僕が心臓のネジを巻く時 -31ページ目

僕が心臓のネジを巻く時

出来れば僕が動かなくなった後でも、この世界が平和であって欲しい。大切な人達が幸せであってほしい。

僕は「お腹が減った」と言うその人に

自分のパンをあげました

自分もおなか減っているのですが

「お腹が減った」と言ったから

パンをあげたんです

その人は「ごめんなさい」と言ったので

僕は「大丈夫だよ」と言いました


本当はお腹が減っていたけれど

「ごめんなさい」と言われたから

「大丈夫だよ」と言ったんです


でも、その人はまだ

「お腹が減った」と言うんです

自分もお腹が減っているのですが

その人もお腹が減っているので

お腹が減ったもの同士

気持ちはよく分かるので

自分のパンをあげたんです



本当は飢え死にしそうなのですが

その人も飢え死にしそうなくらい

お腹が減っていると思うので

自分のパンをあげたんです

その人はまた「ごめんなさい」と言ったので

僕はまた「大丈夫だよ」と言いました

本当は飢え死にしそうだったけれど

「ごめんなさい」と言われたから

「大丈夫だよ」と言ったんです





そして、僕はとうとう飢え死にしてしまったんです

でも、その人はそんな僕を見て

「なんで?」と聞いたんです


その人は言いました

「お腹が減っているならお腹が減ったと

 言えば良かったのに・・・ごめんなさい」


僕はもう答える力は残っていなかったので

「大丈夫だよ」とも言えませんでした

「君が笑う、その日が幸せだと思う」


僕が冗談交じりに彼女にそう言うと

彼女はお腹をか抱えて大笑いした



だから、その日、僕は幸せだった






「君がそばにいる、それがとても嬉しかった」


僕が冗談交じりに彼女にそう言うと

彼女は「熱でもあるんじゃないの?」と言って

僕の額に手をあてた


その手の届く距離が僕にはとても嬉しかった





「君が生きる、この世界が素晴らしい」


僕が冗談交じりに彼女にそう言うと

彼女は聞こえなかったふりをした


だから、彼女には聞こえていた

自分は

聖者か悪魔か

と聞かれたら

どちらでもない



どちらにもなれない自分は

少なからず嘘をついて生きている

少なからず自分を誤魔化して生きている



でも僕はちゃんとこの世界に存在する人間だ

1つしかない心臓を動かして

ありったけの血液を体中に送り込んで生きている

聖者や悪魔のように

絵や物語の中で生きていない



自分の嘘や誤魔化しが時に受け入れがたいし

いつも取り繕っては愛想を振りまっているが

それが正しいとも思っていない

偽りも間違いもたくさんあるけれど

僕は自分の存在を誤魔化したりはしない



僕は確かにここで生きている