鬼人幻燈抄の第二話「鬼の娘」は、物語が葛野の地を離れ、江戸へと舞台を移す重要なエピソードです。第一話「鬼と人と」で描かれた悲劇的な出来事を経て、主人公・甚太は甚夜と名を変え、新たな人生を歩み始めます。本稿では、第二話「鬼の娘」のあらすじを詳細に解説し、第一話「葛野編」との繋がりを考察することで、物語全体のテーマに迫ります。
第1話の葛野編で愛する白雪を愛しい妹の鈴音によって殺害されるという凄惨な一夜を過ごした甚太は甚夜と名を変え、江戸に出ます。時は嘉永三年。
嘉永三年(1850年)という時代背景は、江戸時代末期の重要な転換点です。この年は黒船来航(嘉永6年)の数年前で、社会情勢が不安定になりつつあった時期でした。歴史的には佐藤信淵、小泉八雲、星亨が生まれ、高野長英と国定忠治が亡くなった年でもあります。
作品がこの時代を舞台に選んだ理由は、幕末の動乱を前にした社会の不安や変化を描き出すためと考えられます。特に「鬼が出る」という噂が立ち始めていた時期であり、諸外国の影がちらつき、幕府の対応のまずさから民衆の不安が増大していました。この社会不安と怪異が身近に感じられる時代背景が、鬼と人間の物語に深みを与えています。
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