稚児桜 能楽ものがたり | あだちたろうのパラノイアな本棚

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読書感想文、映画感想、日々のつぶやきなどなど。ジャンルにこだわりはありませんが、何故かスリルショックサスペンスが多め。

 

 

澤田瞳子さんの文庫新刊です。

表紙が今の季節と合っていて、いい感じです。

桜に古都。いいですねえ。

 

この短編集、一言で言うと、売られた子が哀しくたくましく生きていく生き様、といったところでしょうか。味わい深い物語です。

それぞれの短編は、能の名曲にちなんでいるそうですが・・・能をあんまり知らないのでピンとこなくて残念。

 

 

●『稚児桜』-花月

 

売られた子といえば大体が遊女に売られた女の子ですが、この作品だけは男の子・・・清水寺の稚児たちが登場します。

 

昼は僧の身の回りの雑用、夜は僧の寝所に侍って夜のお勤め、そんな生活をする稚児たちが数十人暮らしていたそうです。彼らは美しく着飾り、舞や歌も嗜みます。が、彼らの運命は儚い。十代も半ばを過ぎて容姿が衰えると、ポイと寺を出されるかも。

 

花月という一番の売れっ子稚児がいるのですが、花月は性格が悪く、新入りの百合若をいじめてばかりいる。

ある時、花月を売り飛ばした父親が悔い改めて再び息子を引き取ろうと清水寺にやってくるのですが、そこで花月がした選択は、というお話。

 

稚児に出された子供など、押しなべて不幸で、不幸度合いはドングリの背比べです。ですがその中で開き直って強く生きる者と、不幸な自分の運命を嘆いて泣いてばかりいる卑屈な者がいる。

 

結局は子を売る親が悪いんですけど、与えられた運命をどうやって生きていくかは、その子の才覚だよなあ、と思いました。

 

しかし稚児ってのはすごい文化だな?

罪悪感ないのか、ボーズめ。

 

 

●『鮎』-国栖

 

壬申の乱にて、大友王子を討ちに吉野を旅立つ大海人王子が登場します。大海人王子の妻、讃良女王に仕える女嬬が主人公です。

 

この女嬬(蘇我ウノ)、実は大友王子の側近である蘇我果安のスパイです。吉野宮を発った大海人王子の情報を伝えるために、こっそりと行方をくらましたいウノです。

そこにやってきた千載一遇のチャンス・・・

 

これ、讃良王女が夕食に出た干鮎を川に流し「この鮎が見事泳ぎ切ったら吉」という、占いというか祈りの行為が書かれているのですが、

 

焼かれてペロペロになってる鮎を流してどうする?

(泳ぐわけがないだろ)

 

素朴な疑問を持ってしまいました。

 

これは、ウノが伯父である蘇我果安との血縁を信じるか、はたまた自分を側に置いてくれていた讃良王女や大海人王子の愛情を信じるか、頭の中をグルグル駆け巡るのが切迫感があって面白く読めるところです。

 

 

●『大臣の娘』-雲雀山

 

これは母親に捨てられた娘の復讐のお話ですね。

 

幼い頃に生き別れ、今はすっかり成長した娘にばったり出会った母親です。娘はたくましく育ってくれて、困っている自分の味方になってくれて、頼もしい。

ラストのどんでん返しが後味悪いですが、まあ娘を捨てたのが悪いんだし、自業自得とも言える・・・

 

 

 

お散歩中に見つけた花。

これからの季節は植物を見るのも楽しみです。