筆者は、企業の採用に関わる仕事を20年以上行い、書籍も出版しています。毎年思うことは「新卒採用ほどムダなものはない」ということ。「人生の時間のムダ」になりかねません。
■エントリーは片っ端から、ESはコピペ
就活関連書籍を読むと、企業へのエントリーを絞ることが推奨されています。絞ることで企業研究の時間が取りやすくなり、注力できるメリットはあるかも知れません。しかし、エントリーを絞ると、チャンスを棒に振る危険性があることを理解してください。
筆者は、学生に講義をする際、「エントリー時は可能な限り多くの企業に申し込むように」と指導しています。それが内定を取得する近道だからです。エントリーをしないことは、可能性を自ら放棄することと同じです。
エントリーしても「受験しきれない」という学生もいると思います。全てを受験する必要はありません。企業はエントリー数に応じて説明会の準備をするので、数日前にキャンセルをすれば問題ありません。聞かれても、詳細な理由など説明する必要性すらありません。
効率良く就活を進めるには、ESにかける時間を削減することです。最初の段階で人事担当者にESが読まれることはまずありません。せいぜい、個人面接に移行してからです。さらに、ESの内容が素晴らしくても内定に及ぼす影響度は微小です。そんなものに時間をかけるのはムダというものです。
就活を効率良く乗り切るには、業界別に数パターンのESを用意しておけばよいでしょう。内容も時間をかけて差別化しようなどとは考えないことです。自分が思うほど、差別化したESなど書くことはできません。内容は平易なもので十分です。
ESのようなものに時間をかけるから、お祈りメールが来た時にショックを受けるのです。エントリーするために最低限の体裁を整えておけば、問題はありません。自信があるESを業界別にコピペして用意してください。
■ESが読まれない理由を客観視する
人気企業であれば、数万人程度のエントリーが殺到します。採用数にかかわらず、人事担当者は数名体制が一般的です、2名体制として、1万人のESを読み込むのにどの程度の時間がかかるのでしょうか。試算してみましょう。
1枚を約2分と仮定しましょう。読んだ後に採点を1分として合計3分。1時間でこなせるのは20枚程度です。1日の実働を8時間として考えて160枚。1万人のESを採点するのに63日かかることになります。1カ月の稼働を20日とすると、ざっと3カ月かかります。2名体制でも1カ月半はかかります。
結局、全てのESを読むことは非効率ですから、学歴フィルターでスクリーニングしなければ、採用担当者は対応できません。ESに時間をかけることは極めて非効率なのです。
なぜ、これらの事実を企業は明らかにしないのでしょうか?学生は企業にとって大切なお客様だからです。自社の商品を買っていただけるお客様に、失礼な対応はできないものです。仮に不合格になったとしても、ネガティブな印象を持つことなくフェーズアウトしてもらうことが求められます。そのためには厳選採用を演出しなくてはいけません。
また、学生にとって身近な存在である「就職ナビ」は、申し込み企業が掲載料を支払い、情報を掲載しています。学生と企業をマッチングする存在ではありませんから、申し込み企業にとって不要な情報を公開することはしないでしょう。
■就活の「ステマ」に気をつけろ
新卒採用には道義的な問題が存在します。いわゆる「ステマ」です。ステマが目につくのは、何も通販やネット商材の世界だけではありません。就活におけるステマが増えているように思います。例えば、就活レポートなどがそれに該当します。
人気企業ランキングなどはその代表的なものです。ソースを見ると、自社サイトの登録者に対してリサーチをかけたとありますが、個人情報保護の観点から本人確認ができないので、ソースを信頼することはできません。レポートを読むと、自社のサービスを利用しているお客様が上位にランキングされていることがよくあります。
以前、就活事業を展開している数社に対して、レポートに明らかな疑問があったので、質問をしたことがあります。「ソースは何ですか? 有意性分析はされていますか?」。運良く数社の担当者と話せましたが、有意性分析などは実施されていませんでした。
もはや、建前ではなく本音の議論が必要ではないでしょうか。今回のおさらいをしましょう。
(1)企業は片っ端からエントリーすること
(2)ESはコピペすること
(3)新卒採用はステマだと理解すること
情報を十分に精査して就活に挑んでください。学生の皆さまの成功を祈っています。
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尾藤克之(BITO Katsuyuki)
コラムニスト、著述家、明治大学客員研究員