ハンターズ・ラン (ハヤカワ文庫SF)/ジョージ・R・R・マーティン
¥1,050 Amazon.co.jp
卵をめぐる祖父の戦争 ((ハヤカワ・ポケット・ミステリ1838))/デイヴィッド・ベニオフ
- ¥1,680
- Amazon.co.jp
その時、ポケミスの歴史が動いた。その瞬間に立ち会えることなんて、なかなかない。ってなわけでデイヴィッド・ベニオフの本を初めて読んでみる。新潮文庫からでてる人というくらいの認識しかなかったが、今回読んで面白かったので他の二冊も探してみようと思っている。
デイヴィッド・ベニオフはハリウッドの脚本家で小説家もこなす、ウィリアム・ゴールドマンのような人物。物語はそんなベニオフさんのお祖父さんレフ・ベニオフがレニングラードで体験した戦争話を本にまとめる体裁で語られる全くのフィクション。
ドイツ軍の包囲により餓えと寒さに苦しむレニングラード。そこで泥棒行為を働いたレフ少年は収容所にぶち込まれ、明日は銃殺の憂き目を待っていたが、ひょんなことから、秘密警察の大佐から娘の結婚式用の卵を一ダース捜すように命令される。食べるものもない場所で一体どこにそんな栄養豊かなものがあるのか? 旅の御供は脱走の罪で同じ運命を辿るはずだったおちゃらけ青年将校。このコンビが卵をめぐって無法地帯を冒険します。闇市に潜む人喰い夫婦に、最後の鶏を守る老人と少年、爆弾をくっつけたパブロフの犬、幼い娼婦の両足を切断するナチ将校、赤毛の女暗殺者との出会い等々。エピソード一つ一つがとてもいい。戦争をエンターテインメントに化けさせる不埒な手腕は打海文三のそれに匹敵するんじゃないかな。序盤わくわく、中盤どきどき、終盤しんみりといった具合に展開する。
ミステリ的な展開としては、レフ少年の嫁さんが一体、誰なのかをぼやかしている。(勘のいい人は後半に分かるが)読者はその楽しみを最後のセリフで知ることになる。始まりから終わりまで非常にきれいな形で大満足でした。今年の話題作になるんじゃないかなぁ、たぶん。
不可能犯罪課の事件簿 (論創海外ミステリ)/ジェイムズ ヤッフェ
- ¥2,100
- Amazon.co.jp
- 僕は十六歳で短編デビューしたレナード・トンプスンがジェイムズ・ヤッフェだと思っていた。何かで読んだ気がするんだけれど……。勘違いか。
ポール・ドーンの不可能犯罪課シリーズ。高校生の瑞々しい感性とそれを優しく眺めるクイーンのルーブリックが微笑ましい。名編集長はヤッフェに対して優しく、また厳しい。物語の設定に必然性がなければ、諌めるし、良いことろがあれば読者に向ってヤッフェの才気をぞんぶんに売り込む。「不可能犯罪課」「プロシキ氏の遺言」「七口目の水」「袋小路」「皇帝のキノコの秘密」「喜歌劇殺人事件」は、小粒で、これということはない。だから、本篇前に挿入されているクイーンの押し売りルーブリックがこの本の売りだったりする。
ポール・ドーン物を読んだ後で「間一髪」と「家族の一人」を読むとヤッフェの熟練ぶりに目を見張る。ポール・ドーンからここまでよく成長したね。ブロンクスのママも面白かったが、こういうサスペンスものも書いていたのかぁ。「間一髪」で優しい結末を「家族の一人」では苦い結末を用意して楽しませてくれる。
- ¥1,680
- Amazon.co.jp
- CWA・MWA賞ダブル受賞作。さらにこれが三度目(三作しか書いていないのに)のMWA受賞となる。(新人賞は微妙なところだけれど)MWA賞三度はジェイムズ・リー・バーク、ディック・フランシスに続く記録だ。これはちょっと凄い。とはいうものの『川は静かに流れ』はあまり好きじゃなかったので、傑作の誉れ高いこの物語も読むの躊躇して、今月になった次第。しかし、これはよかった。とてもよかった。すごくよかった。
十三歳の少年ジョニーが一年前に誘拐された妹を捜すために、性犯罪者たちの家を立ち回ったり、壊れかけの母親を支えたり、失踪した父親の帰りを信じて丘を眺めたり、「絶望」に対して孤独に立ち向かう。切ないねぇ。さらに読み進めるとジョニーの親友ジャックの孤独、身も捩れるような悔恨、苦しみに目がかすみ。脱獄囚フリーマントルの台詞に涙が溢れた。
この二人の少年、フリーマントルの物語でもう胸がいっぱい。しかし、そこに謎解きも加えちゃうから素晴らしい。
二転三転させてどうなるのかハラハラさせ、最後に意外なところから誘拐事件の真相をもってくる。真相が明らかになった時に、巧みな伏線に感嘆する。いろんな「関係」が一気に破壊されてしまうような救いのない真相だけれども、すべてが明るみになったからこそ背負っていた重荷や苦労から解放され、前向きに生きていこう、過去の罪を許してやろうとする人々の姿が爽快。さらに最後に明かされる「奇跡」の演出がこの物語に深みを与える。世代を超えた交流があり、まさに「輪」になって還元される。
大変よろしゅうございました。
-
- アルバトロスは羽ばたかない/七河 迦南
- ¥1,995
- Amazon.co.jp
思わず、机に膝をドンと打ちつけてしまった。「パート2」は大抵こけるが、これは前作越え。今年の話題作になるに違いない。(いや、ならんとおかしいだろ)
『七つの海を照らす星』は、ある少女の奇跡の冒険行を連作短編に隠してしまう手腕、「日常の謎」なんて甘っちょろい呼称を撥ねつける内容が好印象だった。
今回も連作短編形式。「ハナミズキの咲く頃」「夏の少年たち」「シルバー」「それは光より早く」は、前作の主人公、北沢春菜が遭った子供たちにまつわる事件の数々が語られる。ネガポジの反転が泣かせる「ハナミズキ」、少年たちの集団消失という名の冒険短編「夏の少年たち」や無邪気な言葉遊びの罠に怖気る「シルバー」、そして来たる悲劇の序章「それは光より速く」。謎解きも子供たちの活躍も魅力は前作以上、しかも、これらの優れた短編が「ある事」を隠すミスディレクションとして機能する。僕は完全に目を眩まされていたので、悲劇の真相にたどり着いた瞬間、膝を打ってしまった訳です。(これが、分かった瞬間、帯から、あらすじから一通り読み返しましたよ)
扱う内容もビターを通りこして、見せ方もさらに上手くなって、ぽあ~ぽあ~っとした感じで読んでいると最後に「ズドン」と度肝を抜かれてしまう。(これはホント参った……)
ハードな内容だけれども、登場人物たちの願う心、傷付きながらも希望を捨てない姿に目頭が熱くなる。七河さんよ、このままでは終われまい! もちろん三作目があるはずですよね? - アルバトロスは羽ばたかない/七河 迦南
