極楽征夷大将軍 | あだちたろうのパラノイアな本棚

あだちたろうのパラノイアな本棚

読書感想文、映画感想、日々のつぶやきなどなど。ジャンルにこだわりはありませんが、何故かスリルショックサスペンスが多め。

 

 

『逃げ上手の若君』とかでブームになりつつある室町時代。

こちらは先日新刊で出た小説なのですが、

 

いやーこれ最高!!

 

かなり長い物語なのですけど、面白くて面白くて、爆笑しながら読んでいました。

 

帯からしてすごいインパクトです。

 

やる気なし

使命感なし

執着なし

なぜこんな人間が天下を獲れてしまったのか

 

↑なんという失礼なあせる

 

室町幕府の祖・足利尊氏のことなのですが、ヒドイ言われようです。

 

しかしこれ、わざとそういうキャラ立てしたわけではなく、足利尊氏という人物はどうやら本当にそうだったらしい。全くいい加減なヘタレ将軍、不思議ノーテンキ野郎です。

なのにそこが「何者をも飲み込んで自由自在にその形を変える大きなズダ袋のような男」であり、会った人々を瞬く間に虜にする絶大なカリスマ性の持ち主。

 

そのヘタレな殿を陰で懸命に支える弟・足利直義と、足利家執事の高師直。彼ら無くして尊氏は生きていけなかっただろう。

 

というわけでこの本は、

 

おもしろ足利兄弟

& 愉快な仲間たち

 

この魅力をたっぷりと堪能できる本です笑

 

 

尊氏・直義兄弟は元々、足利宗家の庶子だったので、家督を継ぐとかぜんぜん関係ない身。父親とか周りの大人たちに放っておかれて、兄弟でわちゃわちゃと犬っころみたいにじゃれあって由比ヶ浜とかで遊んでました。

(高師直もこの頃はちょっと兄弟を下に見てた)

 

それが宗家の後継ぎ・高義が若くして亡くなったため、いきなり尊氏が家督を継ぐことに!ヤバイです。こんな人に名門足利家の当主など務まるのだろうか?!いや務まるはずがない!

弟の直義は真面目で勉強熱心な優等生なので、ダメダメな兄を補佐し叱咤激励し、たまに尻拭いもし、兄の片腕となる。っていうか、実質的には保護者かと。

 

異常なほど仲の良い兄弟なのですキラキラ

(萌えるなぁ)

 

なんだかこの本、やたら尊氏のことを「泥人形」だの「極楽殿」だの「何も考えてない」だのとdisってますが、基本的には愛情たっぷりです。なんかこの変な殿の変人ぶりを存分に愛でているかのよう。

 

 

記述される各種エピソードが面白くて面白くて。

 

尊氏は京の都で編まれる勅撰和歌集に掲載されたくて、歌をいそいそと書いては送っている。

それを見た直義、

 

「兄の和歌の出来は言っては悪いがどれもこれも厠の懐紙同然」

「本気で選ばれると思っているのか」

「だとしたら掛け値なしの馬鹿」

「腐れ文学青年の戯言」

 

直義様!

ちょっと言い過ぎ!!

真顔

 

まあ、案の定落選して、尊氏はマジで落胆して泣きそうになるのですけど・・・それを見た直義はさらに兄が哀れになるのですけど・・・

 

尊氏は弟のことが大好きなんですよハート

「お前がいないとワシは生きていけぬ」

とか言うんですよハート(ほんとそれな)

 

北条時行挙兵に対して直義が戦った時に、直義は命が危なくなるほど窮地に陥るのです。

(意外に直義は戦がヘタなんですね)

 

京にいてそれをやっと知った尊氏、発狂せんばかりに激怒し、

 

「直義を助けに行く」

 

彼にとっては京の帝も征夷大将軍も幕府再興も弟に比べたらどうでもいいんです。

※尊氏は独特の勘を持つ軍神で、この人が出てくるとだいたい勝つ

 

が、そのせいでそれまでの直義と師直の政治工作が台無しになり、命を救われた直義は兄のことを怒る。

怒るんだけど、、、

 

直「あれっ・・・なんだ、おれは泣いているのか?」

 

尊「すまぬ。体が勝手に動いてしもうた」

 

だってさ!!

何よこれ。ものすごい萌えポイント?

 

 

それから後の九州の戦いでも、直義が窮地に陥った時に、尊氏は本陣で必死に地蔵菩薩の名を口にしながら念仏を唱えます。

(直義様窮地に陥りすぎだよ)


不思議とその時に神風が吹いて直義軍勝利。

 

直義を救ってくれたのは地蔵菩薩に祈りが通じたからだと信じ込み、それ以来尊氏は日課として、菩薩像をチマチマと描くようになったのですって。

 

そういえば『逃げ若』でも地蔵菩薩描いてるシーンがあったな。

これかー

 

 

尊氏画伯の菩薩像絵図は、今でも鎌倉市の浄明寺や栃木県立博物館などで見ることができるらしい。

(ネットで検索してみたら、ヘタウマというか可愛らしい)

ぜひ今度見に行きたいわ!キラキラ

 

 

こんなおもしろエピソード満載なのですが、直義目線なので彼の苦労を想像すると大層お気の毒で・・・泣

ギャースカと喧嘩ばっかりしている兄弟なのですが(※喧嘩っていうか直義が兄をガン詰めして、尊氏がオロオロしながら謝る場合が多し)イチャイチャじゃれあってるようにも見えますわな。

 

物語は彼らの生涯が閉じるまで描いてあるので、だんだん悲しいお話になっていくのです。これは辛いなあ。

 

最後は戦になってしまうので、わたしは最初、兄弟は決別するのかと思っていたのですが、そうじゃないのですね。

尊氏・直義兄弟が個人的に憎み合ったことは一度としてなかったのね。権力が強大になりたくさんの郎党たちを抱えて、一人の感情では動けなくなってしまったから戦わざるを得なかった。

 

家督なんか継がずに、部屋住みのヘッポコ兄弟のまま鎌倉でのんびり暮らしていたら、ずっと一緒にいられたかもしれないのにね。

 

それにしても、たくさん戦があってたくさん人が死にましたが、結局一番の勝ち組となったのは尊氏でした。

やっぱり只者ではなかったということでしょうか。

 

 

でも・・・

 

現代の教科書に「室町幕府を興したのは足利尊氏」とかサラッと書いてあっても、直義とか高師直とかが、

「いやそれ違うから!コイツほぼなんもしてねーし!」

などと、草葉の陰でツッコミ入れそうな気がしますうずまき

 

 

 

 
南北朝・室町関連の本。
まだあまりたくさん読んでいるわけではありませんが、どれも面白かったです。
 
この時代は、なんでこんな変人ばっかり出てくるんだろう。