あだちたろうのパラノイアな本棚

あだちたろうのパラノイアな本棚

読書感想文、映画感想、日々のつぶやきなどなど。ジャンルにこだわりはありませんが、何故かスリルショックサスペンスが多め。

 

 
こちらの本、ずっと追いかけているシリーズです。
新刊出ました、早くも6巻目。
平安時代の宮中で掌侍(ないしのじょう)として働く女官のお仕事小説です。典侍や掌侍など内侍司の女官は帝直属です。宮中にはそのほか、女御さま付きの女房たちが各局におりまして、「うちの女御さまが一番だわ」と張り合っています。
こういう権力争いに巻き込まれては大変なので内侍司の女官は中立を心掛けているのですが、特に帝のお気に入りであるこう子を自分の陣営に取り込みたく、やたらすり寄って来られたり、特別なお招きを受けたり、賄賂として贈り物を受けそうになったりとか、かなり神経がすり減るのです。
 
今回騒動を起こすのは、時の権力者である左大臣の愛娘で、蝶よ花よとかしづかれて育ったお嬢様・弘徽殿女御さま。
 
お世継ぎがいなかった今上帝に、それまで不遇の身であった竜胆宮を東宮に立てることが決まり、こう子たちは聡明な竜胆宮を助けて立坊の準備をします。
 
そんな時に、ずっと懐妊しなかった弘徽殿女御が、懐妊したとのニュースが飛び込みます。喜び勇んだ左大臣は、怪しげな行者に「生まれる子は皇子だ」と予言させ、有頂天に。
そしてあろうことか、竜胆宮が企画して周知していた法会と全く同じ日に、娘の法会をぶつけてくる嫌味な行為に出ました。
(なんか史実でも似たようなエピソードありましたね)
 
貴族たちはどちらの法会に参加するのか選択を迫られます。
なんというあからさまな嫌がらせなのか。が、これが権力争いの現実というものでしょう。
 
もともと天真爛漫といえば天真爛漫、傲慢といえば傲慢な弘徽殿女御に反発を覚えていたこう子と、彼女の頼れるクールビューティ上司・典侍のゆき子らは、左大臣家に負けじと対策を練り。・・・
 
今回のお話の考察は、弘徽殿女御の人間性にあると思っています。
 
自分の人生はうまくいって当然であり、自分が嫌われているとか他人が自分を悪く言っているなどとは微塵も考えず、ただひたすら成功を信じて疑わない性格の人です。
だから弘徽殿女御ご自身は、わざわざ人を陥れる意地悪などはしないのです。そんなことをする必要がないから。
だけど悪気なく、自分が一番大事にされて当たり前だし、人から好意を受けて当然という態度が鼻持ちならないのでした。
 
「こういう人、いるよね」
と作者は言いたかったのじゃないかなあ。
全く悪気なく周囲をイライラさせる人。だけど、そう育てられてしまったから今更どうにもならないのでしょう。絶望を知らないから、他人の悲しみ苦しみに対して想像が及ばず、共感して寄り添うことができないのです。
 
結局、ご懐妊が想像妊娠だったことが判明。
なまじ大騒ぎしたが故に、赤っ恥をかいてしまうことになりました。
 
そうとわかった時の、周囲の人間の反応がどうなのか・・・
 
「それ見たことか」
「いい気味だ」
 
ついこんなふうに思ってしまう気持ちも、大変醜いものです。いくら鼻持ちならないお嬢様だったとしても、こんなに辛い思いをしないと、周囲の人間に許されないのでしょうか。
 
ずいぶん深いところをつつくなあ、と読みながら思ったのでした。
 
さてクールビューティな典侍・ゆき子は、数々の実績を認められて、どうやら宮中女官のトップである尚侍に昇格するかも?
ああ、そういうのとっても良いよね。
尚侍って、源氏物語の世界観だと、いいとこのお嬢さん(朧月夜とか玉鬘とか)が形だけなるお飾りかと思ってましたが、実務能力のある人が就任する方がカッコいい。
 
これ読んでると、女官っていいなあと思います。女御さまより楽しいんじゃない?

 

 

〜おまけ〜

 

お湯を注いで食べる「こづゆ」

いいお土産見つけて買ってきました。美味しいです。