デル・ソル・バレー
キルシュ「………………」
女の子「ママとはぐれちゃったの……」
キルシュ「どの辺りで はぐれちゃったかわかる?」
女の子「ジムのちかく……セレブがいて、パパラッチのひとにおされて、ママと手がはなれちゃったの……」
女の子「うん!」
女の子「あのね、おにいちゃんがね、いっしょにさがしてくれたの」
母親「お兄ちゃん?」
女の子「うん、あそこの……あれ……おにいちゃん、いない……」
ブロッサム「遅い」
キルシュ「ご、ごめんなさい」
キルシュ「次は、ちゃんと、時間守りますから!!だから、叩かないでっ」
キルシュ「……うん……ちょっと……な……」
クルーク(……?キル兄、声に覇気がありませんよ。もしかして……体調が優れないのでは?)
キルシュ「…………そんなことはないさ」
クルーク(いや、ボクにはわかりますとも!誤魔化さないでください!!)
キルシュ「うわっ……シュバルツまで……」
キルシュ「いや……今までにも、体験あるから……わかる……治療薬じゃ、治んない、やつ……水飲んで、ゆっくり、寝ないと、熱、引かないやつ……」
シュバルツ(ジャア、イマスグ、ネテ!!ニチヨウビ、ダカラ、ガッコウ、ヤスミダシ、イッパイ、ネレルヨ!)
キルシュ「……わかったよ……じゃあ、今日は、牧場スタッフ、雇うから……」
シュバルツ(ウンウン!)
キルシュ「あ、すみません……今から、今日1日、スタッフに、仕事、お願いしたいんですが……」
『かしこまりました、牧場のお名前をどうぞ』
キルシュ「ブルーム牧場です……」
『ブルーム牧場………………すみません、そちらにはスタッフを派遣しかねます』
キルシュ「えっ……?」
シュバルツ(!?)
『……理由は お話出来ません、それでは失礼します』
キルシュ「あっ…………切られた……」
シュバルツ(スタッフ、コナイ? ドウシテ……?)
キルシュ「……わからない……」
日常が……少しずつおかしくなり始めていたのは……。
キルシュ(……いや、やめよ……ディランだって、弟の面倒を見ながら、牧場仕事やってて、大変なんだ……負担かけたくない…………大丈夫……今までだって、熱があっても、やってこれたんだ…………やれる、そうだろ……?)
キルシュ「いや、牧場の仕事、しないと……」
シュバルツ(ダメ!!ネテ!!)
キルシュ「大丈夫だよ……ちょっとくらい……さっと、片付けて……その後、寝るから……」
シュバルツ&クルーク(……………)
シュバルツ(……アヤシイ)
クルーク(これが空元気というやつですかね……?どうしましょう……噛みついてでも止めるべきなのでしょうか……?)
シュバルツ(デモ、ボクタチジャ、ボクジョウ シゴト、デキナイ……)
クルーク(むむむ……)
レーベン「ガウッ!?ガウー!!ガウー!!」
クルーク(やっぱり無理が祟ったのですよ!!キル兄、キル兄ー!!)
シュバルツ(ド、ドウシヨウ!?)
カイザ(むっ!皆のもの、あれを見よ!!)
ゼーレ(ナンダ!?)
先生「ふっふっふっ、突然の家庭訪問にブルームも驚くだろうな!ヤツはいつもスカしてるからな……たまにはビックリさせて、子供らしい表情を出させてやる」
頭が割れるように痛い……寒気がする……フワフワして、地に足がついてる感じがしない……。
頑張らないと……。
ごめんなさい、許して、もっと頑張るから、頑張りますから……だから……僕のことも、家族にしてよ……。
キルシュ「…………ぐす……がんばるから……もっと、がんばるから……ひっく……」
先生「…………………」
キルシュ「ぅ……」
キルシュ「…………どうも……なんで、先生がいるんですか」
先生「たまたま通りがかってな」
キルシュ「どういう通りがかりかただよ」
先生「ロォーンロードとヴィクトリーが引っ越しただろう? 2人が新居でちゃんとやれているか心配で家庭訪問をしていたのだ!それで、せっかくチェスナット・リッジまで来たのだし、ここで暮らしている生徒達の様子を見に行こうと思い立ってな!それで最後にお前の家に来たら、お前が倒れていたものだから肝が冷えたぞ!」
キルシュ「……それで、ベッドまで運んでくれたんですか」
先生「うむ!」
キルシュ「……それは、ありがとうございます」
先生「いや倒れていたのだから大問題だろう!?それにお前、すごい熱じゃないか!服越しでも熱かったぞ!?仕事している場合か、寝ろ!!」
キルシュ「こっちからしたら寝てる場合じゃないんですよ……こんなの大した熱じゃないし、頑張らないと……」
先生「大した熱だから倒れたのだろうが!!」
キルシュ「……頼もうとしましたよ。でも、お前の牧場には派遣できないって断られたんです」
先生「何故だ!?」
キルシュ「そんなの、こっちが知りたいですよ……」
キルシュ「……あいつらにはあいつらの生活や仕事があります……迷惑、かけたくないんです……」
先生「迷惑……奴らがそんな風に感じるとは思わんが……」
キルシュ「…………俺が、イヤなんです……誰かの負担になるのが……」
先生「ふむぅ……」
キルシュ「は?」
先生「この私が代わりにお前の仕事をこなしてやる!だからお前はゆっくり休みなさい!!ふふん、ありがとう先生!大好き先生!尊敬します先生!と褒めてくれても良いんだぞ!?」
キルシュ「……結構です……」
先生「遠慮するんじゃない!!」
先生「ふん、シムはやれば出来る生き物なのだ!とにかく、お前はずっとベッドにいなさい!わかったな!!」
ゼーレ(キルシュ ガ、ベッド カラ抜ケ出サナイヨウニ見張ッテルカラナ!)
キルシュ「クルークとゼーレまで……わかったよ……」
キルシュ(……すごい見張られてる……)
レーベン「ガウ?」
カイザ(うっ……)
先生「ぎゃああああ!目が!目がああぁ!!」
カイザ(うぐぐぐ……奴隷の為に神が我慢せねばならぬ屈辱!しかし、これも奴隷の回復に必要なことか……致し方あるまい!)
先生(ううむ、次から次へと動物が出てくるな……)
ゲルダ(お断りヨ!ミー、プライベートでは坊っちゃん以外からのハグは受け付けないノ!ミーとハグしたいならアニマルデーに来ることネ!)
先生「なにやら物凄く拒絶された気がするぞ!」
アイ「コケーーーー!!」
先生「ブルームはいつでも動物と仲良しなのに!何故だっ!」
ゲルダ(みんなもともと気難しいからネェ……動物の気持ちがわかる坊っちゃんだからこそヨネ)
キルシュ「……はい……」
キルシュ「……わかりました…………仕事、終わったんですよね?ありがとうございました、もう後は良いですから……帰って大丈夫ですよ……」
先生「いや看病するから帰らないが!?」
キルシュ「看病……?いや、そこまでしてもらわなくても……」
キルシュ「ひえ……シュバルツ……」
シュバルツ(キルシュ、イツモ、ガンバッテル、キョウ クライ、ヤスンデ)
キルシュ「……俺は頑張ってない……まだ足りない……もっと頑張らないと、ダメで……」
シュバルツ「ブルルル!!」
キルシュ「…………わかったよ……寝るよ……」
先生(な、何を言われてるんだろうか……)
キルシュ「だって、ゲホッ……体が、動かないん、だ……ゲホゲホ……」
ブロッサム「細かい芸を使って病人アピールをするんじゃない。さっさと起きて家のことをしろ、これ以上私達を苛つかせるんじゃない」
キルシュ「でも……」
ブロッサム「でももクソもあるか。ちょっと熱があるくらいで倒れるなんて……貧弱な。頑張ればそのくらいの熱に抵抗できるだろう、早く起きろ!!」
キルシュ「やめて、おとうさ……ゲホッ!ゴホッゴホッ……」
ブロッサム「唾を撒き散らすな、汚いガキだな!!」
キルシュ「ごめんなざっ……ゲホッ、ゲホッ」
ブロッサム「耳障りな咳だな……喉が痛くて咳が出るのか?だったら喉を潰して出ないようにしてやろうか?ん?」
キルシュ「ぐっ……くる、し…………やめ……や、だ…………」
キルシュ「!!」
先生「お、おい!?熱があるのに、そんな激しく動くな!」
先生「落ち着きなさいブルーム、夢の内容を引きずってるんじゃないか!?」
キルシュ「あ……」
キルシュ「ごめ、なさ…………がんばるから、もっとがんばるから、もうくるしいとかいわない、よわねなんてはかない、いうことだってぜんぶきく、だからもういたいのはやめてください、ゆるしっ……ゲホッ……ゆるして、ください」
先生「お前……今までどんな仕打ちを受けてきたんだ……」
キルシュ「ひっ……」
先生「ここにいるのはお前の親じゃない、学校の先生だ!ほら、落ち着いて息をしなさい!」
キルシュ「せんっ、せい……」
先生「そう、先生だ!モヒカンが魅力的なウィルソン先生だぞ!」
キルシュ「……せいきまつな、かみがた、した、せんせい……」
先生「世紀末…………ま、まぁ、軽口を叩く余裕があるなら良い!その調子でゆっくり息をしなさい」
こんなに暖かくて、安心できるものだったんだ……ハグって……。
翌日
先生「ふむ、すっかり顔色も良くなったし熱も引いたな!」
キルシュ「……お陰様で」
先生「もう大丈夫そうだな!だが、今日もう1日は安静にするんだぞ!学校も休むように!」
キルシュ「はいはい……」
先生「“はい”は1回だ!!」
キルシュ「あー……ハグ、いいです……ヒゲ当たって痛いし……なんか体臭キツイし……」
先生「聞こえてるぞブルーム!!元気になった途端にこれか、この恩知らずめ!!やはり貴様は問題児だ問題児!!」
キルシュ「問題児で結構です……」
※明日の更新はお休みです。