この本は装丁にしてもタイトルにしても、一見してノンフィクションかな?と思えるのですが、実際はフィクション、小説です。
が、本当はノンフィクションにしたかったんじゃないかな。
でも、内容的に危険すぎるから小説にしてうやむやにしたんじゃないかな・・・
始まりはこの一枚の写真。
「フルベッキ写真」というそうです。
フルベッキは人の名前で、写真の中央に写っている外国人。幕末の日本にやってきた宣教師なのですが、およそ宣教師らしからぬ振る舞いで明治の革命に加担したと言われる人・・・
写真のタイトルは
『尊王攘夷志士 四十六名像』
撮影は上野彦馬、慶応元年二月
写っている人物は全て名前が記されています。
坂本龍馬、西郷隆盛、大久保利通、高杉晋作、桂小五郎、伊藤弘文、中岡慎太郎、などなど錚々たる顔ぶれ。この人たちが一堂に介して記念写真のようになっているってどういうこと?
ありえなくない?!
物語は、歴史小説家の望月真司のもとに出版社経由でこの写真が郵送されてきたことから始まります。
送り主は本気なんだか少々頭がいかれているのか、
「この写真に書き込まれた名前はおおむね正確で、検証していくうちに、隠されていた恐るべき暗号が浮上してきたのです」
と主張。
送り主は写真を調査していく中で謎の嫌がらせや妨害を受け、危険な目に遭うこともしばしば。どうか自分に代わってこの写真の謎を世間に公表してほしい、という要求がつけられていました。
そこで望月は助手や出版社の力を借りて調査を始めます。もちろん、写真の真偽も含めて。
でも・・・
いや絶対違うと思うが・・・
小松帯刀とか、勝海舟とか。
別人だろ
わたしにはどうも嘘っぽく見えるのですが?
どうやら全部が全部、名前の通りの維新志士というわけではない。が、中には正確に当人が写っているのもあるみたいです。
本当に、なんの写真なんでしょうねえ。
眉唾ものかなと一方では思いつつ、興味もあるので調査を始めた望月でしたが、直に会った写真の送り主はちょっと頭がおかしいのかと疑われるような人物でした。
が、その送り主はまもなく死亡。それも、不可解な事故で。
望月も全然知らない人物から、嫌がらせや脅迫を受け始める。
一体この写真に隠されている陰謀とは何か?
それを解き明かしていくストーリーでした。
判明したのは、幕末におけるフルベッキの怪しげな行動。フリーメイソンが絡んでいる疑惑あり。
そして、ナンキョウダンという謎の組織。
「南梟団」という漢字を書く。
南・・・これはどうやら、南北朝時代の南朝方のことを言うらしい。
幕末の尊王攘夷の発祥元は水戸学であり、水戸学は南朝を正規の天皇としています。
関わりの深い人物は、横井小楠。
小楠?
って、楠木正成の子?
などなど、深掘りしていくほどに意外な繋がりが判明していきました。なかなか面白い。
このフルベッキ写真は佐賀藩との関係が濃いので、望月は現地に行って佐賀の乱のことを取材します。
これ、地元の佐賀だと「乱」とは言わないのですってね。「佐賀戦争」と言うらしいです。
乱と言うと犯罪になるけど、佐賀人にとってはやむにやまれぬ大儀ある戦であり、売られた喧嘩に対する正当防衛なのだと。
佐賀の乱での江藤新平の行動は不思議で意味不明なのですけど、ここで細かく検証してくれているのが勉強になりました。
どうして江藤新平は晒し首などという明治にあるまじき刑に処されなければならなかったのか。
どうして大久保利通は、そのためにわざわざ東京からやって来たのか。何を焦っていたのか?
江藤新平の号は、江藤南白と言います。
実は江藤新平にも「南」の秘密が隠されていて・・・
「南」に関わった人は、一人、また一人と消されていくのです。
下巻に続く。
お散歩中に撮影。ゴージャス!