スターバックスで
お気に入りの”いつもの”を
注文する。
すると、まだ入りたての店員さんが
先輩の指導の下
私の注文したものを
ぎこちないながらも、丁寧に
作ってくれた。
それを見て
”アルバイトをするのならば
スターバックスの店員さん”と
大学時代、そんなことを考えていたことを
ふと思い出した。
…。
大学2年の時に
1ヶ月ポルトガルへ。
国際音楽祭のオーディションに
受かったため。
私は、アメリカ人のヴィオリスト
アルメニア人のチェリスト
そして、英語バッチリの
日本人ヴァイオリニストの4人で
カルテットをランダムに組まされ
そのメンバーとずっと一緒にいた。
その時、英語の大切さに
気がついた。
話したいこと、伝えたいことが
どうしても話せないもどかしさに
自分に腹が立った。
それなのに…。
私は1ヶ月後帰国してから
ほぼ英語の勉強をせず…。
大学3年。
運命の出会いがあった。
世界で一番習いたいアメリカ人の先生に
出会えたのだ。
私は、自分のレッスン以外にも
他の生徒全員の
彼のレッスンを聴講した。
真面目な私、というより
ずっと先生のレッスンを
聞いていたかったのだ。
レッスンに感動して涙が出たことは
あれが初めてだった気がする。
だが、ポルトガル時代に
あれだけ英語が話せなくて
もどかしい思いをしたというのに
勉強しなかったせいで
話せず散々な結果に。
必ず英語ができる友達に一緒にいてもらい
話さなきゃいけないことに
悔しい思いをした。
そして、誓ったのだ。
”絶対1年後に会ったときは
もっとたくさん話せるようになろう。
そして、アメリカに渡ろう。”
1年後。
また、彼のレッスンを受けることができた。
私は独学で
様々な英語の勉強をしてきた。
その結果、
彼とたくさんの話ができるようになった。
そして、私は
”大学卒業したら、
私はあなたのいるアメリカに行くから
あなたの弟子として認めてほしい”と
彼に懇願した。
その時、
”智恵、君はもう僕の弟子だよ”と
言ってもらえたことを
私は忘れない。
アメリカに行く為に
必死に貯金をしたが
アルバイトをやっていなかった。
そこで、色々な情報を集めた結果
日本にいる間
スターバックスでアルバイトしたいと決めた。
以前ヨーロッパ演奏旅行からの帰り道、
イギリスでトランジットがあり
空港にあったスターバックスに入ったとき
そこの店員さんがものすごく
紳士的で素晴らしい対応をしてくれた経験もあり
それからというもの、私は
スターバックスが
お気に入りになっていた。
それに加え、
アメリカがスターバックスの本拠地だから
アメリカに渡ったとき
経験者は優遇してくれるだろうし
学費も稼ぎながら
勉強できると思ったから
どうしても入りたかったのだ。
だが、
アメリカ行きを準備している最中に
プロの在京オーケストラなどから
演奏依頼が入るようになり…。
”少しでも日本にいてもいいのならば…!”
結局、そんな気持ちになり
アメリカ行きは断念したのだ。
エスプレッソ並にほろ苦い思い出。
断念を自分で決意したくせに
とてもつらかったから
未だにアメリカに行って
彼に習いたいと思うときが何度もある。
彼は元気だろうか。
私のヴァイオリンの師匠は
日本の先生と、アメリカの先生です。
…。
さっきの入りたての店員さんへ
”頑張ってくださいね”と
私は心の中で呟いた。
