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以下の論文が『サイエンス』誌の2008年2月15日号で報告された。米パデュー大学(シカゴ近郊になる名門大学)のカーピック博士の研究だ。より専門的に説明すれば「入力を繰り返すよりも、出力を繰り返すほうが、脳回路への情報の定着がよい」ということになる。カーピック博士はよく練られた実験デザインを活用して、この面白い事実を発見した。 ワシントン大学の学生を多数集めて、スワヒリ語40個を暗記する試験を行う。adahama=名誉、farasi=馬、sumu=毒…といった具合に単語のペアを5秒ずつ提示して次々に覚えさせる。しかし、名門大学の学生とはいえ、40個を一回で覚えることはほぼ不可能である。そこで何度も繰り返して覚えてもらうのだが、この時、学生たちを4つのグループに分けて学習してもらった。 1つ目のグループには40個を通しで学習させ、その後に40個すべてについて確認テストする。この学習とテストの組み合わせを、完璧に覚えるまで何度も繰り返す。 2つ目のグループは、確認テストで思い出せなかった単語だけを選んで学習させる。ただし、確認テストでは毎回40個すべてを試験する。そして、テストで満点が取れるまで学習と試験を繰り返す。 3つ目のグループはこの逆のパターンだ。覚えていない単語があったら、初めから40個すべてを学習してもらう。そして、先ほど覚えていなかった単語だけを確認テストする。そして、満点が取れるまで学習と試験を繰り返す。 4つ目のグループは、学校の授業でしばしば使われるパターンである。確認テストで思い出せなかった単語だけを学習して、再確認テストでも先ほど覚えていなかったものだけを試験する。そして、再試験すべき単語がなくなるまで学習と試験を繰り返す。 面白いことに、この4つのグループには習得の速さには差はなかった。実際、5回も学習と試験を繰り返すと、全員が40個すべてを覚えることができた。そこでカーピック博士は、1週間後に再テストを行うことにした。さて、成績はどうだったか。グループ1と2は約80点と好成績であったのに対し、グループ3と4はともに約35点しか取れなかった。 グループ1と2に共通するプロセスは何かといえば、確認テストで40個すべてをテストしながら覚えたという点である。一方、グループ3を見てみると、学習は毎回40個について行っているが、確認テスト、つまり思い出す練習は、苦手な単語に対してのみ行った。 つまり、私たちの脳は、情報を何度も入れ込む(学習する)よりも、その情報を何度も使ってみる(想起する)ことで、長期間安定して情報を保存することができるのだ。 教科書を繰り返し丁寧に読むより、問題集を繰り返しやるほうが、効果的な学習が期待できるということだ。営業マンなら、自社製品の技術資料を繰り返し読むより、顧客先で何回もプレゼンテーションする方が、製品の情報がよく頭に入るということだろうか。 入力よりも出力を重視するように、脳はデザインされているということらしい。まあ、それは当然であろう。要は、ニューラルネットがどう使われるかだが、単に入力するだけでは駄目で、いつも出力を出し正解と比較してフィードバックをかけなければ、学習は進まない。入力が無ければもちろん記憶もへったくれも無いので、それは当然の前提だが、効率的に記憶するには、フィードバックが大切。誰でも覚えるときは、こうだああだと自分の中で納得するまで反復するが、それは正解との比較を繰り返していることだ。納得するとは、色々考えて正解と比較してちゃんとした時に、ああそうだと思うしそれが記憶の定着に有効。 因みに、学習した後はすぐに反復して復習することが記憶の定着に大事。それもシミュレーションするなり、色々なケースを考えたりして、正解と比較することが重要だ。 |