写真をモチーフ(美術用語で題材のこと)に絵を描くのは今では当たり前の事ですが、あの有名なピカソが1917年(大正時代ごろ)当時、少なくとも自分の奥さんのポートレートを参考に肖像画を描いたことはあまり一般には、特に日本ではいまだに知られていないのではないでしょうか?



ピカソというとキュビズム風の、鼻が横を向いていたり、目が斜めに並んでいたりの絵を想像する人が多いでしょうが最初の奥さんオルガと結婚して間もないころそういういわゆる難しい絵と並行して、分かりやすい家族の肖像画も描いていました。



この絵で面白いのは、奥さんの全体像を描き背景を途中までぬったところで終わっているところです。



この時期息子ポールを可愛く描いた肖像画もありますが、それらはきちんと完成しているのに比べ、どうしてピカソはとちゅうでやめてしまったのでしょうか?



それともこれで完成だとあきらかに意識して終わったのでしょうか?



どちらにしても未完成作特有のみすぼらしさや情けなさが感じられない立派な作品になっています。



さまざまな憶測や謎が残るものの、その当時ピカソが興味があったものは絵の出来栄えや完成度自体ではなく

ジャンルを超えた絵画というひとつのシステム、


たとえて言うなら自分をお絵かきロボットに見立てて、どういう指令を送ることで絵画が構築されていくのか、といったような

当時(大正時代)としてはとんでもないアイデアで絵を描いていたのではないかと推測することの出来る作品ではないでしょうか?



       高橋昌人先生 談