リバース「リン!リン、どうしたの!!リン!!」
リボーン「きゅ、救急車!救急車呼ばないと!!」
『あれ……私、どうしたんだっけ……?なんでパパとママ、慌ててるの……?』


『……えっ……?なんで私が、倒れてるの……?』


あの声が聞こえてきてから意識が飛んで、次に気づいた時には私は霊体になってたの。
目の前には倒れてる自分と、慌てて泣き叫んでいるママとパパ。
私はここにいるよ!って声を出しても2人には聴こえてなくて……。


2人が泣き叫んでるのを聞いてたら、私も頭が真っ白になっちゃって、どうすれば良いのかわからなくて固まっちゃって。

オロオロしてる間にレスキューの人達が来て、私の体を運んでいったの。
私も後を追いかけなくちゃって思ったけど……行けなかった。


家から離れようとしたら、どれだけ足を動かしても前に進めなくて……まるで見えない壁があるみたいだったの。
……後から浮遊霊ちゃんに聞いたんだけど、悪霊達が集まってきていて私を この地に縛りつけてるんだって。

私がここから出られないように。


その後、私の体がどこに行っちゃったのかはわからない。
次の日の朝にパパとママが一旦帰ってきたけど、2人共泣いてて……リンの言うことを信じてあげれば良かったとか、どうしてリンがって、そんな事ばかり言って、また出かけて行っちゃって。


それを繰り返してる間にママとパパは業者さんを家に呼んで、この家から引っ越しますって言って……いなくなっちゃったの。


 




リン『これが私に起きたことの全部、だよ。気がついたら幽体離脱していたこと以外、私は何もわからないんだ……』
ジール「……妙な声が聞こえて、気づいたらゴーストになっていたのか……」

ヴェナート『それって死んだからゴーストになったんじゃないか?何があったかはわからないけど、レスキューに運ばれて その後 体がどうなったか分からないんだろ……死んでる可能性だって十分ある』
ジール「ちょっと黙ってろ」

リン『えっ?』
ジール「あ……すまない、独り言だ」


ジール「とにかく事情はわかった……お前に語りかけていた妙な霊が本来この家に憑いていた悪霊である可能性は高いし……お前が幽体離脱をしたのも そいつの仕業かもしれない」
リン『……信じてくれるの?』

ジール「当たり前だろ、その為にお前から話を聞いたんだ。お前の体がレスキューに運ばれた……となると……運ぶ先と言えば病院だろうな。スラニには病院があるのか?」
リン『うん……診療所があるって、ママが言ってた』

ジール「じゃあ、明日その診療所に行ってみるとするよ。お前の体に関する情報があるかもしれないしな。それに幽体離脱をどうにかするには、元の体に直接 入るのが一番な気がする」
リン『わかった……お願いね!』


リン『……やっぱり、体に入るのが元に戻る一番の方法なんだね……幽体離脱した直後、パニックにならずにすぐ入ってれば こんな事にはならなかったのかな……』
ジール「パニックになるのは仕方ないだろ、急にゴーストになれば誰だって慌てて冷静な思考が失われるさ。それにお前は子供だしな」

リン『そっか……そうだね、お兄さんも殴られるってだけで あんなに無様に慌てふためいていたもんね』
ジール「急に言葉の刃が飛んできたな!?」
ヴェナート『仕方ない、実際凄い慌てっぷりだったし』


リイヴ(……幽体離脱、子供、診療所ねえ……単純な話じゃなさそうだ。まったく、いつになったら何も考えずに気楽に生きれるのやら……)

 

月曜日



リイヴ「ぐがー、ぐがー」
ジール「……おい、兄さん!一体いつまで寝てるつもりだ!さっさと起きて、さっさと朝飯を食え!!」


リイヴ「なんだよジールちゃーん……まだ朝の8時じゃねえかよ、起きるには早くなーい?」
ジール「8時は“まだ”の範疇“はんちゅう”を越えてるわ。昨日言っただろ、忙しくなるぞって。兄さんにも手伝ってもらうからな」
リイヴ「えー、そもそもナナイと話をしたのはジールちゃんだろー?お兄ちゃん関係なくなーい?」

ジール「元はと言えばアンタの家の問題だろうが!!他人事みたいな顔するな、この許し難いヒモがっ!!」
リイヴ「へーい」


リイヴ「……で、お兄ちゃんは何をすりゃいいわけ?」
ジール「3ヶ月程前に この家に住んでいたという家族に関する情報の聞き込みをしてほしいんだ。父親、母親、娘のリンの3人家族……彼らが何処に引っ越していったのか、娘はどうなったのか……これを特に聞き出してほしい。俺は診療所に行く、何かわかったら連絡してくれよ」
リイヴ「はいよっと」

 


 スラニ診療所



ジール「お邪魔します……」
男性「やあ、こんにちは。見かけない顔だね」


ジール「最近 越してきたんです。ジール・レーヴェンです、宜しくお願いします」
男性「ジール・レーヴェン?もしかして、小説とか出してます?」

ジール「はい!もしかして読んだことありますか……?」
ヴェナート『まさか、こんな所に貴重なファンが!?』


男性「僕は読んでないんですけど、妻がフリーマーケットで貴方の本を10シムオリオンで買ってました!読み終えたあとにプロプシーに1シムオリオンで出品してたから つまらなかったみたいです!!」
ジール「……作者を前に笑顔で言い放つ神経、理解し難い……」

ヴェナート『つまんない本なんだから仕方ないな、前々から思っていたが物書きの才能が無いんじゃないのか』
ジール(なんでメンタルをこんなにズタボロにされなきゃいけないんだ?)


男性「あっ、僕は この診療所で働いてるリーブラです!何かあったら僕が診ますよ!ジールさんはどこか悪いんですか?」
ジール「いや、俺は健康体そのものなんですが……ちょっと聞きたいことがあって」
リーブラ「聞きたいこと?」


ジール「3ヶ月くらい前に、リンという小学生の女の子が運ばれてきませんでしたか?」
リーブラ「……カーネーション家の娘さんですね。確かに運ばれてきたけど……どうして そんな事を聞くのですか?」

ジール「………………知り合いの娘でして。ここに越してからリンちゃんが倒れて運ばれたという話を聞いて、ちょっと気になったんです」
リーブラ「ふうん……?」


リーブラ「確かにリンちゃんは意識不明の状態でウチに運ばれてきましたよ。でもウチでは彼女が何故倒れてしまったのか原因がサッパリわからなくて、別ワールドの大きな病院に転院させました」
ジール「どこのワールドですか?」

リーブラ「……それは流石に患者のプライベートだから言えないかな。親御さんと知り合いなら自分で連絡して聞いてみたらどうです?」
ジール「そ、そうですね。そうします」


ジール「流石に怪しまれたか……」
ヴェナート『まあ、情報は得られただろ?ヒスガキの体はここにはないってことだ』
ジール「それはそうだが……うーん、全ワールドの病院を訪ねるか……いや、しかし……3日がタイムリミットだし……」


ピリリリ

ジール「あ……兄さんから電話だ。何かわかったのかもしれない」
ヴェナート『あのヒモにそんな期待するな』
ジール「兄さんだってやる時はやる人だ、あまり見くびるな」


ジール「もしもし、何か情報があったのか?」
リイヴ『熱いし喉乾いたし、もう帰っていいかージールちゃん』
ジール「切るぞ」

リイヴ『あー、冗談冗談!その3人家族の話わかったんだよ!なんかサン・セコイアに引っ越したんだってよ!ぶっ倒れた娘が診療所からサン・セコイアの病院に転院したかららしいわ』
ジール「サン・セコイアか……よし、じゃあ今から向かうか」

リイヴ『もしかしてオレも?』
ジール「当たり前だろうが!!

 


 サン・セコイア



リイヴ「はー、久々にスラニ以外のワールドに来たわぁ……つーかジールちゃん、お兄ちゃんがついてくる必要性あんのかぁ?」
ジール「どうせアンタは家にいてもゴロゴロするだけで何もしないだろ?だったら俺の手伝いくらいしてくれ」
リイヴ「へいへい……」


ジール(スラニ診療所から この病院にリンの体が運ばれた……魂が抜けた肉体がどうなっているかはわからないが、診療所の医師はリンを“意識不明”と言っていた……魂が無い状態でも肉体の生命活動が続いているということか。だとしたら、今も意識不明の状態でここに入院しているかもしれない……!)


受付「こんにちは、本日の ご用件は?」
ジール「知人のお見舞いです。リン・カーネーションという子が こちらに入院していると聞いたのですが……」
受付「リン・カーネーション……少々お待ちください」


受付「………………申し訳ありませんが、その方は当院に入院されておりません」
ジール「……えっ?」


ジール「……入院、してないんですか?」
受付「はい」

ジール「もしかして退院したとか、もしくはまた転院したとか……?」
受付「申し訳ありませんが、お答え出来ません」
ジール「そ、そうですか……」

ジール(ここに入院してると思ったのに……いないとなったら また振り出しだ……!)




ジール「……はぁ……どうしたものか……」
リイヴ「ジールちゃん、お兄ちゃん ぜんっぜん話についてけねえけど……そのリン・カーネーションって奴を探してんのか?」

ジール「あ、ああ……兄さんの家に憑いてるゴースト……リンというんだが、その子は死んだわけではなく幽体離脱しているらしくてな……」
リイヴ「幽体離脱ねぇ……死んだわけじゃないとか言うが、普通にゴーストになるのと何が違うんだ?」

ジール「何がと聞かれたら難しいが……まあ、一番の違いは肉体の生命活動が続いてることだろうな。スラニ診療所の医師によるとリンは“意識不明”だったらしいし……リン自身も死ぬような事があったわけじゃないらしいから、あの子は何らかの要因で体から魂が抜けてしまった状態なんだろう」
リイヴ「ほーん…………オレには霊の姿も声も聞こえないから何とも言えないが……騙されてるわけじゃないだろうな?お前は昔から疑うって事を知らない呑気なやつだからな、心配だわ」


ジール「騙されてない!!俺だってバカじゃないんだ、嘘ついてるかどうかくらい分かる!それにリンからは悪霊のような邪悪な気は無かった!」
リイヴ「邪悪な気がないからって悪いやつじゃないと限らねえだろ……?それに演技力が相当高いかもしれないしな……」

ジール「…………信じないなら別にいい。アンタは昔から俺の話をまともに聞いちゃくれなかったしな……いつも信じてくれなかった。本当のことを言ってるのにいつも適当に流されて……」
リイヴ「……今はリンって奴の話をしてんだ、ジールちゃんの昔の話は関係ないだろ。何かあったら すぐ昔のことを引っ張り出して被害者ヅラして……過去をズルズル引き摺るの、お兄ちゃんどうかと思うわけよ。良い年してネチネチとさ……体だけデカくなって、中身はガキのままじゃ困っちまうぜ」
ジール「……っ、アンタだってネチネチしてるだろうが!!いちいち癪に障るような事を言わないと会話できないのか!!」


ヴェナート(ああ、また始まった。ジールは短気だし、リイヴは いちいち言動にトゲがあって余計な一言が多い……ここで喧嘩に発展するのかよっていう意味わからないタイミングで始まるからな……)


「道のど真ん中でギャアギャア騒いでる奴がいると思ったら……何やってんだぁ?」
ジール「ん……?」


ジール「あ……ライブラさん……!」

リイヴ「……誰だよ」
ジール「……俺の担当編集……」
リイヴ「へえ、お前みたいな売れない小説家の担当とか気の毒になぁ」


ライブラ「あぁ?気の毒に思われる覚えはねえよ、アタシは このマイナー極めてる底辺を今をときめく小説家にするまでのサクセスストーリーを楽しんでんだからな」
ジール「マイナー極めてる底辺……」
リイヴ「どういうサクセスストーリーよ……」

ライブラ「おい、ジール。この無礼なヤローは誰だよ」
ジール「…………義兄です」

ライブラ「義兄?なんか複雑そうな関係だが、そんな義兄となんでケンカしてんだよ」
ジール「まあ、色々ありまして……」


ライブラ「はぁ……んで、ちゃんと執筆は進んでるんだろうな?アンタは筆は早いけど中身がスッカスカだからな。ちゃんと推敲しろよ?出来ました、はい終わり!で すまさないようにな。こんな所でブラブラするヒマあるなら まともなストーリー考えてくれよ」
リイヴ「ボロクソ言われてんじゃん、なんでジールちゃん小説家デビュー出来たわけ?」
ジール「放っといてくれ……それよりライブラさんこそ、何故サン・セコイアに?貴方はウィンデンバーグに住んでいた筈では……」

ライブラ「ダチに頼まれて子供の迎えに来たんだよ」
ジール「子供の迎え……?」


ライブラ「ああ、ダチの娘で小学生なんだが……ダチ夫婦は共働きだから、仕事で夫婦が家にいない時はいつもアタシの家で預かってんだよ。1人にするのが心配だからって」
リイヴ「なんだ、過保護だな」

ライブラ「仕方ねえさ。娘さん、前に突然 意識を失って ぶっ倒れたらしいし。自分達がいない間に また急に倒れたらって思うと心配なんだろ」
ジール「…………突然 意識を失って倒れた……?」


ライブラ「あっ、来た来た。おーい、こっちだリン!」
リイヴ「……リン?」
ジール「……………!!」


ヴェナート『……ジール、どうしたんだ……体が震えてる』
ジール「……邪悪な気配が近づいてくる……!」
ヴェナート『えっ……?何処から……?』


ジール「あの、駅の方から……!」


ライブラ「よう、リン。今日は父ちゃんも母ちゃんも帰りが遅くなるらしいから……ウチに泊まれよ」
女の子「はい、わかりました」
ジール(…………この子の顔……)


ジール(……リンと、同じ顔だ……それにこの子から漂う邪悪な気と違和感…………この子は何かおかしい……!)
女の子「……………………」


『ウア リケ アネイ、オエ』
ジール「…………っ!」
リイヴ「んん……?ジールちゃん、今 なんか言ったか?」


ジール「今の、兄さんにも聞こえたのか!?」
リイヴ「あ……?聞こえたけど……今の意味わからん言葉、ジールちゃんじゃないのか?」


女の子「……イ ヒキ イア、オエ ケ ロへ、イア ウ。ア オレ イア ヘ、シム ワレ ノ……」


ジール・リイヴ「!?


ジール「……なんだ、これ……急に周りが灰色に……」
リイヴ「しかも……オレ達 以外、動きが止まってんぞ……」


女の子「……フフ……フフフ、フフフフフ……」
リイヴ「……どうも、あのガキの仕業っぽいなぁ?」
ジール「ああ…………お前は……誰だ?」


女の子「……イア アウ……ウハネ。ウハネ=クー=アムアム……」