幕末 暗殺! | あだちたろうのパラノイアな本棚

あだちたろうのパラノイアな本棚

読書感想文、映画感想、日々のつぶやきなどなど。ジャンルにこだわりはありませんが、何故かスリルショックサスペンスが多め。

 
 
歴史ファン、幕末ファンが心おどるアンソロジーです。とても楽しく読みました。
書いてある内容は全部暗殺なので、物騒な内容なんですけども…
 
あとがきを読んだのですが、新たな歴史時代小説を執筆しようと信念を持った作家さんたちが「操觚の会」という組織を作っているそうで。そのメンバーの発案にて作られた本だとか。
実力派の作家さんばかりなのですごい読み応えのある一冊です。
 
物語の中で暗殺の対象となったのは井伊直弼、塙忠宝、清河八郎、佐久間象山、坂本龍馬、伊藤甲子太郎、孝明天皇です。
暗殺の犯人側の視点で、そこに至るまでのいきさつとか心情的なものが描かれているのが興味深い。
 
気に入ったものをピックアップしてます。
 
●竹とんぼの群青(井伊直弼):谷津矢車
 
桜田門外の変って超有名で教科書にも載ってますけど、井伊直弼ってピストルで撃たれたのね!!知らなかった…刀を持った武士に駕籠が襲われている絵とかはよく見るのですが。3月にもかかわらず江戸は雪の日で、不吉というか、暗示的というか。
 
ピストル(コルト)を入手して、井伊大老を待ち受けるのは水戸藩士の黒澤忠三郎。彼自身は理知的な人物なのですが、忠義のために粛々と計画をこなします。
忠三郎の親友である菅原彦右衛門はものづくりオタク的で、アメリカ製の銃の研究をしているんですけど、その技術力に驚嘆し、こんなに国力の差がある状態で攘夷など逆効果だという現実派。
彦右衛門に反発しつつもその言葉が心の奥底に響いている忠三郎は、とにかくやらねばと当日を迎えます。
 
暗殺の瞬間は…スローモーションのように描写されて、壮絶なんだけど、、、美しい。
白い雪の中で流れる鮮血の色彩コントラストが絵画的と言ったら不謹慎でしょうか。
 
●刺客 伊藤博文(塙忠宝):早見俊
 
廃帝の密談をしているという噂の国学者・塙を幕末に襲撃したのは若き日の伊藤俊輔(博文)。
のちに、朝鮮の若者に襲撃を受けて同じ運命をたどるところを対比させているのが、はあ…重い。因果応報。
 
●裏切り者(伊藤甲子太郎):秋山香乃
 
出た出た。
 
ブラック斎藤一
 
たまにこういうのに出会います。嫌いじゃないです。
新選組の斎藤一さんというと、クールで無口でひたすらカッコ良く描かれる作品もありますが、スパイとして一匹狼で生きて行くニヒルな男に描かれるパターンもあり。これは後者の方。
 
設定としては、斎藤さんは元々幕府から会津を監視するために送り込まれた間者で、その後は会津の命で新選組を見張る間者となり、今現在は、土方歳三の命で御陵衛士に入り込んだ間者となっています。
二重三重にスパイをやっていると、忠義を貫く対象があるわけじゃないので、信じるのは己のみ。誰にも心を許さない孤独な男です。
 
が、そんな斎藤一に無邪気に友情を寄せるのが、同じ御陵衛士の藤堂平助で…
 
平助くん…
あいかわらず素直で
カワイイ奴だな!
 
今回、新選組が伊藤甲子太郎を暗殺する計画をしていて、裏で糸を引くのが斎藤さんになっています。
 
平助くんと斎藤さんが交わす会話が、この後待ち受ける運命を思うと悲しい。
実は平助くん、薄々感づいている。
 
そして、平助くんを通して、斎藤さんは自分が土方さんに抱く感情にも気づき、誰も信じない一匹狼が少し、変わりつつある。
 
うおー
いろいろと感動〜
 
この話はよかった。
彼は最後は会津に居場所を見つけましたからね!
 
●明治の石(孝明天皇):神家正成
 
乃木希典が幕末の孝明天皇の暗殺疑惑について、当時を知る人物たちに話を聞いていくという話。
 
もしかして、岩倉具視が孝明天皇を毒殺したのでは…という疑惑があり、乃木希典は本人に突撃したりもします。(本人が言うわけないけど)
 
アーネスト・サトウとか、勝海舟とか、西郷隆盛とか、大久保利通とか、そうそうたるメンバーにインタビューを試みる乃木希典。殺人事件を捜査する探偵のような?
 
ちょっと出来すぎかなーという設定ではありますが、有名人のオンパレードっていうのが派手で面白かったです。
 
 
 
 
今日のお散歩中に見た虹。