⚠WARNING⚠
血の表現があります、苦手な方はご注意ください。
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21時(呪いの時間)
リイヴ「いやPCなんて後で良いだろ!?それよりオバケ追い払ってくれよ!!」
ジール「後で良いわけあるか!明日が締め切りなんだぞ!!今すぐ修理して続きを書かないと間に合わん!!」
リイヴ「ええぇ……」
ヴェナート『リイヴの為じゃなくて締め切りの為に儀式するってジワジワくるな』
リイヴ「ジールちゃああああ!!」
ヴェナート『……ありそうだな』
ジール「次から次へと……」
リイヴ「ジールちゃん……一生のお願いがある……」
ジール「一生のお願いなんて簡単に使うな、頼みくらい聞いてやる。で、何だ?」
ヴェナート『捻れたツタを八つ当たりで蹴り飛ばすのは お前くらいだよ』
ジール「あ……リンか。丁度良い、進捗を」
リン『大丈夫、わかってるよ……あの霊能探偵のオバさんと話してるの、聞いてたから。私の体を乗っ取った奴のせいで、お兄さんとオジさん、危ないんでしょ……私が乗っ取られたせいでゴメンね……』
ジール「お前は悪くないし、被害者だろ。気に病むことじゃない……それに……兄さんを危険な目に合わせたのは俺だ」
リン『……お兄さんって、あのオジさんには凄く甘いよね』
ジール「甘いか?さっきもふざけるなって蹴り飛ばしたが」
リン『でも蹴り飛ばした後にちゃんと お水持っていってたよね』
ジール「まあ……うん……」
ジール「我慢なんかしてないさ、兄さんは昔からあんな感じだ。それに……一緒にいるんじゃなくて……“いさせてもらってる”んだ」
リン『そうなの?』
リイヴ「空気も美味いし、やっぱりここにして正解だったなぁ」
ジール「ああ」
ジール「はい、家族旅行で来ました」
野菜屋「おお、ヘンフォード・オン・バグレーへようこそ!ゆっくりしていきな!」
ジール「ありがとうございます」
ジール「な、なんで笑うんだ……兄弟2人では家族旅行と言わないのか?」
リイヴ「いや、家族で旅行に来てるんだから2人だろうが何だろうが家族旅行は家族旅行よ。ただ……こういう旅行って初めてだからよ……なんか頬が緩んじまうんだわ……」
ジール「兄さん……」
リイヴ「言ってくれるなジールちゃん」
ジール「…………………」
リイヴ「ジールちゃん、どうした?」
ジール「…………いや、何でもない」
ジール「……ここ……なんか……変な感じする……」
ヴェナート『変?まさか呪われた家なのか?』
ジール「いや、そういう邪気とか霊の気配は一切無いんだ……無いんだけど……息が苦しいというか……体が芯から冷えていく感覚がするというか……とにかく……変なんだ……」
ヴェナート『……泊まるのやめた方が良いんじゃないのか?』
ジール「……大丈夫だよ……何か、悪影響がある訳でもなさそうだし……」
ヴェナート『……あんまり無理はするなよ』
ジール「はいはい……リクエストは?」
リイヴ「キノコスープ頼むわぁ」
ジール「わかった」
ジール「……っ」
『なんて 卑しい子、ウチの子とは大違いね!』
『姉さん達に余程 甘やかされて育ったようだな!根性を叩き直してやる!』
『やだ、叩かないで!!』
ジール「…………たたか、ないで」
ヴェナート『ジール、どうしたんだ?』
ジール「…………っ……」
リイヴ「ジールちゃーん?」
ジール「やめっ……叩かないで!!」
リイヴ「は……?」
ジール「はっ……は、はぁ……」
リイヴ「ほら……落ち着いて息しな?お兄ちゃんだぞー、焦点を合わせなー」
ジール「にい、さん」
リイヴ「よしよし、落ち着いたか。どうしたんだよジールちゃん」
リイヴ「おいおいジールちゃん……霊が視える、声が聞こえるって話の次は幻覚か?勘弁してくれよ」
ジール「幻覚なんかじゃない、本当に脳裏に浮かんで………………」
リイヴ「おう」
だけど俺の能力については……まったく信じてくれなかった。
気のせいだとか言って まともに取り合ってくれない。
でも……兄さんは他の奴らと違って俺を気味悪がったり、頭がおかしいとか言ってこない。
だから俺は信じてもらえなくても安心して彼と共にいられた。
2日後の夜
ジール「…………寝るのが怖いんだよ」
ヴェナート『また例のフラッシュバックか?』
ジール「ああ……」
呪われているわけでもないし、霊が出るわけでもないけれど……何かに触れるたびにしょっちゅう誰かが叩かれているフラッシュバックが起きる。
厄介なことに眠っている時もその叩かれている光景が夢として映し出される。
せっかくの家族旅行だったのに、この妙な現象のせいで気分は最悪だった。
ジール「わかってる……もう寝るよ。明日の朝にはもうヘンフォードを出るんだ、今夜を乗り切れば……大丈夫だ」
『どうして皆、ボクを叩くの?』
『痛いって泣いてるのに、どうして叩くのをやめてくれないの?』
『助けてって言ってるのに、どうして誰も助けてくれないの?』
『叩かれる為に生まれてきた訳じゃないのに』
『どうして、どうして、どうして』
ヴェナート『ジール?おい、大丈夫か!ジール!』
『自分の身は自分で守る』
『自分以外は全員敵だ』
『やられる前に……』
ヴェナート『ジール……?』
ヴェナート『どうしたんだ、ボクの声が聞こえないのか!』
リイヴ「うおっ、何だ何だ!?」
リイヴ「うおっ!?」
ジール「うるさい……ボクに近づくな……叩かれるのは嫌だ、痛いのは嫌だ、もう嫌だ……!!」
リイヴ「何を言って」
ヴェナート『ジール、何処に行くつもりだ!どうしてボクの声が聞こえないんだ!』
ジール「みんな、敵だ……みんな敵、みんな敵、みんな敵、みんな叩いてくる」
ジール「ひ……」
ヴェナート『ジール、やめろ!!』
あの夢によって、まるで誰かの魂が入り込んできたかのように俺は恐怖と憎悪にとり憑かれていた。
一種のトランス状態になっていた。
そして──
こ の 手 で 家 族 を 傷 つ け た。
リイヴ「触んじゃねえ!!」
ジール「っ」
頭がおかしいって。
兄さんにだけは言われたくなかった。
他の奴らに言われても我慢は出来たけど、でも、家族に言われたら──
でも俺に傷つく資格なんてあるのか?
正気でなかったとはいえ、狂気に飲まれて兄さんを傷つけたのは事実だ。
傷つけられた側に俺の事情なんて知る由もない。
こんな事をして、こんな事になって──これを引き起こした俺がおかしくない訳がない。
ジール「………きゅ、きゅうきゅうしゃ、を」
リイヴ「救急車なんざ呼んだら騒ぎになるだろうが……傷害罪で捕まりてえのか?まあ捕まる方がマシかもな……下手したら精神科に入院コースだろ……傷はオレが魔法で治す……回復は不得手だから……あんま自信ねえけどな……」
ジール「……………………」
でも癒やしの術は不得意だと言っていた通り、彼の顔には傷痕が残り続ける事となってしまった。
あんな事があったのに兄さんは何事も無かったように俺に接してきた。
だけど……俺はもう、今まで通り兄さんと接することは出来なかった。
それに……狂気に飲まれて暴走していた自分自身が何よりも怖い。
またいつか暴走してしまうんじゃないか。
その時にまた彼を傷つけてしまうんじゃないか、もしかしたら今度は殺してしまうんじゃないか……そんな心配ばかりが浮かんでくる。
おかしくなって人に危害を加えるような奴なんて、誰かと暮らしてはいけない。
それにあの人の顔に一生残る傷をつけてしまった俺は、あの人の“弟”である資格はない。
だから……俺は“リイヴさん”から離れることにしたんだ。
電話番号もメールアドレスも全部変えて、追ってこられて見つからないように遠いワールドに逃げていった。
リン『……ここまで来ると、逆に運命的だね』
ジール「……あの人は自分を繋ぎ止めるものがないと、すぐに生きることをやめて消えてしまいそうだったから。俺という“弟”がいなくなって、あの人は何もかもどうでも良いとばかりに自棄“やけ”になっていた。だから……もう一度あの人と繋がろうと思ったんだ。あの人に……生きていてほしかったから」
リン『……そっか』
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ジール(…………けど……一緒にいても結局 俺はあの人に迷惑ばかりかけている。俺のせいでウハネの印を刻まれて、俺のせいでやりたくもないであろう死神の仕事をやらされて…………俺も早く力をつけて あの人の役に立たないと……)