サザンクロス本部


オムニ「……あのメガネ……もうすぐ死んじゃうんだよな……可哀想だけど、でも、まあ……仕方ないことだよな……」


オムニ(究極のヴァンパイア治療薬かぁ……それが完成して、シム達がそれを本格的に使いだしたら……この世からヴァンパイアは1人残らず消えて絶滅しちゃうのか……アイヴォリが知ったらどう思うんだろ……アイヴォリって、ヴァンパイアという種族そのものを誇りに思ってたし……)

 


オムニ「あ、あの……オレみたいな弱虫拾ってくれてありがとうございます……」


アイヴォリ「よそよそしい敬語はやめろ。これからお前は私の相棒になるんだからな」
オムニ「う、ういっす!」


オムニ「で……なんでオレを拾ってくれたん」
アイヴォリ「お前は……昔の私に似ていたからな。昔の私はお前みたいに貧弱で弱虫で、誇りも何も無い……生き恥を晒すばかりのヴァンパイアだった。そんな弱い奴を相手にする者など誰もいない。だがこんな私でも拾ってくれた人がいてな……その人のお陰で今の私があるのだ。まあ……ヴァンパイアハンターに殺られてしまったが」


アイヴォリ「その人に縋って生きてきた私は1人になり、暫くは途方に暮れた。だが……あの人は“何があってもヴァンパイアとしての誇りを失うな”といつも言っていたのを、ふと思い出した。くすぶっている私を見たら、きっとあの人は失望してしまう。私はあの人から誇りと意思を受け継ぎ生きることを決めたのだ」
オムニ「ひゅう、ドラマチック」
アイヴォリ「お前を拾ったのはあの人の真似事のようなものだ。本当にお前は昔の私にそっくりで……放ってはおけなかった」


アイヴォリ「まあ、そんなところだ。これからお前には私の相棒として強く気高く誇り高いヴァンパイアになってもらうからな!」
オムニ「うい〜す」

ヴァンパイアの誇りかぁ……。


アイヴォリ「私は自分がヴァンパイアであることに誇りをもっている!例え他の種族から化け物と蔑まれようが関係ない!永遠の若さ、永久の寿命!限りある寿命を持つ種族は口を揃えて よくこう言うな……終わりがあるから一生懸命生きられると。だがその考え方が至高であり、寿命がないヴァンパイアは……などと下げられるのは屈辱的だ。ヴァンパイアにはヴァンパイアにしかない強みと美しさがあるのだからな!!」

 


オムニ「……ヴァンパイア治療薬が完成して、アイヴォリがそれを使われてシムになったら……どう思うんだろ……やっぱヤダよなぁ……ヴァンパイアであることに誇りがあるんだから……」



オムニ「おーす……ブラッドパック持ってきたぞ、飲めよ……」
クロ「いらない、クロはキバ様以外の男からの贈り物は受け取らない主義なの」


オムニ「そんなこと言うなよ……これでお前が渇きの末に死んじゃったりしたらオレの責任になるんだからさ……お前はヴァンパイア治療薬が完成した時の被検体になってもらわなきゃいけねーのよ」
クロ「今さらシムに戻るくらいなら死んだほうがマシっ!!クロ、ヴァンパイアとして生きてる方が楽しいもん……」
オムニ「うぅ……」


クロ「……アンタ、メガネには親切にしてもらったじゃん。それなのに見殺しにするとかそれでいいわけ?メガネを見殺しにした挙げ句、ヴァンパイア治療薬まで完成させちゃうとか、もう全ヴァンパイアの敵みたいなもんだよね」
オムニ「だ、だって!オレは弱いから1人じゃ生きていけねーもん!長いものには巻かれなきゃやってらんねーもん!あの、ワイパーとかいうヴァンパイアの血を吸う物騒な奴が蔓延ってたしさ……ドライブさんに拾われなかったら、絶対オレ殺されてたし……そうでなくても、ドライブさんに媚び売っておかなきゃハンターにいつかやられそうだし……身を守る為には仕方なかったんだ!」


オムニ「メガネには確かに親切にしてもらったさ……アイヴォリ以外で初めてだったよ、オレに優しくしてくれたのは。けど……アイツの為に命懸けられる程の覚悟も思い入れもないんだよっ!!」
クロ「……腑抜け」

 


 フォーゴットン・ホロウ


オムニ「アイヴォリ、アイヴォリ……マジで何処にいるんだよ……もうどうすりゃいいのかわかんねえよ……オレ、バカで弱虫だから……自分じゃ決められねえ……」


アイヴォリ『お前は相変わらず愚図だな』
オムニ「アイヴォリ!?


オムニ「……今、確かに声が……こっちの方から……」


オムニ「んあ?なんか光ってるのがある……これって確か……前に教わったことある……とても強い思いを抱いたまま死んだヴァンパイアは残留思念が留まる事があるって。で、それはこんな感じに光ってるとかなんとか……」


オムニ「……アイヴォリの声がしたけど……これってまさか……いや、そんな訳が……」


オムニ「と、とりあえず……この残留思念を読み取ってみよ……」

 


アイヴォリ「はぁはぁ……クソッ、またキバに負けた!!」


アイヴォリ「クソ、2回も負けて黙っていられるか……もっと作戦を練って……」
『お前に次などない』


アイヴォリ「!?」
『余計なことをしてくれたものだ……お前さえ乱入してこなければ……全てが計画通りに進んだのに……』
アイヴォリ「だ、誰だ!?姿を見せろ!!」


『お前如きに姿を現す必要もない…………消えなさい、永遠に』
アイヴォリ「う……うわああああぁ!!」


……こんなところで、こんな形で、くたばってしまうとはな……。

オムニ……大丈夫だろうか……。
勢いに任せて相棒解消と言ってしまって、落ち込んでないと良いんだが……。
いや、落ち込んでるし慌ててるだろうな……オレ1人じゃ何も出来ねえよ! どうすりゃいいのかわかんねえよ!と……。

アイツを一人前のヴァンパイアにしてやりたかったな……。

オムニ……お前がこれからどう生きていくかわからないが……ヴァンパイアとしての誇りだけは失わないでくれ。

 



オムニ「……っ!!


オムニ「……アイヴォリの……残留思念………………そっか…………そりゃ、探しても……見つかるわけねえよ……だってアイヴォリは、もう、死んじまってるんだから……はは……」


アイヴォリ「………………この意気地なしが。もう知らん!お前のような弱虫の足手まといは知らん!お前の世話をしてやるのはこれまでだ!!」
オムニ「あっ、アイヴォリ〜!」
これが、最後の会話になるとか……マジかよ……。

 


 サザンクロス本部



オムニ(アイヴォリはもう、この世にいない……オレがこんな事したって、アイツがどう思うかなんて考えなくて良いんだ……例えヴァンパイア治療薬が完成して、ヴァンパイアがこの世から消えてもアイヴォリにはもう関係ない……)


オムニ(でも……アイヴォリは残留思念になるほど、強くオレの事を案じていて……誇りだけは失うなってオレに伝えたかったんだ……)


オムニ(ううぅ……誇り、誇りってなんだよ。オレみたいなクソザコナメクジに誇りを失うなって言われたって、最初から誇りなんてないんだよ……!)


ドライブ「さっさと覚醒したらどうだ、その方が楽になるぞ」
オムニ「ひえっ。ド、ドライブさんの声……」


ドライブ「遅延行為は感心しないな……お前がいくら足掻いたところで、ヴァンパイアパワーを注ぎ込み続ければいずれは本能が理性に勝つ。世界平和の為にさっさと消えてくれ」
ヤテン「……世界平和の為ではなく、復讐の為に……の間違いではないのか」
ドライブ「復讐によってヴァンパイアがこの世から消えて世界平和になるのだから、問題ないだろう」


ドライブ「治療薬を使ってヴァンパイアを無力化する、そうすれば退治も容易い。どんなに強いパワーを持っているヴァンパイアだろうが、治療薬を使えば ただのシムだ」
ヤテン「退治……?まさか、シムにしたうえで殺すのか……?」

ドライブ「ヴァンパイアは危険思想の持ち主だからな。シムになったところで ろくなことはしない。始末するに限る」
ヤテン「……全てのヴァンパイアが悪という訳じゃない……シムにも悪人や善人がいるように、ヴァンパイアにだって穏やかな心を持つ者や共存を望むものがいるんだ……キバやクルイークのように……!」


ドライブ「共存を望む?それなら治療薬を飲んで普通のシムとして生きろという話だ。そうすればいくらでも受け入れてやる。和解したいというなら武装解除して、こちらに合わせるべきだろう」
ヤテン「……そんなの、本当の和解じゃない……わかりあえてなどいない……こちらに合わせるべきと言っている時点で、貴方の中でシムが上でヴァンパイアが下という図式になっている……共存というのは互いに対等であるべきだ」

ドライブ「多文化共生というやつか?ヴァンパイアが人の血を吸って生きる以上、そんな考えは成り立たない。自分達は食料として見られていることを理解し受けいれろとでも?」
ヤテン「人の血を吸わずに生きているヴァンパイアだっている……」


ドライブ「全員がそんなヴァンパイアでもないだろう、綺麗事や理想論じゃどうにもならない問題だ。共存したいというならヴァンパイアを捨てれば良い、それだけの話だ。簡単じゃないか」
ヤテン「……シムになりたいというヴァンパイアなら、それでもいい……だが……自分がヴァンパイアであることに誇りがある者や、ヴァンパイアとしてシムと共存したいという奴もいるのだ……それをわかってくれ……」

オムニ(……誇り…)


ヤテン「理解出来ないから、邪魔だから……歩み寄ろうとしてくる者もそうやって拒んで排除していって、争いになっていくのではないか……」
ドライブ「あんな醜悪な種族に歩み寄る義理などない」
ヤテン「……ならば私は……意地でも……お前の思い通りにはなってやらん……襲いかかってくる者と戦うのはわかる、だが手を取り合おうとする者まで排斥するのは……!」


オムニ(アイツ、あんな状況なのによ……ヴァンパイアの誇りとか共存とか、言ってる場合じゃねーだろ……自分の心配しろよ……)


オムニ(このままメガネ見殺しにして、治療薬完成させて、ヴァンパイアの立場どころか種の存続まで危うくなって……これでいいのか?本当にこれでいいのか?アイヴォリだったら絶対このままで良いとか言わないよな)


オムニ……お前がこれからどう生きていくかわからないが……ヴァンパイアとしての誇りだけは失わないでくれ。

アイヴォリ「その人に縋って生きてきた私は1人になり、暫くは途方に暮れた。だが……あの人は“何があってもヴァンパイアとしての誇りを失うな”といつも言っていたのを、ふと思い出した。くすぶっている私を見たら、きっとあの人は失望してしまう。私はあの人から誇りと意思を受け継ぎ生きることを決めたのだ」

オムニ(……今のオレをアイヴォリがいたら……失望ってレベルじゃない……だって残留思念になるほどだもんよ……)


アイヴォリはいつもオレみたいなクソザコナメクジの為に訓練したり、オレがボコられた時は怒って仕返ししたりしてくれて……死ぬ時までオレのことを心配してくれた……。
オレは……オレは……!!

 


 午前0時


セイメイ「…………」


オムニ「お、おい!起きろ……」


セイメイ「ん……?お前は確か……オムニとかいうヴァンパイアか……何しにきた。ドライブに何か指示されたか」
オムニ「ア、アンタを……助けに来たんだ」
セイメイ「……私を助けに……?」


オムニ「メガネのこと、助けたいんだろ?オレも……このままメガネが覚醒して治療薬が完成したら……イヤだから……何とかしたい……けど、メガネはドライブさんが作った結界の中にいてオレの力じゃどうにもなんねぇ。だからアンタの力借りたいんだ」


オムニ「あの時、メガネからキバの魂がシムの女に移っただろ?この状況、どうにかするならキバの力や助言が必要だし……でもキバが今どこにいるかわかんないし、オレ1人じゃキバにきっと怪しまれるし……だから一緒に来てくれよ」


セイメイ「……私を騙そうとしている訳ではないんだな?」
オムニ「騙す気なんてない!信じてくれよ!!」


セイメイ(……わざわざドライブがコイツを使って私を騙すメリットは確かにないな……事が終わるまで、私をここに閉じ込め続ければ良いのだから……コイツの言うことが本当ならば……最大のチャンスだ……)


セイメイ「わかった、お前を信じよう」
オムニ「良かった!じゃあ、あのクロって女も連れて逃げよう!」


オムニ「ところで、アンタはこう……キバが行きそうな所とか心当たりねえの?」
セイメイ「私はキバと親しいわけじゃないからな……行きそうなところと言われても……あっ


セイメイ「……確実にいる、とは言い切れないが……1つだけ心当たりがある」
オムニ「マジ!?じゃあそこ案内してくれよ!」
セイメイ「ああ……」



オムニ「おーい、クロさん!助けに来たぞ!逃げようぜ!」
クロ「は?」


クロ「なに?クロを油断させて騙そうとしてるわけ!?急に何なの!?クロ、アンタみたいなペテン師には騙されないからねえぇ!!」
オムニ「ペテン師……ち、違うって!本当に助けに来たんだって!ほら、メガネの親父も一緒だろ!」


オムニ「この状況を何とかする為に、キバを探しにいくんだよ。アンタもキバに会いたいだろ?一緒に行こうぜ」
クロ「……キバしゃま……」


クロ「……ぐしゅ……キバしゃまに会いたいけど……クロ、我慢する。ここに残る」
セイメイ「えっ……何故だ」


クロ「だって、皆で逃げちゃったらメガネの状況がわかんなくなっちゃうよぉ。メガネに何かあったらキバ様、悲しんじゃう……キバ様が悲しいとクロも悲しい…………だからクロはここに残って、メガネが危ないって時に対処するのぉ……」
セイメイ「クロさん……」


クロ「ふへへ……キバしゃまに会いたいのに我慢する気丈なクロ……良い女だよねぇ……キバしゃま、惚れ直してくれるかなぁ……ふふふ……」
セイメイ「惚れ直すも何も、キバは貴女に惚れていないと聞いたのだが」
クロ「……はぁ……?」


オムニ「わー!!わー!!と、とにかくアンタは残るんだな!わかった!じゃあ、この部屋からいつでも出れるように鍵渡しとくよ……」
クロ「うん……」


オムニ「よし、じゃあオヤジ。キバがいそうな所に案内してくれよ」
セイメイ「親父と呼ぶな!!私を親父と呼んで良いのはヤテンだけだ!!まあヤテンは上品だからそんな呼び方しないがな!!」
オムニ「ひえぇ……」


クロ(キバしゃま……キバしゃまならきっと、何とか出来るよねぇ……?)