あの日以降、私たちは各々の日常に戻った

…はずだったのに


由 )ねぇ寒い、暖房つけてよ


ソファには我が物顔で寝転がる由依がいる


偉そうにスマホをいじっているものだから

やってあげるのもいかがなものかと思って


理 )自分でつけて、リモコンの場所わかるでしょ


由 )…ケチ


雨宿りしていた由依を泊めた翌週、

塾から帰るとまたエントランスに由依がいた


そのまま通り過ぎようとしたら

当たり前のように家に着いてきて

家に入るなり着替えを広げ始めて

これまた当たり前のように泊まって行った


なぜか由依は私に懐いてしまったようで

最近は私の家に入り浸っている


毎日のように、いや実際毎日由依がいて

呼び方も気づけば由依ちゃんから由依になった

あっちは最初から呼び捨てしてきてたけど。


由 )お腹空いた、なんか作って


理 )やだ、さっき食べたばっかじゃん


由 )でもお腹空いたんだもん


理 )私は空いてないし


由 )お客様がお腹を空かせているのに…


理 )お客様なんかじゃないでしょ


由 )じゃあ何


…分からない

由依と私の関係ってなんなんだろう


友達、ではないし

家族、でももちろんない

居候みたいなものだけどそれもちょっと違う気がする


理 )猫…かな


ふらっと来てゴロゴロするだけだし

懐かなそうな割にはガード緩いし

気に入らないことがあるとすぐ爪立てるし


そんな軽い気持ちで言った言葉を由依は目敏く聞きつける


由 )なにそれ


由依に言ったら怒りそうだから説明はしない


頬を膨らませて不機嫌そうに見つめてくるけど

そんな由依を押しのけて私もソファに座る


相変わらず態度は大きいけど

目は初めて会った時より大分優しくなったし

私が面倒になるくらいには

うだうだと話しかけてけれるようになった


理 )っていうかさ、

   よくこんな毎日来るよね

   暇なの?


私に追いやられたせいで

箸で丸まってスマホを見ている由依に問いかける


由 )別に。

   理佐が家でひとりぼっちって言うから

   可哀想で来てあげてるだけ


嘘だ

ほんとは自分が寂しいからなくせに


一緒にいるうちに分かってきた

由依は甘えん坊なのに甘え下手

可愛がってあげるから素直に言えばいいのに


でも、寂しいから一緒にいたいのは

私もなのかもしれない


孤独感を紛らわすために通っていた自習室も

最近はほとんど行かなくなった


バイトがない日はすぐに帰って由依を待ってるし

バイトの日も終わったらすぐ帰って由依を待ってる


身勝手な由依と過ごす時間を

思いの外気に入ってしまった


不意に由依が立ち上がって

ポケットを探りながら歩き出す


理 )どこ行くの


由 )ベランダ


理 )あ、ちょっと

   私タバコの匂い嫌いだからやめて


由 )ちゃんと外で吸うって


理 )そういう問題じゃなくてさ、


はいはい、なんて偉そうに呟いて

由依はソファに戻ってくる


また横になったかと思えば

私の膝の上に頭を乗せてきた


理 )なに?


由 )理佐がいるせいでソファ狭いんだもん


言葉とは裏腹に満足そうな顔

ほんとに、可愛いんだから


天邪鬼なスキンシップに最初は戸惑ったけど

慣れてしまえばこれも猫みたいでかわいい


どうしようもなく愛おしくなって

膝の上にある頭をそっと撫でる


由 )くすぐったいんだけど


目を細めて気持ちよさそうにしながら

由依はやっぱり文句を言った











学校はテスト期間に入った

由依は変わらず家に来てはゴロゴロして、だらだら話して
泊まっては帰っていく日々

最近は素直に甘えることも増えてきた
構ってあげないと怒るから
面倒臭い日もあるけど



いよいよテストが迫った放課後、
私がリビングで勉強していたら
ソファで寝ていたはずの由依が後ろから抱きついてきた

肩に乗せられた顎がくすぐったい

相手してあげたいところだけど
私はそんなに余裕がなくて
左手をそっと回された由依の手に重ねるだけに留めた

けどやっぱり勉強しづらくて早々に外せば
由依は拗ねたように口を尖らせて
ソファに戻って行った

理 )あ、明日友達と勉強してくるから帰るの遅くなる

思い出したから忘れないうちに、と
ソファに寝っ転がる由依に話しかける

由 )えー…

あからさまに嫌そうな顔をして
不機嫌にこっちを見つめてくる

理 )えー、って言われてもね
   由依は友達とかいないわけ?

由 )いないことはないけど、理佐が1番

理 )なにそれ

返事はなかった



勉強を終わらせて由依を見れば
まだどことなく不満そうで

理 )由依ー

由 )何?

トゲトゲしちゃって

理 )拗ねちゃったの?
   かわいいねぇ

機嫌を直してもらおうと抱きしめれば
珍しく身を捩って抵抗する

でも結局、私の腕の中で大人しくなって
へへへ、なんて柔らかく笑う

由 )待ってるから、早く帰ってきてね

素直になった由依は
どうしようもないくらい可愛かった




でも、由依だって毎日早いわけじゃない

由 )来たよー

鍵の空いた玄関を開けて
また今日も勝手に入ってくる

理 )お、来た来た
   遅かったじゃん

由 )バイト長引いちゃって

理 )おつかれさま

ソファで息をつく間も与えず
由依を抱きしめる

由 )ねぇ、苦しい

理 )ふふ

由依がバイトの日はいつも寂しい

毎日いるのが当たり前で
いたら鬱陶しくも思うのに
いなければ求めてしまう

私がいなきゃダメじゃん、なんて
由依のことをよく揶揄うけど
私も大概なのかもしれない





そんな日常が続いたある日、
いつもと同じように2人で私の家で過ごしていた

由 )ねぇ、

理 )なーに…っ…

振り向きざまに抱きつかれて、よろけそうになる

いつになく強い力で
声のトーンも普段より低い

違和感には気づいているのに
私は、由依の腕の中で由依タバコの匂いしなくなったな、
なんて呑気に考える

そういえば私が嫌がったあの日から
由依はタバコを吸わなくなった

由 )ねぇ

もう一度声をかけられて
一段と強く抱きしめられた

由依のいい香りに包まれる

由 )好き

振り絞るような声
微かに震えている身体

突然の告白
でも、驚かなかった

あぁやっぱり、と心のどこかで思った
それと同時に
自分もいつからか由依に惹かれてたんだと気づいて

理 )私も

理 )私も好きだよ、由依





fin