議員は有権者から多くの陳情を受けます。陳情については賛否ありますが、議員は「陳情=票」と考えるのが一般的です。受けるのが基本スタイルではないかと思います。


例えば、選挙区に住んでいるAさんの子供が学校で怪我をしたとします。学校側の管理ミスなのでもすぐに謝罪を行いました。治療費はすぐに確定しますが慰謝料でトラブルが発生します。というのも事故後、Aさんは子供をタクシーで送迎するようになったからです。

 

学校側から「タクシーを利用する必要があるのか」とチェックが入ります。証明書の提出を求められてAさんは憤慨します。そして、国会議員のところに陳情として話を持ち掛けます。実はこのような話はよくあります。


また、新聞などでよく目にする、就職あっせんや有名大学の裏口入学について聞いたことがある人もいるかと思います。そのようなことをやっていた秘書はいるかもしれませんが、それは秘書として下の下です。プロフェッショナルな秘書はそのようなことはしません。

 

現在、衆議院は465人、参議院は248人と規定されていますが、国会議員の事務所がこのようなことをしていたとしたら、モラルを世間から問われることでしょう。たとえ有力な支持者からのお願いであったとしても、そのような違法行為が露見したら有権者からの信頼を落とすだけです。違法行為を隠し通せるほど世間は甘いものではないのです。


しかし、議員としては有力な支持者を無視できないのも事実です。その方が議員を見限ったら票がなくなります。そのため、どのような陳情でも、素直に「わかりました」と答え、お受けするのです。議員秘書としては支持者からあった要望に対しては「是」と答えるのが、議員のイメージを悪くしない唯一の答えだからです。

 

もし、支持者が裏口入学を依頼したとしましょう。秘書は「わかりました」とだけ伝えておいて、ほっとくでしょう。違法行為には及びません。その結果、大学に合格できなかったとしても、それでよしとします。ただ、ここからがプロの腕の見せ所です。
 

議員秘書は支持者の前でこう言います。「本当に申し訳ございません。今回は私の力不足でした」と、失意と怒りで満ちあふれている支持者に伝えます。「全ては私の一存であり、私の力不足」と言うのです。このようなケースでは、依頼した方も後ろめたい気持ちがあります。そこまで平謝りされれば、たいていは支持者も矛を収めると思います。

 

ただ、それでも怒りが鎮まらないような相手なら、危険性があると考えて、別途、対策を考える必要が出てきます。これは、陳情に限ったことではありません。一旦は承る姿勢は非常に大切です。即答で「それは無理だから」と断られたら相手はどう思うでしょうか。

 

難しい依頼だとしても一旦承ってから断ったほうが角が立ちませんし、相手の感情に対しても「検討はしてくれたんだ」という印象を与えられますから失礼には当たりません。
 

このようなスタンスで取り組むことは、普通の仕事をするうえでも大切ではないかと思います。意思決定は早いほうが良いに越したことはありませんが、それは相手の気持ちを充分に考慮したものでなくてはいけないからです。

 


いつもお読みいただき有難うございます!

フォローはお済みですか?

尾藤克之(BITO Katsuyuki)
コラムニスト、明治大学客員研究員

16冊目の著書。「頭がいい人の読書術」(すばる舎)を上梓しました。