「伝え方が9割」という本がありましたが、伝えるポイントを絞ることは非常に大切です。とくに、就職活動の自己PRや職務経歴書、商品のプロモーション用の文章などの場合、アピールポイントを特に明確しなければいけません。


たとえ自分によいところがたくさんあったとしても、それを羅列しただけでは採用担当者やお客様の目には留まることはないでしょう。一番の「売り」になるポイントを積極的にアピールすることで、初めて読者に伝わります。


たとえば、同じ介護ボランティアのサークルに所属していたA君とB君。あなただったら、どちらを採用しますか?二人の自己PRを見てみましょう。

(A君)
私が学生時代に最も力を入れたのはサークル活動の介護ボランティアです。2017年の4月に入会して、2020年の9月に引退しました。1年生のときは、大学近くの老人ホームにお邪魔して、被介護者と一緒にお話をしたり、食事の介助を手伝ったりしました。2年生のときは、高齢者の皆さまに楽しんでもらおうと演奏会を計画しました。3年生のときは、より多くの人に介護ボランティアに親しんでもらおうと、行政と連携して、市民向けの介護体験イベントを企画しました。

(B君)
私が学生時代に最も力を入れたのはサークル活動の介護ボランティアです。私が介護ボランティアを通じて、心がけたことは、一つひとつの所作をできる限り丁寧に行うことです。介護を受ける方々の多くは、「もっとこうしてほしい」という要望がありつつも、「介護を受けている」という意識があるため、本音を言いづらいです。そのような負担をかけないためにも、食事の介助やイベントを開催したときなど、常日頃よりも笑顔で丁寧に接することで、皆さまに楽しんでもらえるよう心がけました。

A君の文章は3年間の活動の概要にとどまっていますが、B君は「介護ボランティアを通じて何を学んだか」に焦点を絞っています。そのため、B君の自己PR文のほうがB君の人柄や考え、思いなどが伝わってきます。
 

A君の文章はこれ以上改良できないのでしょうか?A君の文章もポイントをしぼれば、もっと伝わる文章に変化します。たとえば、現在は3年間の活動をただ並べているだけですが、そのうちの一つにスポットライトを当ててみたら、どう変わるでしょうか?

(A君)
私が学生時代に最も力を入れたのはサークル活動の介護ボランティアです。特に印象的なのが3年生のときに経験した市民向けの介護体験イベントの企画です。私は幼い頃から曾祖父や祖母と同居していたため、高齢者と一緒の生活に慣れ親しんでいました。しかしイベント開催を通じて、世の中の核家族化が進み、高齢者と触れ合う機会がほとんどない人が多いことに驚きました。この経験を通じて、介護の技術を上げるだけでなく、高齢者とのコミュニケーションの取り方についても伝えていきたいと思いました。

ただ毎年の活動内容を並べていただけの文章よりも、一つの出来事について深く掘り下げていったほうが、A君の育ってきた環境や考え方が見えてくると思いませんか?
 

さまざまな体験をすると、いろいろと書きたくなりますが、相手に「伝える」という意味では、ポイントはしぼったほうが得策です。相手に伝えたいことは何か? まず考えてから、中心となるエピソードを選びましょう。

 


6月8日、17冊目バズる文章」のつくり方(WAVE出版)を上梓しました。

よろしければ、ぜひお手にとってみてください!

 

尾藤克之(BITO Katsuyuki)
コラムニスト、著述家、明治大学客員研究員