岡鹿之助作とされる油絵が

再び

開運!なんでも鑑定団に

出品されました、が・・・。

 

結果はテレビでご覧になった通りです。

 

仕立て贋作でした。

岡鹿之助作『水辺の光景(仮)』仕立て贋作

 

作品を見た瞬間に

一目で違うと

岡鹿之助ファンなら

判った筈です。

 

個人的には

サインが入っていない事を

願いましたが

贋サインが入れられていました。

 

これでもし

油絵の具か墨で

キャンバスの裏に

裏書を入れられでもしていたら

救いようが有りません。

 

キャンバスに描かれたサインは

実はまだ消す(落とす)事が可能ですが

裏書となると

消す事は先ず不可能です。

 

それを消すには

絵の具か墨で

塗り潰すしか手が無い。

 

油絵の仕立て贋作は

元の絵を壊してしまう。

 

そこが創作贋作と異なる点です。

 

創作贋作の方が

まだ実害が少ない。

 

被害を受けるのは

ニセモノを本物と思って買ってしまう

目の利かない人だけなのですから。

 

絵に罪も無い。

最初からニセモノとして

生み出されていますから。

 

そこには作者の意図も存在しない。

贋作の作者の意図は

ただ一つ。

 

原作に似ているかどうか。

それだけです。

 

それは別として

今回出品されていた

贋作に仕立てられた作品は

筋の良いきちんとした油彩で

作品自体はイイ出来だと

自分は素直に感じました。

 

モチーフも面白い。

 

人物描写も絵の具の使い方も

もの凄く手馴れている。

 

だから至極残念です。

 

もし時代の古い作品だったら

尚更です。

油絵の具が普及していない頃の

作品なら

それだけで資料的な意味も有る。

 

詳細が判らないので

そこは何とも言えませんが。

 

それは置いといて

岡鹿之助に関するナレーションで

一点だけ引っ掛かったので

そこを少しだけ解説。

 

ナレーションでは

 

油絵の具の鮮やかな色彩を

存分に生かす技法を徹底的に追及。

そうして辿り着いたのが点描である。

(中略)

岡の点描は、同色、もしくは同系色を

一筆一筆、画面にこすりつけて描く為

それは繊細な織物の様な質感となった。

 

岡の技法は

先ずキャンバス全体を白く下塗りし

その上にチューブから出したままの絵の具を

小さなタッチで並べ

筆のかすれ具合で微妙な色合いを表現した。

またキャンバスの僅かな一部分を描き始め

そこが完成してから他の部分に移る為

最初から緻密な構成力と緊張感の持続を要した。

 

ここで気になったのが

この部分です。

 

その上にチューブから出したままの絵の具を

小さなタッチで並べ

 

この部分です。

 

岡鹿之助は

確かに彩度を生かす取り組みを

していましたが

混色を否定していませんでした。

 

好みの絵の具は

マツダのスーパーだったと

言われてはいますが

だからと言って

全てがマツダのスーパーだったとも

言い切れません。

 

それは岡氏のパレットを見ない事には

確認出来ない問題です。

 

ここで問題にしたいのは

チューブから出したままの絵の具で

絵を描くと

どんな風になるのか、と言う事。

 

ギラッギラの絵になります。

明るい陽光の世界。

 

ですから岡鹿之助の絵とは

真逆なんです。

その色調を見ても

混色していた事は明らかですし

御本人も混色を否定されては

いませんでした。

岡鹿之助作『掘割』

岡鹿之助作『遊蝶花』

 

ポイントは色調の薄め方。

白の使い方です。

 

だから下塗りに拘った。

 

絵の具に白を混ぜると

パステルカラーになって行くんです。

 

だから下塗りの白を生かし

色調を薄める手法を使った。

堅牢な画造りを目指しました。

 

絵の具がキャンバスに

カッチリと乗った絵。

 

堅牢な画造り。

 

以前混色の出来ない絵描きの絵を

見た事が有りますが

(手法は点描に近かった)

それはそれで

明るい陽光の世界を

描き上げていました。

 

というか、そういう世界しか出来ない。

 

黒は黒で純度の高い色調になるし

闇の黒にはなってくれない。

 

無機質の張りの有るクロでしかない。

 

油絵の具は、実は半透明。

 

だから黒バックにしたい時は

先ず赤か青の絵の具で一旦下塗りをして

その上に黒を塗るのが

古典的な描き方だった筈。

 

そうすれば有機質の

味の有る黒バックになる。

 

絵の具の話しに戻りますが

混色と言うのは

純度の高い絵の具同士の

混ぜ合わせなら

彩度はそれ程は落ちません。

 

ハリの有る、発色の良い色になる。

 

ここがポイントです。

 

混色は、純度・彩度を下げると

思われがちですが

それは絵の具によります。

 

単一顔料同士なら

普通に販売されている絵の具と

同じものに成るだけ。

 

そこを勘違いしてはならない。

 

好みの色って

実は混色でしか生み出せないモノもある。

 

問題なのは白の使い方。

 

パステルカラーを使いたいのなら

白の混色は必須だし

それをチューブから出したままの

絵の具の組み合わせだけで

生み出す事は

かなりの色面構成能力が

必要となります。

 

出来ない訳じゃ無いですけど。

 

もしそれをやりたいのならば

カラー印刷の研究から始めて下さい。

 

カラー印刷は原色の四色で

パステルカラーも表現しますので。

 

混色というのは特色作りなんです。

 

混色でしか出来ない色味が有り

パステルカラーも

白を混ぜなければ

造る事に難儀な色調でも有ります。

パステルカラーと言えば、マリー・ローランサンです。

でもこれは複製画。

特色が使われていなければ

基本は四色で

全ての色調が再現されています。

 

山下清の貼り絵が

何故完成度が高いのか。

 

あれも一種の点描なんです。

 

では一体

原色がどれだけ使われているでしょうか。

原色の色紙(いろがみ)のみを使っていたなら

全ての絵が

もっと明るいはっきりとした絵に

仕上がっていた筈です。

 

どんな色紙(いろがみ)が

貼り絵に使われていたのか

是非実物を見て下さい。

山下清作『桜島』

 

そんな風に考えると

絵もまた一味違った見方が

出来てきます。