僕が心臓のネジを巻く時 -22ページ目

僕が心臓のネジを巻く時

出来れば僕が動かなくなった後でも、この世界が平和であって欲しい。大切な人達が幸せであってほしい。

「かっこいいよねー」




彼女は映画に出てくる

ヒーローを見て言いました





その彼女は、昔

僕がどうすべきか考える前に

ロッカーからバケツと雑巾を取り出すと

それでクラスメートの

嘔吐物をささっと片付けました

そして僕はその背中をただ

黙って見ているだけでした





彼女が言った「かっこいい」は

その時、僕が思ったものと同じでしょうか






「俺もあんなヒーローになりたいよ」

彼は冗談交じりにそう言いました





そういう彼は、昔

僕が呆然と立ち尽くす中

目の前で起きた事故の

怪我人を助けるために

一瞬で走り去って行きました

そして僕はその背中をただ

黙って見ているだけでした





彼が言う「あんなヒーローになりたい」

という言葉は

その時、僕が思ったものと同じでしょうか





僕はそんな人達の背中を見てばかり

自分は動けなくて

いや、動くことを考えてしまい

そして選んだ答えは自分を守ること





でも彼らはきっと

僕があれこれ考える前から

どうすべきか決めていたのだろう

頭ではなく

心で決めていたのだろう

考えると、きっと

誰でも動けなくなるから







だから僕も走りだそう

本当は怖いけれど

正しいか間違っているかも

分からないけれど

走り出そう






走り出す誰かの背中を

走り出せずに見ている自分

それを見ることが1番怖い

何でも願いを叶えられる神様も

自由に飛んでいるように見える鳥達も

誰にでも優しいあの人も

いつも笑っているその人も

皆、同じ様に

悩んでいたり

心を痛めていたりするのかな




神様のことは

神様じゃないと分からないし

鳥達のことは

鳥達にしか分からない




だから僕は神様になりたいと思う

鳥になりたいと思う

願いが自由に叶えられるからじゃなくて

自由に空を飛べるからでもなくて

彼らの気持ちを知りたいから

彼らの悩みや心の痛みを知りたいから

2人の間で物事を決める時

彼はいつも彼女にじゃんけんを提案する





彼は公平な決め方を

提案しているつもりだろうが

結局、いつも負けるのは彼の方




なぜならば、彼はいつも

「グー」を出す

そして彼女もそれを知っていた

だから彼女は

「パー」を出す

そうして彼はいつも負けていた

そうしていつも

彼女が物事を決めた




でも彼は知っていた

彼女は頑固だから絶対に引かない

だから彼はいつもじゃんけんを提案し

いつも「グー」を出す

そうして彼はわざと負けていた



そして彼女も知っていた

彼はいつも「グー」を出して負ける

しかし頭のいい彼が

それに気付かないはずがない

つまり彼はわざと「グー」を

出しているに違いない

だからと言って彼女が「チョキ」を出して

負ければ彼はまた

違う方法で負ける方法を考えるだろう

だから彼女は「パー」を出す




そうして今日も彼が負け

彼女の言い分が通る



彼は彼女を勝たす為に

わざと負ける

彼女は彼の優しさを活かす為に

わざと勝つ

そうして彼はいつも負け

彼女がいつも

物事を決めた



それが彼らのじゃんけん