1989年にクリス・ロビンソン(Chris Robinson)、リッチ・ロビンソン(Rich Robinson)の兄弟を中心にアトランタで結成されたザ・ブラック・クロウズ(The Black Crowes)が、紆余曲折を経て15年振りにオリジナルのスタジオ・アルバム、『Happiness Bastards』をこの3月15日にリリースしました。 オリジナル曲で構成されたスタジオ・アルバムは2009年リリースの『Before the Frost...Until the Freeze』以来となります。
過去より、兄弟による音楽コラボレーションは、良く言えば厄介であり、時には余りにも酷すぎる結末を迎えることが多く起きています・・・・、キンクス(The Kinks)、エヴァリー・ブラザーズ(The Everly Brothers)、ビーチ・ボーイズ(The Beach Boys)、オアシス(Oasis)などは良く知られています。
ザ・ブラック・クロウズもその例にもれず、2ndアルバムの『The Southern Harmony and Musical Companion』が批評的、且つ、商業的に成功を収めた後、兄のクリスによるドラッグ乱用を契機に、袂を分かつことになりました。 その間には、バンド・メンバーの入れ替わりがまるで回転ドアのように激しくなり2桁に達しました。 8年間に及ぶ兄弟間の断絶を経て、ストーンズ(The Rolling Stones)、フェイシズ(The Faces)、ジョージア・サテライツ(George Drakoulias)に影響を受けたヴィンテージ・ロックが甦りました。
新作についてフロントマンのクリス・ロビンソンは、こう話しています。
「『Happiness Bastards』はロックンロールへのラブレターだ。リッチと俺はいつも作曲し、音楽を創り続けている。それは俺たちにとって決して立ち止まることのないものであり、常に俺たちが共にハーモニーを見出す場所なんだ。このアルバムはそれを象徴している。」
片や、リッチ・ロビンソンはこう話しています。
「このアルバムは、バンドとしての俺らの物語の続きなんだ。俺たちの長年のソング・ライティング、音楽制作、世界ツアーの経験がこのアルバムに反映されているし、この業界で最高のプロデューサーのひとりであるジェイ・ジョイス(Jay Joyce)の素晴らしい指導をしてもらった。 俺たちが作り上げたものをとても誇りに思っているよ」
ナッシュヴィルを拠点に活動するプロデューサー兼ギタリストのジェイ・ジョイス(Jay Joyce)は、カントリーとロックの両方のアーティストを手がけ、これまでにブラザー・オズボーン(Brothers Osborne)、アシュリー・マクブライド(Ashley McBryde)、キース・アーバン(Keith Urban)、キャリー・アンダーウッド(Carrie Underwood)、エリック・チャーチ(Eric Church)、そして、本アルバムにゲスト参加しているレイニー・ウィルソン(Lainey Wilson)等をプロデュースしてきました。 また、アカデミー・オブ・カントリー・ミュージック(Academy of Country Music Awards)のプロデューサー・オブ・ザ・イヤー賞を6度も受賞しています。
このアルバム・リリースに連動して、4月より北米、イギリス、ヨーロッパを回るツアーが決定しています。 因みに、今年、2023年は彼らの3枚目のアルバム、『Amorica』のリリースから30周年を迎えるため、リイシュー盤の制作があるかもしれません。
□ Track listing;
*) All tracks are written by Chris Robinson and Rich Robinson.
1."Bedside Manners" – 3:41
2."Rats and Clowns" – 3:33
3."Cross Your Fingers" – 3:49
4."Wanting and Waiting" – 4:15
5."Wilted Rose" (featuring Lainey Wilson) – 5:06
6."Dirty Cold Sun" – 3:05
7."Bleed It Dry" – 2:56
8."Flesh Wound" – 3:34
9."Follow the Moon" – 3:26
10."Kindred Friend" – 4:29
□ Personnel;
Produced by Bob Rock and Cynthia Rodgers
■ Musicians;
Chris Robinson – lead vocals, harmonica, acoustic guitar, percussion
Rich Robinson – guitar, backing vocals
Sven Pipien – bass, backing vocals
本アルバムを一聴して思い浮かんだサウンドは、ジェイ・ジョイスがプロデュースして2001年にリリースされたジョン・ハイアット(John Hiatt)の『the Tiki bar is open』ですね。 久しぶりにバックに付いたゴーナーズ(the Goners’)とのスワンピーなサウンドは心地良いコラボレーションでした。
全体を通して感じたのは、ドラマーだったスティーヴ・ゴーマン(Steve Gorman)の不在は大きいと言うことでしょうか?! 15年間に亘りボトムを支えてきた、彼の叩き出すスィングする独創的なグルーヴの不在は大きいかと…。
アルバムのリリースに合わせたミニ・ライヴをYOUTUBE で観ましたが、やはりリズム隊が何かしっくりこない感じがしました。 ツアーを続けて行くに連れて、融合すればいいんですが……!?
それでは、冒頭のスライドギターが炸裂する”Bedside Manners”から聴いていきましょう。 コード進行はキーがGのシンプルな構成ですが、あの独特の猥雑さを併せ持つクリスのヴォーカルと字余りな歌詞は健在で唯一無二ですね。 ブギーを盛り込んだローリング・ストーンズ風のロックで、フィルターをかけていない荒々しさをたっぷりと届けてくれます。
□ “Bedside Manners” by The Black Crowes;
リッチのザクザクとした特徴的なリフをフィーチャーしたアップ・テンポの曲、”Rats and Clowns”が続き、3曲目の”Cross Your Fingers”はアコギでスタートするリフ中心のミッド・テンポの曲で、ラップ風のボーカルが現代的なエッジを加えています。
□ “Cross Your Fingers” by The Black Crowes;
続く”Wanting And Waiting”は力強い楽曲で、オルガンのベース・ペダルがリフの土台となり、ポップな雰囲気のコーラスが被さります。
□ “Wanting And Waiting” by The Black Crowes;
レイニー・ウィルソン(Lainey Wilson)とのデュエット曲、”Wilted Rose”は、アコースティックなカントリー・ロック調の楽曲ですが、エモーショナルなギター・ソロをフィーチャーした後半ではスリリングな曲へと徐々に盛り上がって行きます。
□ “Wilted Rose” by The Black Crowes featuring Lainey Wilson;
一方、7曲目の”Bleed It Dry”は、ピュアなブルーズ・ナンバーとして仕上げられています。
レッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)にインスパイアされたようなヘヴィーなロック、”Full Moon”、
□ “Full Moon” by The Black Crowes;
そして、ハーモニカとストリングスが融合したゴージャスなバラード、”Kindred Friends”が、力強く印象深い形で最後を締めくくってくれます。
□ “Kindred Friends” by The Black Crowes;
フロントマンのクリス・ロビンソンのありのままのヴォーカルに、リッチ・ロビンソンのダーティなリフが巧みに強調されたこのアルバムは、明瞭さとある種の生々しさのバランスが取れていると思います。
もちろん、バンドの初期のアルバムのような魔法をもう一度産み出しているわけではありません・・・・・・?!