東京都写真美術館B1Fの展示は「山城知佳子 リフレーミング」
山城知佳子は2年前の

「話しているのは誰?現代美術に潜む文学」で《チンビン・ウェスタン「家族の表象」》という映像作品見たけど個人的にはあまり良いと思わなかった、今回はどうでしょう。


 《I Like Okinawa Sweet》
展示室の前の、お出迎え的な作品。
米軍基地を背に、サイケデリック調の派手な衣装を来た作者本人がカメラのこちらにいる何者かからソフトクリームをもらって舐めてます。
ソフトクリームはほとんど見ないで、挑発的な目でこちらを見つめてる。
沖縄固有のサーターアンダギーや冷たいさんぴん茶じゃなくソフトクリーム。
つまり、こちらにいるのは?

中に入ると最初の展示は亀甲墓という沖縄の墳墓に関する作品が2点


 《BORDER》
今度は真っ赤な服の作者が基地の前を歩く、フェンスの向こうには墳墓。
米軍に土地を接収されたために祖先の墓が基地の中に残り、墓参りできないケースがあるのだそうです。
それから墳墓の前の墓庭と言われるところを作者が裸足で歩く、足のアップが感覚的。


 《OKINAWA 墓庭クラブ》
こちらはモノクロ画像で、白いワンピースの作者が墓庭で激しく踊ります。
墓庭で、琉球舞踊じゃなくダンス、クラブと言うより昔のゴーゴーみたいな。
モノクロでレトロ感出してるのかな。

3点ともメッセージ性があるのですが、ソフトクリームの冷たさとか裸足の感触、激しいダンスなど、どれも映像の意味を超えて体の感覚に訴えてくるものがあります。


 《あなたの声は私の喉を通った》
老人が語る戦争体験を作者が自分の声で語ってみる、作者の顔のアップに時々老人の顔が重なります。
語り部体験的なパフォーマンスで、作者はやがて涙ぐみます。
タイトル通り体の感覚として体験してみる、でも語るのは他人の言葉、作者は語り部にはなれない、見てるこちらはその作者にもなれない。
全然動きがない映像なので、静かに一対一で向き合うような作品です。


 《アーサ女》
ここまでは作者が映像に出てくる作品でしたが、このあたりから作風が変わります。
今度はアーサ(あおさ)になって海に漂う作者の視線を共有する作品です。
ただ海から地上を見てるだけじゃなく、海上保安庁が出てきたりして、のどかな海というわけじゃなさそう。
海辺を漂う感覚の中で、時々見える人間たちは断片的で、何が行われているかは想像するしかない。


 《黙認のからだNo.1-13》
モノクロの鍾乳石の写真と人体の写真が並べて展示されています。
人体の写真はブレていて、最初は何だかよくわかりません。よく見ると、これは体がこうなってるところ、これは鍾乳石ってわかります。
認識の曖昧さ、みたいなものを体験できますけど、ただそれだけ。


 《創造の発端-アブダクション/子供-、A Piece of Cave 1-16》
暗い廊下のような場所で、ヒザくらいの高さに並べられたモニターに映し出されるのは、男性のパフォーマーが狭い鍾乳洞の中で泥まみれで踊る姿です。
見る人も床に這いつくばるように体を低くしないと見ることができません。モニターが小さくて、狭い洞窟の不自由さを感じます。これも体の感覚に来る作品。

あれ、作風変わったら沖縄がどっか行っちゃったな。感覚ばかりに行っちゃって、考えさせるものがないですね。

次の2作品は撮影NG、《土の人》は三面マルチスクリーンで沖縄、日本、韓国それぞれで、まるで全てを諦めたように力なく地面に寝そべる人々の物語。
いろんなことがあって、最後には皆が起き上がって空に手を伸ばし、力強く手を叩く。
人々が口にするのはセリフではなく詩の引用で、説明的な映像はなく詩的なイメージが積み重ねられています。
三面マルチスクリーンをうまく使っていて、途中ボイスパーカッション(口でプップッとかいう)にのせて戦争の映像が次々とフラッシュバックされるところも含めて、かなり迫力ある映像詩です。

最後の最新作《リフレーミング》は《チンビン・ウェスタン》と共通する部分があって、埋め立て工事のためにすっかり崩れてしまった山の土砂採取で働く人たちを中心にした物語です。
入り口に1つモニターがあって、そこでは廃藩置県で琉球王が落ちぶれてしまうミニドラマ、そのあと三面マルチ映像で前述の物語が繰り広げられます。《チンビン・ウェスタン》では琉球王の話も本編に入っていて、いろんな要素を詰め込み過ぎて散漫になった感があったけど、こちらは内容を分けて絞ってうまくまとめてます。

誰に、どこに視点を置くかで見る度に違うように見えるだろうな。
工事現場などのドキュメント的な部分と、セリフのあるドラマと、風景や動植物を使った詩的な映像を巧みに構成していて、さらにときどき体の感覚に来る映像もある、これは作者の一つの到達点のような見事な作品だと思います。

私のように《チンビン・ウェスタン》でがっかりした人にもゼヒ見て欲しい個展です!