工房の中ではハードロックやロックンロール、カントリーなどノリノリの音楽が次から次へと流れてきて、音楽好きなニーナはその空間がとても居心地良く感じた。


 マリーがママと一緒にジュースとお菓子を持って工房に戻ってきた。


 ママは、「ゆっくりしていってね」とニーナに言うと、それ以上は構う事も無く家事に戻った。


 ニーナは、先日マリーが言ってたライブコンサートの件について話し出した。彼女がバンドのグループやライブハウスの仲間達に話してくれたらしく、あの時のキングのボーカルに魅せられた皆が、もっと聴きたいと言ってる事、ニーナのバンドも一緒にライブ演奏させて欲しいという事をマリーに伝えた。


 それを聞いたマリーも大喜びで、二人は時がたつのも忘れるほど話に花を咲かせていた。


「ところで、キングはここには居ないの?」
「ここには居ないんだけど、良く遊びにくるのよ」


 ニーナはキングの事が何故だか気になって仕方なかった。
 それを察したようにマリーがキングの事を話し出した。


「キングって実は娘さんがいるんだよ」
「へぇ~」
「でもその子が幼い時に奥さんと離婚しちゃって
    それ以来、娘さんとも会ってないんだって」
「いくつくらいの娘さんなの?」
「確か・・・
 そうだ、ニーナと同じ今年17歳になる娘さんよ」
「へぇ~」
「キングはいつも言ってたわ、娘に何もしてやれなかったって。
 今でもその娘さんと奥さんの写真を大事に胸ポケットにしまってるのよ」


 そこへ焼きたてのクッキーを召し上がれとママがやって来た。


「その写真ってこれじゃないの?」


 ママが引き出しから一枚の写真を取り出した。どうやら、この前キングが来たとき、落としていってたようで、その写真をママがマリーに手渡した。


「私にも見せて」


 とニーナが写真を見た時、ニーナの顔色が変わった。


「どうしたのニーナ」


「ううん、なんでも・・・」


 その時、Bison工房の電話が鳴った。


 電話に出たママの話の内容でそれがキングからの電話である事は直ぐに解った。


「あなた、写真忘れてってるわよ」
「やっぱりそこにあったか・・・
        後で取りにいくから」


 そういってキングからの電話は切れた。


「後でキングが来るんだって」


 ママがそう言うと、ニーナが慌てて


「私、それじゃそろそろ帰る
 今日は、ごちそうになりました。」
 
 と言って工房を飛び出していった。


 ニーナの様子がおかしいのに気づいたマリーが直ぐに後を追った。


「待ってニーナ!」


 マリーはニーナの手を掴んで


「まさか・・・」


 言葉に詰まったマリーがニーナの顔を見た時、彼女の瞳からは涙が溢れていた。


「そうなのね」


 ニーナは父親の顔を覚えていない。だがその写真に写っている女性が自分の母親で、そこに写っている少女が自分である事は直ぐに分かった。


「マリー、ごめんね。
 なんだか・・・色んな感情が一気に込み上げて来て」


 ニーナは流れる涙を手で拭いながら、空を見上げて言った。


 マリーはハンカチを差しだして、


「すぐそこに海が見える公園があるの、一緒に行こう」


 と、優しく声をかけた。


 気が動転しているニーナは、言われるがままマリーと一緒に歩き出した。


 公園のベンチに腰掛けたマリーは隣で呆然としているニーナに何と話しかけてあげたら良いのかわからずに、ただじっと海を見つめていた。


 穏やかな波の音が、心地よい潮風が二人の心をやわらげてくれた。


 ニーナがそっと口を開いた。


「私のお母さんはね、本当に苦労して私を育ててくれたの。
 毎日、夜遅くまで、体がくたくたになるまで働いて
          たった一人で私を育ててくれたの」


 彼女はそんな母親の姿を見るたびに、離婚して去っていった父親を恨んだ。父親さえ居てくれれば、母はこんなにも苦労を背負い込まなくて済んだのにと。母はいつも仕事に出ていて、ニーナはいつも一人だった。そんな中で音楽と出会い、音楽だけが彼女にとっての友達であった。そして、バンドの仲間達と出会って、バンドの中で彼女は最高に楽しそうに歌っていた。


 そんなニーナの気持ちを痛いほど理解出来るマリーが、自分の事を通して色々と話し出した。そのマリーの言葉には説得力があった。自身が体験し現実にそれを克服してきた人の言葉程、人を納得せしめるものは無い。


「ねぇニーナ、ニーナのお父さんは、ニーナに音楽をプレゼントしてくれたのよ。
 今の境遇がなかったら、こんな形で音楽と向き合っていなかったと思うよ」


 マリーが言うとおりニーナの音楽に対する優れた感性は、恵まれた境遇にある人達よりも遥かに深く強く鋭く音楽を捉えていた。


「それに、私に妹もプレゼントしてくれた」


 マリーが笑顔で言うとニーナも嬉しそうに


「そうね、私にお姉さんまでプレゼントしてくれたんだ」


 マリーからそう言われてニーナは心が落ち着いた。


 最初はどう受け止めていいのか分からずに混乱さえ起こしていた心の動揺が、今は、しっかりと整理でき嬉しくすら感じてきた。


「お父さんに合いたい」


 ニーナがそういった。


「じゃあ、工房に戻ろう」


 マリーがニーナの手を引いて駆け出した。


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このストーリーは個人の趣味レベルで創作を楽しんでおります。
ストーリーはフィクションであり実在する国家・団体・企業・作品・HP・個人・アーティスト等とは一切関係ありません。


 マリーは、春休みの間Bison工房にお泊りしている。任務で家を留守にする事が多かったケイクだったので、マリーは子供の頃からよくここで寝泊りしていた。ここにはマリーの部屋だってある。


「マリー、ちょっとぉ~~~!」


ママが大声で叫ぶ。


「ママ!どうしたの?」


マリーが2階から駆け下りてくる。


「ミミちゃんが脱走したのよ!」


ミミちゃんとは・・・
 Bisonがマリーが子供の頃、デパートに連れて出掛けた時、ペット屋さんでどうしてもマリーが飼いたいと言いだして、二人で買ってきたうさぎである。それはミニうさぎと書いてあるだけにとても小さく可愛い動物だった。こんなに小さくて可愛い動物ならと思って飼う事にしたのだが・・・数ヵ月後、直ぐに普通のウサギのサイズにまで成長した。あのネーミングは、はっきり言って詐欺である。


 ママが小屋の掃除をしてたら、ミミちゃんがママの目を盗んで小屋から抜け出したようである。暴走するミミちゃんをママが必死で追いかけている。


マリーも一緒になって追いかける。


二人と一匹が工房中を駆け回っている。


その中にあって、黙々と自分の世界に入り込んで作業に没頭してるのがBisonである。


彼が作業に没頭している時は、何を話しかけても無駄である。


「フンフン、分かった。分かった」


 と返事だけはするが、実はなんにも聞いていない。聞いていないんじゃなくて、作業に集中し過ぎてそれ以外の事が脳ミソに入り込む隙間が無いのである。


ミミちゃんを取り押えた二人は、裏庭で一緒にうさぎ小屋の掃除をしだした。


そこにあのニーナがやってきた。


「こんにちは~!」
「ふんふん」
「あの~」
「分かった。分かった」
「すいません」
「ふんふん」
「あの~」
「分かった。分かった」


背を向けて空返事だけ返してくるいい加減なこの男に、ニーナは歩み寄って後ろから耳元で力いっぱい叫んだ。


「こんにちはぁ~!」


流石のBisonもびっくりして振り返ってニーナの顔を見た。


しかし、


「ふんふん」


 と言って、また作業をやりだした。そこへお掃除が終わったマリーが2階に戻ろうと工房を通りかかった。


「ニーナじゃないの!」


ニーナの姿に気づいたマリーが嬉しそうにニーナを迎えた。


「遊びにきちゃった」


ニーナはニッコリと笑顔で挨拶した。


 ニーナとマリーは、二人とも父親と過ごした思い出がない。似たような境遇の者どうしというのは、不思議と波長が合うもので、互いの事を理解し合うのにもそんなに時間はかからない。先日のライブハウスで二人は初対面ではあったが、マリーはニーナの事を妹のように、ニーナはマリーの事を姉のように思える程、意気統合していた。


「凄い、ステージもあるんだ!」


 奥のステージに目がいったニーナが、ステージに無造作に於いてある楽器類を好奇心で眺めると、


「奥の部屋にもまだ一杯色んな楽器があるのよ」


と、マリーが案内してそれらを見せてあげた。


 ハモンドオルガンにアコギにトランペット、サックスホーンにウッドベース。そこには一通りの楽器が所狭しと詰め込まれていた。


「そこのカウンターに座ってて、今ジュースついで来るから」


そういわれてニーナは工房のカウンターに腰掛けた。


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このストーリーは個人の趣味レベルで創作を楽しんでおります。
ストーリーはフィクションであり実在する国家・団体・企業・作品・HP・個人・アーティスト等とは一切関係ありません。


 スピード・キングは、ベースを弾きながらパワフルに歌いまくるニーナの歌声に言い知れぬ何かを感じた。



 10曲ほど演奏して、カウンターにカクテルを飲みに来たニーナにキングが話しかけた。



 「いい声してるな」



 ニーナが振り向いていきなり声をかけてきたおじさんの顔を見た。
 その顔に、どことなく懐かしさを感じたニーナはキングの隣に腰掛け



 「ありがとう、おじさん見かけない顔だね」
 「ああ。今日、はじめてここに来た」
 「そうなんだ。何でまたこんな寂れた街の小汚いライブハウスなんかに?」
 「いかしたロックを聞かせてくれるバンドがあるって聞いたもんでな」
 「へぇ~。それってうちらのバンドの事?」
 「みたいだな」
 「うれしぃ~! ところでおじさん誰? どっかで合わなかったっけ?
          どっかで合った気がするんだけど・・・」
 「それは無いだろ。お前とは今日が初めての面識だ」
 「そっかぁ~。ま、いいや」



 反対側に腰掛けていたマリーがニーナに話しかけた。



 「シビレちゃったぁ~。さっきのライブ」
 「あなた誰?」
 「このおじさんの彼女^^」
 「え! おじさんこんな若い子たぶらかしちゃだめじゃん!」
 「そうなのよ~。このおじさんにたぶらかされちゃって、もう大変^^」
 「おいおい・・・」



 3人は途端に打ち解けて、和やかに会話が弾んだ。会話の中でマリーが施設でのライブコンサートの話をニーナに聞かせた。



 「おじさんもバンドやってるの? だったら何か一曲歌って聞かせて」
 「ここでか? 困ったな」
 「ねぇ~お願い」
 「じゃあ、バイオリンあるか?」
 「え? バイオリン? ちょっと待ってて」



 ニーナは楽屋に入ってバイオリンを片手に持って戻ってきた。



 「これでいいの?」
 「へぇ~バイオリンもあるんだ」



 そういったマリーにキングがそのバイオリンを持たせた。



 「え? 私が弾くの?」
 「俺一人に恥じかかせる訳? マリーも道ずれさ」
 「仕方ない。 じゃあやりますか」
 「へぇ~マリー、バイオリンが弾けるんだ。 凄い凄い!」
 「うん、子供の頃習ったんだ」
 「じゃあ、あたしが皆に紹介しちゃうね。 おいで」



 ニーナはマリーとキングを引っ張ってステージにあがった。



 「みんなぁ~! 今日は飛び入りの演奏だよ! マリー・・・なんだっけ?」
 「マリー・ガーランドよ^^ こっちはスピード・キングね」
 「そのメリー・ゴーランドとスルメ・おやじの演奏聴いちゃってね^^」



 「今日はスルメかよ、俺はそんなにハゲてねぇ~って。まぁ、いいや
                 じゃあ、ギター借りるぜ」



 ギターを手に取ったキングはマリーに合図をだし、マリーが軽やかにバイオリンを奏で出した。



(キングの声のイメージで探したこちらの映像をお楽しみください。
  風貌はブルース・ウイルスを想像して頂けると本人が喜びます。)







 日頃ロックしか聞きなれていない連中にとってバイオリンの音色や軽快なカントリーのリズムが凄く新鮮に感じられ、ライブハウス内は今までとは違った雰囲気で盛り上がった。



 「こういう曲もいいなぁ~。ロックもいいけどカントリーもいい!」



 と言ってニーナが再びベースを持ってステージに立った。



 「じゃあ、私もそれっぽい曲を歌うわ」



 そういってニーナが歌い出した。







 彼女は施設の孤児では無いが、施設出身のバンドのメンバーから誘われてバンドに入った。彼女自身は母子家庭で母親に育てられた。幼い時に母親が離婚し彼女は父親の顔すらろくに覚えていない。



 ニーナはこの日、何故だか無性に心が躍った。



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このストーリーは個人の趣味レベルで創作を楽しんでおります。
ストーリーはフィクションであり実在する国家・団体・企業・作品・HP・個人・アーティスト等とは一切関係ありません。



 スピード・キングとマリー・ガーランドは、薄汚い空気が漂う寂れた小さな街のライブハウスに居た。



 この街の孤児施設に例のライブコンサートの話を相談した所、施設出身の子達が作っているロックバンドがあると聞いて二人はそのバンドがステージ演奏しているというこのライブハウスに足を運んでいた。



 「なんだか、不良が一杯・・・」



 見るからに柄の悪い、スレた女の子やトッポいお兄ちゃん達がグラス片手にタバコを吹かしながら馴れ合っている。優等生のマリーは、一人だけ見るからに浮いている。キングはと言えば、全く違和感なくその場に溶け込んでいた。



 「マリーは、あれだ・・・
  少しはこういう場で遊び心も見につけないと
      マジメ一本じゃ、人生つまんねぇ~ぞ」
 「うん、今日はしっかり勉強していきます」
 「勉強って・・・」



 二人がカウンターで話している所に、いきのいいお兄ちゃんが割って入ってきた。



 「おねえゃん、かわいいねぇ~。俺と踊らない?」
 「誘ってくれてありがとう。だけど私、今日は彼氏と一緒なの。ごめんなさぁ~い」
 「彼氏ってどいつだよ?」
 「この人^^」



 マリーは隣に腰掛けているキングの顔を指差した。



 「こ、このおっさんが彼氏なのか?
    頭ハゲかかってるぞ!
       冗談はよしてくれよぉ~^^」
 「誰がブルース・ウイルスにそっくりだって?」



 キングがそいつの手首をひねり込んで、苦痛で歪める顔のホッペをペンペンと叩いた。その威圧感に圧倒されたお兄ちゃんは、気まずそうな顔で後ずさりしてまわりの仲間に



 「あいつは只者じゃない。ちょっかい出すんじゃないぞ」



 と忠告を促した。



 しばらくして、後ろのステージがざわめき出し歓声が飛びかった。



 「ニーナ! 今日もパンチの効いたロックで俺をいかせてくれぇ~!」



 皆が一様に口を揃えて叫ぶニーナとは、マリーとキングが見に来たバンドのボーカルの女の子。ニーナ・クイーンといって歳は17歳。サン・ライズ・クイーンというバンド名でステージに立っている。



 70年代、ロックの女王と呼ばれたスージー・クアトロを気取ってステージにたった彼女の映像をまずはご覧下さい。








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このストーリーは個人の趣味レベルで創作を楽しんでおります。
ストーリーはフィクションであり実在する国家・団体・企業・作品・HP・個人・アーティスト等とは一切関係ありません。



 自分達が世間の目を偽って行ってきた事実が、明るみに出る事を恐れるある機関の人間達は、その真実を語りえる証人を今、容赦なく地球上から抹殺しようと襲い掛かる。


 高度を下げてきた戦闘機のパイロットの眼前に巨大なつり橋が迫った。パイロットは再び上空へ回避するか、水面すれすれを飛行して、目標を攻撃するかの二択を迫られた。
 
ここから橋までは、数瞬しかない。


一度高度を稼ぎ
再び追尾に入るか。


それとも、

このまま追尾を続け
確実に敵をしとめるか。


 迫りくる橋を前に、パイロットは目標を見失うことを恐れた。高度を下げ、高速船の背後に機体をつける。


戦闘機と高速船の速度には

あまりに違いがあった。

見る間に互いの距離が迫っていく。


橋の下をくぐるために

ジェット機が水面ぎりぎりまで高度を下げた。


その時、


 遥か後方でエンジンをブロウさせ完全に息絶えたマイバッハの中でスピード・キングが叫んだ。


 「なめるんじゃねぇ~~~!」


 ギヤをニュートラルに入れ、黄色いスイッチカバーを開け、ボタンを押した。


 キングのヘッドフォンからは、Van Halen の I Can't Stop Loving You が大音量で鳴り響き、騎手が馬の尻を叩くようにボーカルのサミー・ヘイガーが気合を込めて叫ぶ。


 「ハァッ!!」


すると息絶えたはずのマイバッハが

爆音をあげて加速しだした。


その加速はターボよりも

ニトロですら及ばない程の凄まじい加速で
ジェット戦闘機に迫ってくる。


マイバッハのリヤからは

2基のジェットエンジン が炸裂し、
エンジン駆動ではなく

ジェット推進によってグングンと加速してくる。


 「いくぜアドバン!」


そう叫んでキングはギヤをドライブに叩き込んだ。

すると、

ジェットエンジンによって地面を回転するタイヤからの駆動が
止まっていたガトリング砲を凄まじい程の勢いで回転させ
耳を切り裂く程のカン高い金属音が轟いた。


ジェット加速したマイバッハは
河川敷の道路を音速で一気に突き抜け

歯止の縁石に乗り上げ
水面上空に舞い上がり


遂に水面すれすれを飛行してきたF-16戦闘機の真横に並んだ。


122




 「そ、そんな馬鹿な!!」





驚きのあまり、あらん限りに両目を見開いたパイロットの脳裏に
その有り得ない光景が


まるで


スローモーションでも見るかのように


鮮明に焼きついた。




横並びに操縦席に突きつけられたガトリング砲を
アドバンは戦闘機の機体の方へ照準をずらし
発射ボタンを押した。




至近距離から連射された弾丸は
機体をぶち抜き
貫通して金属片が空中に舞う。




パイロットは即座に脱出ボタンを押し
勢い良く上空に舞いあがっていく。




撃ち抜かれた戦闘機は空中で大爆発を起こし
ジュット燃料を一気に使い果たしたマイバッハは

失速し海中に飛び込んだ。




















海中に沈んで行くマイバッハの中から


キングとアドバンが脱出して


海面に姿を現した時、


引き返してきたド派手なDestinyカラーの高速船から


ロープに繋がれた浮き輪が二つ投げ出された。







キングは浮き輪を掴み取ると


 「ざまぁ~みやがれ」


とパラシュートで落下してくるパイロットに向かって呟いた。


甲板に上がるとマックスがアドバンに言った。


 「水も滴るいい男だぜ!」


 「おれは?」


とキングが聞き返すと、


 「髪の毛がワカメだな^^」


と、キングが最近気になって仕方ない頭の絶妙なハゲ具合をハマーが鋭く指摘した。


するとキャサリンが、


 「毛が残ってるだけハマーよりはましよ」


と、フォローになってない言葉でキングを労わった。


一行は、ドイツに向けてニューヨーク港を出航した。


 国家レベルで博士を亡きものにしようと襲ってくることも予測していたJusticeは、そういった事態に備え、博士をスイス・ジュネーブにある国連欧州本部へ送り届ける手筈も整えていた。


 上空に鮮やかなDestinyカラーのティルトローター機V-22が現れ高速船の護衛についた。


123

 アメリカ海軍のMV-22


デェイ・ジーが流す

Van Halen の I Can't Stop Loving You の波動が

海面に反射する暖かく優しい光のエネルギーに増幅して

青空一杯に生命力が った。



Wild-Bison Vol.4 END

ファースト・ステージのフィナーレへ続く


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このストーリーは個人の趣味レベルで創作を楽しんでおります。
ストーリーはフィクションであり実在する国家・団体・企業・作品・HP・個人・アーティスト等とは一切関係ありません。



 上空に上昇していくF-16戦闘機のパイロットが地上の様子を肉眼で確認しようと見下ろすと、河川敷に停泊しているDestinyの高速船に乗込むFORDの姿があった。


 戦闘機が上昇し続ける間に、後を追うようにキャサリンとマックスを乗せたモントークも高速船に乗込んだ。


 「逃がしはしないぜ!」


 上昇して空戦エネルギーを蓄えたF-16は旋回を終えると、ニューヨーク湾に向けて水しぶきをあげて走り出した高速船を仕留めるべく高度を下げだした。


 イースト川河口には、ニューヨークを象徴するブルックリン橋が架かっている。その手前にもマンハッタン橋が並んで架かっている。下の写真は、崩壊したワールド・トレード・センターから撮影されたイーストリバーとそこに架かるふたつの橋の姿である。今はこのアングルからこの風景を眺めることは出来ない。


121


この空間にはかつて、沢山の生命が活気を漲らせて存在していた。


企業戦士となってたった一人で家庭を支えてた父親。
女手一つで我が子を育ててた逞しき母親。
未来への希望に瞳を輝かせ、ひた向に仕事に打ち込んでいた青年。
親元を離れ、大都会の中でたった一人で生き抜こうと努力していた娘。
生命が必死に生きていこうとしている姿がそこには凝縮していた。


その尊い生命を誰人も、如何なる理由によっても
一方的に抹殺する権限などはない。
そのような事は、絶対にあってはならない。


だが、それが現実に行われた。


誰が、何のために
そのような傍若無人な行為を行ったのか。
その人間に決して正義などはない。

正義を履き違えるな。
正義とは、人の道を人間らしく貫き通す事を言うのではないのか。


そのような傍若無人な輩から尊い生命を守る為に
彼等はGUNを使う。


しかし、彼等は決して生命を抹殺する事にGUNを用いない。
それがどれ程の技術と精神力とを持ち備えた人物でなければ
出来ない巧みな技であるか。


 Wild-Bisonは、そのような人間しか手にする事が許されないGUNである。


 古来、日本に於ける武士は、剣の中に自身の魂を注ぎ込んだ。剣と向かい合うことで、自身の人間としてのあり方、武人としての心得を習得し、強靭なる肉体と精神を築き上げていった。剣を手にする武士達は皆、そういった崇高なる精神、武士道に生きる誇りを持っていた。武士道を知らない農民や商人が剣を手にする事は決して許されなかった。


 だが、この国はそうではなかった。


 誰もが自由に武器を手にする事が出来る国、それがアメリカである。だからその武器を武器としてしか扱うことが出来ない者達が後を絶たない。


 日本の武士達は、剣が如何なる物かを知り尽くしていた。それは、単に人を殺しえるものとしての認識ではなく、人間の生命の尊さを仏教から学び、その尊い生命を抹殺するだけの資格が果たして自身にあり得るのかと厳しく自身に問いかけ、仏にしか分かりえないであろうその答えを悟りえる為に、仏の境界に自らの境界を高めて行く。剣が使い手を人間としてより崇高な次元へと導いていた。そういった人間としての魂が日本の剣には込められている。


 Wild-Bisonもまた、単なる兵器としてのGUNではなく、Bisonが日本に於ける武士道を、人間としての魂を注ぎ込んで造られたGUNである。


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このストーリーは個人の趣味レベルで創作を楽しんでおります。
ストーリーはフィクションであり実在する国家・団体・企業・作品・HP・個人・アーティスト等とは一切関係ありません。


 タイムズスクエアーがある高層ビル街ミッドタウンを通り抜けると、マンハッタン島の南端のダウンタウンに位置する異国の情緒漂うチャイナタウンが見えてくる。


120

 Chinatown


 そこがNYで、アメリカである事さえ忘れさせてしまう街並みは、雑多でエキゾチックで、活気のある街。


 そのチャイナタウンをイースト川河口に向けて猛スピードで突き進んで行く2台の車両。この地区までは、緊急警備がひかれてなく、食事を楽しみにきた観光客や安い食材を求めてショッピングを楽しんでいた人々が、2台の暴走車両に驚きの視線を集め、さらに上空から高度を下げて突っ込んで来るF-16戦闘機の爆音に腰を抜かして地べたに這い蹲る人もいた。


 「デェイ・ジー、戦闘機をこっちに引き付けておくから
     その間に、ハマーの車を高速船に向かわせろ」


 「OK! お先に高速船でまってるぜ!」


 アドバンが無線で後ろに付いてきたハマーのFORDに乗るデェイ・ジーに指示を飛ばす。後を走っていたハマーのFORDが、アドバンのマイバッハから外れ、脇道に入り込んだ。


 F-16戦闘機は、大通りを直進して河川敷に突き進むマイバッハ目掛けて突っ込んでいく。その翼にはミサイルがまだ1発残っていた。


 「河川敷に向かってる奴なら、ミサイルが使えるな」


 ニヤリと薄ら笑いを浮かべ、パイロットがマイバッハに向けて発射スイッチを押した。


 ハマーのFORDからデェイ・ジーが叫んだ。


 「キング! ミサイルを打ち込まれたぞ!」


キングがブレーキングで車体を横向け、
アクセルで直角に飛び出し
ミサイルを交わした瞬間、


その動きを見透かしたように
ミサイルの後を追ってきたF-16戦闘機が
ガトリング砲でマイバッハを捉えていた。


 「そうくるだろと思っていたぜ!」


 キャサリンのヴァイロンの身のこなしを見せ付けられたパイロットも馬鹿じゃなかった。戦闘機を操縦するぐらいの人間ともなると、瞬時に状況に応じた攻撃パターンを作り出す。


 パイロットが「シテヤッタリ!」とばかりにスイッチを押した。


縦のラインからサイドブレーキでテールを流し
白煙をあげて直角に横向きに飛び出そうとするマイバッハに
ガトリング砲の弾丸が
路面を弾き飛ばしながらまっすぐに迫ってくる。


助手席側から突っ込んでくる戦闘機に
完全に背を向けて
ガトリング砲を握っているアドバンに
咄嗟にキングが叫ぶ。



「伏せろアドバン!」


(伏せろと言われても・・・)



アドバンは身をシートに沈め
ガトリング砲の銃口を
可能な限り高く構え
通過した戦闘機を後方から
打ち落とそうと
グリップを握り締め
今はまだ姿の見えない
背後の戦闘機の通過ライン上に
照準を絞り込む。




背中から迫ってくる


弾丸の連射音と


ジェット機の轟音が


凄まじい勢いで


脅威を増長しながら


津波のように襲い掛かる。




戦闘機が放った弾丸は
横向いたマイバッハのボンネットを
火花をあげて縦に撃ち抜いた。


次の瞬間、


オープンになっている
マイバッハ助手席に構えるアドバンに
ジェットエンジンの爆風が
猛烈に降りかかる。


思わず目を閉じてしまいそうな程の爆風の中
レーバンのサングラス越しに
アドバンの鋭く見開いたまなこが
音速で姿を現した上空の的を捉えた。


如何なる状況下にあっても
常に冷静に
憎らしい程クールに
敵を捉えるアドバンが、
ガトリング砲の発射スイッチを押し込んだ。


と、その時


ガトリング砲の回転が止まった!


ボンネットを撃ち抜かれたマイバッハが、

白煙をあげてエンジンブロウし

完全に息絶え止まってしまった。


エンジン駆動と連結している
ガトリング砲の回転も止まってしまった。


 (・・・おいおい・・・)


それでも冷静さを失わないアドバンとは対照的に


 「あの野郎ぉ~~~! ただで済むと思うなよ!
             絶対ぶち落としてやるぜ!」


と、運転席のスピード・キングは怒りをむき出しにして咥えてたタバコを窓から投げ捨てた。


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このストーリーは個人の趣味レベルで創作を楽しんでおります。
ストーリーはフィクションであり実在する国家・団体・企業・作品・HP・個人・アーティスト等とは一切関係ありません。



 「7.62mmのミニガンで戦闘機と勝負しようってのか」


 パイロットは薄ら笑いを浮かべ、地上を走るモントークに照準を定めた。


 M61 20mmガトリング砲で戦闘機は撃ち落とせても、M134 7.62mmガトリング砲では、戦闘機の機体を打ち抜くだけの威力はない。命中しても弾丸が弾き飛ばされる。その事を熟知しているパイロットは、余裕でモントークの後方に付けた。


キャサリンが握るM134の

束ねられた銃身が旋回し
背後のジェット機へと照準を合わせる。


ガトリングの回転音が
嫌がうえにも緊張を高ぶらせる。


ヤツが撃つのが先か。
M134が火を噴くのが先か。


ハンドルを握るマックス・デニーロの

グローブがじわりと汗でにじむ。


その瞬間


打ち出されたロケットのように
バイクが前へと跳ね飛ぶ。


 「ぐぅっ!」


M134の強烈な連射反動が
モントークに急激な加速をあたえ
後ろからの強烈なGを感じたマックスは
反射的に上半身でバイクを押さえ込んだ。


1秒にも満たないわずかな間

数百発の銃弾が
ジェット機とバイクの間に火の橋をかけた。


機体表面に、

はじかれるはずの銃弾が
蜂の巣のように機体を

ぶち抜いていく。


予想外の衝撃に、パイロットは一瞬我を失う。


キャサリンは、冷静に着弾を確認していた。


 「うひょ~~~ぉ!」


マックスはバイクの制御に必死だった。


しかし、その時間はわずか数秒。
一瞬にしてすべての弾薬を撃ちつくす。


通常のそれとは異なる、
Bisonが手を施したオリジナルの7.62mm弾丸は
驚異的な発射速度を生み出し
いかんなくその威力を発揮していた。


 「突っ込んでくるわよ、よけて!」


後ろ向きにガトリンク砲を構えているキャサリンがいち早く叫ぶ。


 「って、もう来てるぜ!」


脱出して操縦者を失った機体は、まっすぐに地面へと向かっていた。


 「ちいっ!」


マックスがバイクをホッピングするように瞬時に横方向に逃がす。


路面に激突した機体は大爆発を起こし
マックスとキャサリンを乗せたモントークは、
その至近距離から襲ってきた爆風で
道路脇のガードレールに叩きつけられるように
横へ吹き飛ばされた。


「ちょ!」


マックスは

ガードレールに足を出し
その足を支点にして
バイクを抱えあげるように
回転しながら横方向のGを和らげ
歩道に着地した。


バイクが一回転してガードレールを乗り越える間、
キャサリンは振り飛ばされまいと
力の限りマックスの胸に抱きついていた。


 「お! キャサリンって結構ふくよかだな^^」


頬をあからめてキャサリンはおとなしかった。


キャサリンと言えども、やはり女だ! by マックス・デニーロ


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このストーリーは個人の趣味レベルで創作を楽しんでおります。
ストーリーはフィクションであり実在する国家・団体・企業・作品・HP・個人・アーティスト等とは一切関係ありません。


時間が止まったかのような
張り詰めた緊迫した空間の中心で
V型12気筒の空吹かしの重低音の

エキゾーストノイズだけが
不気味に響き渡る。


それはハンターに取り囲まれた野獣の
荒々しい息遣いにも聞こえる。


銃を構えた兵士達が
一斉射撃で獲物に襲い掛かろうとした瞬間、
マイバッハは雄叫びをあげ
リヤタイヤを激しくスリップさせながら
白煙を勢い良く舞い上げた。


ステアリングで押さえ込まれた車体は
テールを流して鋭くスピンしはじめ
M61バルカン砲が薬莢を撒き散らしながら
取り囲む一面のパトカーを蹴散らしていく。


タイヤが巻き上げる煙と
弾丸の発火による煙とで
あたりは一瞬にして
スモークを炊いたように覆われ

エンジンの唸り音とバルカン砲の叫び音が
その場の空気を切り刻み
タイヤの焦げる匂いと
大量の火薬の匂いが立ち込めて
一面の空間を激しく歪めた。


バルカン砲の弾丸が尽き
発射音が空転音に変わった時、


マイバッハが電光石火の
加速で飛び出した。


バルカン砲が吐き出した
大量の薬莢を踏み潰して
ハマーのFORDがその後を駆け抜けていく。


 バリケードを突破したものの国連本部に向かう道路は完全に包囲されており、そこを突破出来たにしても、国連本部に博士を引き渡せる状況では無い事を悟ったアドバンは、デェイ・ジーにコースの変更を告げる。


 「予定変更だ、このまま直進して海岸に突き進む」


 このような事態も予測していたアドバンとキングは、あらかじめ別ルートで博士を護送する手筈も打っていた。


 「OK、Bコースだな」


 デェイ・ジーは、イースト川河口に待機しているDestinyの高速船と連絡をとった。


 後方にはもう一機のF-16戦闘機が狙いを澄まして黒い獲物を狙っていた。


 更に後方では・・・


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このストーリーは個人の趣味レベルで創作を楽しんでおります。
ストーリーはフィクションであり実在する国家・団体・企業・作品・HP・個人・アーティスト等とは一切関係ありません。


 もう一機のF-16は、先行するアドバンとハマーの車を攻撃すべく上空から徐々に高度をさげつつあった。


 アドバン達は既にタイムズスクエアーに差し掛かっていた。そこを左折した先に国連本部はある。だが、その左折すべき交差点の手前には、複数台のパトカーが止められバリケードが築かれ特殊部隊が武器を構え待ち伏せている。


 「アドバン、準備しろ」


 ステアリングを握るスピード・キングが助手席のアドバンに告げた。


 シブ男スピード・キング。


 彼は2期目の特殊部隊「Barracuda」の四天王の一人。残りの3人はロンとマックス、そしてキャサリンである。その3人等と違いキングには妻と子供がいた。しかし、その任務の激しさ故、家庭を顧みる暇すらなかった。妻と落ち着いて話をする時間も無く、次第に夫婦の間に隔たりが出来、ある日一枚の紙切れだけ残し妻は一人娘を連れてキングの元を去っていった。


 その一枚の書類をしみじみと眺め、キングは一人思いに耽った。


 妻にいつも色んな悩みを一人で背負い込ませて申し訳なかった・・・と。

 まだ幼かった娘にも何もしてやれなかった・・・。


 振り返ってみると、家族と過ごした思い出なんて数える程しか頭に浮かんでこない。娘もさぞ寂しかったであろう。まるで母子家庭と変わりない家庭であった。


 キングは、自分の娘にしてやれなかった事、してやりたかった事をマリーと接する中で思う存分やってきた。そうする事でキング自身が救われた。しかし、娘や妻はどうだろう・・・。


 キングの胸のポケットには、いつだって娘と妻の写真が大事にしまわれている。


 準備を終えたアドバンが助手席のドア開閉スイッチを押した。


 ドアが電動で後方にスライドして、

 新鮮な空気が車内に流れ込む。


 トップルーフもTバールーフに改造され

 ドアと一体となっており
 開放した半ルーフに青空が広がる。


 更にシートボタンを押すと
 シートが90度回転しながら
 開放されたドアの方向に移動して止まった。


 横向きになったシートに座っているアドバンは、センターコンソールに取り付けたM61 20mmバルカン砲のグリップを両手で握った。6砲身の銃口は運転するキングの顔の前を通って運転席側の窓から突き出している。


 キングは、ヘッドフォンをしてバリケードに向けてアクセルを踏み込んだ。


 「いくぜっ!」


 サイドブレーキを

 ロックボタンを押した状態で引っ張り
 ステアリングを切り込んで
 マイバッハのビックボディーを思いっきり横に流す。


119

 Maybach Exelero


 運転席ウインドウから突き出した6本の銃身の束が
 バリケードと向き合った瞬間、
 キングはギヤをニュートラルに抜いて
 アクセルを踏み込む。


 エンジン・ミッションとシャフト連結したガトリングが、
 エンジンの回転数と同調して
 唸りをあげて凄まじく回転し
 猛スピードで20mm弾丸が撃ちだされる。


 キングは更にアクセルを踏み込む。
 回転を上げたガトリング砲は炎を吐いて

 1秒間に200発の弾丸を叩き込む。


 一点に過激なまでに集中連打されたバリケード役のパトカーは、
 一瞬で吹き飛ばされ道が開かれた。


 が、反動の凄まじさに
 マイバッハは後ろに押し返され
 パトカーを盾にして身構える特殊部隊の
 ど真ん中で横向いた状態で停車した。


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このストーリーは個人の趣味レベルで創作を楽しんでおります。
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