているのですが、あくまでスタジオ・ワークとしてですが、古くはあのジェネシス(Genesis)なんかを思い起こさせます。
 
 
2曲目はタイトル・トラックとなる”We're All Gonna Die ”です。 タイトルから連想するような哀しげで打ちひしがれた内容の歌詞ではなく、恋人に対して哀願している、どちらかと言えばハッピーなニュアンスです。 曇ったファルセットとストリングスとが相まって、悲しみに沈んだモードを醸し出しています。 でも、実際には4曲目のところで触れたように、マンデイ・ムーア(Mandy Moore )との関係を歌にしたためたように思います。
 
 
 
 
話はそれますが、ローランドの前身となるエース電子楽器が発売していた電子オルガン、ACE TONEが使われています。 同じく、ホーナー社(HOHNER)の60年代の名機、ピアネット(Pianet、要は今で言うエレピ)も併せて使っています。 こう云ったヴィンテージ楽器を現代の最新デジタル・テクノロジーと併せて使用するのが、この世代の人達の優れた感覚だ思います。
 
何故なのかは分かりませんが、この曲からポール・サイモンの75年の大ヒット曲である”50 Ways to Leave Your Lover”を思い出してしまいました。
 
 
3曲目はRoll With the Puncesはギターの音の重ね方がいかにもブレイク・ミルズらしく、奥行きのあるプロダクションだと言えます。
 
 
 
 
 
4曲目の”Picture of a Man”はブリージーなレゲエ調です。ここでは、前夫であるライアン・アダムス(Ryan Adams)との離婚訴訟が解決して、晴れて自由の身となったテイラー・ゴルドスミスの恋人、マンデイ・ムーア(Mandy Moore )がコーラスで参加しています。 この女神の存在が、実は今回のアルバム制作の最大の原動力になったようです。
 
 
 
 
 
5曲目の“Less Than Five Miles Away”は彼等のお家芸であるフォーク・ロック調の曲ですが、ジャズ的なニュアンスとラテン・フレーヴァーが加えられています。また、中盤から原動力のカラフルな展開はやはり新しい試みと言えます。
 
6曲目の”Roll Tight”は、シンプルな歌詞の繰り返しのあるスローなバラッドです。ストリングスが非常に印象的な使われ方をしており、心に沁み亘ります。リード・ヴォーカルを取っているのは、珍しく弟のグリフィンです。
 
7曲目の”When the Tequila Runs Out ”はシングル・カットされており、ドーズ流のファンク・ロックと言える曲です。この曲が今回の変化を最も端的に表していると言えます。 一見するとただのパーティー・ソングの様な歌詞ですが、やはり詩的な表現が出てきて単純ではありません。 
ここでの”キモ”は、グルーヴ・マスターであるジム・ケルトナー(Jim Keltner)がMPCで創り出したパーカッションのループです。これは、ブレイク・ミルズの最新作である『HEIGH HO』(ブログはこちら↑↓)で培われたものだと思います。 意外な一面を見せてくれたジム・ケルトナーには拍手を!
 
 
 
 
 
それから、バック・コーラスにはブリタニー・ハワード(Brittany Howard - アラバマ・シェイクス)が参加しており、その存在感は凄いですね。
 
YOUTUBEバには、ブレイク・ミルズが参加したライヴがアップされていましたので、スタジオ版と比較すると面白いですね。彼の弾くボトルネックが効いているんですね、巧いです。
 
 
 
 
 
 
さて、そのコーラス部分はこんな感じです。
 
          When the tequila runs out
          We'll be drinking champagne
          When the tequila runs out
          We'll be feeling no pain
 
 
8曲目の”For No Good Reason”はよく練りこまれた曲想であり、とてもリッチなメロディラインを持っています。 バックで聴こえるスライド・ギター(ブレイク・ミルズ)はあのジョージ・ハリスン(George Harrison)を思い起こさせます。
 
9曲目は”Quitter  ”、すぐに諦める人(脱落者)と言う意味ですが、イメージとは異なり彼ら流のファンク・ミュージックです。 ブレイク・ミルズが弾いているアナログ・シンセサイザー(Korg MS-20)が全体の印象をリードしています。
 
 
 
 
 
最後の曲、”As If By Design”ではマリアッチ風味を施した曲で、ピアノによるカウンター・メロディとホーンが新鮮に聴こえます。 何か、ジャクスン・ブラウンによる76年のLinda Paloma”を思い出させます
 
 
今回のレコーディングでは、演奏面においてかなり他のバンド・メンバーに任せる姿勢が出ており、特にキーボードはテイラー・ゴールドスミスの出番は減り、新メンバーであるリー・パルディーニに全面的に任せています。
 
 
なお、この1月から5月に掛けて全米60箇所を回るライヴツアーを敢行している最中です。 箱は大体1,000人(例えば、サンフランシスコに復活したThe Fillmore )から3,000人収容(ニューヨークにある有名な、Beacon Theatre)のホールが中心です。
 
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是非とも、ここ東京で生で観てみたいアーティストですね、ブレイク・ミルズと共に来日して欲しいと切に願います。