デル・ソル・バレー




最初からこうなる運命だったと思うようにした。
そうすれば諦めもつく。

あの日々だって、最後に幸せな夢を見れたんだと考えればいい。
夢はいつか覚めて消えるものだから。
夢だと思えば縋らなくて済む。
取り戻したいと、叶わない願いを抱かずに済む。


……眠くなってきたな。
叩き起こされるまでは、寝ててもいいだろ……。
良い夢を見られるかもしれないし……。

 


 カッパーデール高校




ディラン「キルシュ、ボーッとしてどうしたんだ?」
キルシュ「……えっ? あれ……なんで学校にいるんだっけ?」

ディラン「なんでって……今日は文化祭だろ?皆でまわろうって話してたじゃないか」
キルシュ「…………ぶんか、さい……」

ああ、夢だなこれは……。
色々あったけど、文化祭……楽しかったから……。

キルシュ「……そういえばそうだったな……わりぃ、寝ぼけてたわ」
ディラン「疲れ気味なのか?まあ、今日くらいはゆっくり楽しんでいこう!」


アレックス「そうだよキルシュ!!ほら、祝砲をあげよう!!バーン!!
ガーランド「ひえっ……あの、今、私に当たるところだったんですけど……?気を付けていただけませんか……」

カシュー「もうガラっち!細かいこと気にしないの!!」
ガーランド「細かくねーですが!?


アレックス「ほら、キルシュも祝砲あげてみなよ!ガーランドに当てる勢いで!!」
キルシュ「いや当てねえよ!!ボタン押すだけでいいのか……」


キルシュ「……ってあれ?反応しねえんだけど」
アレックス「壊れちゃったかなぁ、さっき力入れすぎてリモコンがバキッて言ったし!ぴゅ!」
キルシュ「お前の握力どうなってんだよ!!」





アレックス「まあ些細なことに気を取られていたらビッグになれないよ!!てなわけでロシアンワッフルを食べよう、ロシアンワッフル!」
バーバラ「アンタの行きたいとこばっかりまわるんじゃないだろうね?ところでロシアンワッフルってなんだい?なんかウゲエエって見た目のワッフルが置いてあるけど」


アレックス「これはゴミの実とイチゴで作られた愉快で不愉快なワッフル!!このワッフルの中にはめちゃんこかた〜いワッフルが混ざってるから、それを引くか否かの勝負さ!」
インソレンス「平和なロシアンルーレットだ……」
ディラン「コモレビ山ではロシアンたこ焼きが流行ってるが、カッパーデールではワッフルというわけか」


アレックス「ワッフルは丁度8個!オレ達も8人!さあ、美味しいワッフルを引いて愉快になれるラッキーシムは誰かな!?」
エリザベス「くだらな〜い」
カシュー「え〜、面白そうだよ〜。やろうよエリっち〜」


皆一斉に食べ始めました!
ってディラン、早く食べなさい。


食べながら自分の事を考える2人。
俺はなぜこんな物を食ってるんだろうというアレですか。


ガーランド「……皆さん普通の様子ですが、これハズレ入ってます?ただワッフルを食べて終わったというしょうもない結果になりませんよね?」
エリザベス「この出し物自体がしょうもないでしょうが」
インソレンス「エリザベスの言うとーり!!

キルシュ(ロックが考えた出し物だっけ、これ……どんまい……)


インソレンス「……んが……ハズレ引いたわ……歯が欠けるレベルで固かった……めっちゃ腹立ってきたぜ……!」
ガーランド「おやぁ、ハズレでしたか。それはそれは残念ですなぁ!!まあこういうのは日頃の行いというヤツです!!頭が固い柔軟性のないシムには固いワッフルが寄ってくるのですよ!!」
インソレンス「んぎいいいぃ!!


アレックス「残念だねインソレンス!オレは当たりを引いて極楽気分さ!!ぴゅっ!ぴゅっ!!ぴゅっ!!!」


バーバラ「アタシも当たりだったよ……リンダに自慢のDM送っとくかね」


ガーランド(……さっき目茶苦茶インソレンス煽っちまったけど……俺もハズレのワッフル引いてたわ……固い……)
カシュー「あれ?ガラっちもハズレ引いたの?そんな顔してる〜」

ガーランド「ひ、引いてません」
カシュー「恥ずかしがらなくて大丈夫だよぉ〜私もハズレ引いたもん〜」
ガーランド「引いてませんったら!!」

結果

当たり組
キルシュ・アレックス・バーバラ・ディラン

ハズレ組
インソレンス・エリザベス・ガーランド・カシュー

綺麗に半分に分かれましたねぇ……。

ディラン「よし、次に行こう!科学部の出し物……その名もVR雪山だ!」
アレックス「わあ凄い!響きがアドベンチャーだね!」

キルシュ「VRっつーか……ただのバブル・ブロワーじゃ……」
ガーランド「おっと、我々科学部の技術を疑っていますね?確かに見た目はバブル・ブロワーですが……中身はまったくの別物です!これを頭に繋げれば意識をデータ化してバーチャル空間に転送して……超絶リアルなVR体験が出来るのですよ」
バーバラ「……アンタが開発に携わったと聞くと不安になるねえ……」


ガーランド「心外であります!文句を言う前に試してみてはいかがですか、ほら!」
キルシュ「わかったわかった……」

 


インソレンス「……うわっ!!雪山だ!!」
キルシュ「これVRなのか……?最近の技術って凄いな」
バーバラ「ふーん……なかなかやるじゃないか。雪山か……VRとはいえ初めて来たよ」


ガーランド「ちゃんと練習用ゲレンデもフィールドに配置しております。今年の修学旅行先はコモレビ山だそうですし、本場のスキーに備えて練習してみては?」
カシュー「わ〜い、やるやる〜!」


バーバラ「なんだいキルシュ、アンタもスノボ派かい?」
キルシュ「……スノボの方が格好良いなって……」
バーバラ「ガキっぽい理由だね!でもスノボの方が難しいからね、覚悟しておくんだよ!」


バーバラ「せいぜい転ばないようにね!」


バーバラ「……って、イタッ!!
キルシュ「お前が転んでんじゃねえか」


インソレンス「エリザベス、オレと一緒にソリろうぜ」
エリザベス「ソリろうぜって何その誘い文句?ダサッ」
インソレンス「ぐはぁ」

エリザベス「まあいいけど。シエナさんからクラスメートとは仲良くしなさいって言われてるし」
インソレンス「マ!?やったぜ!!


エリザベス「ただし先頭はア・タ・シ。アンタは後ろでアタシを楽しませられるように調節やらなんやらしなさいよね!」
インソレンス「いい!後ろでもなんでもいい!!エリザベスと相乗り、うへへへへ」

エリザベス「キモいわね、突き落とすわよ」
インソレンス「さーせん!!


アレックス「ガーランド、余りもの同士で一緒にソリろう!ぴゅぴゅ!」
ガーランド「は?イヤですが?」

アレックス「つれないなぁ、オレとアレクシスって名前似てるんだからさ!オレのことお兄ちゃんだと思いなよ!」
ガーランド「兄様をテメェみてえな変人と一緒にす…………いや、兄様も変人か……」


インソレンス(はあああぁん、VRとはいえエリザベスとソリいいぃ。生きてて良かった!!)


エリザベス「ふぅ、なかなかだったわね!VRで楽しいんだから本場はもっと楽しいんでしょうね!」
インソレンス(修学旅行までにエリザベスとアッハァンな関係になりてえなぁ……)

 


バーバラ「ふう、なかなか楽しかったねVR雪山」
ガーランド「そうでしょうそうでしょう、自信作でありますよ」

カシュー「そろそろ女装コンテストの時間だしね〜、良い時間潰しになったね〜」
ディラン「……女装コンテスト……そんなのあったっけ?」


バーバラ「急遽決まったことだからね……まあ、男子が嫌がるだろうから直前まで秘密にするって話だったけど」
エリザベス「最近のシム界は女装がブームだったからねぇ」

キルシュ「確かになんか賑わってたけど、もうブーム過ぎ去っただろ……」
バーバラ「過ぎ去ろうが過ぎ去ってなかろうがどうだっていいのさ。もうやると決まってるんだからね」


インソレンス「……オレ!急用思い出したから!!」
エリザベス「逃げんじゃないわよ。アタシがアンタを可愛くしてあ・げ・る」
インソレンス「!!


インソレンス「エリザベスにメイクアップしてもらう……?つまり顔や髪に触れられるわけで…………やるっ!!!エリザベス、オレを可愛くしてくれ!!!」
エリザベス「チョロいわね……まあアンタの女装姿なんてウゲエエもんだろうけど……精々ネタとして伝説になりなさいな」



エリザベス(さて……このアホ面、どうしたもんかしらね)
インソレンス(エリザベスの熱い視線を感じる……ドキドキ……)


エリザベス(とりあえず厚化粧して見れる顔にしとけばいっか)
インソレンス「ぶぇへっ!!



アレックス「女装だなんて生まれて初めてだ!!これは初体験!アドベンチャー!!よーし、セルフプロデュースするぞ!!オレは自らの手で可愛くなってみせる!!」
ガーランド「なんで乗り気なんですかね……」
キルシュ「アイツはなんでも楽しめるからある意味羨ましいわ……」


カシュー「よ〜し、ディラっちのメイクは任せて〜!見世物にしてあげるから〜」
ディラン「誰が喜んで見世物になるものか!!」

カシュー「ノリが悪いよ〜。ほらほら早く〜」
ディラン「うわあ引っ張るな!嫌だっ、オレには男のプライドが…………力強っ!!



カシュー「大丈夫だよぉ〜、私は小さい頃から着せ替え人形に口紅塗りたくって遊んでたから〜。えいっ!えいっ!」
ディラン「うわああああああ!!



バーバラ「そんじゃあキルシュ、アンタはアタシがやってあげるよ。この間運動部に協力してくれた借りがあるからね、悪いようにはしないさ」
キルシュ「いや……借りを返すって言うなら女装に参加させないでくれ……マジで嫌なんだけど……」

バーバラ「他の奴らに捕まってネタ枠にされる前にアタシが美人にしてやるって言ってんのさ!!ありがたく思いな!!」
キルシュ「全然ありがたくねえよ!?恩着せがましいな!?」

ガーランド(キルシュさんには悪いが、これなら俺のメイクをする奴がいなくて女装を回避できる!!助かった!!)


ガーランド(……ん?兄様から電話?)
ガーランド「はい、ガーランドであります!!どうなさいましたか兄様!!」


アレクシス『ガーランド、聞いた?女装コンテストがあるんだって』
ガーランド「ええ、先程知りましたよ。まったくくだらない催しですなあ」

アレクシス『でも面白そうだよね……ねえ、ガーランド。オレがメイクしてあげるから女装コンテスト出なよ』
ガーランド「は?





キルシュ「あの、バーバラさん……後生だからやめてくれませんかね……」
バーバラ「アンタもたまには汚れ役をやりな、良い機会だよ」
キルシュ「どういう機会だよ!!」


バーバラ「まずはヘアアレンジから……ってアンタ、髪が傷んでるよ!枝毛だらけ!ちょっと切ってやるから……」
キルシュ(ハサミの音……)





小学校の先生「図工の時間は終わり!みんな、ちゃんと綺麗に紙を切れたかな?」
生徒「せんせー、キルシュくんなんにもやってませーん。サボりでーす」

先生「こらキルシュくん!駄目じゃないか、触った様子すらない!!」
キルシュ「…………」

先生「ほら、ちゃんとハサミを手に持って」
キルシュ「ひっ……!!イヤだ、ハサミ、近づけないで!!」

先生「こら、待ちなさい!!クソッ、この問題児が……!」

ハサミが怖い……姉さんはいつもハサミで刺してくる……。
怖い……怖い、怖い、怖い……!!





バーバラ「……ちょっと、キルシュ!
キルシュ「………………」
バーバラ「急に立ち上がるなんて危ないじゃないか!ケガしたらどうするんだい!!」

キルシュ「……ご、ごめん…………俺、ハサミが、苦手だから……その、近づけないでくれたら、助かる……」
バーバラ「あ……そうなのかい、すまなかったね」


バーバラ「…………アンタが何か抱えてるってこと、アタシは……いやアタシだけじゃなくて皆薄々感じてるよ。この間アンタがカウプラントに食べられて入院してた時、見えちゃったからさ……火傷痕」
キルシュ「…………」

バーバラ「話す気がないなら無理には聞かないけどね……我慢できなくなったら吐き出したって良いんじゃないかい?誰かに頼ったり甘えたりすんのは弱さじゃないさ」
キルシュ「…………そんな事したって何も変わらない

バーバラ「ん?」
キルシュ「いや、何も」





……言ったって、誰も助けてくれなかった。
期待して裏切られるくらいなら、最初から頼らない方が楽だ。


それに……俺はアイツらを守らなくちゃいけない……。
なのに全部吐き出したら……俺の“何か”が壊れてしまう気がする……。
俺は弱いから、壊れたらもう立ち直れないってわかってる……立っていられなくなる……。

 


 講堂




カシュー「わ〜い!私達が一番乗りだよ、ディラっち〜」
ディラン「…………」
カシュー「ディラっち、どうしたの〜?」


ディラン「……こんな恥をかかされて……もう お婿に行けない!!
カシュー「大丈夫だよディラっち〜、映画のオカマキャラみたいになってて似合ってるよぉ〜」
ディラン「嬉しくない褒め言葉をどうも!!」


ディラン「もっとやりようがあったんじゃないか?こんなんじゃどこからどう見ても男だ」
カシュー「だってディラっち、体が厳ついもん〜。顔もTHE・男だし、私にはこれが限界だよぉ〜」
ディラン「ううぅ……」


アレックス「なんだいなんだい!ウィッグなんてつけちゃって!そんなの真の女装じゃないよ!!」
ディラン「!?


ディラン「アレックス!?な、なんという格好を……!」
アレックス「オレは素材の持ち味を活かしてるのさ!悪の魔女みたいで雰囲気出てるだろ!?ぴゅっ!!」
カシュー「確かに雰囲気出てる〜、すご〜い」


アレックス「オレはどう足掻いても自分じゃ美女になれないってわかってる!だからマジになって恥をかくより、ネタキャラになったほうが良いと割り切ったんだ!ぴゅぴゅ!」
ディラン「なるほど……?」


カシュー「ディラっちもアレっちみたいな女装にすれば良かったね〜」
ディラン「い、いや……オレはこれでいい……」


インソレンス「えっ……結構なネタ度……オレ、霞んでる!?」
エリザベス「霞んでるわね」
インソレンス「はうっ!!


ディラン「……インソレンスか!なんか意外と似合ってるな!リアルにいそうだ!」
インソレンス「どういう意味だ!?褒めてんのか!?」

カシュー「うんうん、インっち一番まともだよぉ〜この中ではね〜」
インソレンス「嬉しくねー!!」


エリザベス「なに?このアタシがせっかくメイクしてあげたってのに不満があんの?」
インソレンス「いえ!そんな!!滅相もない!!!」
アレックス「ちょろいなぁ、ぴゅぴゅ〜」


キルシュ「もうイヤだ……帰りたい……」
バーバラ「何がそんなに不満なんだい」
キルシュ「こんな辱めを受けて不満に思わない理由があるとでも?」


アレックス「あっ、キルシュだ!意外と美人にならないタイプなんだね!ぴゅぴゅ!」
キルシュ「お前はなんというか……凄いな……」


アレックス「うーん……0点!なんか中途半端!ガチでもないし、かといってネタでもない中途半端さ!!面白みがない!!0点!!
キルシュ「俺じゃなくてメイクしたバーバラに言えよ!!」

アレックス「メイク担当の腕じゃない!!素材に問題があるんだ!!もとが悪いんだ!!」
キルシュ「さらっと暴言!!悪かったな、もとが良くなくて!!」


ガーランド「おや、全員ネタ方面ですなぁ。これは私の優勝では?」
アレックス「あっ、ガーランドだ!横顔だけは可愛いね!」
ガーランド「ぶち転がすぞ」


キルシュ「なんでお前まで出てんの?」
ガーランド「兄様に捕まったんですよ……ちなみに今、死ぬほどイライラしてます」
キルシュ「だろうな」

ガーランド「しかし、私は敗北という言葉が嫌いです。例え女装であろうと勝負とあらば負ける気はありませんからね!!アーハッハッ!


ディラン「やる気だな、ガーランド!オレは恥さえかかなければいいかな……」
アレックス「大丈夫!こんなコンテストに出てる時点で恥だから!」
インソレンス「そりゃそうだ」

キルシュ「……そろそろ始まるか……気は進まねえが、まあやるとしよう……」

 


「キルシュ、いつまで寝てるつもりだ!!出てこないとまた痛い目にあわすぞ!!」
「……っ」


…………ああ、そうか……夢……だったな。
そういや、あの後……誰が優勝したんだっけ……。

……思い出すのはやめよう……あの頃に戻りたいって、思ってしまう……。

楽しい夢だったな、今日も……1日……頑張ろう……。

※水曜日の更新はお休みです。