秋の京都、今年の注目は「町家」で宿泊 1万円でスイート並みも 京都ここだけの話(6)
京都の風情を代表する建物のひとつが町家(まちや)。今なお人々の暮らしの舞台ですが、最近は宿泊施設に変身して人気を集めています。
【登場人物】
東太郎(あずま・たろう、30) 中堅記者。千葉県出身。人生初の「関東脱出」で京都支社に転勤し半年。取材時もオフの日も突撃精神で挑むが、時に空回りも。「今年の夏の暑さは去年よりマシ」と聞いて驚いた。
竹屋町京子(たけやまち・きょうこ、25) 支社の最若手記者。地元出身、女性ならではの視線から、転勤族の「知識の穴」を埋める。町家泊まりがブームと聞いて、最初は「どうしてあんな暑くて寒い建物がいいの?」と不思議だった。
岩石巌(がんせき・いわお、50) 支社編集部門の部長。立場上、地元関係者との交遊も広く、支社で一番の「京都通」を自認する。現在、住んでいる13階建ての賃貸マンションは景観規制の厳しい京都市内でも有数の高さ。(登場人物はフィクションです)
■京町家1棟を貸し切り
竹屋町京子 部長、観光のことでご相談があるんですが。東京から観光に来た友人にあるホテルを紹介したんですけど「京都らしさ」に欠けると言われてしまったんです。
岩石部長 ぜいたくな友達だな。秋は京都観光のトップシーズンで、できれば避けるのが無難だと考える人もいるぐらい。宿が確保できただけでもいいじゃないか。
東太郎 今、何と言われました?紅葉は秋しか見られないんですよ!秋に京都の情緒を味わうというのは日本人の特権です。今日こそは、私のとっておきの取材成果を披露しましょう。
部長 大丈夫だろうな。おまえには何度も痛い目に遭わされているぞ。
太郎 お任せください。早速説明したいのが、最近広まっている町家を改装した宿泊施設です。京都特有の細い路地を1本入ったところにあったりして、これぞ「本物の京都」って感じで。1棟丸ごと貸し切り、というのもあります。
京子 町家といえば坪庭や木製の格子に風情があって、女性を中心に人気が高まってますね。
太郎 宿泊形態は様々です。1棟貸しタイプから、朝食のみを提供する和風旅館の片泊まりタイプ、それに大人数で相部屋に泊まるゲストハウスタイプまで、ニーズに応じて選べます。
京子 1棟貸しは特に関東からの観光客に人気があるんですよね。片泊まりは「夕食は祇園や先斗町に行きたい」という人におすすめ。ゲストハウスは1泊3000円程度からと比較的安価で泊まれるのが特徴ですね。
太郎 国内客にも人気がありますが、祇園のゲストハウス「一円相」の利用客の9割以上が外国人客というように、海外での人気も高いんですよ。すべてのタイプに共通しているのは、ゆっくり京都を楽しみたいという長期滞在派に向いている、という点でしょうか。
部長 うむ。ホテルや旅館もいいが、京都好きのリピーターには一度試してもらいたいな。我々も早速、太郎おすすめの1棟貸し町家の見学に行ってみるとしよう。
■寝室にはベッド、キッチン付きも
京子 うわー、リノベーションしてあるとさすがに奇麗ですねえ。調度品やふすま絵が京都らしさを際立たせています。
太郎 といって、すべてが和風というわけではないですね。
京子 寝室にベッドがあったりトイレが洋式だったり。エアコンもあるから助かるわ。夏は暑さ、冬は寒さがすごく厳しいのが古い木造建築の宿命なんだけど、これからの時期は過ごしやすくていいかも。
部長 風呂の窓から坪庭が眺められるというのも、心憎いな。
太郎 夕食は観光客に人気の商店街、錦市場で買ってきました。1棟貸しタイプは、キッチンはあるけど簡単な調理しかできない仕様です。広い和室があるのが特徴なんだから、気に入ったおそうざいなんかを買ってきて宴会を開くのが楽しいですよ。
部長 それにしてもキッチンに和室、寝室、それに二階まであって、まるでホテルのスイートルームだな。結構な料金じゃないのか?
太郎 人数次第です。季節にもよりますが、2人で泊まれば1人1万円強ですね。10人くらいまで宿泊できる町家もあり、それだと1人5000円程度で収まる場合もあります。
京子 宿泊可能な町家は市中心部の四条烏丸から金閣寺あたりまで、かなり広いエリアに分散しているのね。中心部から離れるほど安くなる傾向があるから、目的の観光地の近くを選ぶのがベストね。
部長 そうだな。まあ、せっかくみんなで来たんだから、ぱーっと飲もうじゃないか。今夜は無礼講だ。
太郎 ありがたいお言葉ですが、騒ぎすぎには要注意です。1棟貸しといってますが、町家は長屋のように隣に人が住んでいることもあります。それに木造建築ですから、ね。
■隠れた高収益資産
京子 京町家が絶滅寸前だという話がありますね。
部長 米国のワールド・モニュメント財団という組織が「世界危機遺産」に認定しているな。京都市の調査によると現在市内に約4万8000軒があるが、1年間で100軒以上が姿を消しているそうだ。
太郎 もったいないですね。京町家はマンション投資を上回るほどの有力投資物件だというのに。例えば、リフォームを手がける八清(京都市)が改修したある町家は、土地取得を含めた初期投資が3000万円強。低めに見積もって6割の稼働率で運営しても、約14年間で投資が回収できる計算です。持ち主が京都に旅行に来るときに別荘としての使うこともできて、経済性は高いんです。
部長 うむ。約1割、およそ5000軒が空き家になっているという京都市の調査もあるな。町家を壊して更地にすると「居住目的でない」と判断され、土地にかかる固定資産税が原則6倍に跳ね上がるという、税制上の理由も影響しているんだ。
太郎 宿泊施設にリフォームされた町家の多くは、相続上の問題などで持ち主が放棄した物件を使っていると聞きました。
京子 せっかくの歴史的遺産が、空き家になってしまうのは悲しいわ。うまく使えば地域活性化にもつながるし、ピーク時の宿泊施設不足の対策にもなりそうだけど。
太郎 法律上の問題もあります。旅館業法上の「簡易宿泊施設」の体裁を整えるため、この1棟貸し町家のように玄関脇に実際は不要な帳場スペースを設けたり、宿泊者用と従業員用ということでトイレが2つ必要だったりするんです。
部長 空間の無駄遣い、改修費の高騰というデメリットがあるわけか。せっかくの有効活用法が阻まれているなら、京都にとって大きな損失だな。
京子 町家に関する規制緩和は菅政権時代に内閣府の有識者会議がまとめた「日本を元気にする規制改革100」にも盛り込まれたの。でも、その後はうやむやになってるわね。
京都の風情を代表する建物のひとつが町家(まちや)。今なお人々の暮らしの舞台ですが、最近は宿泊施設に変身して人気を集めています。
【登場人物】
東太郎(あずま・たろう、30) 中堅記者。千葉県出身。人生初の「関東脱出」で京都支社に転勤し半年。取材時もオフの日も突撃精神で挑むが、時に空回りも。「今年の夏の暑さは去年よりマシ」と聞いて驚いた。
竹屋町京子(たけやまち・きょうこ、25) 支社の最若手記者。地元出身、女性ならではの視線から、転勤族の「知識の穴」を埋める。町家泊まりがブームと聞いて、最初は「どうしてあんな暑くて寒い建物がいいの?」と不思議だった。
岩石巌(がんせき・いわお、50) 支社編集部門の部長。立場上、地元関係者との交遊も広く、支社で一番の「京都通」を自認する。現在、住んでいる13階建ての賃貸マンションは景観規制の厳しい京都市内でも有数の高さ。(登場人物はフィクションです)
■京町家1棟を貸し切り
竹屋町京子 部長、観光のことでご相談があるんですが。東京から観光に来た友人にあるホテルを紹介したんですけど「京都らしさ」に欠けると言われてしまったんです。
岩石部長 ぜいたくな友達だな。秋は京都観光のトップシーズンで、できれば避けるのが無難だと考える人もいるぐらい。宿が確保できただけでもいいじゃないか。
東太郎 今、何と言われました?紅葉は秋しか見られないんですよ!秋に京都の情緒を味わうというのは日本人の特権です。今日こそは、私のとっておきの取材成果を披露しましょう。
部長 大丈夫だろうな。おまえには何度も痛い目に遭わされているぞ。
太郎 お任せください。早速説明したいのが、最近広まっている町家を改装した宿泊施設です。京都特有の細い路地を1本入ったところにあったりして、これぞ「本物の京都」って感じで。1棟丸ごと貸し切り、というのもあります。
京子 町家といえば坪庭や木製の格子に風情があって、女性を中心に人気が高まってますね。
太郎 宿泊形態は様々です。1棟貸しタイプから、朝食のみを提供する和風旅館の片泊まりタイプ、それに大人数で相部屋に泊まるゲストハウスタイプまで、ニーズに応じて選べます。
京子 1棟貸しは特に関東からの観光客に人気があるんですよね。片泊まりは「夕食は祇園や先斗町に行きたい」という人におすすめ。ゲストハウスは1泊3000円程度からと比較的安価で泊まれるのが特徴ですね。
太郎 国内客にも人気がありますが、祇園のゲストハウス「一円相」の利用客の9割以上が外国人客というように、海外での人気も高いんですよ。すべてのタイプに共通しているのは、ゆっくり京都を楽しみたいという長期滞在派に向いている、という点でしょうか。
部長 うむ。ホテルや旅館もいいが、京都好きのリピーターには一度試してもらいたいな。我々も早速、太郎おすすめの1棟貸し町家の見学に行ってみるとしよう。
■寝室にはベッド、キッチン付きも
京子 うわー、リノベーションしてあるとさすがに奇麗ですねえ。調度品やふすま絵が京都らしさを際立たせています。
太郎 といって、すべてが和風というわけではないですね。
京子 寝室にベッドがあったりトイレが洋式だったり。エアコンもあるから助かるわ。夏は暑さ、冬は寒さがすごく厳しいのが古い木造建築の宿命なんだけど、これからの時期は過ごしやすくていいかも。
部長 風呂の窓から坪庭が眺められるというのも、心憎いな。
太郎 夕食は観光客に人気の商店街、錦市場で買ってきました。1棟貸しタイプは、キッチンはあるけど簡単な調理しかできない仕様です。広い和室があるのが特徴なんだから、気に入ったおそうざいなんかを買ってきて宴会を開くのが楽しいですよ。
部長 それにしてもキッチンに和室、寝室、それに二階まであって、まるでホテルのスイートルームだな。結構な料金じゃないのか?
太郎 人数次第です。季節にもよりますが、2人で泊まれば1人1万円強ですね。10人くらいまで宿泊できる町家もあり、それだと1人5000円程度で収まる場合もあります。
京子 宿泊可能な町家は市中心部の四条烏丸から金閣寺あたりまで、かなり広いエリアに分散しているのね。中心部から離れるほど安くなる傾向があるから、目的の観光地の近くを選ぶのがベストね。
部長 そうだな。まあ、せっかくみんなで来たんだから、ぱーっと飲もうじゃないか。今夜は無礼講だ。
太郎 ありがたいお言葉ですが、騒ぎすぎには要注意です。1棟貸しといってますが、町家は長屋のように隣に人が住んでいることもあります。それに木造建築ですから、ね。
■隠れた高収益資産
京子 京町家が絶滅寸前だという話がありますね。
部長 米国のワールド・モニュメント財団という組織が「世界危機遺産」に認定しているな。京都市の調査によると現在市内に約4万8000軒があるが、1年間で100軒以上が姿を消しているそうだ。
太郎 もったいないですね。京町家はマンション投資を上回るほどの有力投資物件だというのに。例えば、リフォームを手がける八清(京都市)が改修したある町家は、土地取得を含めた初期投資が3000万円強。低めに見積もって6割の稼働率で運営しても、約14年間で投資が回収できる計算です。持ち主が京都に旅行に来るときに別荘としての使うこともできて、経済性は高いんです。
部長 うむ。約1割、およそ5000軒が空き家になっているという京都市の調査もあるな。町家を壊して更地にすると「居住目的でない」と判断され、土地にかかる固定資産税が原則6倍に跳ね上がるという、税制上の理由も影響しているんだ。
太郎 宿泊施設にリフォームされた町家の多くは、相続上の問題などで持ち主が放棄した物件を使っていると聞きました。
京子 せっかくの歴史的遺産が、空き家になってしまうのは悲しいわ。うまく使えば地域活性化にもつながるし、ピーク時の宿泊施設不足の対策にもなりそうだけど。
太郎 法律上の問題もあります。旅館業法上の「簡易宿泊施設」の体裁を整えるため、この1棟貸し町家のように玄関脇に実際は不要な帳場スペースを設けたり、宿泊者用と従業員用ということでトイレが2つ必要だったりするんです。
部長 空間の無駄遣い、改修費の高騰というデメリットがあるわけか。せっかくの有効活用法が阻まれているなら、京都にとって大きな損失だな。
京子 町家に関する規制緩和は菅政権時代に内閣府の有識者会議がまとめた「日本を元気にする規制改革100」にも盛り込まれたの。でも、その後はうやむやになってるわね。