「お前はまだ・・・・誰も助けとらん。


  ○○(父の事)が、お前ば待っとるぞ・・・・・・・」



祖父が川の向こうから



私に手を振っていた。



子供の私は



父の大きな腕に抱えられながら



幼き日の思い出・・・・田舎に流れる「大きな川」を渡っていった。



そして・・・・・・・


私は長い時間


生死の狭間で、冥界を彷徨っていたようだった。



死神と繰り返した、


「抵抗と交渉」



あれから数日が経過していた。



目蓋に刺す


懐かしい輝き。



「朝だ・・・・・・・俺は生きとったっちゃん!」


そんな思いはあったかどうか、


不確かな記憶しかない。




「死にかけていた」


そんな、ぼんやりと分かる事実しか理解できない。



時計は朝6時


看護師が私に声をかける。



 「おはようございます。覚えてますかぁ~


   大変だったんですよ~」笑



しかし、私は何も分からない・・・・



何で病院にいるのか?


何があったのか?



 「じいちゃんは・・・・・?」



そんなささやかなぼんやりとした記憶が


私の中を支配していた。




 「もうすぐ、奥さんいらっしゃいますよ。笑」



と声をかける看護師。




 「奥さん・・・・・・」




私は戸惑った。



 「ぱちっ、ぱちっ」



看護師が私の耳元で指を弾く。



 「これ何本ですか?」



私の目の前に指を出す。



 「あっ、おはようございます。


   モリチンさん奥さんがいらっしゃいましたよ~」



妻が笑顔で私の前に現れた。



しかし、私は


彼女が誰だか


分からなかった。



 「・・・・・・・・・」



看護師と妻のやり取りがあり、



 「モリチンさん。この人誰だかわかりますかぁ~?」



私はこの一連の流れの中で


何も反応出来なかった。



しかも、妻の存在は


私の記憶の中から




失われていた。





妻はそれに何も動じる事無く


ずっと笑顔で声をかけてくれた。



本当は、私が記憶を失った時


影では号泣していたらしいが・・・・(友人たちの談)



高嶋医師いわく



私の腫瘍が浮腫を起こし神経が圧迫されている模様だった。


もちろん、微量ですんだが脳血管から血液がもれており


それが原因で痙攣と発作を繰り返したらしい。



当然、それが大量出血であれば


私は「田舎の川」を渡りきっていたであろう。



祖父が私に夢の中で言った



「お前はまだ・・・・誰も助けとらん。


  ○○(父の事)が、お前ば待っとるぞ・・・・・・・」



その祖父の言葉のお陰で


父に抱えられながらでも


川を立ち戻って


帰ってくる事が出来た。



しかし、その「命の代償」は大きかった。


友人の「野方」には相変わらず反応したらしいが


私はほとんどの記憶を


失っていた。


いや思い出すという、「力」を失っていた。



妻との出会い、


妻との結婚


これから始まる結婚式


そして、


妻を愛していた事も・・・・