新しい学校に通い始めてから、1週間が経ちました。


ツヨシちゃんとチーキーちゃんは相変わらずです。
チーキーちゃんはクラスも違うし、あまり関わりがないけど、でもツヨシちゃんの隣の席にいる私が気に入らないみたいで、すれ違う度に睨んでくるし、私が先生に叱られてたりすると嬉しいみたい。

ツヨシちゃんはチーキーちゃんの事が大好きだから、チーキーちゃんを喜ばせる為に私に意地悪をします。
悪いことがあったら全部私のせいにして、私が叱られるように仕向けます。

その度にチーキーちゃんが笑ってくれるから、ツヨシちゃんは嬉しいんだと思います。
でも気持ちはわかります。私も大好きな人には笑っていてほしいもの。


今のツヨシちゃんにはこんな事されてるけど、昔 優しくされた事は確かだから、私はどうしてもツヨシちゃんを憎みきれません。
ツヨシちゃんのご両親にバレたら、きっとツヨシちゃんは酷い目にあわされて笑えなくなると思います。

だから、私が我慢すれば良いかなって。


ライトちゃんはドライブちゃんやオムニちゃんに相談しろっていうけど、2人には心配かけたくないし、それに最近ドライブちゃんも体調悪いみたい。
私はウェアウルフで耳が良いから、よく夜中にドライブちゃんの部屋から苦しむ声が聴こえてきます。

体調が悪いのに私のことで余計な気苦労かけたくないわ。

私が我慢すれば、ツヨシちゃんもチーキーちゃんもドライブちゃん達も何事もなく笑って過ごせるからいいの。


ライトちゃんも私の思いを汲んでくれて何も言わないし、公園に行ったらエルちゃんがたまにいて、一緒に遊んだりして楽しいし、私はまだ大丈夫……。

 

 木曜日 トマラン小学校



ミッチ「新しいドールハウスが届いて良かったな!」
アリステラ「うん、良かったわぁ。これでまた お人形遊びが出来るもの」
ライト「まったく……人形遊びだなんてガキ臭いですね」


ジリリリリ
アリステラ「あ……昼休み終わっちゃったぁ」

ミッチ「げー、次は数学の授業だ……ロックじゃねえなあ」
ライト「ウチは家庭科ですのでボーナスタイムです」
アリステラ「私のクラスは体育だから、運動着に着替えてこなくっちゃ」


ミッチ「それにしてもお前、最近 休み時間になったら即アリスの所に行こうって誘いに来るよな。何かあったのか?」
ライト「……別に何もありませんよ。ただの気まぐれです」
ミッチ「ふーん」


ツヨシ「チーキーちゃん、今日は機嫌悪そうだね。どうしたの?」
チーキー「先週のテストの結果、張り出されてたよね」

ツヨシ「うん」
チーキー「あたしよりアリステラの成績が上だったのよ、ほんっとイライラする!!」


ツヨシ「でもチーキーちゃんもA評価だし、優等生なんだから良いじゃないか」
チーキー「良くないわよ!!嫌いな奴に負けるって すっごいムカつくんだから!!あーもー、イライラする!!アリステラ、もう学校に来なきゃいいのに!!」
ツヨシ「チーキーちゃん……」


ツヨシ(チーキーちゃんが怒ってる……怒ってる顔は好きじゃない、パパもママも僕には怒ってる顔しか向けないから…………チーキーちゃんには笑っててほしい……その為には……!)




アリステラ(今日の体育はサッカー、頑張るよぉ~)


ツヨシ「……………………」


ツヨシ(アリステラの服は……)

 


アリステラ(ふぅ、いっぱい運動して疲れちゃったぁ……お着替え お着替え……あら?)


アリステラ(あれ、どうして……?私の服……セーター、ここに仕舞ったのに……)


ツヨシ「ふー…………あれ、アリステラどうしたの?」
アリステラ「私の お洋服が見つからないの……」

ツヨシ「お洋服って、朝着てたセーター?」
アリステラ「うん……」

ツヨシ「それならさっき見かけたよ」
アリステラ「ほんと!?どこで!?」


ツヨシ「こっちだよ、こっち!」
アリステラ「あっ……ちょっと待ってよぉ」


アリステラ「ツヨシちゃん、足早いよぉ…………え?」


アリステラ「ツヨシちゃん、何、してるの?」


ツヨシ「何って……今日は寒いから、焚き火に当たるだけだよ」
アリステラ「……っ!!ツヨシちゃん、ダメ!!やめて!!


アリステラ「あっ……」


アリステラ「ドライブちゃんが、くれた、プレゼント……だったのに……」



ドライブ「成長の祝いのプレゼントだ、気に入らなかったら悪いが……」


ドライブ「次はアリステラだ、成長おめでとう」
アリステラ「ドライブちゃん、ありがとうねぇ。すごく嬉しいなぁ……このプレゼントの思い出を戦う時の糧にするねぇ」


アリステラ「……はじめての…………はじめての、誕生日プレゼントだったのに!!」


アリステラ「酷いよ、ツヨシちゃん!!!
ツヨシ「うわっ……!」

 


 サザンクロス本部



セイメイ「ボス、ヴァンパイア養成学校の新入生達の資料がまとまりました。目を通していただけますか」
ドライブ「ああ、わかった」


セイメイ「この3人なんですが……」
ドライブ「こいつはレッサー・ヴァンパイア……棺桶でなければ眠れない、では個室に棺桶を設置しておくか。こちらは飲み干し下手……ブラッドパックを多めに支給するように。もう1人は なりたてか。最近なりたてヴァンパイアも多いし、また基本的な知識の説明会をするか。悪いが以前のプレゼン資料を推敲してもらっていいか?」
セイメイ「了解です」


ドライブ「……ふぅ……」
セイメイ「……最近お疲れのようですが、大丈夫ですか?」
ドライブ「ああ……すまん、大丈夫だ」

セイメイ「本当に大丈夫なんですか、体とか細すぎですよ」
ドライブ「元から こういう体型だが?喧嘩を売っているのか」

セイメイ「すみません、和ませようと思って」
ドライブ「和まんわ」


セイメイ「やはり子育てのことで疲れが?」
ドライブ「まあ……そうだな」

セイメイ「そうですか……子供ってやっぱり心配ですよね。子供にバレないように盗聴器を仕掛けるコツ、私で良かったらいつでも伝授しますよ」
ドライブ「気持ちだけ受け取っておく……というか貴様は新月の子に盗聴器を仕掛けているのか?」

セイメイ「はい、職場で何事もないか心配で」
ドライブ「バレて縁を切られる前に外しておけ」


ドライブ(……最近は、私の中にいる何かの声が聴こえる度に激痛が伴うようになってきた。何とか対話を試みたいものの、痛みに耐える事で精一杯で それどころではない……激痛のせいで疲労もたまる一方だし どうしたものか……相手から敵意を感じないのが不幸中の幸いだが……)

ピリリリリリ


ドライブ(学校から電話……?まさか子供達に何かあったのか?)


ドライブ「はい、ドライブです………………えっ?」

 

 トマラン小学校



ドライブ「すみません、遅くなりました……!」
校長「いえいえ、こちらこそ お忙しい中お呼び出ししてすみません」
ツヨシの母「加害者の家族に謝る必要なんてないザマス」


ドライブ「……アリステラがクラスメートにケガをさせたというのは本当ですか……?」
校長「ええ、まあ……突き飛ばされて転んで 擦りむいただけですから、そこまで酷いものでは……」

ツヨシの母「何を言うザマス!理由もなく突き飛ばした時点で酷いザマしょ!!それに、もし頭でも打っていたら どうするザマスか!!ただでさえバカなのに、もっとバカになってしまうザマス!!」
校長「お母さん、息子さんの前でそんな事は……」


ツヨシの母「とにかく!!おたくの娘さんもツヨシに謝ったので今回は大目に見てあげますけど、しっかり子供の躾くらいするザマス!!普段からツヨシを無視したり、学校の物を壊したりと酷いらしいザマスからね!!」
ドライブ「……本当に申し訳ありません、娘にはキツく言い聞かせておきます……」

ツヨシの母「次またウチの子に何かしたら、訴えてやるザマスからね!!」
ドライブ「はい……」


アリステラ(…………私のせいで……ドライブちゃん、叱られちゃった……)





ドライブ「……ふぅ……とりあえず、帰るかアリステラ」
アリステラ「うん……」


アリステラ(ドライブちゃん、何も言わない……やっぱり、怒ってる……のかな……)


ドライブ「……アリステラ」
アリステラ「……なあに……?」

ドライブ「……お前、本当にツヨシを突き飛ばしたのか?」
アリステラ「……そうだよぉ……私、ツヨシちゃんを突き飛ばしてケガさせちゃったの……」


ドライブ「……突き飛ばしたのが本当だとしても、何か理由があるのだろう?」
アリステラ「理由なんて無いよぉ……言ってたじゃない、理由もなく突き飛ばしたって……本当に、私は急に、突き飛ばしたの……」

ドライブ「誤魔化すな、お前は理由もなく人に暴力を振るう子ではない。お前は思いやり深くて、暴力や暴言……人を傷つけることを何よりも嫌っている筈だ」
アリステラ「…………………」


ドライブ「……ここ最近、お前は様子がおかしかった。どこか元気が無くて……もしかして学校で何かあったんじゃないのか」
アリステラ「……ち、違う……よぉ……」
ドライブ「……言ってくれない、か。そんなに私は頼りないか……」

アリステラ「そうじゃ、ないの……私……私…………」
ドライブ「アリステラ……?」


アリステラ「……グスッ……うっ、ううぅ…………ううっ、うっ……ひっ、ひっ……」
ドライブ「お、おい……」

アリステラ「うっ、うぅ……わああああん!!
ドライブ「………………」





ドライブ「……落ち着いたか?」
アリステラ「……うん……」

ドライブ「何があったのか、ちゃんと話してくれるか?」
アリステラ「……わかったわぁ……」


ずっとずっと我慢してて、私はまだ大丈夫と思ってたけど……大丈夫じゃなかったみたいです。
限界、きちゃったみたいです。

ドライブちゃんが編んでくれた大切なセーターをツヨシちゃんに燃やされて、一気に爆発しちゃったみたい。
頭にカーッと血が上って、ツヨシちゃんのことを突き飛ばしちゃった。

我に返った時は もうツヨシちゃんは転んで擦りむいてて……私、凄く悲しくなっちゃった。
ツヨシちゃんをケガさせちゃったのもそうだし、暴力という手段を取ってしまった自分の事も凄く嫌いになっちゃった……。

ドライブちゃんにお話しているうちに、まだ悲しい気持ちでいっぱいになって涙が出ちゃって、でも自分を哀れむ為に出てきてる涙なんだと思ったら、また自分が嫌になっちゃって、もっと涙が出ちゃって……すごく、胸が苦しくなりました……。

嗚咽まじりでなかなか上手く喋れなかったけど、ドライブちゃんは口を挟んだりも急かしたりもしないで、ずっと静かにお話を聞いてくれました……。


ドライブ「…………ずっと嫌がらせを受けていたのか」
アリステラ「……嫌がらせとは、また違うよぉ……」

ドライブ「嫌がらせ以外の何者でもない。最早イジメだろう、これは」
アリステラ「…………」

ドライブ「……何故、何も言ってくれなかったんだ?」
アリステラ「……私が我慢すれば、全部丸く収まるって思ったの……ツヨシちゃんもチーキーちゃんも喜ぶし、私は……ツヨシちゃんに笑っていてほしかったし……それに、ドライブちゃん……最近体調悪そうだったから……心配で……余計な心配かけたく、なかったの……」


ドライブ「そうか…………事情はわかった、後は私は何とかする。お前は落ち着くまで暫く学校を休んでいなさい」
アリステラ「えっ……ダ、ダメだよ……だって、早くティーンに成長するには学校に行かなきゃ……学校で沢山お勉強することが成長の条件なんだから……だから」

ドライブ「……今 大事なのは成長じゃなくて お前の気持ちだろう。それにまた嫌がらせをされるとわかっていて、みすみす学校に送り出せるか」
アリステラ「……きも、ち?」

ドライブ「そうだ。実際お前はどうなんだ、いじめられるとわかっていて、こんな仕打ちを受けておいてなお学校に行きたいと思ってるのか?使命だとか人形だとか成長の為とか、そんな事を抜きで考えてみなさい」
アリステラ「…………私は…………」


アリステラ(……ツヨシちゃんの顔見ると辛いから、学校行くの嫌になっちゃったなぁ……でも、行きたくないなんて言えないよ……心配かけちゃうし……それに……成長の為には お勉強が必要だもん。私は早く成長して、力をつけて、カオスと戦わなくちゃいけないもん。私はお人形なんだから……辛いとか考えちゃダメ)


アリステラ「……本当は、行きたくなかった……でも、私、お人形だから……早く成長しなくちゃいけないから……だから、行くしかなくて…………でも、本当はツヨシちゃんと顔を合わせるのが怖くてっ……ツヨシちゃんが喜ぶなら良いって思ってたのに、でも、やっぱり……悲しくて…………!」
ドライブ「……そうか」


アリステラ「ぐすっ、うぅ……」
ドライブ「……ずっと気づいてやれなくて すまなかった。でも、よく話してくれた。それにずっと我慢してきた……お前は優しくて強い子だ」

アリステラ「ごめんねぇ、泣いてばっかりで……」
ドライブ「謝ることではない、気が済むまで泣けば良い」
アリステラ「うんっ……」


アリステラ「えへへ……もっとギューして、ギュー」
ドライブ「ああ、わかったわかった」
アリステラ「ふふふ……ドライブちゃん、冷たいけど あったかいねぇ……」

 

 ドライブ邸



ドライブ「まさか一緒に寝たいと言い出すとはな……」
アリステラ「ふふ、今日はね、沢山ドライブちゃんに甘えたいんだぁ……」
ドライブ「甘えられる……まあ、悪くはないな」


アリステラ「……やっぱり、ツヨシちゃんがやってたこと、ツヨシちゃんのお母さんや先生に お話しちゃう……?」
ドライブ「そうだな……事実を捻じ曲げられ、お前を悪人にされたまま終われん」
アリステラ「でも私が学校行かなければ、もうそれで解決だよ……」 

ドライブ「根本的に正さない限り、人というのは同じ過ちを繰り返す。お前がいなくなっても、また別の子をターゲットにする可能性があるんだ……お前は自分がターゲットだったから我慢すれば良いと思っていたのだろう?だがツヨシが別の子にまた同じことをしたら、お前はどう思うんだ?やられている子に我慢しろと言えるか?」
アリステラ「……言えない……」


ドライブ「……ツヨシが親からの当たりがキツいのは知っている。だけど、だからといって人を傷つけて良い理由にも、許されても良い理由にもならないだろう」
アリステラ「……うん」

ドライブ「……上手く出来るかはわからないが……なるべく、丸く収めるよう努力はしよう。お前がツヨシの為に我慢していたのが無駄にならないように」
アリステラ「……わかったわぁ」


ドライブ「よし、じゃあ今日はもう寝なさい。沢山泣いて疲れただろう」
アリステラ「は~い」


アリステラ「……ドライブちゃん、心配かけちゃって、私のせいで面倒事に巻き込んじゃってゴメンね……」
ドライブ「謝るんじゃない。それにお前は1人で我慢しすぎなんだ、お前が私達を大事に思っているように私達もお前を大事に思っている……1人で抱え込まずに、頼ってくれ」
アリステラ「うん……」


ドライブ「おやすみ、ゆっくり休みなさい」