それは33年間の人生の中で最も冷たく、孤独な世界に突き落とされた出来事だった。

2007年8月10日、僕はヴィサの手続きの為15年間滞在中のアメリカから一時出国しなければならなく、夏休みもかねて三日間カリブ海にあるバハマ島へ旅行に行った。そこでは日常とはかけ離れた別世界が僕を待っていた。一点の曇りもない青い空、真っ白な砂浜、遠く水平線の彼方まで透けて見えるような海。僕はこの素晴らしい環境の中、日常の忙しさと忘れ心から休暇を楽しんだ。

しかし、これから誰も想像出来ない地獄が僕を待ち受けているなど考えもしなかった。

アトランタ国際空港で逮捕される。

2007年8月13日 午後5時

僕は国内に入る手続きをバハマ空港で済ませ、アトランタ空港に向かう飛行機に乗った。着陸の30分前に機内アナウンスがあった。飛行場でナショナルセクリティーが何かの取り調べの為、乗客全員のパスポートをチェックしたいという情報が流れた。

機内の後ろから3列目に座っていた僕は、降りるのが最後の方だった。機内から降りるとそこには5人の武装したナショナルセクリティーが待っていた。僕はパスポートを渡すといきなり僕は暴力的に体を彼らのヴァンに押し付けられ耳元で怒鳴られながら全身をチェックされた。

セキュリティー:『足を大きくひらいて!』

飛行機のエンジンの音と彼等の怒鳴り声が大きすぎて訳が分からないまま、手錠をかけられヴァンに押し入れられた。

自分のパスポートは日本国だし、バハマ空港でヴィサの手続きは問題がなかった為、まさか自分は問題ないだろうとその時は思ったが僕の頭の中は混雑とショックでこれは悪夢ではないかと何度も自分を疑う事しか出来なかった。そして僕は尋問の為に彼等の事務所に着いた。彼等は僕をそこにあるベンチに座らせ、片方の手錠をベンチに繋いた。 白人のセクリティーは僕のパスポートをめくりながら、 からかう様に笑いながら、こう言った。

セキュリティー:『おい、こいつのパスポート見ろよ。E-2(投資家ヴィサ)だぜ。こんな奴が投資家?笑わせるぜ。』

このセクリティーは大きな図体でピンクの帆をテカテカさせながら学校でたてのルーキーだ。少ない収入で働らかされているせいか、嫉妬しながら八つ当たりぶつけているような感じした。

セキュリティー:『おい、お前の住所は?』

ケンジ:『XXX-XXX Street, SAN FRANCISCO, CALIFORNIAです。』

難しい顔をしながらコンピューターの前に座り、太いヒトサシ指でキーボードに気難しく文字1つずつ僕のデーターを入力しはじめた。

セキュリティー:『SAN FRANCISCOってどういうスペルだったっけ?』 と同僚に聞いた。

同僚も分からなかったので僕は彼らにスペルを言い始めると、

セキュリティー:『うるさい。お前には聞いていない。』

僕は言われた通りに黙った。 腹の中で怒りと絶望が火山のマグマのように動き始め、噴火しそうになるのをこらえるように下を向いた。

北朝鮮人も日本人も皆同じ人種と思いこんでいる、ただ吠えるだけの馬鹿なアメリカ人め。こういう奴らがいるから、他の多くの国から憎まれてテロ事件が起るんだ。

セキュリティー:『見られてはいけない物など何もないだろうな。』

セクリティーが僕のバックの中を調べ始めた。中に入っていたラップトップを取り出し、電源を入れようとしている。

ケンジ:『はい、僕の会社の仕事のデーターしかありません。』

彼はチェックするふりをしているが使い方が分からないらしい。僕のラップトップはマックだったので多くのアメリカ人は電源の入れ方が分かっていない。

ケンジ:『あの、すみません。電話させてくれませんか?家族が心配しますので、今後どこに連れて行かれるのか知らせないと。 次の週に僕の姉の家族がワシントンからサンフランシスコに来る予定なのです。』

セキュリティー:『ジェールの中からするのだな。』 ともう一人は笑いながら答えると周りにいた他の若いセキュリティーも一緒になって笑った。

『ジェール?拘置所?』

こんな遠い知らない所でジェールなんか入る事さえ、僕は信じられなかった。

ケンジ:『ジェールには一度も入った事ないのですがそこでは電話はされてもらえるのですか?』

セキュリティー:『知らないよ。俺たちも入った経験ないし。』

ケンジ:『お願いです。出来たらここで電話をさせてください。』

すると側で話を聞いていた彼等の上司である、東洋人セクリティーは僕の手錠をはずしてくれて、電話をしていいと許可してくれた。

セキュリティー:『ボス、こいつに電話させるのですか?』

上司は静かにうなずいた。

同じ東洋人だったせいなのか、彼は僕を助けてくれた。

僕はバックから手帳を取り出しペンで必要な電話番号と兄のメールアドレスを手のひらに書いた。 ジェールに財布以外は何も持っていかれないと言われたからだ。

僕は法律事務所に働く弁護士の友達に連絡した。

ケンジ:『もしもし?』

友人:『ケンジか?どうした?バハマ島は楽しかったか?』

ケンジ:『いや、しっかり聞いてくれ。大変な事になっている。ついさっき、アトランタ空港で逮捕された。カリフォルニアから逮捕状が出ていると言われた。そして、これからジェールに連れて行かれる。その前に電話をさせてもらっている。どうすればいい?助けてほしい。』

友人:『なんだって?落ち着け。どうして逮捕状が出ているか聞いたか?』

ケンジ:『性犯罪と言われました。まったく何の事か分かりません。僕をこんな目にするのは半年前に別れた彼女しか思い当たりません。』

友人:『そうか、彼女ならやりかねないな。所でどこのジェールだ?』

僕は電話を許可してくれた東洋人のセクリティーに聞いた。

ケンジ:『すみません、ジェールの名前を知らせてもらえませんか?』

セキュリティー:『クレイント・カウンティー・ジェールだ。』 

ケンジ:『それで、今兄のメールアドレスを言うから、僕の家族にこの状況を伝えて欲しい。』

友人:『分かった。ジェールからでも電話出来るからいつでも電話してこいよ。』

ケンジ:『ありがとうございます。とても助かります。』

そして電話を切った。とりあえず、誰かにこの状況を伝えられたホッとした。

それから待つ事約1時間、ローカルの警察所から黒人の警察官がやって来た。若いセクリティーは親しく気取りながら警察官と会話している。警察官はおとなしく情報を聞き取った後、セクリティーが僕の所にやって来てあの警察官が僕の身柄を引き受けるという事を知らして来た。

 

ケンジ:『すみません、待って下さい。僕の荷物はどうなるのですか?』

セキュリティー:『お前の荷物は大丈夫だ。デルタ航空会社の倉庫にしまっておく。とにかく、何もかも済んだら荷物を返してもらえるように連絡するんだな。』 

僕は仕事の全てが入っていたカバンを渡しくはなかった。抵抗したかったがもし抵抗したら何をされるか分からず、脅えて全てを渡す事しか出来なかった。バックはイスにおかれたまま、僕はセクリティーの事務所から迎えに来た警察官と去った。僕は将来、荷物が帰って来ないという最悪な結末になるとはそのとき思いもしなかった。

移動中、沢山の旅行者が手錠をしている僕の方をジロジロと見ている。そこには家族連れの子供達もいて、自分を犯罪者のように冷たい目で見ている。私は気まずい顔をしていると、警察官はこう僕に言ってくれた。

警官:『大丈夫だよ。彼等は1分もすればあなたの事は忘れる。だから、気にする事はない。』

彼は僕を安心させてくれかの様に、ずれ落ちている僕の眼鏡を直してくれた。

外に出るとすでに日は落ちていた。彼のパトカーの後ろに乗ると、彼は優しい声で聞いてきた。

警官:『後ろはキツいけど勘弁してくれよな。それで、君はどこから来たの?』

ケンジ:『今はサンフランシスコに住んでいますが、僕は日本人です。』

警官:『どうして日本からカルフォルニアに?』

ケンジ:『サンフランシスコで美術大学に行き、広告デザインを学びに来てからアメリカが気に入り、あっという間に15年が過ぎてしまいました。』

警官:『それで、シスコで何をしているの?』

ケンジ:『自分のデザイン会社を立ち上げました。』

警官:『へーすごいね。で、逮捕されたのは初めて?』

ケンジ:『はい、とても驚いています。一体なぜなのか分からないし、どうしていいのかも分かりません。とても混乱しています。』

警官:『気持ちは分かるよ。早く解決するといいですね。』

ケンジ:『はい。』

僕は何も考えられないままゆっくり走りだす空港の明かりを見送っていた。

これからどうなるんだろう?こんな夢からはやく覚めたい。

10分ぐらいすると空港側にある警察所に着いた。そこで警察官は手続きをする為、僕を周り一面セメントで覆われた小さな個室に入れた。僕はベンチに座り目の前には厚いドアとにらめっこした。ドアをよく見ると下のほうには人の足で何度も激しく蹴られた跡があった。それを見るだけで以前ここに入っていた人たちの叫び声が聞こえてくるようだった。

5分ほどすると同じ警察官がドアを開けて、彼は僕に喉は乾いていないか、トイレに行きたいかを親切に聞いてくれた。そして、冷たいミネラルウォーターを持って来てくれて、トイレにも行かせてくれた。30分して彼は手続きを終えると僕を外に連れていき、 ジェールまでヴァンを運転する武装した警官に僕を引き渡した。そこには他に手錠した若い女20代前半の若い黒人の女の子がいた。その警官はその女の子になれなれしく話しかけている。僕と彼女は同じヴァンに乗せられた。ヴァンの中は2つに仕切られていて、彼女は前に僕は後ろの檻の中へと入れられた。真夏のアトランタで窓がない鉄で出来たヴァンの中はとても蒸し暑く汗で手の甲に書き写した兄のメールアドレスがにじみ始めた。僕はそれが消えないように息を吹きかけながら必死で汗を乾かした。およそ45分ほど僕たちはヴァンに揺られて(ATLANTA CLAYTON COUNTY JAIL) アトランタ・クレイント・カウンティー・ジェールに到着した。周囲は真っ暗で静かな場所だった。