僕が心臓のネジを巻く時 -6ページ目

僕が心臓のネジを巻く時

出来れば僕が動かなくなった後でも、この世界が平和であって欲しい。大切な人達が幸せであってほしい。

街はずれにある大きな工場で

そのロボットは生まれた




ベルトコンベアに乗せられて

次々に腕やら足やらの部品をつけられて

そうして皆と同じ様にして作られた





最新型のロボット

しかし名前はなかった

ただ、それぞれに

記号とか番号がつけられただけだった




そのロボットは生まれるとすぐに

皆と一緒に

また別の大きな工場に連れていかれ

そこでまた別のものを作る作業を割り当てられた






皆と同じ様に生まれ

皆と同じ形をしていた

しかしそのロボットには少し

皆と違う欠陥があった

おそらくそのロボットが作られる時に

何かの手違いで

少し不具合が出てしまったのだろう






そのせいで彼は不良品というシールを張られ

元の工場に送り返された

彼はそのシールに書かれた意味も

送り返された意味も知らなかった

ただ、彼は暗い倉庫に並べられ

その暗い部屋をずっと眺めていた





ところがある日、彼はまた

別の工場へと行くことになった

どうやらその工場は潰れかけの様で

お金のない工場長が

最後の望みをかけ

ありったけの資金を投入して

不良品の安いロボットを買い取ったようだった

それが彼だった





ところが工場長が最後の望みをかけたにも係わらず

欠陥のある彼にはその期待には応えられなかった

普通のロボットでも

こなせたかどうか分からない仕事量を

彼にこなせるはずがなかった

それでも彼は辛いとか大変だとかは一切言わなかった

ただ与えられた事を一生懸命やった

それなのに期待に応えられなかった彼は

まるで人を殺したかのように

工場の人達から罵声を浴びせられた





そして結局、その工場は潰れ

彼も行き場を失い

スクラップ工場に引き取られ

他の廃品と同じ様に

ゴミの山に捨てられた





彼はそのゴミの山に埋もれながら

ずっと考えていた






〝僕は欠陥があったから

 皆から必要とされなかったのだろうか

 完璧なロボットなら

 皆に愛されたのだろうか

 それならばどうして

 完璧なロボットにしてくれなかったのだろうか〟






それは何年、何十年考えても

出ない答えだった

ただ毎日積まれて高くなっていく

ゴミの山に埋もれながら

ずっと毎日同じことを考えていた








それから何十年か経ったある日

一人の男がそのゴミの山から

彼を見つけ

そのロボットを引きずり出すと

荷台に積んで

他のがらくたと一緒に家に持ち帰った





そしてロボットの壊れた部分や

悪い部分を見つけると

それを他の拾ってきた部品で直し始めた





その男はロボットを直しながら

彼にいろんなことを教えた

しかしロボットは元々組み込まれていない

プログラム以外をなかなか覚えることは出来ず

その男が何度教えても

なかなか実行することが出来なかった





そうしてまた、何年が過ぎた頃

ロボットもいよいよ完成に近づき

その頃になってようやくロボットも

その男の言ったことを

覚えることが出来るようになった

しかし多くの事を覚えることは出来ず

ただ一つ

花に水をやるということは

実行することが出来た





男は言った

「この花壇は私の亡くなった妻が

 大切にしていたものだから

 毎日水をやって

 出来るだけ大切にして欲しい」

そう言い残して

その男は歳老いてこの世を去った






それからロボットは毎日

花壇に水をやり続けた

ただただ、ひたすらに毎日毎日

花に水をやり続けた

雨の日も雪の日も

強い風の日も

彼は水をあげ続けた






そうして、しばらく経ったある日

花壇の遠く向こう側から

マシンガンを持った

たくさんのロボットがこちらに向かって歩いてきた

よく見るとそれは

彼と同じ型をしたロボットで

彼が生まれてすぐの頃

一緒に工場に連れていかれたロボット達だった






そのロボット達がその手に銃を持ち

そして大切にしていた

花壇を踏み荒らしていった





それを見て

花に水をやり続けたロボットは

何も思わなかった

何も思えなかった

悲しいとも悔しいとも思えなかった

やはり彼は所詮

ロボットであった





それでも彼は何も言わず

荒れ果てた花壇に

水をあげ続けた

毎日、毎日

踏み荒らされた花達に水をあげ続けた






やがてその花達がなんとか元気を取り戻した頃

今度はいつの間にか

その花壇の周りに子供達が集まるようになった

子供達はロボットに聞いた

「どうして毎日水をやっているの?」

ロボットは答えた

「それが約束だから」





ロボットはそう答えたものの

自分でもどうしてだろうと考えた

しかし考えても考えても

答えは出なかった






子供達は言った

「花に水をやっても

 戦争は終わらないよ

 そんなことをしても

 何の意味もないよ」






すると、ロボットはそれを聞いて

何かを閃いたかの様に

花壇にあった花を摘み始めた

「それではこの花達を持って行ってみましょう

 きっと皆、花を見れば大切なものを
 
 思い出してくれるかもしれません」

そうしてロボットは花束を手に

歩き始めた

子供達は何度もやめた方がいいと言って止めたが

ロボットはその命令には従わなかった






そしてロボットが子供達の住む街まで近づくと

街の見張りをしていた者が

ロボットを発見し

それを上官に報告した

上官はまたロボットが攻めてきたと思い

部下に一斉射撃を命じた





「ロボットが手に花束を持っていますが・・・」

部下がそう言っても

上官は聞き入れなかった

「だから何だ

 ロボットはロボットだろう

 昔、ああやって花を手に持って

 皆に近づき、自爆したロボットもいるんだ

 花を持っていようが持っていまいが関係ない

 ぶち壊せ」











そして激しく降り注ぐ銃弾の中

ロボットは粉々に砕け散って

手に持っていた花と共に崩れ落ちた






後から来た子供達はその

粉々に砕け散ったロボットと花を見て

泣き始めた

その子供達の泣く様子を見て

微かに意識が残っていたロボットは

彼らに向けて言った






「どうか泣かないでください

 僕は元々、不必要な存在です

 誰かに必要とされたことも

 誰かに愛されたこともありません

 僕は欠陥品なんです

 だからそんな僕の為に泣かないでください






 でも、もしも・・・





 もしも、

 こんな僕の為に何かをしてくれるというのなら

 笑って下さい

 どんな時でも笑い続けてください

 




 以前、僕を直してくれた人が

 僕にそう言いました

 『笑え』と

 どんなくそまみれの様な世界でも

 どんなゴミ溜めの中でも笑って生きる

 強いロボットになれと






 でも、僕はもの覚えが悪くて

 なかなかそれを出来ませんでした




 だから僕の代わりに

 笑ってください

 笑って強く生きてください」




そうしてロボットが停止すると

子供達はロボットの破片を集め

彼の墓を作ってやった

そしてその上に花を植え

毎日、水をあげた





そしてその場所は

戦争が止んだ今

たくさんの花が咲く場所となった




いつだったか忘れてしまったが

それは遠い昔

僕達は空に自分達の星を打ち上げようと言って

皆で星を作り始めた。

最初は皆、結構楽しんでやっていたものの

いつからか自分達の時間で忙しくなり

そして現実が目に見えて迫ってくると

やがて皆、星から遠のいていった。

そうして残った僕は

いつも夜空を見上げては

どうやったらあいつに手が届くだろうかと考えていた。





そんな僕を見て彼女は

「自分の好きなようにやればいいんじゃない」

と言ってくれたが

内心では星ばかり追いかけていないで

皆と同じ様に少しは現実にも

目を向けて欲しいと思っているだろう。

だからこそ、なおさら

僕は彼女に打ち明けられずにいた。






最後に残った僕がその計画を

終わりにさせようとしていることを。








僕がこれまで何度

夢と現実を天秤にかけただろう。

あるいは星と彼女を。

今更、中途半端に終わってしまいそうな

この計画を仲間達に打ち明けたところで

すでにやめてしまった彼らはきっと

それでよかったと言ってくれるだろう。

きっと彼女も少し悲しそうな顔をして

「しょうがないよ」と言うだろう。





物語はいつか終わってしまう。

というよりも終わらせてしまうのだろうか。

自分達の手で。

ハッピーエンドの様にはなかなかいかないものだ。





僕は昔の仲間たちや

今までこの計画を支えてくれた人達を呼んで

その作りかけの星を夜空に打ち上げることにした。

僕は今までの事を思い出しながら

打ち上げ台を組み立て

そして僕が導火線に火をつけると

皆はワクワクしながらその様子を見守った。






それは一瞬だった。

ド-ン!っと大きな音を立てると

大きなロケット花火の様に夜空に打ち上がり

そして未完成のその星は

まるで打ち上げ花火の様に激しく散って

夜の海に落ちていった。





皆が帰った後でも

僕はその星が落ちた海から離れることは出来なかった。

この数年間、やってきたことは無駄だったんだろうか

やはり夢などを抱いた僕が馬鹿だったんだろうか

力が足りなかったのだろうか

どこで間違ってしまったんだろうか

これから何を追いかけていけばいいんだろうか

夜空に輝く星も

暗闇に広がる海も

無残に散ってしまった星の残骸も

残された打ち上げ台も

何も答えてはくれなかった。







もはや僕には叫ぶ力も

拳を握りしめる力も残っていなかった。

ただただ、さざ波が押し寄せる砂浜に立って

夜空と海を見ていた。

そしてそんな僕の様子を彼女は

何も言わず黙って見守っていた。






いつの間にか彼女は疲れてしまったらしく

砂浜の上に小さくなって眠っていた。

僕は彼女を背負うと

住みなれた家に向かって歩き始めた。

こんなに軽かっただろうかと思うほど

彼女を背負って歩くのは久しぶりだった。

僕が眠る彼女を起こさないように

優しく、そしてしっかりと背負って歩いていると

突然、背中からすすり泣く音と共に

暖かい雫が落ちてきて

僕の背中を滑り落ちていった。







「どうしてお前が泣くんだよ」

僕が笑いながらそう言うと

「だって・・・」と言って彼女は

涙を拭いた。

それでもあふれ出る涙を彼女は堪えきれず

僕の背中でずっと泣き続けた。







「そんなに泣いたら干からびるぞ」

と僕が冗談を言っても

彼女はなかなか泣きやまなかった。

でも彼女が流した涙の分

僕の肩に乗っかっていた重圧は

軽くなっていった気がした。

そして僕の心につっかえていた何かも

彼女の涙と共に洗い流されていくような気がした。






「重いから降りるよ」

ようやく泣きやんだ彼女が僕にそう言った。

「今日はサービスしておくよ」と僕が言うと

「重いから疲れるよ」と彼女も心配そうに言った。

「重くてもその分強くなれば

 自分の背負いたいものを背負っていける。

 苦しくても誰かがその苦しみを理解してくれるなら

 どこまでも歩いていける気がする。

 だからもう少し背負わせてよ」

僕がそう言うと

彼女はまた小さな声で泣き始めた。





僕が死ぬまで後数十年

僕が残された時間で

どこまでも昇っていく

でっかい花火を打ち上げられるだろうか

暗闇を照らす星を作れるだろうか

そしてこの泣き虫の彼女に

とびきりの笑顔をあげられるだろうか




どこまでも続く夜空の下

僕達は大切な彼女を背負って

どこまでも歩き続けた。