東京都美術館の「デ・キリコ展」に行ってきました。展示は撮影NGだったのでフォトスポットで撮ったものだけ載せます。

デ・キリコというとこの、ほとんど人気のない草木の生えていない広場、装飾のない建物とその長い影、見たことないはずなのにどこかノスタルジックな風景、この種の初期作品を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。私もそれでデ・キリコを知ったのですが、もっとはっきりシュールで不条理な形而上的絵画の方が好きですね。

例えばこの《白鳥のいる神秘的な水浴》が収められたジャン・コクトーの「神話」のための連作。直径1mくらいしかないような円形の台上に開きかけたドアと人物がいるモチーフが繰り返し出てくるのですが、この台は塀で囲まれていて出ることも入ることもできない、どこでもドアでなく、どこへも行けないしどこからも入れないドア。家庭の浴槽くらいの面積の水面を泳ぐ人に銭湯くらいの広さの水面を行くボート。皆どこにも行けないのにどこかへ向かっている。

この《オデュッセウスの帰還》も同じようにどこにも行けない不条理な世界。展示されている作品は室内画が多くて、どれも「ここはどこ?」「絵に描かれてないこの外側はどうなっている?」「これは窓?風景画?」などなど、謎と不思議ばかりの不条理な世界。

今回は「マヌカン」という、顔がノッペラボーだったり空洞の人形のが登場する絵画と彫刻が多いです。

座っているマヌカンの足元にあるのは脱いだ仮面? 小さな頭部は仮面の中身? 右上の影の中にいるマヌカンはなにしてる? 背景の建物の左側に見えるのはマヌカンの巨大な頭部みたい、縦方向に切れ目なく伸びてゆく床もあり得ない。とにかく不思議がいっぱいで、いくら見ても何度見ても飽きないです。

とにかくシュール好きないはたまらない、個人的には大満足な展示でした。寂しい広場の絵が目当てで行くとがっかりするかもしれませんけど。