前回のブログでは、ポットノブにノッチの溝をつける加工がダイヤモンドファイルで削ると簡単だということをご紹介しました。

 

 今回はそのポットノブ(可変抵抗器につけるツマミ)についてのお話です。

 

「エレキギターの使い勝手を考えて、もっとデザインされたノブが欲しいな」と思ったのが、ポットノブを3Dプリントで作成してみたきっかけでした。既存のノブが単に回ればいいというだけのデザインに感じられたので、一工夫したいと思ったのです。

 

●ボリューム奏法の考慮

ギターの演奏中、アタック音を消すためのボリューム奏法では、右手の小指をノブに巻き付けて操作します。人差し指や親指は弦を担当しているので、小指で操作しやすいノブが望まれます。

 

●ボリューム開度の確認

暗いステージ上や目盛りのないノブでは、ボリューム開度が確認しにくいです。目盛りがついていない場合は、取り付けネジの位置でフルテンを確認する人もいますが、それでも視力が弱いと見づらいです。

 

そこで、以下の目的や条件、設計指針を定めて作成しました。

目的・機能

  1. ボリューム奏法をやりやすい
    • 小指に寄り添う形、滑らない、軽い
    • 開度が触覚でわかる
  2. ギター演奏時に上から見て開度がわかる

条件

  • ボリュームポットの先端形状によらず使用可能
  • 通常のノブと違和感なく併用できる意匠

設計解

  1. 円筒の側面を凹ませ、軸を偏心する
  2. らせん状の溝で開度を表す

作成したものがこちらの写真です。

 

●偏心について

右端のように軸が中心からずれた位置(偏心)にあります。白い方が茶色のもの(写真中央)よりもずれの量を大きくしています。偏心することで、ボリューム奏法での操作性や開度の触覚による確認を試してみたかったのです。

試してみた結果、「ボリューム奏法がしやすくなるかは人それぞれ」「開度は触った感覚ではわからない」といったところでした。また、偏心していることを知らないと壊れているのではないかと誤解されるデメリットもあります。

 

●らせんの目印について

「開度がどのくらいか?」の見やすさは改善されましたが、溝に蛍光塗料を流し込むのは難しく、暗いステージでの視認性向上は諦めました。また、「本当に見て確認するだろうか?」、「実際はフルテンかゼロでの使用が多い」のだろうと思いました。

 

●真ん中を凹ませた形状、トゲトゲのグリップ感について

 「滑る気配がない。小指が喜んでいる。」と思いました。

 

●その他

 素材がナイロンで白色なので、使用していると塗装が剥げてきてしまいます(写真中央)。

 

そんなある日、次の動画がyoutubeのショートで流れてきました。これをみて「あるあるだよねー」と思いました。

 

 

で、閃いたのがポットの多段階化です。

 

多段階化することで、開度が復元でき、暗いステージで視認せずに触覚で開度がわかるようになります。

これを実現したのが、本テーマの「ノッチ付きポットノブのための台座(Potentiometer base for notched knob)」です。

 

はじめは無段階と多段階を切り替えられるようにしようと思いましたが、適切な構造が見つからず、まずはシンプルに多段階を実現することにしました。

ということで、台座さえあればノブは既存のものを流用できる形としました。

 

台座さえあれば既存のノブを流用できる形としましたが、実は「ノッチのための段差をあらかじめつけた」ノブも3Dプリントしています。

 

 ノッチと接触するノブの下面はサンドペーパーで表面のざらざらを滑らかにしています(写真中央)

 

偏心ノブの経験を踏まえ、

  • 偏心は採用せず、真ん中に穴を開けました。開度はノッチでわかるし、ボリューム奏法はしない想定です。
  • らせんはやめて、ひもが巻き付いているような形にしました。
  • グリップ感は、中央を凹ませてトゲトゲもつけています。3Dプリントならではの形状です。

取り付けねじ(Φ4mm)は、タップを切らなくても成形のネジ山でねじ込むことができました。3Dプリントの精度が高くなったおかげです。また、型抜きを考慮しなくてもよい造形の自由度があるからこその形状です。3Dプリント万歳です!

 

しかし、このノブはもう使っていません!

理由は金属製の方が見た目がいいからです。他のノブが金属のメッキだと調和しないので、他のノブもプリントすればよいかもしれませんが、3Dプリントは高価なのです。


以上が、今回のポットノブの試作の経緯と結果でした。

次回は、樹脂のノブと金属製のノブについてです。お楽しみに!

 

 

前回、アルミ製のミューターを紹介しました。

 

 実は、今回から試行錯誤の詳細を順次紹介する予定だったのですが、ちょっと道草を食います。なぜなら、YouTubeのショートでマイケル・ジャクソンの動画を見つけてしまったからです。

 

 

1988年くらいの映像だと思いますが、横でギターを弾いているJennifer Battenのギターのナット付近に何やら怪しい物体が…これはもしや?と思って調べてみました。

 

 調べてみると、これはタッピング時に開放弦をミュートするための部品でした。大きなフェルトを弦に押し当てる仕組みで、ヘッドにねじ止めし、小判型の部分にフェルトを貼り付けるようです。

 

 String Damperという名前なんですね…ピアノのダンパーを思い出しました。

 英語力が足りないのか、和製英語のせいか…ミュートする部品なので「ミューター」と勝手に命名してしまいました。ちょっと恥ずかしいですが、日本人にはわかりやすいですよね?「日本人の日本人による日本人のための命名」です!

 

 そして、String Damperを見て気づきました!

 

 …それは…

 

 1フレット使わなくてもいいじゃん!ってことです。それなら、String Damperのフェルトが大きいのも、フレットラップの幅が広いのも納得です。

なーんだ、1フレットは使えないのかい!って感じです。

 

 でも、自分は1フレットを押弦できるようにしたいんです。理想は同じ弾き心地のままで、開放弦を鳴らすこともミュートすることも切り替えられるギターです。

★ナットと1フレットの中間くらいなら十分なミュートができますが、そうすると1フレットを押弦する隙間がなくなってしまう…

★1フレットを押弦する隙間を作るためにナットに近い位置でミュートすると、今度はミュートが甘くなってしまう…

 

…これを何とかしようと試行錯誤していました。

具体的には弦を●●●するような形にしたり、●●●の素材を変えてみたり、左手の●●●指とぶつからないように●●●したりしました。

 

●●●を書いてしまうと今後の記事のネタバレになってしまうので今は内緒ですw

 

次回から試行錯誤について書いていこうと思います。お楽しみに!

 

 

「ノッチ付きポットノブ」って何?

このシリーズのテーマは「ノッチ付きポットノブ」ですが、正直、ノッチもポットもノブも、一般的な言葉じゃないですよね。

日本語にすると・・・

  • ノブ: knob、つまみ
  • ポット: variable resistorやPotentiometer、可変抵抗器
  • ノッチ: notch、刻み目

というわけで・・・

 本テーマの「ノッチ付きポットノブ」について考えてみると、「切り込みのある可変抵抗器のつまみ」ということになります。でも、実は台座が主役なのに、ノブが主役みたいなテーマ名になっちゃってます。「ノッチ付きポットノブのための台座(Potentiometer base for notched knob)」とかの方が適切かもしれませんね。

 

主役の台座は前回の記事を参照ください。

 

 

 

 

ともあれ、今回の主役はノブ(つまみ)です!

 

ノブの形状について

 ノブにはいろんな形状がありますが、設計では「ドームノブ」と呼ばれる形を対象としました。理由は簡単、私が持っているギターに多かったからです。ドームノブは直径が18mm~19mmくらいで大体同じなので、台座を設計するときに考えやすいんです。

 

 

ノッチの切り込み位置

 ノッチの切り込み位置は5カ所くらいがいいと思います。ボリュームの最大と最小の場所には切り込みは不要(というか、ないほうがいい)です。5カ所の位置は時計で表すと「12時」「1時半」「3時」「4時半」「6時」です。

ボリュームポットの最小から最大までの回転角度は通常270度から300度なので、図にするとこんな感じです。左側のパックマンの口みたいな部分が、つまみが回らない範囲です。

ノブの底面に刻みをつけるには?

ノブの底面に刻みをつけるには、ダイソーのヤスリがおすすめです。ダイヤモンドファイルを使うと、簡単にへこみ形状に削ることができますよ。

次回予告

 この図のノブは3DプリントしたノブのCADデータです。

 3Dプリントの造形の自由度を活かして、市販にはないノブを作ってみました。次回はこれについて紹介しますので、お楽しみに!

 

 

 

 

 

 

 

 前回ちらっとご紹介したミューター(フレットラップのようなもの)について、今回は詳細をご紹介します!

 

 

 

 これは次の写真のように、ナット部分に取り付けて使用します。

 

 アルミ製の本体の内側にフェルトを接着しており、このフェルトで弦をミュートします。取り付けは手芸用のゴム(ライクラ ソフトゴム 12コール 幅10.5mm ダイソーの110円)を使っています。ゴムを二つ折りにして端を接着しマジックテープをつけます。これを、Bの文字の左上のピンにかけて、ぐるりとネックを回し、本体に接着したマジックテープで固定するだけです。

 

 設計データは、ギターの指板R、ナット幅、弦間距離などの寸法により形状を決定しています。寸法表の数値を変更することで、形状を自由に変更できるようにCADデータを作成しています。

 写真のミューターはBill Lawrence用のサイズで作成したもので、刻印を「B」としました。フェンダーやギブソン用も作成したのですが、そちらの刻印は「F」、「G」としました。

 

 で、このミューターの性能はどうか?ですが、・・・指でミュートするような完璧なミュートはできません。たぶん、軽さが原因でしょう。それでも、音の減衰を早めたり、不要な共振を減らしたり、開放弦の響きを少しおとなしくしたりと、いろいろな効果があります。これらの加減はナットからどのくらいはみ出してミュートするかで調整できます。例えば、0フレットと1フレットの中間くらいに取り付けるとかなりミュートされますし、ナット部分から少しだけ1フレット側に出した位置ではほとんど変化はありません。

 

 このミューターはまだDMM.makeのフリーマーケットには出品していません。その理由は、アルミ製だと価格が高くなりすぎるためです(なんと1万円以上!)。樹脂製にすると使い勝手は問題ないのですが、ゴムを止めるピンが徐々に曲がってしまい、見た目が残念なことに。そこで、この問題を解決してからの出品を目指しています。

 

 次回からはミューターの試行錯誤の物語をお届けします。当初はクラシックギター用のミューターを考えていましたので、まずはその試行錯誤をご紹介します。お楽しみに!

 

 

 

 

 

 

 ギターのカスタムパーツとして「尻尾アーム」を開発しました。その目的や利点、考慮した点についてご紹介します。


 

利点1)収納の利便性

 高さをボリュームノブ程度に抑えることで、ギターケースにそのまま入れられるようにしました。これにより、毎回アームを外す手間が省けます。なお、ケースによっては通常のトレモロアームをつけたまま収納できるものもあるようですが、私はトレモロアームを外して運搬していたので面倒でした。

 

利点2)演奏時に邪魔にならない

 アームをまれにしか使わない場合、演奏時にアームが右手の近くにならず、邪魔にならない位置におさまっていてほしいと思いました。

 

条件1)価格が安い

 3Dプリントでの作成コストはおおむね体積に比例します。そのため、ついつい小さい部品にしたくなります。

 また3Dプリントは素材によって値段が大きく異なります。チタンやステンレスといった金属でプリントすると5万円以上と高価になってしまいます。

 

 これらの目的や条件を踏まえて作成した試作第1号が次の写真の一番上にあります。

 

 試作第1号は体積が小さいため、コストを抑えることができましたが、使ってみるといろいろ気になる点がありました。そのため、写真の真ん中の試作第2号を作成しました。

 次回は、何が気になってどこを改良したのかをご紹介します。お楽しみに!