カーッカッカッカッ!
ラマ・ザ・ゴッド降臨!!

我が神殿(牧場)では怒涛の勢いで問題が押し寄せているぞ!
神である私がわかりやすく解説しよう!


まず、異世界からやってきた波乱の疾風(ワイルドソニック)だ!
元いた世界とは異なる場所に酷く混乱し、嘆き悲しむ波乱の疾風(ワイルドソニック)を奴隷が面倒を見る事となり、元の世界へ帰還する術を探すこととなった。

私は神であるが、この世界の住人ではない者の助けにはなれぬからな。
奴隷には私の代わりに尽力してもらわねば!


次は無垢なる少年(トーマス)だ!
奴は何故か肉親のもとに帰還する事を拒んでいる!
理由は未だに不明……放っておけないからと、奴隷がこの地に置いてやっているのだ。

ええい、ここは駆け込み寺か!


漆黒の稲妻(シュバルツ)も最近奴隷が他の者の世話に明け暮れているせいか、どうにも虫の居所が悪い。
さてはて、どうなることか……ラマのみぞ知る!!


ゲルダ(アンタのあらすじ、わかりにくいワヨ!)


水曜日


キルシュ(7時になったし、トーマスに朝飯作ってやらないとな。何が好きなのかわかんないけど……まあ、子供向け定番のオムレツでいいか。金の卵も使おう)


トーマス「家出のお兄さん、おはよう」
キルシュ「家出のお兄さん呼びはやめてほしいんだけど…………服、スリフティーで買ってきた古着だったけどサイズぴったりみたいだね」
トーマス「うん!!


キルシュ「お腹空いたかな?今、ご飯作ってるからもう少しだけ待っててくれ」
トーマス「わあ、お兄さんグリル以外の本格的な料理も出来るんだね!!僕のパパ……料理しないから、パパよりお兄さんの方が凄い!!

キルシュ「反応に困る褒め方だな……えっと、ほら、パパも忙しくて料理する暇ないだけとか……?」
トーマス「……知らない!」


キルシュ(父親と一悶着あって家出した感じかな……しかし、子供相手ってやっぱ苦手だわ……言葉遣いも気をつけなきゃだし……)


トーマス「お兄さん、僕にも料理教えてよ!料理出来るようになったら1人でも暮らしていけるし!」
キルシュ「君はまだ子供だから料理は教えられないから無理だよ。ティーンになってから出直しておいで」
トーマス「ちぇ〜」


トーマス「いいな~、お兄さん料理出来てカッコいいな〜」
キルシュ(気が散る……)


キルシュ「ほら、トーマス。ご飯が出来たよ」
トーマス「わあい!お兄さんは食べないの?」

キルシュ「俺はまだお腹空いてないし、牧場の仕事をしてから食べるよ」
トーマス「そうなんだ」


キルシュ「シュバルツ、おまたせ。ほらニンジンの時間」
シュバルツ(キルシュ……イツモヨリ、ニンジン、オソイ……)

キルシュ「ご、ごめん……トーマスの朝飯作ってて……」
シュバルツ(ボク、アトマワシ……)


キルシュ「ごめんって……次からは気をつけるから……ほら、あーん」
シュバルツ(……アーン)


キルシュ「よしよし……じゃあ、他の皆の様子も見てくるから。また後でな」
シュバルツ(ウン……)


キルシュ「よいしょ、おはようミルヒ」
ミルヒ「メェ~」
キルシュ「ん……シュバルツが心配なのか、まあ確かに最近様子が……まあ俺のせいなんだけど……」


ミルヒ「メッ!
キルシュ「ひぇ……ご、ごめんって……俺のせいとかもう言わないから……」
ミルヒ「ンメェ!」


ワイルドソニック(キルシュちゃま、お腹空きましたわ〜)
キルシュ「ああ、ごめんごめん。ほらミルク」


トーマス(お兄さん、動物沢山いるのに1匹1匹大事にしてるんだ……)


キルシュ「ワイルドソニック、調子はどうだ?」
ワイルドソニック(すべての欲求が満たされて幸せでしゅわ〜)

シュバルツ(アッ!!ボク ガ、ネテル アイダ ニ、マタ、ホカノコ、バカリ!!)
キルシュ(うっ、殺気……またシュバルツを怒らせちまったみたいだ……)


シュバルツ(キルシュ!ワイルドソニック、バカリ、カマッテル!!)
キルシュ「そ、そんなことないって……てかシュバルツ、ワイルドソニックを目の敵にしてないか……?」

シュバルツ(シテナイ!!
キルシュ「いや、してるだろ……」

シュバルツ(シテナイッタラ、シテナイ!!)
キルシュ「はぁ……」

ワイルドソニック(もう!わたくちのために争うのはやめてくだしゃい!)


トーマス(お兄さん、お馬さん達と何をお話してるんだろ?)


シュバルツ(キルシュ、ボク ト、ワイルドソニック、ドッチ ガ ダイジナノ?)
キルシュ「どっちがって……そんなの優劣つけられるわけないだろ。シュバルツお前どうしちまったんだよ、最近カリカリしてるぞ」

シュバルツ(ドウカシタノ、キルシュ ノ ホウ!ホカノコ、バカリ、カマッテル!)
キルシュ「それは、仕方ないだろ……確かにお前にかける時間は減っちまってるけど、でも全然相手できないわけじゃないんだから……少し我慢を……」

ワイルドソニック(あうう、ケンカやめてくだしゃい〜)

キルシュ「……ごめん」
シュバルツ(…………ムスッ)


トーマス「お兄さん、黒いお馬さんとケンカしてるの?」
キルシュ「ん、ああ…………なんで光ってるんだ?」

トーマス「オムレツ食べたら光っちゃった」
キルシュ「あっ……金の卵のせいか……」

トーマス「それよりお兄さん、なんで黒いお馬さんとケンカしてるの?」


キルシュ「黒いお馬さん……シュバルツっていって、俺の相棒なんだ。でも最近、俺が他の子のお世話ばかりしててなかなか構ってやれなくて……それで怒ってしまって……」
トーマス「えっ!?僕、お兄さんの様子を見てたけど、どの子にも平等に接してたよ!!黒いお馬さんもちゃんと相手してたのに!」
キルシュ「でも、前より構う頻度が下がったのは確かだからさ……俺の要領が悪いってのもあるよ……」


トーマス「お兄さんは悪くないよ!お馬さんがワガママなだけ!お兄さんレベルで構ってもらえない判定になるなら、僕のパパなんてネグネグトだよ!」
キルシュ「……え、なんだって?ネグネグト……?」
トーマス「うん、ネグネグト!」

キルシュ「……ごめん、俺その単語知らないや……なに、ネグネグトって」
トーマス「テレビのニュースでみたんだ。親が子供放っておくことらしいよ!」

キルシュ「それ、ネグネグトじゃなくてネグレクト」
トーマス「………………」


トーマス「とにかく、僕のパパは僕をネグレクトしてるんだ!」
キルシュ「……詳しく話を聞かせてもらえないかな……どんな感じなんだ?」


トーマス「ウチは僕と双子の弟のサムとパパの3人暮らしで……パパは毎日裁判官のお仕事をしてて忙しいんだ。あんまり家にいないし、家に居てもお仕事の課題?ってのばっかりやってる」
キルシュ「……続けて」

トーマス「双子だけど僕はサムのお兄さんだから、パパからサムのことをちゃんと見てやってくれって頼まれるんだ」
キルシュ「うん」

トーマス「サムに何かあったら、僕がいつも悪くなってパパに叱られるんだ!」
キルシュ「えっと……何かあったら、とは?」


トーマス「サムが転んでケガしたり、サムが泣いちゃったり、ケンカしたりした時!決まって僕が怒られるんだ!お兄ちゃんなんだから、ちゃんと弟を見てなさい!とかお兄ちゃんなんだから我慢しなさい!とか。それにパパは、僕が話しかけに行っても忙しいからって相手にしてくれないのに、サムが話しかけたらすぐ相手にする!きっとパパは僕が好きじゃないんだ、サムがいればそれでいいんだ。僕がいなくなっても、むしろパパは せーせーするんだ!」
キルシュ「……それで家出をしたのか」

トーマス「うん!元々ウチはビンボーだし……僕がいなくなった方がパパも食い扶持が減って、楽になると思うよ」
キルシュ「……そうか」


キルシュ「帰る気はない感じかな……?」
トーマス「帰らない!パパも大好きで可愛いサムがいればそれで良いと思うし!僕はこれから1人で生きていくのさ!」
キルシュ「そっか……」


トーマス「だからさ、あのお馬さんはワガママだと思うよ!お兄さんはお馬さんを甘やかしすぎ!ガツンと叱ってあげなくちゃ!」
キルシュ「う、うーん……」


トーマス「せーんぱぁーい!!
キルシュ「うわ……違う方のトーマスが来た……」


キルシュ「ごめん、ちょっと友達が来たから……お家に入っててくれるかな?」
トーマス「はーい」


キルシュ「よう、トーマス……なんかブチギレてないか?」
トーマス「えー?キレてませんよー!!」
キルシュ「……………」


トーマス(せっかく先輩と2人きり!と思ったら、この世界の自分が既にいるとか言えるわけないっ!!いくら平行世界の自分とはいえ先輩と2人きりになりやがって!!ムカつく!!でもなんか、想定よりも出会いが早いような……マズいな……クソ、関わらせたくなかったのに……)
キルシュ(とてつもない怒りのオーラを感じる……)



キルシュ「と、ところで……なんか用事があって来たのか?」
トーマス「あっ、そうでした!ワイルドソニックちゃんを元の世界に帰せるかもしれない方法がわかったんですよ!」

キルシュ「マジで!?」
トーマス「マジです!パラレル研究所、なんかでっかいゲートあるじゃないですか」


キルシュ「でっかいゲート…………ああ、確かにあったわ」
トーマス「あのゲートの中、平行世界に通じてるらしいんです。あのゲートの行き先をワイルドソニックちゃんの世界に変更すれば、まあつまり帰れますね!」


キルシュ「めっちゃ簡単に言うじゃん……変更すれば、とかワイルドソニックの世界とか……どうやってやるんだよ」
トーマス「それは僕に任せてください!僕、こういうのテクノロジー大得意ですから!」
キルシュ「そうなのか!?」

トーマス「はい!!僕、テクノロジー大得意!!」
キルシュ「た、頼もしいな……」


トーマス「ただまあ……今すぐワイルドソニックちゃんを帰せるってわけじゃないんです。平行世界に移動するのって体に負担かかりますからね。次元、時空を転移するってのはとてつもない負荷がかかりますし、あらゆる世界の記憶が一気に流れ込んできて激しい頭痛に襲われたりとか……今の仔馬の状態ではそれに耐えられません。大人に成長してからでないと」

キルシュ「なるほどな……しかし実体験したみたいに詳しいな」
トーマス「け、研究所の書類に事細かく書いてありましたから!!」


キルシュ「とりあえず、ワイルドソニックが帰れる手段が見つかって良かったよ。大人に成長すれば帰れるってことだし、きっとアイツも安心するよ…………ありがとなトーマス、俺の代わりに調べてくれて」
トーマス「先輩の為ならエンヤコラですからねっ!!」


トーマス「……ところで先輩、さっき一緒にいた子供の事なんですけど……」
キルシュ「子供……ああ…………えっと、あの子は」

トーマス「トーマスくん、でしょ?」
キルシュ「……なんで知ってるんだ?」

トーマス「遠縁の親戚なんですよ」
キルシュ「ふーん」


トーマス「あの子の話、聞きました?」
キルシュ「話……父親のことで悩んで、飛び出してきたことなら聞いた」

トーマス「そうなんですね……ホント、しょうもない悩みですよね。ただの子供のワガママで」
キルシュ「は?」


トーマス「先輩、あの子とは深く関わらないほうが良いですよ。さっさと親に連絡して帰してあげましょう。僕、あの子の親の連絡先知ってますから。さっさと帰して、その後またあの子がやって来たりしてもガン無視で」
キルシュ「ちょ……ちょっと待てよ、何でそんな事言うんだよ。さっさと親に連絡して帰すとか厄介払いみたいな……家出までするくらい思い悩んでるみたいだし、もう少し話を聞いてみないと」
トーマス「聞く価値ないですよ!!ただの子供のワガママなんです!!父親に構ってもらえないからってブーたれてるだけ!くだらないワガママな悩みなんです!あの子に関わると先輩にも悪い影響があります、だから」


キルシュ「人が真剣に悩んでることをくだらねえとか言うなよ!!
トーマス「っ」


キルシュ「……お前にとっては大したことなくても、アイツにとってはそれが凄く重い問題なんだ。本人にとっては大切なことなんだ。自分が理解できない、大したことないと思ったからって、人の悩みをくだらないだとか、しょうもないとか簡単に言うな!」
トーマス「す……すみ、ません……」


キルシュ「いや……俺も急に大声出してゴメンな……ビックリしただろ」
トーマス「いえ、大丈夫です!!むしろ先輩に怒鳴られてご褒美というか……」

キルシュ「ご、ご褒美……?」
トーマス「あっ、聞こえてましたか!お気にならず!!」
キルシュ「いや気になるわ……」


トーマス「……先輩は人の数だけ地獄があるとか、人それぞれ地獄があるって思ってるんですね。だから適当にあしらわず、真剣に向き合って話を聞いてあげてる。先輩って優しいですね」
キルシュ「……優しいとかじゃない、ただの自己満だよ。自分の身の程も知らずにあれもあれもと手を伸ばして、結果的にシュバルツ傷つけてるし……」
トーマス「そんなことないですよ!!」


トーマス(……この世界の僕と縁を切らせようとしてもダメか……そう、だよな……僕の悩みをくだらないと一蹴しない先輩だから……そんな先輩だからこそ、僕は……)