●まず「誰に向けた文章なのか?」を明確にする
情報感度は読者によってレベル差があります。たとえば、営業マンに経理の話をしても興味を持たれないかもしれません。研究職の人にお客さま相談の話をしてもミスマッチでしょう。

 

ところが、起業を予定している営業マンなら、経理や管理、総務のことも、ある程度、知っておく必要があります。自分が実務としてではなく、外注するにしても、だまされない知識を最低限持っておくことが大切だということになります。


しかし、経理の記事を書いたとしても「営業マンで起業する人」に届くとは限りません。細かくセグメントして伝えようと思ってもリーチできないからです。ですから、大きなくくりでユーザーをイ
メージすることは大切ですが、細かいセグメントまでは不要ということになります。


私は記事を構成する際「自分/相手」×「主題」×「様式」を意識します。

この三角形がうまく機能したときに「バズる」につながります。では詳しく説明しましょう。

〈自分/相手〉
「この人の記事なら読みたい」「これはこの人しか書けない」という度合いです。取材記事なら、この人の記事なら誰もが読みたがる、その分野のエキスパートと称される人になります。


一般的にこの人の記事なら間違いなく読まれるというのもありです。パッと思い浮かんだのが、眞子様や小室圭さん。独占取材になれば必ず多くの人が見ると断言できます。


また、仕事でくくってもかまいません。医師、歯科医、弁護士、ジャーナリスト、コラムニスト、作家など、誰が聞いてもわかる仕事であることが望まれます。


〈主題〉
テーマや内容のことです。今なら新型コロナウイルスが世界的に関心を集めています。緊急事態宣言の発出により自粛生活が余儀なくされ、私たちの生活に影響を与えています。
 

新型コロナウイルスを主題にする場合、芸能人やスポーツ選手が解説しても説得力がありません。まったく無名の医師や歯科医が専門性を担保した説明をしてもまだ不十分でしょう。

 

しかし、政府分科会の尾身会長の解説なら説得力があると思います。メディアへの露出度が高い、西村経済担当相も同様の効果があるでしょう。


また、「切り口」も重要です。かつて“ 不治の病”と呼ばれた「結核」という感染症があります。日本では1950年まで死因の第1位でした。新選組の沖田総司、歌人の石川啄木、詩人の中原中也、小説家の樋口一葉など多くの有名人の命が奪われています。その後、医療や生活水準の改善により怖い病気ではなくなりました。


明治初期に「結核は怖くない—100パーセント治る」という本があったらベストセラーになったと思います。しかし、今同じテーマの本が出たとしても売れないでしょう。結核菌は結核患者の出す咳やくしゃみの飛沫が、別の人の肺に吸い込まれることによって感染します。


令和の時代、「結核は怖くない— 100パーセント治る」では響きませんが、次のようにしたらどうでしょうか? 印象がかなり変わるはずです。


「怖い感染症から身を守る方法」
「感染症にかかりやすい習慣を改善する」


「怖い感染症から身を守る方法」ですから、健康法としてほかにも応用できそうです。
 

ほかのケースで考えてみます。江戸時代に「モテる着物の着方」という本が出たら非常に注目されたと思います。江戸時代は着物が普段着として定着していたからです。ですが、今同じテーマの本を出しても、ほとんど注目されないでしょう。


この場合は、「結核は怖くない—100パーセント治る」を「怖い感染症から身を守る方法」や「感染症にかかりやすい習慣を改善する」に変換したような置き換えが必要です。


「日本文化と服装の変化」
「モテ服の変化」

 

江戸から令和を分析する」まだ改善の余地はありますが、「着物」=「ダサい、古い」といった印象は消えます。「着物」=「日本文化」とすることで広い捉え方が可能になりました。


〈様式〉
様式は体裁のことです。専門書にありがちな難しい内容は一般的には受け入れられません。先ほど紹介した結核の本が、専門的だったらハードルを下げればいいのです。


最近多い、「マンガでわかる◯◯」「図解◯◯」はわかりやすさを追求した体裁です。わかりやすい例では、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(岩崎夏海、ダイヤモンド社、2009年)が挙げられます。


主人公のみなみ(女子マネージャー)は、書店で「マネジメント本」を購入します。野球部の運営に使えると思った主人公は野球部でマネジメントを実践し、甲子園を目指します。この頃合いが絶妙だったのでしょう。本書は大ヒットを記録し350万部を超えたのです。


ドラッカーのマネジメント論は一般的ではありません。普通に読んでも難解すぎて理解できなかったという人はかなりの割合になると思います。
 

私は社会人になってから経済と経営学を学び、経済学修士、経営学修士を取得しています。その際ドラッカーの『マネジメント論』は必須科目でしたが、すべてを理解できたとは言い難いというのが正直なところです。


「もし高校野球の女子マネージャー〜」の内容はドラッカー本人の主張とはかけ離れているという辛辣な意見もあります(amazonレビューを見ればよくわかります)が、多くの人がドラッカーを知る契機になった1冊と考えれば、社会的意義は大きかったのです。


●「ここでしか読めない」というベネフィットを提供する
私は、「自分/相手」×「主題」×「様式」のバランスがよかったときに「バズる」が発生すると述べました。あとは、プレミアム感があることが大切です。たとえば、アメブロの「アメンバー」などは同じようなプレミアム感(あなただけが読める)を意識したものです。


まずは、「自分/相手」×「主題」×「様式」のバランスを考えること。これがいい状態のときに初めて「バズる」が発生します。また、すべての記事はこの3象限で分類できるはずです。

 


※17冊目となる、「バズる文章」のつくり方」(WAVE出版)を上梓しました。

尾藤克之(BITO Katsuyuki)
コラムニスト、著述家、明治大学客員研究員