子母澤寛さんというと新選組関連小説の先駆けというイメージでお名前だけは知っていたけど、まともに作品を読んだのはこれが初めてです。これは新選組三部作と言われるものの完結巻。
昭和6年の出版というから、もっと鹿爪らしい難解な文章かと思っていたら、こんなに読みやすくて面白いものだとは思わなかった〜
ほんとに面白い面白い!(大コーフンである)
これの何がすごいかって、当時をよく知る生き証人たちの聞き書きなんですね。語り手は、もと御陵衛士の篠原泰之進とか、近藤勇の甥にあたる近藤勇五郎とか、八木為三郎(八木家の次男)とか、永倉新八とかが多いです。
いわゆる老人の思い出話なので、当然立場によってバイアスがかかっていたり、思い違いがあったり、大げさに話していたりするのは子母澤寛さんも織り込み済み。だけど「ほんとにそんなことあったんだぁ・・・」というリアリティたっぷりです。週刊誌のゴシップ記事みたいだけどね。
後の新選組小説の原典にもあたるので、これをもとに後世の作家が別作品を仕上げてたりして、読んだことがあるお話などもちらほら。例えば沖田総司くんの最期と黒猫の話とか。ウウ
短編としていくつかエピソードが紹介されていたけど、心に残ったものは以下など。
●『隊中美男五人衆』
新選組のイケメン話。
大島渚監督の映画「御法度」を思い出したわ。
「御法度」:だいぶ昔に観たので細部は忘れてしまったけど、なかなかにヘンテコなお話だった。何が言いたいのかな〜とか思った。
新選組に絶世の美少年(松田龍平さん)が入隊してきて、あまりの妖艶さに隊士が次々と衆道にうつつを抜かすみたいなお話だった。結末どうなったか覚えてない。
このお話は多分それとは別物と思われますが、まあ惚れ惚れするような美青年が5人いたらしい。
ちなみにこの5人衆とは別ですが、原田左之助も美男だったと書いてありますね。(ただし猪突猛進で単細胞だけど)
5人衆の中に馬越三郎という16歳の美少年がいて、女のように可愛かったらしい。武田観柳斎が彼に目をつけて一生懸命口説いていたとか。でも馬越は武田が嫌いなので、しつこく言い寄られるのに困って土方歳三に相談した。
土方さんは(めんどくさかったのか)篠原泰之進にブン投げた。
篠原も始末に困っていたところ、それを斎藤一が聞きつけて、
「けしからん奴だ、ぶった斬ってしまおう」
とイキリ立った。
「いやこれ位のことで人の生命を」と篠原が慌てて宥めに入ったらしい。
めっちゃバカバカしい
っていうか土方さんブン投げすぎ・・・
斎藤さん短気で怖すぎ・・・
武田観柳斎嫌われすぎ・・・
こういう、(ちょっとおバカな)日常エピソードが書いてあるから面白いのです。なんだよ意外と楽しそうだな新選組は!
でも楽しいのは束の間、何かあるとすぐ腹切らされるので大変そうでもありました。京都時代の土方さんは鬼畜です、マジ。
で、色々書いてあってニヤニヤしながら読んでいたのですが、最後の一編はグッときて泣けた。
●『流山の朝』
これは近藤勇が最後に下総流山で官軍に捕まった時のあらましを小説にしたものです。
近藤さんは御陵衛士の生き残りに鉄砲で打たれた怪我がもとで片手が不自由になり、戦況も悪くなっていき、だいぶ前から戦意が薄れていたみたいなんですね。
そこが土方さんとの訣別となった。今、土方さんは会津に向かってる。
土方さんと別れた今、近藤さんの心はとても凪いでいて、身の回りの世話をしてくれるお秋という娘に静かに胸の内を語るんです。
「あれは、わしとは、竹馬の友であり、今日まで、わしとは一つのものを二つにわけ合って食べて来たのです」
土方さんのことをかけがえのない友と呼びつつも、ゆうべ彼と別れたことで、
「ほっとして、小鳥が籠を放されたような心地がして、本当に安心して、こんなに眠ってしまった」
と、やっと重荷を下ろして本来の自分に戻れたという解放感を語るのです。
土方さんは自分に忠実に仕えてくれたが、自分より知恵も才覚もある、自分よりも数段上の人間だったのだと。それが不自由で息苦しくて堪らなかったと。
そんなー・・・
そんな悲しいこと言わないでー
いや、そんなもんか。近藤さんは局長だから誰にも言えなかったのかも知れないな。一番心を許せる人間が自分よりも優れていて敵わないと引け目を感じたら、近藤さんの孤独ははかり知れない・・・
近藤さんが出頭したのを迎えたのが薩摩藩の有馬藤太なのですけど、意外と有馬は礼儀正しくていい奴なんです。二人が和やかな会話をするのが微笑ましいような物悲しいような。
なんともドラマチックな逸話。この最後の話が一番好きです。
〜おまけ〜
↑これめっちゃ楽しみ!行くよ〜
↓これもおおっ!て思った。行くよ〜