松本清張さんの書く時代劇が思いのほか面白い、と気づいたのが今年の収穫かな
最初の著書が『戦国権謀』と題された短編集だったように、松本清張氏は当初、歴史小説や時代小説の作家として注目を集めた
と巻末の解説にありました。なるほど。今更知った。
この本がその一つで、江戸情緒あふれる短編集。かなり昔に書かれたらしい(60年代)けれど。そして松本清張さんらしく、ミステリー・サスペンス要素もたっぷり。
とっても楽しめました。
文体が簡潔で、読みやすいのも良いですね。
●『七種粥』
明日は正月七日、七草粥を食べる日です。
この日は粥にする七草が売れるので、臨時のナズナ売りが天秤棒をかついで家々をまわるのです。
とある大店の若女房が、ちょうど通りかかったナズナ売りから七草を買いました。ついでに番頭夫婦にも買ってやる。
ですが、あくる日。
女房が買った七草の中に、猛毒のトリカブトが混じっていたらしく、激しく苦しむ者が続出。女房は運良く一命を取り留めましたが、旦那も番頭夫婦も死んでしまった。
が・・・
実はこれは仕組まれた殺人事件であり、下手人は物語の中ですぐわかるのですが、下手人にも犯罪に手を染めた報いが。
罪を犯してしまう人間の心理とか、追い詰められていく様の切迫感とか、ハラハラして読み応えがありました。
●『虎』
流れの絵職人・与助が、甲府の鯉のぼり問屋に流れついて働き始めます。ここでお梅という女に心底惚れられ、押しかけ女房みたいな形で夫婦になりました。が、本当は与助はこんなところで一生暮らすつもりはなく、江戸へ出て一旗あげたいと思っていたので、お梅が邪魔くさくて仕方がない。
ついに与助はお梅を殺害し、出奔してしまいます。
殺害後、お梅の着物からこぼれ落ちたのは、お梅が亭主のために願掛けで集めていた張子の虎。
何食わぬ顔で江戸に出て、ちょっとしたことから財産を手に入れた与助は、張子の虎を見るたびに悪夢のようにお梅のことが思い出され、それが彼の悪事を露見させることになる。
これも因果応報って感じのお話です。日本昔ばなしみたい。日本昔ばなしにしては、ちょっとエロ要素混じってましたが。それも、男女のじゃなくて、男男の・・・
なんかすごい話の運びだったな。
●『突風』
江戸は舟での移動がたくさんあったようですが、今と違って安全管理基準とかいい加減だから、だいぶ危なかったでしょうね。
このお話に出てくる事件も、祭りの日ですごい人出の時に、船頭が定員オーバーの人数を舟に乗せたために途中で引っくり返り、泳げない者は溺れ死んでしまったという痛ましい事故です。
座るスペースがないほど乗せたので、舟客はみんな立って乗っていたというから、危険なことこの上ないですね。
話の主題は、この事件をきっかけにしたゆすり犯罪なのですけど、舟の事故のインパクトがあまりにデカかったので、こんな感想になりました。
●『見世物師』
二人の見世物小屋経営者が張り合う話。どっちもインチキくさくて面白おかしい。
●『術』
西国から来て居合の大道芸人をやっている浪人が出てきます。何気にこの浪人がカッコ良い。
●『役者絵』
短いお話でしたが、犯罪を暴く岡っ引きの執念が素晴らしい。勧善懲悪的でスッキリなお話。
年末年始も通常モードで行きます
仕事がない分、たくさん読めるかもーと思って本を入手しておきました。何冊読めるかな?
(内容はまた偏っております。正月らしくなく、ダークなものばっかり)
読書のお供は、いつも徳川家光公のミミズクです。