オレは失敗作のクローンだった。
レオンよりも若く作られて、アイツの記憶も見た目も受け継いだが……体は欠陥だらけだった。

体力も低く、脳も一般シムとは違う。
疲れやすくて すぐにバテるし、記憶容量を越えたら古い記憶から消えていく。
こまめにメモをして記憶を取り戻すトリガーが無いと、まともに生活も出来やしない。
そのくせ忌々しいレオンの記憶は消えてはくれない。
母親を殺した時の生々しさが脳に焼きついて離れない。
殺したのはオレじゃないのに、殺した記憶が鮮明に残っている。
オレとレオンは違う。
オレにはレオンを理解する事が出来ない。

可哀想な奴だとは思う。
だが、同情はしても同調は出来なかった。

そんな理解できない相手の思考がダイレクトに流れ込んでくるのは苦痛でしかない。
だけど……一番オレを悩ませるのは……怖いのは……レオンと同じ遺伝子を持っている事実。
蛙の子は蛙という言葉がある。
いつかレオンのようになるんじゃないか……咄嗟に人に危害を加えるんじゃないかとか……不安になるんだ。
だって──殺してやりたいって、そう思ってしまったことがあるから。
オレとレオンは違う、似てない、別人。
なのに、何故 人の命を奪ってやろうという思いが似通ってしまうんだ。

 

 サバイバル生活 15日目

ニアがリオンに片思い(!?)した直後からスタート。


ニア「病気になっちまいましたわー!!!
ニア「あの野郎のことを考えたら、ほっぺたがカーッと熱くなって心臓がドックンドックン喧しいのですわ!!あまりにも嫌いすぎて、脳が あの野郎の事を考えるのを拒否しているに違いありませんわー!!!」
ニア「あの野郎の身の上話を聞いて仲良くなった気でいましたが、悲しきかな……本能がヤツを毛嫌いしちまっているんですわ。でも私は社交界に生きる お嬢様ですもの……平然を装ってやりますわ」


ニア「はあ〜、心臓が ずっきゅんどっきゅん うるせえですわ〜。火にあたって心頭滅却して落ち着くかあ……ですわ」


ニア「ふう、あったまったら眠くなってきましたわ。寝て起きたら、きっと このずっきゅんどっきゅんも治ってますわ〜」


一方その頃、ニアから片思いされていることを知らないリオンは食料調達中なう。
ベリーや野菜だとすぐ お腹減ってしまうので、魚が必要ですねー。


リオン(よし、釣れた釣れた……釣りは面倒くさいけど……やっぱタンパク質って必要だからな……)


ニア「腹減りましたわー!!!
リオン「うるさっ」

ニア「ちょっ……なんでテメーだけ魚を食ってますの!?ずるいですわ!!私だって お魚食べたいですわああぁ!!
リオン「うるさいうるさい……」


リオン「……そんなに騒がなくても、ちゃんとアンタの分も釣ってあるから……これで静かにしてくれませんかねぇ……」
ニア「まあっ!私を魚で懐柔するおつもりですの!?そんなもので釣られるほど私、安い女なんですわー!!!頂きますわ!!」
リオン「……はいはい……」


リオン「じゃ、オレ……疲れたから仮眠する……うるさくすんなよ……」
ニア「うるせー、さっさと寝ろですわー!」


リオン「……すぅ……」
ニア「寝付くの早っ!!ある意味 才能ですわね!!」


ニア「よし、この野郎の顔を見てもさっきみたいに頬が熱くなったり、心臓が ずっきゅんどっきゅんしませんわ!!治りましたわね!!」


ニア「それにしても、起きてる時は憎たらしいのに寝てる時は邪気がなくて可愛いですわね。クソ野郎と顔が同じ筈なのに、普通に綺麗な顔だと思うようになっちまいましたわ。横顔とか綺麗ですし…………じー…………」


リオン「………………うるせぇ…………」
ニア「はっ!?な、なんでそんなに早く起きちまうんですの!?」
リオン「……アンタがオレの顔をガン見しながらブツブツうるせえからだけど……?うるさくすんなって言ったじゃん……?メシくらい黙って食えよ……」

ニア「うっ、うるさいですわね!!私は変な病気になっちまったんですわ!!大目に見ろや!!」
リオン「……まあ、アンタは確かに病的にうるさい……次またうるさくしたらキレるんで……じゃ……」


ニア「……………はぁー」


ニア「ムカつく事を言われたのに、腹が立つんじゃなくてドキッとしてしまいましたわー!!!寝起きのちょっとボヤーッとしてるところとかっ、不機嫌な感じとかっ、可愛いとか思っちまいしたわ!!私の脳みそ、ぶっ壊れちまいましたわあああぁぁ!!!


この後は拠点に戻って睡眠し、1日が終わりました。


 サバイバル生活 16日目


寝て起きたら頭の中はリオンをデートに誘うことを考えるニアさん。
ある意味デートよりも濃厚な同棲生活中やろ今。


ニア「はぁ……寝ても覚めても頭に浮かぶのは あの野郎のことばかり……私、頭が変になっちまいましたわ……」


ニア「この間あの野郎から身の上話を聞いてから私、変ですわ……確かに気の毒な話でしたし応援したいし、支えてあげたいとは思いましたが、この心臓の ずっきゅんどっきゅんは何だってんだよー。やっぱり本能が あの野郎を毛嫌いしてるから全身や心が否定しちまってる説濃厚ですわねぇ、まったく私の体は正直だなぁ……」

リオン(……独り言デカイし、意味分かんないし……なんかアイツおかしくなってきたな……サバイバル生活で本人も気づかないうちに疲れてんじゃないの……?)
トイレに起きてきたリオンにうっとりするニア。
ベタ惚れ来ましたねえ……。


ジェム「ブルルルッ!
リオン「うわっ、なんだよ!トイレくらい行かせろ……!」

ニア「あら、ビビってる顔もなかなか そそられますわ……そそられる?私、何に そそられてるんですの!?」
リオン(何なんだよ、この空気……ユニコーンは噛みつくわ、あの女はおかしいわで最悪……)


ちなみにユニコーンって貞潔の象徴で、本来は獰猛な性格らしいです。
清らかな乙女のみが手懐ける事が出来るのだとか……。
ジェムはニアには懐いてるのに、野郎のリオンには獰猛。
あまりにもユニコーンすぎる。


リオン「……火が消えかけてんじゃん、ちゃんと薪をくべろよ……」
ニア「うっせーな、いちいち文句言わねえと動けねーのかよ。でも憎まれ口叩くクセに優しいことしやがってよ……ずっきゅんどっきゅんしちまうじゃん……………あら、ありがとうございます」
リオン(鳥肌立ってきた)


手にキスする。
エンジンフルスロットルやん。
ちょ、待てよ!!


リオン「……あのさ、アンタ大丈夫……?」
ニア「は!?テメーに心配されるほど私、落ちぶれてないと思いたかったけど落ちぶれてる気がするわ!!テメーに心配されるほど私、落ちぶれてませんわよ!!」

リオン「……最初に心の声出てる……アンタ、昨日からおかしくない?もしかして疲れてんじゃないの……」
ニア「心配されてるぅ……ずっきゅんどっきゅん……」

リオン「……アンタの様子のおかしさ、気持ち悪いんで……さっさと寝るなりなんなりして本調子に戻って……」
ニア「私だって元の私に戻りたいですわぁ……」


ニア「……そういや この野郎って、私のことどう思ってるんでしょう……」
リオン「うるせえと思ってる……」

ニア「エスパー!!というか、この野郎って私のこと名前で呼んだことすらないような……私はアンタって名前じゃないのに!!失礼な話だよ!!」
リオン「……人のこと、あの野郎とかこの野郎とか言うアンタが言えた義理か……」

ニア「私の考えていることを当てすぎですわ!!私のこと好きすぎるだろ」
リオン「……うざい……」


ニア「そういや、この野郎は私の考えてることを読み取れるくらいに私のことを好きだし知り尽くしてますわ……でも私は この野郎のことを知らない……生意気でダウナーで体がガラクタだってことしか知りませんわ……もっと知りたい、この野郎のことを……!!」
リオン(……もう面倒くさいからツッコまずに放っておこ……)


ニア「ところでテメーは恋人とか好きな人とかいますの!?」
リオン「……もっと知りたいとか言って まず最初に訊くことがそれとか、ツッコませる気満々じゃん……」


リオン「…………恋とか人を好きになるとか……そういうの面倒くさいし、パス……そもそも自分の体で手一杯だから、そんな余裕ねえし……」
ニア「ふうん、そうですのね!!つまり自分の体が治ったら余裕出来て恋しちゃうんですのね!!あらあら!!」
リオン「…………面倒だから、しないと思う……」


リオンが独身だとスマホにメモるニアちゃん。
現実逃避するリオン。
なんか噛み合わねえな!


とりあえずいっちょセクシーポーズをかましたら、ピンクゲージが生えました。
これでもう後戻りは出来ねえ……。

リオン「……なんかクネクネして愉快な動きだな」
ニア「人の動きを笑うんじゃねー!!」


ジェム「ブルルル……」
ニア「あら、ジェムちゃんお散歩したいんですのね!良いですわよー!私も あの野郎から少し距離を取らないと頭がパーンとなりそうですわっ!」


ニア「ジェムちゃんとお散歩してきますわー!!」
リオン「……はいはい……行ってら……」
リオン(やっと静かになる……)


ニア「ふう、あの野郎と離れたら少し落ち着きましたわ!でも考えたら ずっきゅんどっきゅんしますし……なんなんですの〜」


「ふふ……貴女が抱く その感情の正体……教えてあげましょう」

ジェム「ブルル!?」
ニア「そ、その声は……」


ニア「クリスタさん!?どうしてここに!?」
クリスタ「ずっとあなた方を見守っていましたが……あまりにも もどかしいので、少し背中を押しに来ました」
ニア「せ、背中を!?どういう事ですの!?わっかんねー!!」


クリスタ「ニアさん、貴女がリオンさんに抱く その感情は……恋です」
ニア「………………あまりにも衝撃的な単語に思考がガチで停止しちまいましたわ。鯉が何ですの?」
クリスタ「鯉ではなく恋です、LOVEです」


ニア「あっりえませんわあああぁ!!私、あんな無愛想で可愛げないけど顔が可愛くてぶっきらぼうで優しい野郎好きじゃないですわあああぁぁ!!」
クリスタ「ユニコーンと一緒に興奮するのではありません」


ニア「うぅ……いくらクリスタさんの言うことでも ありえねーもんは ありえねーですわ。確かにあの野郎のことを考えたら頬が熱くなって、心臓がずっきゅんどっきゅんしやがりますが」
クリスタ「それは恋をしているからです」

ニア「つい寝顔を眺めちまいますが」
クリスタ「とても恋をしているからです」

ニア「なんだか あの野郎のことをもっと知りたいし、あの野郎を支えてあげたいと思いますし!!」
クリスタ「激しく恋をしているからです」


ニア「イヤですわー!!よりによってあんな野郎に恋なんて!!ありえねえええぇ!!」
クリスタ「頑なですね。わかりました、ニアさん……目を閉じてください」


ニア「閉じましたわ」

クリスタ「リオンさんのことは嫌いですか?」
ニア「最初は嫌いでしたが、今は……まあ……悪い奴ではありませんし、嫌いではありませんわ!!でも恋はしてませんわ!!」

クリスタ「好きか嫌いか、どちらかで答えると?」
ニア「えええぇ、中間がねえ!!誘導尋問!!」


クリスタ「目を閉じたまま、心を落ち着けてください。そしてリオンさんのことだけを考えてください。自分自身と向き合うのです」
ニア「向き合う……向き合う………………………………」


ニア「……心臓がっ!ずっきゅんどっきゅん!!止まりませんわ!!」

クリスタ「このままサバイバルが終わって、リオンさんと完全に縁が切れたら寂しいですか?」
ニア「寂しくないと言ったら嘘になっちまいますわ!!」

クリスタ「リオンさんともっと仲良くなりたいと思いますか?」
ニア「なりたくねえと言ったら嘘になっちまいますわ!!」

クリスタ「彼のことを支えたいですか?」
ニア「支えてえええぇ!!

クリスタ「好き?嫌い?」
ニア「ちょっと好きかもですわああぁぁ!!


クリスタ「ふふ……好きなのですね。淡い恋心ですね」
ニア「う、嘘だぁ……あんな奴に恋だなんて……うぅ……」

クリスタ「ちゃんと自分の気持ちを自覚したようで何よりです……では私はこれで」
ニア「えっ!?


ニア「そんな、私に自覚させるだけさせておいて帰るだなんてひでえですわ!私、どうすりゃいいんですの?」
クリスタ「どうするかは貴女が考えることです。これは貴女の恋ですから」
ニア「うぅ……てか、クリスタさんは何故わざわざ私に恋心を自覚させに……?」


クリスタ「……若いシム達の恋模様を見るのが私の趣味だからです」
ニア「え?

クリスタ「多感なティーンが2人……何も起きないわけもなく……」
ニア「え?えっ?
クリスタ「2人の進展を楽しみにしていますよ、では……」


ニア「………………………」


ニア「……尊敬する人が、ただのカプ厨おばさんでしたわー!!最悪ですわー!!この滾る思い、誰がどう責任とりますのー!!」


リオン(うっ、悪寒が……なんか無性に嫌な予感がする……)