聴衆にとっての親しみやすさは政治家が支持される大きな要素だといわれています。自民党の小泉進次郎環境大臣は、方言を使ったスピーチが上手いといわれています。彼のスピーチを聞くと、集まった聴衆は、あっという間に彼のフアンになってしまいます。

 

彼のスピーチには、いくつかの「法則」があります。第一が「地元言葉」による挨拶です。第二が対抗陣営が強い選挙区では方言を封印するなど柔軟な対応ができることです。


田中角栄元首相の長女である田中真紀子元代議士は東京・目白の生まれで、小学校、中学校、高校、大学まで東京です。馴染みがないはずなのに、見事な新潟弁を使って、地元・新潟県民の心を捉えています。

 

地方には、外部からの影響をほとんど受けない閉鎖的な地域社会が多くあります。地域とのコミュニケーションのツールとしての標準語が形成される契機がなく、各地で独自の語彙・文法等が発達しました。これが方言のゆえんといわれています。


例えば、幕藩体制が敷かれた江戸時代においては、各藩が一つの行政単位というよりも、半ば独立国のような形でした。庶民レベルでは他の藩と交流はなかったので、その藩内で言葉が通じれば用が足りていたわけです。

 

地域独自の言語ですから、上手く方言を喋ることができれば地域の人からは好意的に受けとめられることは間違いないのです。


政治家は有権者の支持が得られなければ当選できません。そのためには親しみの演出は不可欠です。選挙区に入れば普段の平常時には標準語で会話をしていても、地元の言葉や方言を活用します。

 

そして選挙区の中では高級車を利用してはいけません。


東京では高級車を乗ることが多い政治家も、選挙区内ではかなり旧型の車を乗り回し庶民派をアピールします(なぜか、旧型のセドリックやグロリア、カローラが定番です)。議員秘書は先生よりさらに数段型落ちの車を乗ることになります。


ある政治家の選挙区が農村部だったとしましょう。田んぼや畑での、モミまきや種まき、あるいは稲刈りや収穫の時期、農家は総出で農作業に精を出しています。

 

ある候補は、農作業をしている有権者の皆さんに大声で手を振りながら「皆さん~調子はどうですか?」「実りはどうですか?」と声を掛けながら、ズボンをたくし上げて、靴のまま水に触れながら田んぼや畑に降りていきます。


農家の方はビックリ、

 

「先生。私たちがそちらに参りますから。あー靴が、洋服が汚れてしまいます。やめてください」。

 

先生はすかさず、

 

「何を言うか。そんなことは関係ねえべ。今は農作業の忙しい時期ずら~。だから話を聞いてもらうのに、靴や洋服なんか、そんなのまったく関係ないべ!」

 

と大声を発しながら歩いてきます。


農家の皆さんは大感激です。「先生には私たちが付いています。頑張ってください!」と心に誓うのです。この話にはオチがあります。

 

先生は、車に戻るとすぐにズボンも靴も履き替えます。実は、選挙カーの中にはエナメル製の安い靴が何足も用意されています。そして、替えのズボンも何着も用意されています。場所を変えながら、同じような光景は何回も繰り広げられることになります。


真夏でもネクタイ着用でスーツを脱がない。真冬の日もコートを着ない。雨の日も雪の日も傘をささない。地元を高級車では走らない。政治家の基本中の基本なのです。

 


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尾藤克之(BITO Katsuyuki)
コラムニスト、明治大学客員研究員

16冊目の著書。「頭がいい人の読書術」(すばる舎)を上梓しました。