昔、僕は
自分の心の片隅にあった
ただの落書きを
宝の在りかが書かれた地図だと思い込み
その地図を片手にここまで走り続けた
そうして走り始めてから
ここに至るまでの間
僕は何が出来ただろう
走り続けた中で僕は
何を見つけられただろう
少しは自分の理想に近づいたのだろうか
少しは昔、自分が望んだものに届いたのだろうか
ここに来るまでの記憶を
紐解いてみても
どこの部分を切ってみても
いつもやろうとしていたことは変わらないのに
どこの部分を切ってみても
答えはなくて
未だ、自分の望む世界にすら届いていない
いつも不安と闘って
自分の望むものを諦めたり、すり替えてしまえば
もっと簡単に進めるのに
それが出来なくて
ただ、自分の信じた道が真っすぐであって欲しいと願い続け
それでいて、無邪気に笑う彼女の笑顔を守りたくて
結局、振り返ってみると大したことは出来てなくて
いつも「力が欲しい」と願うばかり
真っすぐに伸びたその道を
どこまでも真っすぐに貫き通せるだけの強い力や
彼女が楽しそうに笑う
その笑顔を守れるだけの力が欲しいと願い走り続けて
いつか本当にその力を手に入れた時に
本当にそこには望んだものがあるのだろうか
本当にそこには彼女の笑顔があるのだろうか
どこまで行けるだろうか
手を伸ばし続ければいつかは掴めるのだろうか
走り続ければいつかは辿り着くのだろうか
その答えが例え曖昧なものであっても
走り続けるしかないだろう
そうすることでしか答えは出ないのだから
今はただ、彼女が嬉しそうに笑う
その笑顔が見たい
ただ、それだけだ
Asian Kung-Fu Generation - After Dark
出会い
どこにでもいる
普通の犬として生まれた僕は
偶然、見かけたライオンに憧れて
なれるはずもないのに
ライオンになろうと思った
その姿はとっても恰好よくて
たてがみがとても凛々しくて
強そうで勇ましくて
堂々と歩く姿を見て
僕もライオンになろうと思った
そして旅に出た
その旅先で出会った女の子
その女の子は
とてもわがままで
だだをこねては僕を困らせて
さみしがり屋のくせに強がりで
泣き虫のくせに頑固で
僕のいうことをいつも聞いてくれない
でも僕のしっぽをしっかり握るものだから
あまりにもぎゅっと握るものだから
なぜだか僕も
彼女を守りたいと思うんだ
彼女が大事にしていた人形に
僕が名前を付けてあげると
彼女は喜んで
その人形に語りかけた
そしてその人形を
大切にする彼女を見た僕は
なぜだか彼女を守りたいと思ってしまった
ライオンでもない
ただの犬が
そんな夢物語を考えてしまった
僕の背中ですやすやと眠る彼女が
どうして僕を選んだのか
どうして僕についてきたのか
わからないけれど
僕は彼女の幸せそうな寝顔を見て
とても幸せな気持ちになった
だから僕はこの女の子を
ここに置いていこうと思った
ライオンになりたいと思う僕が
この先、この子を守れるだろうか
ただの犬でしかない僕が
自分の身を守るのが精一杯の僕が
この先、この子を守れるだろうか
きっと彼女は起きた時に
僕がいないと必死に探すだろう
そして僕がいないことを知ると
いっぱい泣くだろう
それでもこの先のことを考えると
その方がいいだろう
だから、そっと彼女をここに置いていこう
そうして僕は彼女を地面にそっと置いて
小さく吠えて別れの挨拶をした
すると彼女は眠りながら
僕のしっぽを掴んだんだ
あまりにもぎゅっと握るものだから
僕はそこから動けなくて
仕方がないから
僕はその晩、ずっと夜空を見て考えた
ライオンでもない僕が
この子をちゃんと守れるだろうか
この先、しっかりと
この子の笑顔を守れるだろうか
僕は昔、見たライオンの姿を
思い浮かべて眠りについた
あれから僕は
やっぱりライオンにはなれなくて
まだ、普通の犬のままだけど
彼女が僕の為に作ってくれた
草でできたたてがみが
僕をほんの少しだけ強くした
ダンデライオン
雨
どこにでもいる
普通の犬として生まれた僕は
偶然、見かけたライオンに憧れて
なれるはずもないのに
ライオンになろうと思った
そして旅に出た
その旅先で出会った女の子
その女の子は
とてもわがままで
駄々をこねては僕を困らせて
さみしがり屋のくせに強がりで
泣き虫のくせに頑固で
僕のいうことをいつも聞いてくれない
そんな女の子と僕の物語・・・
その日は雨が降っていた
3日間降り続いた雨は
一向に止む気配がなく
先を急ぐ僕は
雨の中、出掛けることにした
彼女はそんな僕の為に
何枚もの葉っぱを重ねて
傘を作って一緒に歩いてくれた
また今日もこの子を置いて行きそびれた
雨の中出掛けたら
ついてこないだろうと思ったのに
どうしてそこまでして僕についてくるのか
わからないけれど
雨の中でも嬉しそうに
歌を歌いながらついてくるから
僕もまあいいかと思った
その時、僕らが歩いていた道が
突然、崩れ始めた
3日間降り続いた雨で
地盤が緩んでいたんだ
そのまま土砂崩れとなって
崖の方向へ流れた
僕はとっさに
彼女をくわえて踏ん張った
でも地面が緩みすぎて
どんなに踏ん張っても止まらなかった
必死にしっぽを振ったり
前足をばたつかせたりして
引っかかりそうなものを探した
そうすることで僕らは何とか
谷底に落ちることを逃れた
それでも崖は眼の前で
僕は彼女をくわえ
必死に前足で木の枝にしがみついていた
このままでは僕が
支えきれなくなるのは
時間の問題
だから彼女にも
近くの枝に手を伸ばして
それにつかまって欲しかった
でも彼女は両手でしっかりと
人形を抱え
決して手を伸ばそうとしない
人形を手放せば
なんとか自分を支えられるのに
そうしようとしないから
僕が全部を支えないといけなくなる
〝ばかやろう
そんなに何でもかんでも
支えられるほどの力はないんだよ
所詮、ただの犬なんだよ
ライオンになりきれない
ただの犬なんだよ
ライオンに憧れてしまった
大馬鹿犬なんだよ
だからその人形を手放して
近くの木をつかめ
このままでは僕らは谷底に落ちてしまう
人形なんてまた買えるだろう
いくらでも代わりはあるだろう
だからその人形を手放して
近くの木をつかめ〟
僕は必死にそう願ったが
それでも彼女は決して
人形の手を離さなかった
離そうともしなかった
どうしようもなかった
僕の力ではすべてを支えきれなかった
本当にどうしようもなかった
だから僕は諦めた
すべてを諦めた
ライオンになることも
自分が生きることすらも
そして、その代わり
彼女を守ることに集中した
すべてを捨てて
彼女を守ることだけに
全身全霊を傾けた
僕は彼女をくわえたまま
崖の方へ滑り落ちると
そのまま2人して崖の下へ落ちて行った
僕は落ちながら必死に
谷の底だけを見ていた
ただひたすらに
地面だけを見て
柔らかそうな場所を探した
僕はこの時、初めて
自分の野生の勘というのを信じた
僕にそんなものがあるかどうか
分からないけれど
その時、初めて
自分自身を信じた
自分の力を信じた
彼女を守りたかったから
〝僕にその力があるならば
この子を守りきれるはずだ
どんな状況になっても
この子を守れるはずだ〟
僕はそう信じた
そうして僕たちは谷底へ落ちていった
幸い崖の下は柔らかい地面で
僕らは助かった
それでも僕は彼女を守って
斜面を滑り落ちた時に負った擦り傷と
崖の下に落ちた時の衝撃で
肋骨を何本か折ってしまった
でも奇跡的に彼女は無傷だった
だから僕はぐったり倒れたまま
ほっとした
彼女は僕の様子を見て
大泣きしたが
これくらいの傷
唾をつけとけば治るだろう
それでも何度も何度も謝って
泣き続けた
〝この怪我ではしばらくここで
足止めかな
先を急ぐというのに
仕方がないな
でもまあ、それでもいいか〟
彼女の強がりが僕に
自分自身を信じさせるきっかけを与えた
自分の命が危なくなっても
その人形の手を離さなかった彼女だから
僕はきっとすべてを諦めても
守ろうと思ったのだろう
相変わらず泣き虫だと
僕が弱々しく彼女の涙を拭うと
「違うもん、雨だもん」と泣きながら言った
雨の割にはしょっぱい味がすると思ったが
それでもいいかと思い
僕は力なくしっぽを振り続けた
彼女が泣きやむまで
しっぽを振り続けた
FREEASY BEATS ありのまま
オオカミ
どこにでもいる
普通の犬として生まれた僕は
偶然、見かけたライオンに憧れて
なれるはずもないのに
ライオンになろうと思った
そして旅に出た
その旅先で出会った女の子
その女の子は
とてもわがままで
駄々をこねては僕を困らせて
さみしがり屋のくせに強がりで
泣き虫のくせに頑固で
僕のいうことをいつも聞いてくれない
そんな女の子と僕の物語・・・
ある日、僕らはオオカミに遭遇した
僕は一瞬にして
危険を察知して
次の瞬間、逃げることを選んだ
でも彼女は
そこまでのにおいを嗅ぎ取れなくて
僕らは逃げ遅れてしまった
オオカミを前に
僕はどうやって逃げるかを
必死に考えた
すると女の子は
僕の前に立って
僕を守ろうとして
両手を広げた
小さな女の子でしかない彼女が
必死に僕を守ろうとした
僕一人なら
逃げられるのに
僕より弱いくせに
必死に僕を守ろうとするから
だから僕も恐怖をかき消して
彼女の前に出て
必死に吠えた
すると彼女は僕のしっぽを引っ張って
自分の後ろに下げようとする
僕はそれに逆らって
必死に彼女の前に出て
力の限り吠えた
僕がライオンになりたいと
望んだばかりに
この子を危険な目に合わせてしまった
彼女を守れるだけの力もないくせに
彼女を置いてこれなかった僕は
その度にライオンになりたいと思った
例え、ライオンになれなくとも
彼女を守りたいと思った
それなのに、僕はこんな状況になっても
逃げることばかりを考えている
僕がライオンになりたいと願ったばかりに
僕が普通の犬として生まれたばかりに
彼女を不幸にするのならば
僕はもうライオンになりたいなんて言わない
だから、ここでその命が果ててしまっても
それで彼女を守れるのなら
それでいいだろう
ほんの少しでもいい
この子を守れるだけの力が欲しい
ほんの一瞬でもいいから
この子の笑顔を守る為に
僕はライオンになりたい
僕は必死に吠えた
彼女を守りたかったから
必死に吠えた
ライオンになりたかったから
力の限り吠えた
するとオオカミは何も言わず
去って行った
僕はそれを見て
心の底からほっとした
でも、もしかしたら
その一匹オオカミも
僕らと話したかっただけじゃないだろうか
なんだか悪いことをしてしまった
オオカミが去ると
女の子はその場に座り込み
泣きながら僕に
「ありがとう」と言った
何度も何度も
泣きながら「ありがとう」と言った
本当は怖かったくせに
必死に僕を守ろうとしたんだ
僕は心の中で思った
それは違うよ
「ありがとう」を言うのは
僕の方だよ
君の勇気が僕を強くした
強い人が振りかざす強さではなく
弱い君が強くなろうとする強がりが
僕に勇気の一歩を踏み出させた
僕も同じなんだ
僕も弱いくせに強くなりたがるんだ
いや、弱いからこそ
強くなりたいと願うんだ
大切な人を守りたいからかな
ただの自分の弱さを隠すためかな
どっちでもいいよ
君を守れるなら
どっちでもいいさ
だから、「ありがとう」をいうのは
僕の方だよ
僕は優しく彼女の頬をさすった
泣き続ける彼女の横で
しっぽを振り続けながら
優しく彼女が泣きやむのを待った
本当に弱いくせに強がりで
強がるくせに泣き虫だ
でも、そんな彼女の強がりが
僕を少しだけ強くした
POSSIBILITY - sanagi
涙
どこにでもいる
普通の犬として生まれた僕は
偶然、見かけたライオンに憧れて
なれるはずもないのに
ライオンになろうと思った
そして旅に出た
その旅先で出会った女の子
その女の子は
とてもわがままで
駄々をこねては僕を困らせて
さみしがり屋のくせに強がりで
泣き虫のくせに頑固で
僕のいうことをいつも聞いてくれない
そんな女の子と僕の物語・・・
ある日、彼女は大泣きをしていた
その理由が僕には分からないが
僕が何度聞いても
「泣いてないもん」というだけ
目にゴミが入ったとか
目が乾燥するからとか言って
強がりを言う
きっと過去に何かとても辛いことがあったのか
あるいは大きな理想が君を苦しめるのか
いやいや
僕の存在が君を傷つけているのかもしれないな
今まで、どれだけ辛いことがあったのか
僕には分からないけれど
その小さな体で
どれたけの重みに耐えてきたんだ
〝話してくれないとわからないだろ
いつもみたいにわがままを言ってみろよ
普段はただの犬だけど
そういうときだけ
ライオンのふりをしてやるよ
もしも空を飛びたいなら
そういうときだけ
鳥になってやるよ
犬だから言葉も分からない部分が多くて
理解してあげるのも苦労するんだぞ
それでもちゃんと聞くから話してよ
人形には話すくせに
僕には話してくれないよね〟
昔、カラスが僕に言いました
「面倒くさいものは捨てていけ
鳥がなんで高く飛べるか知ってるか?
何も持たないからだよ
だから面倒くさいものは
全部捨てればいいよ」
僕はそれを思い出して笑った
〝そうだな
カラスのいうことは正しいよ
気まぐれさ
そう、ただの気まぐれ
彼女を置いていけないのは
僕が優しいからじゃなくて
弱い心のせいかな
きっとライオンなら
とっくの昔に彼女を置いて
走り出していたさ
でも放っておけないんだ
僕はライオンじゃないからね
そう、僕はただの犬なんだよ
普通のどこにでもいる犬
こういう時だけ、犬になる
都合のいいやつだけど
でもなぜか
そんな僕の後を彼女はついてくるんだ
泣きながらついてくるんだ
本当に困ったものだよ
わがままで泣き虫で
本当に笑ってしまうほど
強がりで頑固でわがままで〟
「一緒についてきて幸せなの?」と聞いたら
更に泣きだした
聞くんじゃなかったそんなこと
そんな
答えの分かりきったこと
僕は泣き続ける彼女を背中に乗せて歩き出した
ああ、重い
本当に重い
でも、まあいいか
この重さが
彼女がここにいる証
背中に伝わる温もりと
滴り落ちてくる涙の冷たさが
彼女が生きている証
嬉しい重さだな
誰かの為に背負う荷物は
そんなに悪くないかもしれない
本当に泣き虫でわがままな女の子だ
いつまで経っても泣きやんでくれなくて
こっちまでびしょ濡れになりそうだったから
僕は彼女を背中に乗せたまま
歌を歌った
普段、人前では絶対歌わないし
犬の前でも歌ったことなどないけれど
それでも今だけ特別に
歌を歌った
すると彼女は「へたくそ」と言って
少し笑った
知ってるよ
だから歌いたくないんだよ
それでも僕は歌い続けた
へたくそな歌を歌い続けた
そして彼女はそんな僕のへたくそな
歌に合わせて
歌い始めた
泣きながら歌える人などいないよね
だから歌うのさ
彼女は突然、僕に
「走って」と言った
おいおい
馬じゃないんだぞ
ただの犬なんだぞ
ただでさえ重くて歩きにくいのに
それでも彼女は笑いながら
手を鞭のようにして
僕のお尻を叩き始めた
しょうがないから
僕もそれに合わせて走った
本当はただの犬だけど
その時だけ馬になった
すると次は「風になって」と言った
「風の様に駆け抜けて」と僕に言う
そんなことできるか
今でさえ必死なのに
と思ったけど
しょうがないから
風になった
本当はかなりきついけど
本当は足が折れそうだったけど
しょうがないから
彼女を乗せて
僕は風になった
そして彼女も
その風の中で
太陽の様に無邪気な笑顔を見せた
本当にわがままだ
本当にわがままで泣き虫の女の子
でもそのわがままが
僕を少しだけ優しくした
Dan Dan 心惹かれていく
悪者
どこにでもいる
普通の犬として生まれた僕は
偶然、見かけたライオンに憧れて
なれるはずもないのに
ライオンになろうと思った
そして旅に出た
その旅先で出会った女の子
その女の子は
とてもわがままで
駄々をこねては僕を困らせて
さみしがり屋のくせに強がりで
泣き虫のくせに頑固で
僕のいうことをいつも聞いてくれない
そんな女の子と僕の物語・・・
ある日、僕たちが街に立ち寄った時に
偶然、1人の少年が
他の少年達に囲まれているのを見た
どうやらいじめられているらしい
僕はこの世界は弱肉強食だと
思っていたので
その少年がどうなろうが
それは自然の掟だと思っていた
しかし、女の子は
その様子を見て
迷わず、ずかずかと歩いて行って
いじめていた他の少年達に
「大人数でいじめるなんて卑怯だ」
と言った
僕はその姿を見て
お!かっこいいじゃん!
と思ったが
同時に馬鹿なことだとも思った
力のない者が
誰かを助けようなどとしてはいけない
自分が火の粉を被るだけだから
そう思っていた矢先
彼女は人形を取り上げられて
泣きながら帰ってきた
ほらね
だから言ったでしょ?
彼女は僕の前で大泣きして
いじめられていた少年も
殴り倒されて
地面に仰向けに倒れたまま
悔し涙を流していた
そして、その2人を背に
少年達は去って行った
僕はそれでも助けなかった
だってそれが自然の掟だから
だから自分を守りたかったり
誰かを守りたいなら
強くないといけないんだ
そうじゃなければ
何かを守りたいなんて
考えてはいけないんだよ
僕は黙って彼女が泣くのを見ていた
でもね
それが自然の掟だと分かっていても
たまにはその掟に逆らってみたくなるのさ
僕も弱いから
だからこそ強くなりたいんだよ
僕は少年達が歩いて行った方に
歩き出すと
人形についた彼女の匂いを辿った
少年達はまだ遠くには行っておらず
すぐに見つかった
しかし真っ向から勝負しても
相手は大人数
すぐに囲まれて叩きのめされるだけ
だから真っ向勝負などしない
じっと相手の隙を待って
そこを叩く
それが弱肉強食の世界
ルールや美徳などない
勝ったものが生きる
それだけなんだ
僕は彼らが歩く
はるか後ろから
人形を持っている少年めがけて
走り出した
そして、低空をはって飛ぶ
ツバメの様に
人の波をかき分け
まるで
かまいたちの様にして
彼の手を切り裂き
人形を奪い取って
そのまま逃げ去った
後ろから少年の泣き叫ぶ声と
仲間たちの怒号が鳴り響いていた
僕が彼女の元に戻ると
彼女はまだ泣き続けていた
僕は手を切り裂いた
少年は大丈夫だろうかと
少し心配になった
この世界は弱肉強食
だから弱い者が奪われるのは仕方がない
でも僕はその掟があまり好きじゃない
強い者は弱い者いじめをしない
それと同じだと思うからだ
ライオンはウサギを襲う時でも
本気で襲うという
僕はそこまで鬼になりきれないことは
自分でも分かっていた
だから僕はライオンになれないのかもしれない
でも、昔、僕は決めたんだ
大切な何かを守る時だけ
すべてを捨てよう
悪者でも
鬼でも悪魔でも
卑怯者でも嘘つきでもいい
それで大切なものが守れるなら
僕はそれでもいい
そう決めたのに
僕は手を傷つけた少年に
罪悪感を抱いている
きっと彼らからすれば
僕は悪者なんだ
しょうがないことけど
なぜだか悲しい
そんな僕は
所詮、犬だよね
彼女は僕が取り返してきた人形を
大事そうに抱えると
丁寧に汚れを落とした
十分な力もないのに
何かを守ろうとしてはいけないよ
でもね
それでも君が何かを
守ろうとするならば
僕が悪者になるよ
僕が悪者になるから
だから君は
君だけは
この弱肉強食の世界の中で
その気持ちを忘れないでね
この世界の中で
まっすぐな光を放ち続けておくれ
僕はそう願いながら
彼女に向かってしっぽを振った
本当に弱いくせに強がりで
泣き虫な女の子
でもその彼女の正しさが
悪者の僕すらも正しく照らそうとしていた
かさなる影
百獣の王
どこにでもいる
普通の犬として生まれた僕は
偶然、見かけたライオンに憧れて
なれるはずもないのに
ライオンになろうと思った
そして旅に出た
その旅先で出会った女の子
その女の子は
とてもわがままで
駄々をこねては僕を困らせて
さみしがり屋のくせに強がりで
泣き虫のくせに頑固で
僕のいうことをいつも聞いてくれない
そんな女の子と僕の物語・・・
とうとう僕らは百獣の王を見つけた
僕は嬉しくて、嬉しくて
彼女も一緒になって喜んでくれた
僕はそれがまた嬉しくて
いっぱいしっぽを振った
でも王は言った
「もしもお前が本当に
ライオンの様になりたいのなら
ここへ一人で来い
そうすればお前を
1人前のライオンとして認めてやる」
僕はそれを聞いて
ライオンになることを
諦めようと思った
今まで一緒に歩んできた彼女だから
その彼女を捨てて
ライオンになったとしても
その先に何があるのだろうか
僕がライオンになった時に
守るものもなくて
一緒に笑ってくれる人もいなくて
そうやってライオンになったとしても
その先に一体何があるだろうか
僕には分からない
だから僕はライオンになることを諦めると言った
すると彼女は怒った
「絶対だめ!そんなの絶対だめだから!!」
と言って激しく怒った
僕がどんなに言っても
彼女は聞く耳を持たなかった
怒りながら泣いて
泣きながら怒って
僕はどうしていいか分からなかったから
黙って聞いていた
すると「自分の意見を言ってよ!」と
さらに怒りだした
目に涙をいっぱい浮かべて
怒り続けた
自分の意見を言ったらまたケンカになるだろう
それに僕の意見を聞いてくれないし
僕はこれ以上、君を泣かせたくないんだ
そうやって僕らは何時間も話し合った後
彼女は泣き疲れて眠ってしまった
僕は彼女の体を優しく撫でながら
考えていた
これまでのことをずっと考えていた
一緒に旅したことを考えていた
僕がライオンになりたいと思ったばかりに
この子に涙を流させてばかりだ
そんなに涙を流したら
涙が枯れてしまうぞ
僕のライオンになりたいという思いと
彼女が流す涙の量は比例する
だから諦めようというのに
彼女はそれを嫌がって
僕はどうすればいいんだろう
ライオンならどうするのかな
こういう時、強くて格好いいライオンなら
彼女を泣かせずに進んでいけるんだろうな
僕がライオンになったら
君を泣かせずに進めるのかな
そうしていつの間にか僕も眠ってしまった
ふと、物音がしたような気がして目が覚めた
気づくと隣に寝ていたはずの女の子の姿がなく
彼女が大事にしていた人形だけが
僕のすぐそばに置かれていた
しまった!と思い
僕はすぐに辺りを探したけれど
彼女の姿はどこにもなかった
僕はその意味を
彼女がいなくなってから気づいた
僕が置いていこうとした時
自分はしっぽを握って行かせなかったくせに
どうして僕を置いて行くんだ
崖から落ちそうになった時
それでも人形の手を離さなかったのに
どうして僕の手を放すんだ
オオカミと遭遇した時
小さい女の子のくせに
僕を守ろうとしただろ
弱いくせにどうして
そんなに強がりなんだ
君が「風になって」とわがままを言った時
僕は一生懸命、風になろうとしただろ
それは風になりたかったからじゃない
君の笑顔を守りたかったからだ
どうしてそれに気付いてくれないんだ
どうして泣きながら僕に
「ライオンになって」と願うんだ
君の涙の量と
僕のライオンになりたいという願いは
比例するんだぞ
それを知っているのか
弱いくせに強がりで
泣き虫のくせに頑固で
馬鹿者で
本当に大馬鹿者で
彼女が歩いて行った
その先には
涙の跡だけが無数に続いていた
だから僕は必死にその涙の跡を辿った
でも、その涙の跡は
途中で消されていた
僕が彼女に教えた
足跡を消して
敵からの追跡をまく方法を
彼女は覚えていた様だ
どうしてそういうところだけ
よく覚えているんだ
本当に弱いくせに強がりだ
泣き虫なくせに頑固で
わがままな女の子
だから僕も歩きだした
彼女が残した人形を背中にくくりつけて
王のもとへ向かった
いつかきっと
僕がライオンの様になれたら
彼女に会いに行こう
あの泣き虫に
会いに行こう
もしも、また崖から落ちそうになっても
それでも彼女と彼女の大切なものを守れる様に
もしも、またオオカミと遭遇しても
強がりの彼女を守れる様に
もしも、また彼女がわがままを言っても
笑顔でそれを叶えてあげられるように
もう二度と涙を流させないように
彼女の頑張りに負けないように
自分の弱さに負けないように
彼女にとって自慢となるように
どこへ行っても胸を張って歩けるように
いつまでも
どんな時も
どんな暗闇の中でも
あの太陽の様な笑顔を守れる様に
強くなろう
ライオンのように
強く優しく、格好良くなろう
僕は強く、強くそう心に決めて
前を向いて歩きだした
いつかきっと、彼女に会いに行くんだ
それまでは僕は闘い続けるんだ
アマノガワ / ゴーストノート(ghostnote)
草ライオン
どこにでもいる
普通の犬として生まれた僕は
偶然、見かけたライオンに憧れて
なれるはずもないのに
ライオンになろうと思った
そして旅に出た
その旅先で出会った女の子
その女の子は
とてもわがままで
駄々をこねては僕を困らせて
さみしがり屋のくせに強がりで
泣き虫のくせに頑固で
僕のいうことをいつも聞いてくれない
そんな女の子と僕の物語・・・
あれから僕達はいろいろあって
僕は相変わらず犬のままだけれど
ライオンの仲間入りをすることが出来た
まだまだ百獣の王にはなれないけれど
女の子が作ってくれた
草で出来たたてがみを見て
皆は僕を「草ライオン」と呼ぶ様になった
そして女の子もまた大きく成長し
美しく立派な女性になった
幸せな家庭を築き
今もどこかで暮らしているという
風の便りを耳にした
そんな時、僕はふと訪れた街で
1人の女の子と出会った
その子は僕の背中にくくりつけられた人形を見て
無邪気な笑顔で近づいてきた
そして僕のライオンの様な姿に怯えることなく
話しかけてきた
「そのお人形さん、名前はなんていうの?」
僕がその女の子に人形の名前を教えてあげると
「私と同じだ」と言って太陽の様な笑顔を見せた
あまりにも女の子がその人形を気にいるので
僕はその人形を彼女にあげることにした
彼女は「いいの?」と言って
心配そうな顔で僕を見た
だから僕は笑顔で「いいよ」と言った
すると彼女はとてもとても嬉しそうで
その笑顔が僕にその人形をくれた人によく似ていた
一体、どれだけその人形に守られただろう
一体、どれだけその人形に勇気をもらっただろう
僕はその人形と女の子に別れを告げて
背を向けて歩き出した
そして女の子も笑顔で手を振って
僕の背中を見送ると
両親の下にかけて行った
女の子は両親に駆け寄ると
母親にその人形を自慢げに見せた
すると母親はとても驚いて
必死に辺りをきょろきょろして
何かを探した
そして遠くから1匹のライオンらしき犬を見つけると
その傷だらけの姿と
誇らしげに歩きながら
昔と同じ様に
元気そうにしっぽを振る姿を見て
両手で顔を覆った
〝相変わらず泣き虫だ〟
そう思いながらも草ライオンは
そのまま振り返らずに歩き続けた
振り返れば彼女はまた滝の様な涙を流すだろう
だから彼は振り返らずに歩き続けた
堂々と胸を張って歩く姿は
彼が昔、見た勇ましくて格好いいライオンの様であった
彼女が彼の為に作ってくれた
草で出来たたてがみは
すっかり枯れてしまい
茶色くなっていたけれど
それがまるで本物のたてがみの様に見えた
あまりにも母親が泣き続け
女の子が心配して彼女に「泣いているの?」と聞いても
「ううん、違うの」と言って強がるものだから
弱いくせに強がるものだから
彼は遠くから優しくしっぽを振った
昔と同じ様に優しくしっぽを振って
歩き続けた
彼女の姿が見えなくなっても
それでも彼は
彼女が泣きやむまでしっぽを振り続けた
そして彼女が泣きやむと
くるくるとしっぽを回して
自分の足跡を消した
彼女が追ってこない様に
そして自分が戻れない様に
そうして草ライオンは
誰もいない道なき道の真ん中で立ち止まると
大きな唸り声をあげ
姿勢を低くして
ぐっと力を溜めた
そして真っすぐに前を見ると
にかっと笑い
まるで地平線の先の
獲物を捕まえに行くかのように
駆けだした
それはぎざぎざで鋭く
それでいて真っすぐで
雷の様な走りで駆けるライオンは
その先にある暗闇をも
切り裂き、
彼の通った後には
強く、そして優しい風と
全てを包み込むかのような
温かな光だけが残った
Dew/ダンデライオン
どこにでもいる
普通の犬として生まれた僕は
偶然、見かけたライオンに憧れて
なれるはずもないのに
ライオンになろうと思った
その姿はとっても恰好よくて
たてがみがとても凛々しくて
強そうで勇ましくて
堂々と歩く姿を見て
僕もライオンになろうと思った
そして旅に出た
その旅先で出会った女の子
その女の子は
とてもわがままで
だだをこねては僕を困らせて
さみしがり屋のくせに強がりで
泣き虫のくせに頑固で
僕のいうことをいつも聞いてくれない
でも僕のしっぽをしっかり握るものだから
あまりにもぎゅっと握るものだから
なぜだか僕も
彼女を守りたいと思うんだ
彼女が大事にしていた人形に
僕が名前を付けてあげると
彼女は喜んで
その人形に語りかけた
そしてその人形を
大切にする彼女を見た僕は
なぜだか彼女を守りたいと思ってしまった
ライオンでもない
ただの犬が
そんな夢物語を考えてしまった
僕の背中ですやすやと眠る彼女が
どうして僕を選んだのか
どうして僕についてきたのか
わからないけれど
僕は彼女の幸せそうな寝顔を見て
とても幸せな気持ちになった
だから僕はこの女の子を
ここに置いていこうと思った
ライオンになりたいと思う僕が
この先、この子を守れるだろうか
ただの犬でしかない僕が
自分の身を守るのが精一杯の僕が
この先、この子を守れるだろうか
きっと彼女は起きた時に
僕がいないと必死に探すだろう
そして僕がいないことを知ると
いっぱい泣くだろう
それでもこの先のことを考えると
その方がいいだろう
だから、そっと彼女をここに置いていこう
そうして僕は彼女を地面にそっと置いて
小さく吠えて別れの挨拶をした
すると彼女は眠りながら
僕のしっぽを掴んだんだ
あまりにもぎゅっと握るものだから
僕はそこから動けなくて
仕方がないから
僕はその晩、ずっと夜空を見て考えた
ライオンでもない僕が
この子をちゃんと守れるだろうか
この先、しっかりと
この子の笑顔を守れるだろうか
僕は昔、見たライオンの姿を
思い浮かべて眠りについた
あれから僕は
やっぱりライオンにはなれなくて
まだ、普通の犬のままだけど
彼女が僕の為に作ってくれた
草でできたたてがみが
僕をほんの少しだけ強くした
ダンデライオン
雨
どこにでもいる
普通の犬として生まれた僕は
偶然、見かけたライオンに憧れて
なれるはずもないのに
ライオンになろうと思った
そして旅に出た
その旅先で出会った女の子
その女の子は
とてもわがままで
駄々をこねては僕を困らせて
さみしがり屋のくせに強がりで
泣き虫のくせに頑固で
僕のいうことをいつも聞いてくれない
そんな女の子と僕の物語・・・
その日は雨が降っていた
3日間降り続いた雨は
一向に止む気配がなく
先を急ぐ僕は
雨の中、出掛けることにした
彼女はそんな僕の為に
何枚もの葉っぱを重ねて
傘を作って一緒に歩いてくれた
また今日もこの子を置いて行きそびれた
雨の中出掛けたら
ついてこないだろうと思ったのに
どうしてそこまでして僕についてくるのか
わからないけれど
雨の中でも嬉しそうに
歌を歌いながらついてくるから
僕もまあいいかと思った
その時、僕らが歩いていた道が
突然、崩れ始めた
3日間降り続いた雨で
地盤が緩んでいたんだ
そのまま土砂崩れとなって
崖の方向へ流れた
僕はとっさに
彼女をくわえて踏ん張った
でも地面が緩みすぎて
どんなに踏ん張っても止まらなかった
必死にしっぽを振ったり
前足をばたつかせたりして
引っかかりそうなものを探した
そうすることで僕らは何とか
谷底に落ちることを逃れた
それでも崖は眼の前で
僕は彼女をくわえ
必死に前足で木の枝にしがみついていた
このままでは僕が
支えきれなくなるのは
時間の問題
だから彼女にも
近くの枝に手を伸ばして
それにつかまって欲しかった
でも彼女は両手でしっかりと
人形を抱え
決して手を伸ばそうとしない
人形を手放せば
なんとか自分を支えられるのに
そうしようとしないから
僕が全部を支えないといけなくなる
〝ばかやろう
そんなに何でもかんでも
支えられるほどの力はないんだよ
所詮、ただの犬なんだよ
ライオンになりきれない
ただの犬なんだよ
ライオンに憧れてしまった
大馬鹿犬なんだよ
だからその人形を手放して
近くの木をつかめ
このままでは僕らは谷底に落ちてしまう
人形なんてまた買えるだろう
いくらでも代わりはあるだろう
だからその人形を手放して
近くの木をつかめ〟
僕は必死にそう願ったが
それでも彼女は決して
人形の手を離さなかった
離そうともしなかった
どうしようもなかった
僕の力ではすべてを支えきれなかった
本当にどうしようもなかった
だから僕は諦めた
すべてを諦めた
ライオンになることも
自分が生きることすらも
そして、その代わり
彼女を守ることに集中した
すべてを捨てて
彼女を守ることだけに
全身全霊を傾けた
僕は彼女をくわえたまま
崖の方へ滑り落ちると
そのまま2人して崖の下へ落ちて行った
僕は落ちながら必死に
谷の底だけを見ていた
ただひたすらに
地面だけを見て
柔らかそうな場所を探した
僕はこの時、初めて
自分の野生の勘というのを信じた
僕にそんなものがあるかどうか
分からないけれど
その時、初めて
自分自身を信じた
自分の力を信じた
彼女を守りたかったから
〝僕にその力があるならば
この子を守りきれるはずだ
どんな状況になっても
この子を守れるはずだ〟
僕はそう信じた
そうして僕たちは谷底へ落ちていった
幸い崖の下は柔らかい地面で
僕らは助かった
それでも僕は彼女を守って
斜面を滑り落ちた時に負った擦り傷と
崖の下に落ちた時の衝撃で
肋骨を何本か折ってしまった
でも奇跡的に彼女は無傷だった
だから僕はぐったり倒れたまま
ほっとした
彼女は僕の様子を見て
大泣きしたが
これくらいの傷
唾をつけとけば治るだろう
それでも何度も何度も謝って
泣き続けた
〝この怪我ではしばらくここで
足止めかな
先を急ぐというのに
仕方がないな
でもまあ、それでもいいか〟
彼女の強がりが僕に
自分自身を信じさせるきっかけを与えた
自分の命が危なくなっても
その人形の手を離さなかった彼女だから
僕はきっとすべてを諦めても
守ろうと思ったのだろう
相変わらず泣き虫だと
僕が弱々しく彼女の涙を拭うと
「違うもん、雨だもん」と泣きながら言った
雨の割にはしょっぱい味がすると思ったが
それでもいいかと思い
僕は力なくしっぽを振り続けた
彼女が泣きやむまで
しっぽを振り続けた
FREEASY BEATS ありのまま
オオカミ
どこにでもいる
普通の犬として生まれた僕は
偶然、見かけたライオンに憧れて
なれるはずもないのに
ライオンになろうと思った
そして旅に出た
その旅先で出会った女の子
その女の子は
とてもわがままで
駄々をこねては僕を困らせて
さみしがり屋のくせに強がりで
泣き虫のくせに頑固で
僕のいうことをいつも聞いてくれない
そんな女の子と僕の物語・・・
ある日、僕らはオオカミに遭遇した
僕は一瞬にして
危険を察知して
次の瞬間、逃げることを選んだ
でも彼女は
そこまでのにおいを嗅ぎ取れなくて
僕らは逃げ遅れてしまった
オオカミを前に
僕はどうやって逃げるかを
必死に考えた
すると女の子は
僕の前に立って
僕を守ろうとして
両手を広げた
小さな女の子でしかない彼女が
必死に僕を守ろうとした
僕一人なら
逃げられるのに
僕より弱いくせに
必死に僕を守ろうとするから
だから僕も恐怖をかき消して
彼女の前に出て
必死に吠えた
すると彼女は僕のしっぽを引っ張って
自分の後ろに下げようとする
僕はそれに逆らって
必死に彼女の前に出て
力の限り吠えた
僕がライオンになりたいと
望んだばかりに
この子を危険な目に合わせてしまった
彼女を守れるだけの力もないくせに
彼女を置いてこれなかった僕は
その度にライオンになりたいと思った
例え、ライオンになれなくとも
彼女を守りたいと思った
それなのに、僕はこんな状況になっても
逃げることばかりを考えている
僕がライオンになりたいと願ったばかりに
僕が普通の犬として生まれたばかりに
彼女を不幸にするのならば
僕はもうライオンになりたいなんて言わない
だから、ここでその命が果ててしまっても
それで彼女を守れるのなら
それでいいだろう
ほんの少しでもいい
この子を守れるだけの力が欲しい
ほんの一瞬でもいいから
この子の笑顔を守る為に
僕はライオンになりたい
僕は必死に吠えた
彼女を守りたかったから
必死に吠えた
ライオンになりたかったから
力の限り吠えた
するとオオカミは何も言わず
去って行った
僕はそれを見て
心の底からほっとした
でも、もしかしたら
その一匹オオカミも
僕らと話したかっただけじゃないだろうか
なんだか悪いことをしてしまった
オオカミが去ると
女の子はその場に座り込み
泣きながら僕に
「ありがとう」と言った
何度も何度も
泣きながら「ありがとう」と言った
本当は怖かったくせに
必死に僕を守ろうとしたんだ
僕は心の中で思った
それは違うよ
「ありがとう」を言うのは
僕の方だよ
君の勇気が僕を強くした
強い人が振りかざす強さではなく
弱い君が強くなろうとする強がりが
僕に勇気の一歩を踏み出させた
僕も同じなんだ
僕も弱いくせに強くなりたがるんだ
いや、弱いからこそ
強くなりたいと願うんだ
大切な人を守りたいからかな
ただの自分の弱さを隠すためかな
どっちでもいいよ
君を守れるなら
どっちでもいいさ
だから、「ありがとう」をいうのは
僕の方だよ
僕は優しく彼女の頬をさすった
泣き続ける彼女の横で
しっぽを振り続けながら
優しく彼女が泣きやむのを待った
本当に弱いくせに強がりで
強がるくせに泣き虫だ
でも、そんな彼女の強がりが
僕を少しだけ強くした
POSSIBILITY - sanagi
涙
どこにでもいる
普通の犬として生まれた僕は
偶然、見かけたライオンに憧れて
なれるはずもないのに
ライオンになろうと思った
そして旅に出た
その旅先で出会った女の子
その女の子は
とてもわがままで
駄々をこねては僕を困らせて
さみしがり屋のくせに強がりで
泣き虫のくせに頑固で
僕のいうことをいつも聞いてくれない
そんな女の子と僕の物語・・・
ある日、彼女は大泣きをしていた
その理由が僕には分からないが
僕が何度聞いても
「泣いてないもん」というだけ
目にゴミが入ったとか
目が乾燥するからとか言って
強がりを言う
きっと過去に何かとても辛いことがあったのか
あるいは大きな理想が君を苦しめるのか
いやいや
僕の存在が君を傷つけているのかもしれないな
今まで、どれだけ辛いことがあったのか
僕には分からないけれど
その小さな体で
どれたけの重みに耐えてきたんだ
〝話してくれないとわからないだろ
いつもみたいにわがままを言ってみろよ
普段はただの犬だけど
そういうときだけ
ライオンのふりをしてやるよ
もしも空を飛びたいなら
そういうときだけ
鳥になってやるよ
犬だから言葉も分からない部分が多くて
理解してあげるのも苦労するんだぞ
それでもちゃんと聞くから話してよ
人形には話すくせに
僕には話してくれないよね〟
昔、カラスが僕に言いました
「面倒くさいものは捨てていけ
鳥がなんで高く飛べるか知ってるか?
何も持たないからだよ
だから面倒くさいものは
全部捨てればいいよ」
僕はそれを思い出して笑った
〝そうだな
カラスのいうことは正しいよ
気まぐれさ
そう、ただの気まぐれ
彼女を置いていけないのは
僕が優しいからじゃなくて
弱い心のせいかな
きっとライオンなら
とっくの昔に彼女を置いて
走り出していたさ
でも放っておけないんだ
僕はライオンじゃないからね
そう、僕はただの犬なんだよ
普通のどこにでもいる犬
こういう時だけ、犬になる
都合のいいやつだけど
でもなぜか
そんな僕の後を彼女はついてくるんだ
泣きながらついてくるんだ
本当に困ったものだよ
わがままで泣き虫で
本当に笑ってしまうほど
強がりで頑固でわがままで〟
「一緒についてきて幸せなの?」と聞いたら
更に泣きだした
聞くんじゃなかったそんなこと
そんな
答えの分かりきったこと
僕は泣き続ける彼女を背中に乗せて歩き出した
ああ、重い
本当に重い
でも、まあいいか
この重さが
彼女がここにいる証
背中に伝わる温もりと
滴り落ちてくる涙の冷たさが
彼女が生きている証
嬉しい重さだな
誰かの為に背負う荷物は
そんなに悪くないかもしれない
本当に泣き虫でわがままな女の子だ
いつまで経っても泣きやんでくれなくて
こっちまでびしょ濡れになりそうだったから
僕は彼女を背中に乗せたまま
歌を歌った
普段、人前では絶対歌わないし
犬の前でも歌ったことなどないけれど
それでも今だけ特別に
歌を歌った
すると彼女は「へたくそ」と言って
少し笑った
知ってるよ
だから歌いたくないんだよ
それでも僕は歌い続けた
へたくそな歌を歌い続けた
そして彼女はそんな僕のへたくそな
歌に合わせて
歌い始めた
泣きながら歌える人などいないよね
だから歌うのさ
彼女は突然、僕に
「走って」と言った
おいおい
馬じゃないんだぞ
ただの犬なんだぞ
ただでさえ重くて歩きにくいのに
それでも彼女は笑いながら
手を鞭のようにして
僕のお尻を叩き始めた
しょうがないから
僕もそれに合わせて走った
本当はただの犬だけど
その時だけ馬になった
すると次は「風になって」と言った
「風の様に駆け抜けて」と僕に言う
そんなことできるか
今でさえ必死なのに
と思ったけど
しょうがないから
風になった
本当はかなりきついけど
本当は足が折れそうだったけど
しょうがないから
彼女を乗せて
僕は風になった
そして彼女も
その風の中で
太陽の様に無邪気な笑顔を見せた
本当にわがままだ
本当にわがままで泣き虫の女の子
でもそのわがままが
僕を少しだけ優しくした
Dan Dan 心惹かれていく
悪者
どこにでもいる
普通の犬として生まれた僕は
偶然、見かけたライオンに憧れて
なれるはずもないのに
ライオンになろうと思った
そして旅に出た
その旅先で出会った女の子
その女の子は
とてもわがままで
駄々をこねては僕を困らせて
さみしがり屋のくせに強がりで
泣き虫のくせに頑固で
僕のいうことをいつも聞いてくれない
そんな女の子と僕の物語・・・
ある日、僕たちが街に立ち寄った時に
偶然、1人の少年が
他の少年達に囲まれているのを見た
どうやらいじめられているらしい
僕はこの世界は弱肉強食だと
思っていたので
その少年がどうなろうが
それは自然の掟だと思っていた
しかし、女の子は
その様子を見て
迷わず、ずかずかと歩いて行って
いじめていた他の少年達に
「大人数でいじめるなんて卑怯だ」
と言った
僕はその姿を見て
お!かっこいいじゃん!
と思ったが
同時に馬鹿なことだとも思った
力のない者が
誰かを助けようなどとしてはいけない
自分が火の粉を被るだけだから
そう思っていた矢先
彼女は人形を取り上げられて
泣きながら帰ってきた
ほらね
だから言ったでしょ?
彼女は僕の前で大泣きして
いじめられていた少年も
殴り倒されて
地面に仰向けに倒れたまま
悔し涙を流していた
そして、その2人を背に
少年達は去って行った
僕はそれでも助けなかった
だってそれが自然の掟だから
だから自分を守りたかったり
誰かを守りたいなら
強くないといけないんだ
そうじゃなければ
何かを守りたいなんて
考えてはいけないんだよ
僕は黙って彼女が泣くのを見ていた
でもね
それが自然の掟だと分かっていても
たまにはその掟に逆らってみたくなるのさ
僕も弱いから
だからこそ強くなりたいんだよ
僕は少年達が歩いて行った方に
歩き出すと
人形についた彼女の匂いを辿った
少年達はまだ遠くには行っておらず
すぐに見つかった
しかし真っ向から勝負しても
相手は大人数
すぐに囲まれて叩きのめされるだけ
だから真っ向勝負などしない
じっと相手の隙を待って
そこを叩く
それが弱肉強食の世界
ルールや美徳などない
勝ったものが生きる
それだけなんだ
僕は彼らが歩く
はるか後ろから
人形を持っている少年めがけて
走り出した
そして、低空をはって飛ぶ
ツバメの様に
人の波をかき分け
まるで
かまいたちの様にして
彼の手を切り裂き
人形を奪い取って
そのまま逃げ去った
後ろから少年の泣き叫ぶ声と
仲間たちの怒号が鳴り響いていた
僕が彼女の元に戻ると
彼女はまだ泣き続けていた
僕は手を切り裂いた
少年は大丈夫だろうかと
少し心配になった
この世界は弱肉強食
だから弱い者が奪われるのは仕方がない
でも僕はその掟があまり好きじゃない
強い者は弱い者いじめをしない
それと同じだと思うからだ
ライオンはウサギを襲う時でも
本気で襲うという
僕はそこまで鬼になりきれないことは
自分でも分かっていた
だから僕はライオンになれないのかもしれない
でも、昔、僕は決めたんだ
大切な何かを守る時だけ
すべてを捨てよう
悪者でも
鬼でも悪魔でも
卑怯者でも嘘つきでもいい
それで大切なものが守れるなら
僕はそれでもいい
そう決めたのに
僕は手を傷つけた少年に
罪悪感を抱いている
きっと彼らからすれば
僕は悪者なんだ
しょうがないことけど
なぜだか悲しい
そんな僕は
所詮、犬だよね
彼女は僕が取り返してきた人形を
大事そうに抱えると
丁寧に汚れを落とした
十分な力もないのに
何かを守ろうとしてはいけないよ
でもね
それでも君が何かを
守ろうとするならば
僕が悪者になるよ
僕が悪者になるから
だから君は
君だけは
この弱肉強食の世界の中で
その気持ちを忘れないでね
この世界の中で
まっすぐな光を放ち続けておくれ
僕はそう願いながら
彼女に向かってしっぽを振った
本当に弱いくせに強がりで
泣き虫な女の子
でもその彼女の正しさが
悪者の僕すらも正しく照らそうとしていた
かさなる影
百獣の王
どこにでもいる
普通の犬として生まれた僕は
偶然、見かけたライオンに憧れて
なれるはずもないのに
ライオンになろうと思った
そして旅に出た
その旅先で出会った女の子
その女の子は
とてもわがままで
駄々をこねては僕を困らせて
さみしがり屋のくせに強がりで
泣き虫のくせに頑固で
僕のいうことをいつも聞いてくれない
そんな女の子と僕の物語・・・
とうとう僕らは百獣の王を見つけた
僕は嬉しくて、嬉しくて
彼女も一緒になって喜んでくれた
僕はそれがまた嬉しくて
いっぱいしっぽを振った
でも王は言った
「もしもお前が本当に
ライオンの様になりたいのなら
ここへ一人で来い
そうすればお前を
1人前のライオンとして認めてやる」
僕はそれを聞いて
ライオンになることを
諦めようと思った
今まで一緒に歩んできた彼女だから
その彼女を捨てて
ライオンになったとしても
その先に何があるのだろうか
僕がライオンになった時に
守るものもなくて
一緒に笑ってくれる人もいなくて
そうやってライオンになったとしても
その先に一体何があるだろうか
僕には分からない
だから僕はライオンになることを諦めると言った
すると彼女は怒った
「絶対だめ!そんなの絶対だめだから!!」
と言って激しく怒った
僕がどんなに言っても
彼女は聞く耳を持たなかった
怒りながら泣いて
泣きながら怒って
僕はどうしていいか分からなかったから
黙って聞いていた
すると「自分の意見を言ってよ!」と
さらに怒りだした
目に涙をいっぱい浮かべて
怒り続けた
自分の意見を言ったらまたケンカになるだろう
それに僕の意見を聞いてくれないし
僕はこれ以上、君を泣かせたくないんだ
そうやって僕らは何時間も話し合った後
彼女は泣き疲れて眠ってしまった
僕は彼女の体を優しく撫でながら
考えていた
これまでのことをずっと考えていた
一緒に旅したことを考えていた
僕がライオンになりたいと思ったばかりに
この子に涙を流させてばかりだ
そんなに涙を流したら
涙が枯れてしまうぞ
僕のライオンになりたいという思いと
彼女が流す涙の量は比例する
だから諦めようというのに
彼女はそれを嫌がって
僕はどうすればいいんだろう
ライオンならどうするのかな
こういう時、強くて格好いいライオンなら
彼女を泣かせずに進んでいけるんだろうな
僕がライオンになったら
君を泣かせずに進めるのかな
そうしていつの間にか僕も眠ってしまった
ふと、物音がしたような気がして目が覚めた
気づくと隣に寝ていたはずの女の子の姿がなく
彼女が大事にしていた人形だけが
僕のすぐそばに置かれていた
しまった!と思い
僕はすぐに辺りを探したけれど
彼女の姿はどこにもなかった
僕はその意味を
彼女がいなくなってから気づいた
僕が置いていこうとした時
自分はしっぽを握って行かせなかったくせに
どうして僕を置いて行くんだ
崖から落ちそうになった時
それでも人形の手を離さなかったのに
どうして僕の手を放すんだ
オオカミと遭遇した時
小さい女の子のくせに
僕を守ろうとしただろ
弱いくせにどうして
そんなに強がりなんだ
君が「風になって」とわがままを言った時
僕は一生懸命、風になろうとしただろ
それは風になりたかったからじゃない
君の笑顔を守りたかったからだ
どうしてそれに気付いてくれないんだ
どうして泣きながら僕に
「ライオンになって」と願うんだ
君の涙の量と
僕のライオンになりたいという願いは
比例するんだぞ
それを知っているのか
弱いくせに強がりで
泣き虫のくせに頑固で
馬鹿者で
本当に大馬鹿者で
彼女が歩いて行った
その先には
涙の跡だけが無数に続いていた
だから僕は必死にその涙の跡を辿った
でも、その涙の跡は
途中で消されていた
僕が彼女に教えた
足跡を消して
敵からの追跡をまく方法を
彼女は覚えていた様だ
どうしてそういうところだけ
よく覚えているんだ
本当に弱いくせに強がりだ
泣き虫なくせに頑固で
わがままな女の子
だから僕も歩きだした
彼女が残した人形を背中にくくりつけて
王のもとへ向かった
いつかきっと
僕がライオンの様になれたら
彼女に会いに行こう
あの泣き虫に
会いに行こう
もしも、また崖から落ちそうになっても
それでも彼女と彼女の大切なものを守れる様に
もしも、またオオカミと遭遇しても
強がりの彼女を守れる様に
もしも、また彼女がわがままを言っても
笑顔でそれを叶えてあげられるように
もう二度と涙を流させないように
彼女の頑張りに負けないように
自分の弱さに負けないように
彼女にとって自慢となるように
どこへ行っても胸を張って歩けるように
いつまでも
どんな時も
どんな暗闇の中でも
あの太陽の様な笑顔を守れる様に
強くなろう
ライオンのように
強く優しく、格好良くなろう
僕は強く、強くそう心に決めて
前を向いて歩きだした
いつかきっと、彼女に会いに行くんだ
それまでは僕は闘い続けるんだ
アマノガワ / ゴーストノート(ghostnote)
草ライオン
どこにでもいる
普通の犬として生まれた僕は
偶然、見かけたライオンに憧れて
なれるはずもないのに
ライオンになろうと思った
そして旅に出た
その旅先で出会った女の子
その女の子は
とてもわがままで
駄々をこねては僕を困らせて
さみしがり屋のくせに強がりで
泣き虫のくせに頑固で
僕のいうことをいつも聞いてくれない
そんな女の子と僕の物語・・・
あれから僕達はいろいろあって
僕は相変わらず犬のままだけれど
ライオンの仲間入りをすることが出来た
まだまだ百獣の王にはなれないけれど
女の子が作ってくれた
草で出来たたてがみを見て
皆は僕を「草ライオン」と呼ぶ様になった
そして女の子もまた大きく成長し
美しく立派な女性になった
幸せな家庭を築き
今もどこかで暮らしているという
風の便りを耳にした
そんな時、僕はふと訪れた街で
1人の女の子と出会った
その子は僕の背中にくくりつけられた人形を見て
無邪気な笑顔で近づいてきた
そして僕のライオンの様な姿に怯えることなく
話しかけてきた
「そのお人形さん、名前はなんていうの?」
僕がその女の子に人形の名前を教えてあげると
「私と同じだ」と言って太陽の様な笑顔を見せた
あまりにも女の子がその人形を気にいるので
僕はその人形を彼女にあげることにした
彼女は「いいの?」と言って
心配そうな顔で僕を見た
だから僕は笑顔で「いいよ」と言った
すると彼女はとてもとても嬉しそうで
その笑顔が僕にその人形をくれた人によく似ていた
一体、どれだけその人形に守られただろう
一体、どれだけその人形に勇気をもらっただろう
僕はその人形と女の子に別れを告げて
背を向けて歩き出した
そして女の子も笑顔で手を振って
僕の背中を見送ると
両親の下にかけて行った
女の子は両親に駆け寄ると
母親にその人形を自慢げに見せた
すると母親はとても驚いて
必死に辺りをきょろきょろして
何かを探した
そして遠くから1匹のライオンらしき犬を見つけると
その傷だらけの姿と
誇らしげに歩きながら
昔と同じ様に
元気そうにしっぽを振る姿を見て
両手で顔を覆った
〝相変わらず泣き虫だ〟
そう思いながらも草ライオンは
そのまま振り返らずに歩き続けた
振り返れば彼女はまた滝の様な涙を流すだろう
だから彼は振り返らずに歩き続けた
堂々と胸を張って歩く姿は
彼が昔、見た勇ましくて格好いいライオンの様であった
彼女が彼の為に作ってくれた
草で出来たたてがみは
すっかり枯れてしまい
茶色くなっていたけれど
それがまるで本物のたてがみの様に見えた
あまりにも母親が泣き続け
女の子が心配して彼女に「泣いているの?」と聞いても
「ううん、違うの」と言って強がるものだから
弱いくせに強がるものだから
彼は遠くから優しくしっぽを振った
昔と同じ様に優しくしっぽを振って
歩き続けた
彼女の姿が見えなくなっても
それでも彼は
彼女が泣きやむまでしっぽを振り続けた
そして彼女が泣きやむと
くるくるとしっぽを回して
自分の足跡を消した
彼女が追ってこない様に
そして自分が戻れない様に
そうして草ライオンは
誰もいない道なき道の真ん中で立ち止まると
大きな唸り声をあげ
姿勢を低くして
ぐっと力を溜めた
そして真っすぐに前を見ると
にかっと笑い
まるで地平線の先の
獲物を捕まえに行くかのように
駆けだした
それはぎざぎざで鋭く
それでいて真っすぐで
雷の様な走りで駆けるライオンは
その先にある暗闇をも
切り裂き、
彼の通った後には
強く、そして優しい風と
全てを包み込むかのような
温かな光だけが残った
Dew/ダンデライオン
ある日、僕が空を見上げていると
通りすがりの
怪しい男の人が声をかけてきた
男の人は僕に「どうしたんだ?」と尋ね
僕が「空に行きたい」と言うと
その人は僕に1つの種をくれた
「それを埋めて世話をすれば
そのうち、芽が出て
どんどん大きくなって
そいつを登っていけば空までいけるさ」
男の人は怪しげな表情でそう言いながら
僕に種を渡した
だから僕は言われたとおり
それを地面に植えて、水をあげた
すると、彼の言った通り
大きな芽が出て、どんどん成長していき
やがてその芽は雲を突き破って
更に上の方まで伸びて行った
僕は早速、その芽を登っていき
空に向かって行った
僕の周りの人達は
「やめておけ」と何度も僕を止めたが
それでも僕は空に向かって行った
登り始めるとすぐに
1匹の蜂が僕に声をかけてきた
蜂が「何をしているの?」と僕に尋ねたので
僕は「空に行きたい」と答えた
すると蜂は
「君も鳥に憧れて
空を飛びたいと思った人間だろう
だけど所詮、羽のない人間に
空を飛ぶなんて事は出来ないんだよ
やめた方がいい
そんなことをするだけ
時間と労力の無駄だよ」
と、僕に向かって言ったが
僕は別に鳥になりたいわけでも
空を飛びたいわけでもなかった
僕はただ、先を急ぎたかったので
蜂に向かって「わかったよ、ありがとう」
と言って蜂に別れを告げた
それからしばらく登っていくと
今度は鳥が現れて僕に声をかけてきた
「何で登っているんだい?」
僕は答えた
「空に行きたいからだよ」
すると鳥はうんうんと頷いて言った
「分かるよ、君の気持が。
空から見れば皆小さくて
あんな小さい所で皆は争ったり悩んだりしているんだよ
馬鹿みたいだよね
だから君はそんな地上に嫌気がさして
空に来たんだろ?
僕には君の気持ちが良く分かるよ」
僕は別に地上に嫌気がさしたわけでもないけれど
それでも、僕は先を急ぎたかったので
鳥に向かって「うん」と言って
鳥に別れを告げた
また、しばらく登ると
今度は大きな雲が僕の目の前に現れた
そして、そんな雲が
僕に向かって話しかけてきた
「こんな所まで、何をしに来たんだ?
分かった
君も僕が邪魔な存在だと思って
押しのけに来たんだろう
皆そうなんだ
皆で僕を邪魔者扱いするんだ」
そういって落ち込んだ顔をしていたので
僕はにっこり笑って
「違うよ。僕はただ空に行きたいだけだよ」と言って
雲に別れを告げた
そして、またしばらく登ると
今度は下から声が聞こえてきた
地上の方をよく見ると
そこには僕に種をくれた怪しい男が立っていて
僕に何かを頼んでいた
「もう少し登ればたくさんの実が
なっているはずだから
そいつを上から全て落としてくれないか?
登るのには邪魔だろう」
と男は言った
僕が男に言われたとおり登ってみると
そこにはたくさんの実がなっていた
だから僕はそれを全て摘み取って
下に落とした
そんな僕の様子を見ていた風が僕にささやいた
「君はあの男にだまされたんだ
いい様に扱われたんだよ
あの男はあの実を売って儲けるつもりさ
最初からそのつもりで君に種を渡したんだ
あんな男に騙されるなんて可哀そうに」
風はそう言ったが、僕は別に
あの男が僕を騙そうが利用しようが
どうでもよかった
僕はただ空に行きたかっただけ
ただ、それだけだった
だから僕は登り続けた
どれくらい登ったか分からないけれど
地上はすっかり小さくなってしまった
そんな僕を見て太陽が言った
「君が何をしにきたかは知らないが
この世界にいるものは全て
私がいないと生きてはいけないんだ
私がいるから皆が生きていけるんだ
君はそんな絶対的な存在に憧れて
ここに来たのかもしれないが
君にそれだけの資格があるとは思えない
だからここまで来たのも無駄だし
これ以上、上に登っても、もう何もないだろう
残念だが、皆に笑われる前に帰った方がいい」
太陽は僕にそう言ったが
僕は別に絶対的な存在に憧れたわけでも
そんな資格があるとも思っていない
僕はただ、空に行きたかっただけだから
だから僕は太陽に「分かった」と言って
登り続けた
そして、どんどん登っていて
僕はついに欲しかったものを手にした
それを持って地上まで降りると
それを小さな女の子に差し出した
彼女はその差し出された
赤い風船を見ると、
やっと泣きやんで、その風船を受け取った
そして僕はポケットから
1つだけ落とさずに
隠し持っていた実を取り出すと
それを2つに割って半分を彼女に差し出した
彼女はそれを受け取ると
とても喜んで
無邪気な笑顔で「ありがとう」と言った
そして僕も彼女の笑顔に応えるように
笑顔で「うん」と言った
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通りすがりの
怪しい男の人が声をかけてきた
男の人は僕に「どうしたんだ?」と尋ね
僕が「空に行きたい」と言うと
その人は僕に1つの種をくれた
「それを埋めて世話をすれば
そのうち、芽が出て
どんどん大きくなって
そいつを登っていけば空までいけるさ」
男の人は怪しげな表情でそう言いながら
僕に種を渡した
だから僕は言われたとおり
それを地面に植えて、水をあげた
すると、彼の言った通り
大きな芽が出て、どんどん成長していき
やがてその芽は雲を突き破って
更に上の方まで伸びて行った
僕は早速、その芽を登っていき
空に向かって行った
僕の周りの人達は
「やめておけ」と何度も僕を止めたが
それでも僕は空に向かって行った
登り始めるとすぐに
1匹の蜂が僕に声をかけてきた
蜂が「何をしているの?」と僕に尋ねたので
僕は「空に行きたい」と答えた
すると蜂は
「君も鳥に憧れて
空を飛びたいと思った人間だろう
だけど所詮、羽のない人間に
空を飛ぶなんて事は出来ないんだよ
やめた方がいい
そんなことをするだけ
時間と労力の無駄だよ」
と、僕に向かって言ったが
僕は別に鳥になりたいわけでも
空を飛びたいわけでもなかった
僕はただ、先を急ぎたかったので
蜂に向かって「わかったよ、ありがとう」
と言って蜂に別れを告げた
それからしばらく登っていくと
今度は鳥が現れて僕に声をかけてきた
「何で登っているんだい?」
僕は答えた
「空に行きたいからだよ」
すると鳥はうんうんと頷いて言った
「分かるよ、君の気持が。
空から見れば皆小さくて
あんな小さい所で皆は争ったり悩んだりしているんだよ
馬鹿みたいだよね
だから君はそんな地上に嫌気がさして
空に来たんだろ?
僕には君の気持ちが良く分かるよ」
僕は別に地上に嫌気がさしたわけでもないけれど
それでも、僕は先を急ぎたかったので
鳥に向かって「うん」と言って
鳥に別れを告げた
また、しばらく登ると
今度は大きな雲が僕の目の前に現れた
そして、そんな雲が
僕に向かって話しかけてきた
「こんな所まで、何をしに来たんだ?
分かった
君も僕が邪魔な存在だと思って
押しのけに来たんだろう
皆そうなんだ
皆で僕を邪魔者扱いするんだ」
そういって落ち込んだ顔をしていたので
僕はにっこり笑って
「違うよ。僕はただ空に行きたいだけだよ」と言って
雲に別れを告げた
そして、またしばらく登ると
今度は下から声が聞こえてきた
地上の方をよく見ると
そこには僕に種をくれた怪しい男が立っていて
僕に何かを頼んでいた
「もう少し登ればたくさんの実が
なっているはずだから
そいつを上から全て落としてくれないか?
登るのには邪魔だろう」
と男は言った
僕が男に言われたとおり登ってみると
そこにはたくさんの実がなっていた
だから僕はそれを全て摘み取って
下に落とした
そんな僕の様子を見ていた風が僕にささやいた
「君はあの男にだまされたんだ
いい様に扱われたんだよ
あの男はあの実を売って儲けるつもりさ
最初からそのつもりで君に種を渡したんだ
あんな男に騙されるなんて可哀そうに」
風はそう言ったが、僕は別に
あの男が僕を騙そうが利用しようが
どうでもよかった
僕はただ空に行きたかっただけ
ただ、それだけだった
だから僕は登り続けた
どれくらい登ったか分からないけれど
地上はすっかり小さくなってしまった
そんな僕を見て太陽が言った
「君が何をしにきたかは知らないが
この世界にいるものは全て
私がいないと生きてはいけないんだ
私がいるから皆が生きていけるんだ
君はそんな絶対的な存在に憧れて
ここに来たのかもしれないが
君にそれだけの資格があるとは思えない
だからここまで来たのも無駄だし
これ以上、上に登っても、もう何もないだろう
残念だが、皆に笑われる前に帰った方がいい」
太陽は僕にそう言ったが
僕は別に絶対的な存在に憧れたわけでも
そんな資格があるとも思っていない
僕はただ、空に行きたかっただけだから
だから僕は太陽に「分かった」と言って
登り続けた
そして、どんどん登っていて
僕はついに欲しかったものを手にした
それを持って地上まで降りると
それを小さな女の子に差し出した
彼女はその差し出された
赤い風船を見ると、
やっと泣きやんで、その風船を受け取った
そして僕はポケットから
1つだけ落とさずに
隠し持っていた実を取り出すと
それを2つに割って半分を彼女に差し出した
彼女はそれを受け取ると
とても喜んで
無邪気な笑顔で「ありがとう」と言った
そして僕も彼女の笑顔に応えるように
笑顔で「うん」と言った
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