王子様、奇跡的に電話できたりする?
姫。できるよ。
外に出 るから五分待って。
いい歳の中年の、吹き出すような冗談に同じノリで答えてくれる。
絶対に会うことのない人。
たわいもない話。仕事のこと、お金のこと、子どもたちのこと、昔のこと、この先のこと。
私たちは完全に隔てられた世界で、ただLINEし、時々電話をする。
十分すぎる。
もし会うことがあれば、すべて壊れてしまう。
現実を映す鏡は思いのほか脆い。
ヒビ割れた鏡には、幾重にも虚像が浮かぶ。
おそらく彼は、奥様へのスイーツや好きなワインを買って帰るだろう。
それでも構わない。私は十分に満たされている。
もし、彼がこの世界に実在しなかったとしても、私はいい夢を見た。
幸せな夢を。
私は私である。
私はあなたでもある。