政治家や議員秘書は、なぜ、普段からダーク系のスーツを着込んでいるのでしょうか。これには諸説がありますが、いつでも葬儀に出られるようにしているためという説があります。
冠婚葬祭は人生の一大イベントです。結婚式は事前に日時を決めておくことが可能ですが、葬儀だけは突発的で全く予測が付きません。
冬場は葬儀の件数が他の時期に比べて断然多くなります。各都道府県の広報資料を見れば、出生の数に対してお悔やみの数が圧倒的に多いのでその傾向がよくわかります。
田中角栄が通商産業大臣(現経済産業大臣)だったときのエピソードです。通産省として最も大切な産業構造審議会で挨拶する予定でしたが、審議会に出向く前「おい、今日は誰かの葬式がなかったかね」と秘書に尋ねました。
確かにその日、角栄の関係者の葬儀がありましたが、秘書は審議会を優先して、スケジュールを入れていませんでした。すると、大臣はこう言いました。
「結婚式だったなら君の判断は正しい。新郎新婦にまた日を改めて会いに行けばいい。だが、葬式は別だ。亡くなった人との最後の別れの機会だ。今日がダメならなぜ昨日、お通夜の日程を組まなかったのか」
田中大臣は審議会の前に時間を調整して、葬儀に向かいました。
悲しみに打ちひしがれているときのお悔やみは効果があります。田舎では都会とは異なり親族との結び付きも強いので、不幸があれば、葬儀に駆け付けることが当たり前です。
葬儀で顔を売ることも大切な仕事です。葬儀参列が後々の仕事にもつながっているのです。パフォーマンスと言われてしまえばそれまでですが、ここまで堂々と誠意をもってやれば嫌味にはなりません。
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尾藤克之(BITO Katsuyuki)
コラムニスト、明治大学客員研究員
16冊目の著書。「頭がいい人の読書術」(すばる舎)を上梓しました。