日本マクドナルドの1店あたり売上高は2011年12月期まで8期連続で前期を上回った。最終損益は同期まで8期連続の黒字。V字回復といってよい。同社を傘下に置く日本マクドナルドホールディングス(HD)の副会長兼最高経営責任者(CEO)に就いた04年3月からの改革が軌道に乗った結果だ。いまも第一線で戦っている。
前経営陣から引き継ぐ直前の03年12月期までは7期連続で1店舗売上高が前期を下回り、同期まで2期連続で最終損益が赤字だった。この日本最大級の外食チェーンはじり貧の状態だった。
不振の主因は「増えすぎた店舗同士による客の奪い合い」と聞いていた。だが、改めて分析するとほかの原因に気づいた。「快適な空間で手軽においしいハンバーガーが食べられる」というマクドナルドらしさを失っていたのだ。再建の軸はこの原点への回帰だった。
社長として会社に乗り込むとすぐ、グループの全社員に「いまから新しいバスが出発する」と宣言した。社内の組織、役員の人選もゼロから見直したため、急な変化に対応できず、去っていく社員も多かった。だが、就任1年目の04年12月期で最終損益を黒字転換させたことで、社内の不協和音は聞こえなくなった。
前職は米アップルコンピュータ(現アップル)の日本法人社長で、やはり“マック”を扱っていた。30年以上をIT(情報技術)業界で過ごし、飲食業は畑違い。新鮮な目で課題を見つめたからこそ変革を実現できた。
業績回復の過程で値下げはない。逆に値上げは6度ある。提供する価値(バリュー)を高めた対価だ。05年に始めたホットアップルパイなど均一価格メニュー「100円マック」を含め、常にバリューを示してきた。
日本マクドナルドの再建に携わる前、門外漢なりに飲食業の基本を学んだ。必要だと考えたのが「QSC」の徹底だ。品質(クオリティー)、接客(サービス)、清潔さ(クレンリネス)の英単語3つの頭文字だ。グループの全社員に「当面はQSCという基本以外に何もするな」と伝えた。
最高経営責任者(CEO)として最初の決算だった2004年12月期はQSCを徹底させるだけで最終損益が黒字を回復した。当たり前のことをするのが意外と難しい。
会社を長く支えてきたヒット商品を「キャッシュカウ」(お金を産む牛)と呼ぶ。何がキャッシュカウなのかを見極め、それを育てることが業績回復の基盤になる。
日本マクドナルドのキャッシュカウはもちろんハンバーガーだ。特に2枚のパテ(ハンバーグ)を3枚のバンズ(丸形のパン)で挟んだ大型の「ビッグマック」は宣伝に力を入れなくても着実に利益を生み出す優秀なキャッシュカウである。
新規事業は本業の伸びにつながらないといけない。例えば08年に普通のコーヒーよりも香り高くコクのある「プレミアムローストコーヒー」を発売すると、これ目当ての客が増え、一緒に食べるビッグマックも売れた。
09年にはビッグマックよりもボリュームの大きなハンバーガー「クォーターパウンダー」を売り出した。すでに米国にあったメニューで、日本でも過去に食べごたえのある商品が売れたこともありヒットすると確信した。発売するとビッグマックの販売も上向いた。新たな客がビッグマックの魅力に気づいたのだ。
私は社員に「客へのリサーチをもとに新メニューは企画するな」と命じている。消費者に聞くと低カロリーメニューを求める声が多いが、実際に売れる商品は違う。体形を気にするはずの若い女性も、店頭ではクォーターパウンダーのようなボリューム満点のメニューをほお張っている。
外食産業は人材が最大の資産。続いて商品、店舗の順で重要だ。これを間違えると大変なことになる。低迷期の当社は人材育成よりも店舗拡大を優先してしまった。
良い人材を採用するには賃金を上げるだけでは足りない。働くことにプライドが持てるようにしなければならない。従業員の満足度が上がれば離職率は下がる。するとサービスの質が向上して顧客満足度が上がり、業績も上向く。客だけでなく従業員にもやさしい企業を目指すべきだ。
それには店長の力量を高める必要がある。それ次第で離職率や売上高が大きく変動する。そこで2010年に導入したのが「インセンティブ・プログラム」と名付けた独自の成果報酬制度だ。
店舗売上高や覆面調査員の評価により報酬が変動する仕組み。年収で大きな差がつくこともある。店長が何をすべきかを主体的に考え、スタッフと共に成長できる。
店長やその下のマネジャークラスの従業員は日本マクドナルドの本社内にある「ハンバーガー大学」という教育施設で店舗運営を学べる。ほかのスタッフの教育にも投資を続けている。09年には携帯ゲーム機「ニンテンドーDS」を使った研修システムを導入した。
タッチパネル式の操作画面を通じ、実際に店舗での作業を学ぶことができる。例えばフライドポテトの調理を疑似体験することで、どの機器をどの順番で操作するかを学べる。理解度の採点機能で高得点を得るまでは店に立てない。若い人には身近なゲーム機なので効率は高く、研修期間を大幅に短縮できている。
最高経営責任者(CEO)に就いた2004年当時、すでに店舗では注文を受けてからハンバーガーなどを調理する新システムの導入を進めていた。作り置きをやめることで売らずに廃棄する商品を減らし、客が喜ぶ作りたてを提供できる優れた仕組みだと思った。
その時点で全国に約4千店あったが、新システムを使っていた店は半分以下。全店に普及させるにはさらに3年半かかる計画だったが、それを半年に縮めさせた。
現場は「絶対に無理」と悲鳴を上げた。だが、ふたを開けてみれば、期待通りに半年でほぼ全店への導入を達成した。
「機械の調達が間に合わない」と報告してきた社員に「私が直接かけ合ってやる」と答えたことがある。驚いた社員は私の申し出を断り、期限に間に合うように交渉をまとめてきた。不可能と考えた計画を実現したことで社員は「やればできる」と実感したはずだ。
私は行動を起こす前に「できない」とあきらめることが大嫌いだ。06年に初めて24時間営業の店舗を展開した時も、社内で反対の声が上がることを予測、そうなる前に独断で発表した。当時は幹部社員にもマクドナルドの深夜営業でどれだけの利益をあげられるか懐疑的な見方が多かった。しかし、ライフスタイルの多様化などを根拠に成功させる自信はあった。
24時間営業は全国の約20店で始め、11年末には約1800店に増えた。全店の半分強にあたる。いつでもどこでもおいしいハンバーガーが食べられる便利さを提供した。こうして新たな価値を生み出している。
会社は成長を続けなければならない。これまでは「当たり前のこと」をするだけで業績が伸びたが、今後はしっかりと頭を使い、戦略を立てなければしくじってしまう。
2012年前半(1~6月期)は既存店売上高が前年同期を下回るなど苦戦した。短期的に業績を上向かせるための施策も大切だが、先を見据えた投資も歯を食いしばって続ける必要がある。
次の成長戦略の基盤にすえるのがフランチャイズ改革だ。全国約3300店のマクドナルドの大半は日本マクドナルドとフランチャイズ契約を結ぶ法人や個人のオーナーが保有する。オーナーはかつて約400人いたが、11年末時点で200人程度に減らした。
今後は店舗に積極投資をする考えだ。この方針に賛同してくれるオーナーには残ってほしい。1人のオーナーに従来より多くの店舗を運営してもらうので、経営や投資の効率を上げることができる。小規模な店は統廃合して大型店を増やす。
その後は店の規模の大きさを生かす戦略を実行する。具体策の1つが12年7月に東京の原宿表参道店など一部の大型店で始めた本格的なカフェコーナー「マックカフェ バイ バリスタ」だ。
ハンバーガーのカウンターとは別に、コーヒー専門の店員がいるカフェカウンターを設ける。ショーウインドーにはケーキも並び、カフェラテなど本格的なメニューをほかのチェーン店より割安に楽しめる。新たな客を呼び込み、かき入れ時のランチタイムを過ぎた時間帯で増収を目指す。
これと並行し、拡大する中食(なかしょく)需要を取り込むため、宅配サービスをする店を増やす。雨の日や、オリンピックなど人気イベントのテレビ中継がある日は店舗売上高が落ちることが多いが、その分を補うこともできる。店の稼働率を高めると同時に、客の利便性を向上させる工夫でもある。
前経営陣から引き継ぐ直前の03年12月期までは7期連続で1店舗売上高が前期を下回り、同期まで2期連続で最終損益が赤字だった。この日本最大級の外食チェーンはじり貧の状態だった。
不振の主因は「増えすぎた店舗同士による客の奪い合い」と聞いていた。だが、改めて分析するとほかの原因に気づいた。「快適な空間で手軽においしいハンバーガーが食べられる」というマクドナルドらしさを失っていたのだ。再建の軸はこの原点への回帰だった。
社長として会社に乗り込むとすぐ、グループの全社員に「いまから新しいバスが出発する」と宣言した。社内の組織、役員の人選もゼロから見直したため、急な変化に対応できず、去っていく社員も多かった。だが、就任1年目の04年12月期で最終損益を黒字転換させたことで、社内の不協和音は聞こえなくなった。
前職は米アップルコンピュータ(現アップル)の日本法人社長で、やはり“マック”を扱っていた。30年以上をIT(情報技術)業界で過ごし、飲食業は畑違い。新鮮な目で課題を見つめたからこそ変革を実現できた。
業績回復の過程で値下げはない。逆に値上げは6度ある。提供する価値(バリュー)を高めた対価だ。05年に始めたホットアップルパイなど均一価格メニュー「100円マック」を含め、常にバリューを示してきた。
日本マクドナルドの再建に携わる前、門外漢なりに飲食業の基本を学んだ。必要だと考えたのが「QSC」の徹底だ。品質(クオリティー)、接客(サービス)、清潔さ(クレンリネス)の英単語3つの頭文字だ。グループの全社員に「当面はQSCという基本以外に何もするな」と伝えた。
最高経営責任者(CEO)として最初の決算だった2004年12月期はQSCを徹底させるだけで最終損益が黒字を回復した。当たり前のことをするのが意外と難しい。
会社を長く支えてきたヒット商品を「キャッシュカウ」(お金を産む牛)と呼ぶ。何がキャッシュカウなのかを見極め、それを育てることが業績回復の基盤になる。
日本マクドナルドのキャッシュカウはもちろんハンバーガーだ。特に2枚のパテ(ハンバーグ)を3枚のバンズ(丸形のパン)で挟んだ大型の「ビッグマック」は宣伝に力を入れなくても着実に利益を生み出す優秀なキャッシュカウである。
新規事業は本業の伸びにつながらないといけない。例えば08年に普通のコーヒーよりも香り高くコクのある「プレミアムローストコーヒー」を発売すると、これ目当ての客が増え、一緒に食べるビッグマックも売れた。
09年にはビッグマックよりもボリュームの大きなハンバーガー「クォーターパウンダー」を売り出した。すでに米国にあったメニューで、日本でも過去に食べごたえのある商品が売れたこともありヒットすると確信した。発売するとビッグマックの販売も上向いた。新たな客がビッグマックの魅力に気づいたのだ。
私は社員に「客へのリサーチをもとに新メニューは企画するな」と命じている。消費者に聞くと低カロリーメニューを求める声が多いが、実際に売れる商品は違う。体形を気にするはずの若い女性も、店頭ではクォーターパウンダーのようなボリューム満点のメニューをほお張っている。
外食産業は人材が最大の資産。続いて商品、店舗の順で重要だ。これを間違えると大変なことになる。低迷期の当社は人材育成よりも店舗拡大を優先してしまった。
良い人材を採用するには賃金を上げるだけでは足りない。働くことにプライドが持てるようにしなければならない。従業員の満足度が上がれば離職率は下がる。するとサービスの質が向上して顧客満足度が上がり、業績も上向く。客だけでなく従業員にもやさしい企業を目指すべきだ。
それには店長の力量を高める必要がある。それ次第で離職率や売上高が大きく変動する。そこで2010年に導入したのが「インセンティブ・プログラム」と名付けた独自の成果報酬制度だ。
店舗売上高や覆面調査員の評価により報酬が変動する仕組み。年収で大きな差がつくこともある。店長が何をすべきかを主体的に考え、スタッフと共に成長できる。
店長やその下のマネジャークラスの従業員は日本マクドナルドの本社内にある「ハンバーガー大学」という教育施設で店舗運営を学べる。ほかのスタッフの教育にも投資を続けている。09年には携帯ゲーム機「ニンテンドーDS」を使った研修システムを導入した。
タッチパネル式の操作画面を通じ、実際に店舗での作業を学ぶことができる。例えばフライドポテトの調理を疑似体験することで、どの機器をどの順番で操作するかを学べる。理解度の採点機能で高得点を得るまでは店に立てない。若い人には身近なゲーム機なので効率は高く、研修期間を大幅に短縮できている。
最高経営責任者(CEO)に就いた2004年当時、すでに店舗では注文を受けてからハンバーガーなどを調理する新システムの導入を進めていた。作り置きをやめることで売らずに廃棄する商品を減らし、客が喜ぶ作りたてを提供できる優れた仕組みだと思った。
その時点で全国に約4千店あったが、新システムを使っていた店は半分以下。全店に普及させるにはさらに3年半かかる計画だったが、それを半年に縮めさせた。
現場は「絶対に無理」と悲鳴を上げた。だが、ふたを開けてみれば、期待通りに半年でほぼ全店への導入を達成した。
「機械の調達が間に合わない」と報告してきた社員に「私が直接かけ合ってやる」と答えたことがある。驚いた社員は私の申し出を断り、期限に間に合うように交渉をまとめてきた。不可能と考えた計画を実現したことで社員は「やればできる」と実感したはずだ。
私は行動を起こす前に「できない」とあきらめることが大嫌いだ。06年に初めて24時間営業の店舗を展開した時も、社内で反対の声が上がることを予測、そうなる前に独断で発表した。当時は幹部社員にもマクドナルドの深夜営業でどれだけの利益をあげられるか懐疑的な見方が多かった。しかし、ライフスタイルの多様化などを根拠に成功させる自信はあった。
24時間営業は全国の約20店で始め、11年末には約1800店に増えた。全店の半分強にあたる。いつでもどこでもおいしいハンバーガーが食べられる便利さを提供した。こうして新たな価値を生み出している。
会社は成長を続けなければならない。これまでは「当たり前のこと」をするだけで業績が伸びたが、今後はしっかりと頭を使い、戦略を立てなければしくじってしまう。
2012年前半(1~6月期)は既存店売上高が前年同期を下回るなど苦戦した。短期的に業績を上向かせるための施策も大切だが、先を見据えた投資も歯を食いしばって続ける必要がある。
次の成長戦略の基盤にすえるのがフランチャイズ改革だ。全国約3300店のマクドナルドの大半は日本マクドナルドとフランチャイズ契約を結ぶ法人や個人のオーナーが保有する。オーナーはかつて約400人いたが、11年末時点で200人程度に減らした。
今後は店舗に積極投資をする考えだ。この方針に賛同してくれるオーナーには残ってほしい。1人のオーナーに従来より多くの店舗を運営してもらうので、経営や投資の効率を上げることができる。小規模な店は統廃合して大型店を増やす。
その後は店の規模の大きさを生かす戦略を実行する。具体策の1つが12年7月に東京の原宿表参道店など一部の大型店で始めた本格的なカフェコーナー「マックカフェ バイ バリスタ」だ。
ハンバーガーのカウンターとは別に、コーヒー専門の店員がいるカフェカウンターを設ける。ショーウインドーにはケーキも並び、カフェラテなど本格的なメニューをほかのチェーン店より割安に楽しめる。新たな客を呼び込み、かき入れ時のランチタイムを過ぎた時間帯で増収を目指す。
これと並行し、拡大する中食(なかしょく)需要を取り込むため、宅配サービスをする店を増やす。雨の日や、オリンピックなど人気イベントのテレビ中継がある日は店舗売上高が落ちることが多いが、その分を補うこともできる。店の稼働率を高めると同時に、客の利便性を向上させる工夫でもある。



