僕が心臓のネジを巻く時 -29ページ目

僕が心臓のネジを巻く時

出来れば僕が動かなくなった後でも、この世界が平和であって欲しい。大切な人達が幸せであってほしい。

「嘘をつくな」と言われました

だから僕は本当の事を言いました

思った通りのことを言いました

すると皆、離れて行きました

だから僕はその木にだけ、本当のことを言いました




「綺麗事ばかり言うな」と言われました

だから僕は汚い事も言いました

ありのままを見せました

すると皆、悲しい顔をしました

だから僕はその木にだけ、ありのままを見せました





「皆と仲良くしましょう」と言われました

だから僕は皆と仲良くしました

嫌いな人にも仲良くしました

すると「八方美人」とか「腹黒い」とか言われました

だから僕はその木の前に立ち続けました




皆が僕の前で泣き続け

僕の前だけで愚痴を言い

僕の前だけで悪口を言い

僕はそれが分かっているからこそ

誰にも何も言えず

木の前でだけ泣きました





誰にも本当の事を言えず

誰の前でもありのままではいられず

誰とも仲良く出来なくて

僕は1人、木の前で泣き続けました




そうして、その木は

僕の涙を糧にして大きくなりました

彼は10歩進む度に

振り返る




10歩進んでは

振り返る

また10歩進んでは

また振り返る





1,2,3・・・4,5,6・・・





3歩進んでは忘れ

3歩進んでは2歩戻り





それでも10歩進んだ時には

必ず振り返る




7,8,9・・・




そんなに振り返るなら

初めからもっとゆっくり歩けばいいのに

と思うけれど

彼はそれでも先を行く





そして10歩進んで

振り返る

10歩進んで

振り返る





いつも彼の10歩後ろには

彼女がいたから

彼女のほほ笑む笑顔があったから

最初、その画家は綺麗なものだけを

選んで描いていました

この世界には綺麗なものだけではないことは

知っていましたが

その方が皆が喜ぶので

彼は綺麗なものだけを描きました




でも、やっぱりそれは本当ではないので

やっぱり彼も人間だったので

ありのままを書こうと思い

汚いものも描きました




すると皆は彼のことを

「気が狂った」といいました

「おかしくなった」と言いました





彼はそれを聞いて笑いました

でも皆はそんな彼を見て怒りました

「お前は何様だ?」と言いました




だから彼は皆の怒った顔を描いて

それを見せながら答えました

「皆と同じ人間様です」