面白かった本、そうでもなかった本 | 読んだらすぐに忘れる

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とりとめもない感想を備忘記録的に書いています。

『ペガサスと一角獣薬局』柄刀一

不可能犯罪の謎の場合、雄大な問題に対しての「答え」の小ささに不満を覚えることが多い。

『アリア系銀河鉄道』『ゴーレムの檻』の柄刀一は「答え」が小さくならない稀有な作家のひとりだと思っている。

で、『ペガサスと一角獣薬局』。幻獣のいそうな風景とそこでおこる奇妙な犯罪の取り合わせは、ロマンはあるけど

「答え」が比較的小さいのではないかと……。

好みは「光る棺の中の骨」と「チェスター街の日」。前者は鮎川哲也で後者は島田荘司の流れを汲む秀作。


『影の護衛』ギャビン・ライアル

初ライアルである。『深夜プラス1』でも『もっとも危険なゲーム』よりもシリーズ物の方がとっつき易いかなと思って、手に取ってみた。

政治家と官僚、諜報部員がたむろするホワイトホールにやってきた一人の軍人、ハリイ・マクシム少佐。この異色の人材がジョージ・ハービンガー首相補佐官のもとトラブルバスターとして奔走する。

物語は官邸に投げ込まれた手榴弾事件にはじまる。戦争の英雄でありイギリスの核政策を取り仕切る軍事理論家タイラー教授の秘密を暴くと言い、二度も彼を襲おうとする狂人を止めたマクシムは、彼の言う「手紙」の存在とマクシムが官邸に来る前に自殺を遂げた国防次官補の事件につながりがあることを知る。そして、その手紙をめぐってKGBも動き出していることに気がつく。 

はたして手紙の内容は? そして、イギリスはアメリカ抜きの安全保障政策を実現できるのか?

チェコの情熱的な女スパイが出てきたり、魅力的なKGB工作員がライバルとして登場したり、手紙を持っていると思われた人物が爆殺されたりとかなり派手な演出・アクションが楽しめる。一方で、ソ連の思惑を阻止し、イギリスの思い通りにゲームを進めるにはどうすればいいかと思考するポリティカル・スリラーの面、「もぐら」として機能していたMI5の課長が妻を捨ててモスクワににげるところはル・カレのようなスパイの暗鬱な世界も垣間見せる。非常にバランスがよくとれているのだ。

 ミステリとしても衝撃的な真相を用意している。タイラー教授がかつて率いたパトロール隊のエピソードから、砂漠の任務についた経験のあるマクシム少佐でしか分からない、本当のエピソードをえぐり出す瞬間が素晴らしい。 

解説で原尞が「英国ハードボイルドの一級品」と讃えたのは目から鱗で、事件を淡々とこなしていくマクシムの姿は、私立探偵のようである。これはスパイ小説ではなく、ハードボイルド小説といったほうがしっくりくる。


『首のない女』クレイトン・ロースン

妙なオカルト色を排除したギャング抗争とサーカスが入り乱れる楽しい作品。『虚空から現れた死』のような軽妙さがあり、ロースンの地は『帽子から飛び出した死』ではなく、こちらのような気がする。

お遊びも充実している。イラストに手掛かりを忍ばせたり、伏線を脚注で書いたりと謎解きの演出も面白い。スチュアート・タウンを登場させ、次の作品の内容をコマーシャル代りに挿入するのも雑誌編集者だった経歴を考えれば納得。

脱出トリックだとか、首を切った理由だとかが何かと言われるが、個人的には物語の肝にギャングの抗争を据えたことに興味を覚えた。ロースンはハメットなどの小説に興味があったのかもしれないね。


『チャイルド44』トム・ロブ・スミス

 この国家は連続殺人の存在を認めない。ゆえに犯人は自由に殺しつづける―――。

 筋は平凡。かつて、同じようなネタの本を読んだとき、屑だと思った。しかし、物語の舞台を旧ソ連という特異な設定に置いた時点で、半分以上は面白さを約束されたようなもので、あとはシナリオライターらしい飽きさせない演出と筋運びが物語へぐいぐい引き込んでいく。

 ソ連が舞台なんだけど、物語はイギリスミステリのエッセンスに溢れている。ストイックに事件の犯人を追跡する主人公のレオと妻のライーサがイギリス冒険小説によくあるコンビだし、ディック・フランシスといい、D・M・ディヴァインといい、イギリス人作家は「再生」というテーマを書かせれば世界一うまいと再認識した。

副官の妬みを買い死刑一歩手前まで追い詰められ、助かりはしたものの地方に左遷される主人公レオ。彼は、体制への忠誠も、豊かな暮らしも、家族も、自分自身も見失ってしまう。そんな彼が、再生への一歩へ踏み出させるのが、一件の少女猟奇殺人。「システム」によって押さえつけられていた人間の心と捜査官としての興味が犯人追跡へと駆り立てるのだが、そこには艱難辛苦が待ち受けている。

一見すると一匹オオカミの捜査を主眼にした物語だが、裏で非常にドメスティックな話が進行しており、それが下巻で浮かび上がった瞬間「お!」となる。ただ、浮かび上がった瞬間で物語は最高潮に達してしまい。犯人を捜し出す冒険行はオマケみたいな感じで書き飛ばされているような感じがした。とはいうものの囚人護送列車の脱出シーンなどハラハラドキドキのシーンや偏執的な元部下の執拗な追跡など飽きさせない。

 映画になれば、面白いと思います。


『ジョーカー・ゲーム』柳広司

「最高にスタイリッシュなスパイ・ミステリ」という煽り文句に惹かれて読んでみた。

 軍国主義へ傾いていく昭和十三年の日本、陸軍参謀内で異端の部署が立ち上げられる。スパイ養成学校、通称「D機関」。民間人によって構成され、既成の軍人組織から激しい反発を抱かれるこの組織を率いるのは「魔王」の名で呼ばれる結城中佐。

偉大なスパイマスターと彼のもとで育てられる潜行員たちの活躍を描いた五つの短編は、スパイ小説の楽しさというよりも冒険小説と謎解きが絶妙にマッチした秀作揃いで久しぶりに単行本を買った甲斐があった。

ベストは「ジョーカー・ゲーム」。これは密室もので有名なある短編のネタを使用している。ただ、あの有名な短編は、顔を上げることができない状況だったことがたまたま犯人に有利に働いたのに対して、こっちは外国人スパイが自信満々に用いている。既存の概念にとらわれないアナーキストめいたスパイたちのお目付け役で行動を共にする優秀な軍人が、事件を通して、大きく成長する話でもあり、事件の背後にある企みを逆に利用して己の組織の拡大を狙う結城中佐の策謀の物語でもあり、短編のなかにいろいろな物語を詰め込んだ逸品になっている。


『七つの海を照らす星』七河迦南

日々願う。真実がより私たちを幸せにしてくれることを。

単行本を買った甲斐があったと感じさせてくれた本の一つだ。仏教っぽいペンネームを持つ「期待」の新人作家は、自分の物語の世界をしっかり持っており、何の引っ掛かりもなく読者を世界にいざなってくれる。匙加減も甘すぎず、苦すぎず絶妙なバランスで好感がもてた。

この本を「日常の謎」なんて言葉で売り出さなかった東京創元社はエライと思う。選考委員でこの作品に対して「日常の謎」と言わなかった島田荘司もさすが。表面上は女性の児童養護施設の「日常」をほのぼのとした雰囲気で描いているが、物語の肝となる部分には家庭崩壊、ドメスティック・ヴァイオレンス、近親相姦、トランスジェンダーなどもあり殺人こそないものの「日常の謎」なんて言葉で片付けてしまうにはちょっと抵抗ある。

 近頃、こういうテーマを出せば必要以上に陰惨にしてしまう物語が多い中で、この作家の視線はやさしい。子どもたちは過去のことにくよくよせず、自分の物語を紡いでいくが、それは過去の事実を避ける後向きではなく前向きで、希望がある。

 ひとつひとつが面白いが(特に「第二話 滅びの指輪」なんてすごい)、なんと言っても回収しきれなかった点が最後に大きくまとまる第七話が素晴らしい。これは一人の少女の冒険と奇跡の物語だが、仕掛けが気づいた、気づかなかった関係なしに心つかまれる話で、読んだあとでさわやかな気分になった。


『造花の蜜』連城三紀彦

 一流作家の二流作品の感じが否めない。

物語は三部構成になっている。奇妙な誘拐事件・その真相・その後日談。でれも最後で意外な展開をみせ、楽しいには楽しいのだが、どうもしっくりこない。なにがしっくりこないかというと、ここで描かれる「悪党」がこの一流作家らしからぬ中途半端な印象しか与えない。悪党が悪党の上前を巧妙にはねる話なんだけど、痛快さなんて微塵もない。誘拐する側は義賊でも何でもない単なる犯罪者。それなのになんでことさらにルパン的に描こうとするから納得がいかない。誘拐される側はそんなに巨悪に思えない。汚職や偽装で、ただよくわかんない金をたんまりため込んでいるとしか描かれていない。もっと罪深い存在でもよかったのではないのか。

という訳で、まったく残念な思いをした次第である。




『十三回忌』小島正樹

「いま、若武者は解き放たれた!」

でも、この調子だと絶対、落武者になるよ。


物語を読んだというより長い要約を読んだ感じだ。