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余命宣告 第37話 退院


失った聴力も、


リハビリとステロイド投与で次第に回復し


頻発する「癲癇発作」の回数も週に1回程度に減り始めた。


長すぎた、入院生活。


二ヵ月半、この病院で過ごした。


本当にお世話になった、先生方、看護師さん方にご挨拶。


そして、私は妻と共に現実世界へ戻っていった。



久し振りに帰った、我が家。


いきなり、現実が目の前に!


電気も、水道も、止まっていた。


分が悪そうに妻は、


「ゴメン!」


と呟いた。


私の方こそ、


ここまで妻を陥れた自分の不甲斐なさに心から詫びた。


病床の私に妻は心配かけまいと、


打ち明けずにいたのだった。


妻は少ない貯金を取り崩し、


少ないアルバイト料の中から


露見しなかった債権者達への支払いを続けていた。


私はそんな彼女の行動を薄々気づきながら、


見てみぬフリをしていた。


病気で死ぬ事よりも、


「社会」という現実を知るのが、何より怖かった。


一人で苦労を背負った妻をよそ目に・・・・・


見てみぬフリをしていた。


私は、


心が・・・・腐っていたのかもしれない。



妻と父は、私の手術中を見はかり、


知れたる債権者へ弁済してくれていたのだが・・・・・


それでも尚、支払いは残っていた。



私の残預金はかき集めても一万円ほどしか無く


唯一の財産として残った


大名のレストランの支払いに消えていっていた。


「俺、明日から仕事するわ!


大丈夫。もう仕事の依頼が来てるけん。」


私は妻へ、明るくそう言ってのけた。


退院したことは、家族と一部の身内仲間だけに報告していた。


ぴぴぴっ、ぴぴぴっ、ぴぴぴっ


「中内です。退院おめでとう!


早速やけど、モリチン今度の土曜空けといて。」


私が仮入会したばかりであった、青年会議所の入会単位が


入院で足らず、単位獲得の為に北九州の会議に来い!


先輩会員の中内さんから来た電話は、


そんな用件だった。



電気も止まり、財布の中は空っぽ・・・・


そんな私へわざわざお金使って北九州へ行けと!


しかも退院したばかりなのに・・・・・・


「青年会議所、行ってくれば・・・・」


妻は、なけなしの3000円を私に渡した。


「よかよか・・・・別に・・・・飯も食べれんのに・・・・」


私は、そのお金を受け取る事は出来なかった。


その日は、暗く、蒸し暑い、久し振りの我が家で


ゆっくり休んだ。



次の朝、私は・・・・・・・・・・・・


坊主頭に、


馬に踏まれたような大きな手術痕、


そして、バリッとっスーツを着込み、


「行って来ます。稼いで来るけん!」


と妻へ声を掛け、


颯爽と我が家を後にした。



私が退院の翌日、


いの一番に向った先は、


仕事場・・・・・・・


・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・


そんな希望あるものは、


私には無かった。



「スタッフサービス」


日雇い労働者の面接会場だった。