学校が嫌いだった。

机やロッカーには、いつも死ねとか臭いとか、学校来るなって書かれるし……クラスメートからは気持ち悪いって言われるし……。
先生に相談しても、まともに話を聞いてくれないし……。


授業を受けても、なんか頭がボーッとして内容が入ってこない。
きっと俺の頭が悪いからだ。
ぼんやりするたびに先生に怒鳴られて叱られて、クラスメートから笑われて恥ずかしくて嫌だった。


休み時間はいつも1人だった。
話しかけてくれる子がいても「話しててもつまらない」って言われて離れていく。
話題のアニメとか、ゲームとか動画とか……テレビもPCも使えないから全然わかんなくて、話題についていけない。


昼休みの食事はいつも水だった。
学食を買うお金なんて、母さん達がくれる訳ないから。
皆が食べているところを見ると余計にお腹が空いて辛いから、いつもトイレに引きこもってた。


学校が嫌いだった。
でも家にいる方が嫌だったから……家にいるよりはまだ辛くないから、マシだった。

家にいても、学校にいても、皆 俺のことを疎ましがる。
いるだけで皆を不快にさせる。
何処にいても同じ。

俺は……何処にいれば良いんだろう。

 

 コモレビ山 旅館


キルシュ(……牧場生活で早寝早起きが染みついたせいか、もう目が覚めちまった)


キルシュ(皆まだ寝てるし起床時間はまだだし……部屋でゴソゴソしてたら起こしちゃうかもだし……朝風呂にでも行こうかな)


トーマス「あっ、先輩おはようございます!!流石、朝早いですね!!」
キルシュ「あ……おはようトーマス。そういうお前も早いな」
トーマス「ええ、まあ!!」


トーマス「先輩、コモレビ山旅行どうですか?楽しめていますか!?」
キルシュ「ああ。ずっと楽しみにしてたし、不参加を言い渡された時は……正直ショックだったけど……でも、皆のお陰でこうして一緒にコモレビ山に来れて楽しめてる。主に作戦を考えたのはトーマスだって聞いたよ。ありがとな」

トーマス「任せてくださいよぉ!!僕は先輩の為ならなんだってしますから!!」
キルシュ「お、おう……」


トーマス「友達と過ごした思い出は……先輩にとって勇気をくれる大事なものとなります。ですから、今回の旅行で沢山思い出作りをしてくださいね!!」
キルシュ「勇気……?なんかよくわかんないけど……まあ、とにかく楽しむよ」
トーマス「ええ!!楽しんでください!!」


トーマス(……運命を変えられなかったら、これが先輩にとって最後の思い出となる……修学旅行の後はずっと……辛くて苦しい事が立て続けに起きて……そして先輩は……)

 


キルシュ(朝メシも済まして……さて、どうしようかな。今日は皆 自由行動じゃなくて班行動らしいし……のんびり1人でコモレビ山を見てまわるか)


キルシュ(……あっ、先生だ……何やってんだ、あれ?)


先生「ん、ブルームか!おはよう!!」
キルシュ「おはようございます……何やってんですか?」

先生「見てわからんのか!雪だるまを作っている!」
キルシュ「はぁ、雪だるま…………意外とガキっぽい事するんですね」

先生「ぬぅわぁにいぃぃぃ!?雪を見たら雪だるまを作りたくなるのがシムの性だろうが!!貴様も雪だるまの1つや2つ、作ったことあるだろう!」
キルシュ「無いですけど」
先生「ぬぅわぁんだぁとおおぉ!!


先生「雪だるま作りの楽しさを知らんとは人生損しているぞ!よし、ブルーム!お前に雪だるま作りを体験させてやる!」
キルシュ「雪だるまくらいで人生損しないでしょ……別に作らなくても……」

先生「いいからやらんかぁ!!
キルシュ「はいはい……」


キルシュ「とりま雪を集めて形作れば良いんですか?」
先生「そうだ!可愛らしく作るのだぞ!」


キルシュ(なんで俺、朝っぱらから教師と雪だるま作ってんだろ……)


キルシュ(…………まあ、楽しいからいいか)


先生「あとは飾りをつけて……よし、完成だ!!」
キルシュ「随分とファンキーな雪だるまですね……」

先生「この生意気そうな顔、お前にソックリだろう?」
キルシュ「髪型は先生そっくりで世紀末ですけど」
先生「私のモヒカンを世紀末呼ばわりするな!」


キルシュ「つーか、朝から雪だるま作るなんて暇なんですか?」
先生「ひ、暇ではない!!今日は他の教師達が巡回しているから休んでいるだけだ!」
キルシュ「はぁ、そうですか」


先生「そういうお前こそ暇そうではないか!お前はコモレビ山に来るのは初めてだろう?ここはコモレビマイスターである私が案内してやろうではないか!」
キルシュ「いや、別に良いです……ってかコモレビマイスターって何ですか」
先生「私はコモレビ山にリスペクトがあり、文化や歴史に精通しているのだ」


先生「見ろ、私の服を!これはマイスターにのみ許された服だ!イカした文字で“たらこ”と書いてあるだろう!“たらこ”の意味はわからんがな!」
キルシュ「文化に精通してんのに“たらこ”の意味がわかんないんですか」


先生「ええい、つべこべ言わずについてこんか!ほら、行くぞ!」
キルシュ「はいはい……」


先生「よし、まずは自然散策路をハイキングだ!コモレビ山といえば美しい自然!マイスターである私が解説しながら学んでいこうではないか!これこそ正に“修学”だな!ハハハ!」
キルシュ(テンションたけーな……)


先生「まずは橋を渡っていくぞ!コモレビ山では橋に関する逸話や神話が数多くあってな、あの世とこの世を隔てる橋とか」
キルシュ(えっ、何か見かける度にこの早口クソ長ウンチク垂れ流されんの……?)


キルシュ「うわっ!なんか光り輝く てるてる坊主がいるんですけど!?」
先生「おお、コモレビ山の精霊ではないか!」
キルシュ「精霊!?

先生「森に宿る神秘的な存在だ、自然を愛し敬う者を祝福してくれる木々の守護者らしいぞ!挨拶しておけ!」
キルシュ「はい」


キルシュ「えーっと……どうも、スルスル」
先生「ええい、もっと かしこまらんか!!」


キルシュ「でも、なんか良い気分になってきましたよ。集中力が増したっつーかなんつーか……とりあえず素敵な気分です」
先生「ううむ、今ので祝福を授けてくれるとは……精霊は器が広いな……」


先生「よし、次は歴史ある神社にハイキングしに行くぞ!」
キルシュ「えっ……まだ続くんですか?」

先生「当たり前だ!!コモレビ山といえば神社、神社といえばコモレビ山!コモレビ山に来たならば神社参拝がマナーだろうが!!」
キルシュ「は、はい……」


先生(しかし、目を輝かせながら辺りを見渡して……こういうところはまだまだ子供だな)


先生「この先が神社だぞ!さあ、張り切って階段を上がれ!」
キルシュ「はい」


キルシュ(……ここ、写真で見たことある。姉さん達が3人でコモレビ山に旅行した時の写真に映ってた……)


先生「うんうん、やはり神社はいいものだな!趣があるな!!和だな!!
キルシュ「なんか雑なコメントですね」
先生「そんなことはないっ!!私はコモレビマイスターだからな、下手に言葉では語らんだけだ!」


先生「よし、次は洞窟の像だぞ!」
キルシュ「えっ、まだあるんですか?」

先生「当たり前だろう!コモレビ山の魅力とは1つや2つではないのだ!!どうせお前も1人でブラブラする予定だったのだろう?マイスターである私が案内してやったほうが良いだろう!はっはっは!!
キルシュ「うわぁ……」


先生「ついたぞ!ここが洞窟の像だ!」
キルシュ「おお……なんか思ってたのと違う……サルですか、これ?」

先生「うむ!恐らく、これが有名な見ざる、聞かざる、言わざるだろうな!!」
キルシュ(違うと思うけど黙っとこ……)


先生「ちなみにここはコダマが凄いぞ!」
キルシュ「マジですか?えっと……ヤッホー!


やっほーやっほーほーほー……』

キルシュ「ホントだ!すげぇ、コダマとか初めて聞きましたよ!」
先生「ハッハッハ、来て良かっただろう?マイスターに感謝しなさい!」
キルシュ「……あ、ありがとうございます……?」


先生「ふう、ハイキングしていたらもう夕方か!」
キルシュ(……あっ、ソリだ)


キルシュ(……姉さんが、父さんや母さんと一緒にソリに乗って楽しかったって話してたな…………誰かと一緒に乗ると倍楽しい、まあアンタみたいに臭い子とは誰も乗りたがらないでしょうけどねって……)


先生「ん!?どうしたブルーム、もしかしてソリに乗りたいのか!?」
キルシュ「いえ、別に……」

先生「はっはっは、遠慮するな!まったく、そんなに先生が大好きか!!仕方ないな……もうすぐ日が暮れるから1回だけだぞ!!」
キルシュ「遠慮してませんが!?」


先生「よし、お前は子供だから前に座って良いぞ!嬉しいだろう!」
キルシュ「先生ってたまに過剰に子供扱いしますよね……」

先生「何を言っている、お前は子供だろう?」
キルシュ「……まあ、そうですね」


先生「コントロールはマイスターに任せておきなさい!!」
キルシュ「じゃあ、まあ、事故らないようお願いしますよ……」


キルシュ(……あ、でも滅茶苦茶気持ちいいし、楽しいかも……ソリ……)


先生「どうだ、楽しかったかブルーム!」
キルシュ「……はい」
先生「そうかそうか!なら良かった!」


先生「じゃあ先生は先に旅館に帰るからな!もう夜になるし、早めに帰るようにな!!」
キルシュ「はい」


キルシュ(……なんか、結局一日中先生といたような……)


キルシュ(……でも、楽しかったな……先生は大人だし、友達とはなんか違うけど……一緒にいるのは楽しい)


キルシュ(……優しい父親って……あんな感じ、なのかな……)