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僕が心臓のネジを巻く時

出来れば僕が動かなくなった後でも、この世界が平和であって欲しい。大切な人達が幸せであってほしい。

煙草を吸う人は
何かに行き詰ったり
気晴らしの時に
それを吸うらしい




煙草は吸わないけれど
煙草とライターを持っている
そんな人達が煙草を
吸いたいと思う時に
吸えなかったら困るだろう





それが毒の煙で
寿命を縮めると
知っているけれど
それでも火を灯すよ
長生きしたかどうかなど
してみないと分からないから





それよりも今ここで
何かを分かち合う方が
大切だろう
その毒の煙は
僕にとって気晴らしにはらならいし
寿命を縮めるだけだが
それでも火を灯すよ



その気持ちがよく分かるから








「よーし、休憩は終わりだ」




その声が響くと
僕らはまた等間隔に広がって歩き始めた




そうして僕は
誰もいない荒れはてた市街地の中
銃を持って戦車の横を歩いた



picture : band of brothers
僕が心臓のネジを巻く時
僕は野原に横たわり
空を見ていた




綺麗な空だった
雲ひとつなく
よく晴れた空だった




鳥が1羽
その空を
羽を広げて飛んで行った




長閑だった
自由だった
このまま目を閉じてもいいと思った




その時、天使か悪魔か
誰か分からないが僕に語りかけた





「まだ生きてるか?」




よく見るとそれは僕の仲間だった





僕は起き上がって辺りを見渡した
そこはさっきまで激しい戦闘が
繰り広げていた場所だった
無数の弾丸が飛び交い
近くに落ちた爆弾の爆風で
僕は吹き飛ばされた




幸い、僕はまだ生きていた




火薬の煙が立ち上る中
僕はもう一度、空を見上げた





空はどこで見ても同じ空だ
僕らが変わっていくだけだろう
そんな僕らを見て
鳥達は笑うだろう





鳥の様に見えたそれは
はるか上空を飛ぶ
味方の爆撃機だった






そうして僕らはまた
銃を握って歩き始めた



A Brand New Day
2日前、彼は僕に
1枚の写真を見せた




結婚した奥さんと
2人で撮った写真だという





僕は今、その写真を横に
ペンを握っている






なんて書けばいいのだろう
言葉が見つからない





もう、かれこれ
3時間ほど何も書けないでいる
貴重な睡眠時間
だが、僕は眠れない
だから暇つぶしには悪くない




こんなことなら
もう少し国語を勉強しておくんだった
違う国の言葉なら
もっとすんなり書き出せただろうか




もうすぐ夜が明ける
僕は少し眠りにつこうと思い
一言こう書いた
「残念ながら彼は亡くなりました」




後半の
「彼は立派に戦いました」 
を消して






どんな言葉も彼女にとっては
悲しみを増やすだけだった
僕らがやっていることは
決して立派なことではなかった
彼もそれを知っていた
彼女もそれを知っていた
僕もそれを知っていた
それでも僕らはここにいた





僕は手紙を封筒に入れると
近くに置いておいた
銃を抱いて眠りについた




picture: band of brothers
僕が心臓のネジを巻く時