エピソードを効果的に使うと思いが伝わることは良く知られている。例えばある地域では最近、マンションの建設工事の騒音が大きな問題になっていたとする。明日、当該地域の住民を対象にした説明会を実施することになった。
「同じ地域の住民トラブルは良くないと思うのです。このような問題はマンション建設会社が率先して解決しなければいけない問題と考えています」と、事実を伝えているだけであまりリアリティがないから伝わらない。
では次のようにスピーチをしたらどのように感じるだろうか。
「私がまだ幼い頃、実家と隣のマンションとの間で小さなトラブルがありました。工事の音がうるさくて寝られないんですよ。解決しないままマンションが建ちましてね。そうすると、マンションの住民とも上手くいかなくなるんですよ。ある日は布団が飛んできましてあれは危ないなんてもんじゃないです。私も経験者なので、皆さんのお気持ちは察するものがあります」。
エピソードを使うとリアリティが増幅されて気持ちが伝わっていく。
例えば、マンション会社の担当者が最初の説明をしても響かないが、エピソードの説明をすれば住民は聞く耳を持とうとするだろう。やはり自分の言葉で語らなくては気持ちが届かない。さらにエピソードを効果的に醸成させるテクニックも存在する。
それはスピーチの中に印象に残る言葉、インパクトのあるキーワードを盛り込むことである。人はスピーチの内容を記憶はしていない。しかしインパクトのある言葉やキーワードはメッセージとして記憶している。
これは歴史が物語っている。
アメリカのリンカーン大統領の「Government of the people, by the people, for the people」、キング牧師の「I have a dream」、オバマ大統領の「Yes,We can」など、聞き手の脳裏に刻まれやすい、短くインパクトのある言葉である。
そして最後は態度が重要になる。スピーチの中での話し手の夢や情熱、そこに息づく生の感情を表現したときに、話し手と聞き手との間には共感が生まれる。
小泉元首相の「構造改革」「自民党をぶっ壊す」「郵政民営化」も同じ類のものだろう。聴衆の心にどのように話せばメッセージが伝わるのか計算しながら、客観的に伝えたいことを伝えられれば、相手を納得させることは容易である。
このテクニックは文章にも応用することができる。
エピソードを使いながら文章を書いてみよう。
6月8日、17冊目「バズる文章」のつくり方」(WAVE出版)を上梓しました。
よろしければ、ぜひお手にとってみてください!
尾藤克之(BITO Katsuyuki)
コラムニスト、著述家、明治大学客員研究員